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第2章 紡がれる希望
第10話 大国の参謀
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アメリカ中央拠点クレイドル 北部 謎の障壁付近
「ケフィ……どうしたの?」
不思議そうに首を傾げたアンリエッタが立っていたのは数十人の黄金色の髪をした女性が積み重ねらた山の頂だった。
「……おかしいと思ったんだよ」
涙を拭ったケフィは、足場になっていた女性達に視線を向けた。
女性は全員紅掛空色の瞳を開けたまま、糸が切れた人形の様になっていた。
「お前はフェイトって子を日本に送っていた筈だよな?……フェイトはどうした?」
「転移エリアを使ってヒナに預けたけど?」
視線を逸らさずに淡々と話すアンリエッタだったが、右足で足場の女性を何度も踏みつけていた。
「ならなんで報告しなかったんだ?いつもなら俺の所に来るか通信機で報告してくれるだろ?」
「ごめん……忘れてた」
(……)
普段報告だけは一度も忘れる事なく完璧にこなしていたアンリエッタが、非常事態の現状で忘れるなんて事はケフィには考えられなかった。
「……いい加減踏みつけるの辞めろよ」
ケフィと話しながらもアンリエッタは、ひたすら足場で瞳を開いたままの女性を踏みつけ続けていた。
「この国に害を与えた女なんだよ?……正直顔すら見ていたくない」
アンリエッタの瞳はとても冷たく、ケフィの指示を無視して虫を潰すかの様に何度も繰り返し踏みつけた。
「お前……鏡見たことあるか?」
「今そんな話……意味があるの?」
アンリエッタが視線を向けた時、ケフィの瞳からは拭った筈の涙が再び流れていた。
「……お前なんだろ?主様って奴は」
「何の話をしているのケフィ?」
再び涙を拭ったケフィは、アンリエッタを睨み付けて話を再開させた。
「監視カメラで見ていたんだよ。光の主力達の戦いを……光の導き手がどれだけ凄い存在だったのかを改めて実感したし、心強かった」
ケフィの話を聞きながらアンリエッタは、障壁を見つめていた。
「その映像で言ってたんだよ、〝主様〟って。お前が足場にしてる女が」
ケフィの言葉を聞いたアンリエッタは、再び冷たい眼差しを足元の女性に向けた。
「あくまでも憶測でしかない……だが、容姿も同じ武装も同じ、行動まで全く同じ……そいつらは一人の人間から造られた〝量産型機械〟だ」
アンリエッタは無表情のまま、足元に積み重ねられた女性の首元を踏みつけた。
すると女性の首は小枝の様にへし折れると、ケフィの側まで転がって来た。
「本当だ……こいつら人形だったんだ」
そう言うとアンリエッタは、首の無くなった女性の身体を蹴り落とした。
「そんな人形が……なんでお前に瓜二つなんだよ」
「ケフィ……この世には同じ顔をした人間が三人はいるらしいよ」
「容姿だけならお前にそっくりな奴を参考に造り出したんだろうと言えたし……俺もそう思いたかった」
ケフィはゆっくりとアンリエッタを指差した。
「そうじゃないと確信したのは……お前の〝特殊武装〟だよ」
アンリエッタの左右には、白色の巨大な銃身が二対浮遊していた。
「……」
「お前の特殊装備がなんでクライフに禁止されていたか分かるか?……一年前に起きた事件で障壁に大穴を開けた犯人がお前である可能性があるからだ」
一年前クレイドル南部で発生した闇の人間達の侵攻、切っ掛けとなったのはユカリが創り出した障壁に巨大な大穴が開いた事であった。
「お前は殆ど一人で、数百人近い闇の人間を葬った。その時使用していた特殊武装から放たれる光線は、大穴を開ける程の破壊力は無いように見えたが、国に戻ったファイスが確認した時に見つけたんだよ……障壁外の建物が不自然に消滅している地点がある事を」
「それがどうしたの?」
「障壁内の建物が消滅していたのなら分かるが、障壁外の建物だけが〝一直線状〟に消滅していたと言う事は……障壁内から大穴が開く程の攻撃を放ち、その影響で障壁外の廃墟と化した建物諸共消し飛んだとファイスと俺は考えた」
現場の状況は障壁内よりも、障壁外の被害が甚大であった。
闇の人間達は、人間を狙って侵攻を開始した為にユカリが創り出した建物に被害を及ぼす程では無かったが、ユカリが創り出していない障壁外の建物は数十キロ先まで何故か一直線に消滅していた。
「私は正の属性だったよ?」
「それは知ってる。光の人間だと証明されたお前は、ファイスから危険だと判断された特殊武装の使用禁止だけで済んでいたんだよ……障壁内に闇の人間は入れないからな」
「それなら——」
「でも、日本で似たような事が最近あっただろ?」
アンリエッタの言葉を遮る様にケフィは、日本で起きた出来事について話し始めた。
「導き手の右腕であるカイが闇の人間だった……日本からの情報では属性を偽る特性を持つ人間がいたらしい」
「でも、そいつは死んだんでしょ?」
「ああ……闇のボスって奴に殺されたらしいが……これで、属性を偽る事で障壁内に侵入する事が出来る事が立証された事になる」
アンリエッタは小さく溜息を吐くと、積み上げられた女性からゆっくりと降り始めた。
「そんなに私の事が信用できないの?」
「嘘吐きアンリは信用出来ない……でも、親友のアンリなら心から信じたいと思ってた」
ケフィは両手に纏わせた白色の機械武装に、黄金の雷を纏わせ始めた。
「アンリは気付いてないかもしれないけど……嘘付く癖に、嘘付くのが下手だから直ぐに分かる」
「……引き篭もりが珍しく武装してるの?……本気で私を殺すつもりなのケフィ?」
積み上げられた女性から降りて此方を見つめるアンリエッタの戸惑っていれ表情を見たケフィは、止まらない涙を流しながら無理矢理作った笑みをアンリエッタに向けたケフィは雷の勢いを強めて叫んだ。
「出会った頃に言っただろ?俺はもうしたくないんだよ!俺の大切な全てが、目の前で消えていく事を見ているだけの、決断出来ない弱い自分を悔いる事だけは!」
声を震わせながらも決意を固めたケフィは、両拳を握り締めた。
「……そっか」
ケフィの言葉に俯いたアンリエッタは一瞬不敵な笑みを浮かべると、自身の側で浮遊していた銃身を操作して銃口をケフィに向けた。
「悪く思わないでね……これは憶測でしかないケフィの妄想から私を守る為の自己防衛だから」
「過剰防衛だろ……どう考えても」
「死んだらごめんね」
二つの銃口から正属性のプラスとマイナスが入り混じった状態の光線が同時にケフィに向けて放たれた。
「出来る準備は、全て済ませてきた」
小さな声で呟いたケフィは、右手を前に出すと同時に握り締めていた拳を光線に向けて開いた。
「開け!」
ケフィの叫びに呼応する様に、右手に装備していた機械が稼働し始めた。
ケフィの雷によって作動した機械は、光線からケフィを守る様に展開されアンリエッタから視認出来ない程に広がっていった。
「障壁にすらならないよ……そんなの」
アンリエッタの言葉通り機械で形成された壁は、光線の直撃を受けると光線内で跡形も残らず塵になった。
光線は壁に隠れていたであろうケフィを巻き込みながら背後に立ち並んでいたビル群さえも消し飛ばし巨大な大穴を作り出した。
「ケフィと過ごした一年……長かったな」
アンリエッタが言葉を発して数秒後に背後から強烈な電撃が放たれた。
「俺もそう感じたよ」
気付かぬ内に背後に立っていたケフィは、右拳に最大限の雷を纏わせた状態でアンリエッタの背中目掛けて拳を叩き込んでいた。
「っ!……でも残念」
拳を喰らい吹き飛ばされたアンリエッタは、空中でケフィに向き直ると二対の銃身を操作し、再度ケフィに向けて光線を放った。
光線を喰らったケフィは、光線に包まれて姿を消し、周囲が倒壊するビル群の土煙に包まれた。
「引き篭もっていたケフィの攻撃なんて、痛くも痒くもない」
空中で体勢を立て直したアンリエッタは、二対の銃身を自身の前で合体させると、同時に先程よりも範囲の広い光線をケフィがいるであろう場所に向けて放った。
「なら……見せてやるよ」
再びアンリエッタ背後に立っていたケフィは、左手をアンリエッタの背中に向けて属性を使用した。
すると雷で構成された球体が八つ、円を描くように作り出された。
「どん底から引き上げられた……落ちぶれ者の力を!」
属性を最大に溜めた右拳で、円の中心目掛けて殴り付けた。
すると円の中心部分にあるアンリエッタの背中に拳が命中し、同時に八つ形成された球体が拳の接触地点に集まり一点に凝縮された属性によってアンリエッタは雷の槍に貫かれた様な激痛が走った。
『機械じかけの雷鎚』
「くっ!……かはっ!」
ケフィが放った渾身の一撃を喰らったアンリエッタは、前方へと吹き飛ばされると地面で数回回転した後にピクリとも動かなくなった。
「この国の総長を、甘く見過ぎた結果だ!」
(よし……時間は稼いだ……もうすぐに)
ケフィは身に付けていた武装内に内蔵された時計を確認し、身動き一つしないアンリエッタを見つめた。
(アンリがこの程度の事で倒れる筈がない……一緒にいたのは一年間だけだけど、それだけは確信を持って言える。ユカリに〝あれ〟を創り出して貰っていたのは正解だったけど……残念ながら無傷という訳にはいかなかったな)
左頭部から出血した血を拭いながら、ケフィが思考を凝らしていると先程まで全く動かなかったアンリエッタが不自然な程早く立ち上がった。
「ひっ!」
(な……なんだ?まるで〝機械が起動した〟みたいな動きだったぞ)
「随分と……コケにされた物だな」
そう言いながら向けられた瞳に、ケフィは違和感を覚えた。
(なんだ……アンリの瞳の色が変わってる?)
右眼は以前と同じ天色の瞳をしていたが、左眼は白藍の瞳に変化していた。
確認をしていたケフィの視界が突然ぐらりと揺らぎ、腹部に激痛が走った。
「どれだけの知力を有しても……圧倒的な戦力差に勝る物無し」
それは、一瞬の出来事だった。
ケフィは後方へと吹き飛ばされ、ビルに巨大なクレーターが形成された。
「っ!」
アンリエッタが立っていた場所にはまだアンリエッタが存在しているのに、ケフィの腹部に向けて銃身を変化させた大刀の様な物で腹部を強打した人物もアンリエッタだった。
(何が起こった)
ケフィの見つめていたアンリエッタは、大刀の先端を自身の後ろに向けて伸ばす様に携えていた。
そしてアンリエッタの背後に立っていたアンリエッタだった存在は、力なく地面に倒れ込んだ。
(そうか……最初に足場にしていた女の一人を無理矢理立たせて念押し様の案山子を置いていたのか……)
ケフィは壁に叩き付けられながらも、何とか壁から抜け出すと視線を逸らすことなく地面に着地した。
「我の攻撃を喰らえば一瞬で勝敗が決すると思っていたが……やはりこいつの情報は間違いではなかった様だな」
「姿はアンリだけど……お前はアンリとは違うのか?」
白色の銃身をトンファーの様に持ったアンリエッタは、ケフィに背を向けると先程案山子に使用した女性に視線を向けた。
「我の言葉が必要か?……記憶通りのケフィであれば既に確信を持っているのではないか?」
アンリエッタは再び二対の銃身を変化させると、片腕を抑え苦痛に顔を歪ませたケフィに向けた。
「記憶があるなら、私に銃口を向ける事は躊躇うんじゃないの?……アンリにとって俺はその程度の存在だったって事か」
「それは違うな」
アンリエッタに視線を向けたケフィは驚きで目を見開いた。
口調のまるで違うアンリエッタの右眼、つまり以前のアンリエッタと変わらない天色の瞳から滝のように涙が溢れていた。
「……アンリ」
(そこにいるのか……俺の親友だったお前は)
アンリの存在を認識したケフィの瞳からは、自然と涙が溢れていた。
「だからこそ我の手で葬ろう……私が心から信頼した…………私の大好きな親友を」
ゆっくりと向けられた左手を見届けたケフィは、涙を拭う事なく静かに瞳を閉じた。
(じゃあな……私の大好きなアンリ)
向けられた二つの銃口から二種類の属性を帯びた雷光が輝くと、ケフィ目掛けて先程の倍以上光線が放たれた。
ケフィはその場にしゃがみ込み、光線を避ける事を完全に諦めていた。
(悪い人生では無かったな)
「私が仲間を易々と死なせると思っているの……」
ケフィの正面から聞き慣れた声が聞こえた。
ケフィを庇う様に〝緑色の炎〟が、ケフィの身体全体を覆い尽くした。
「これは」
「ケフィ……連絡するなら私に直接して」
光線の脅威が過ぎ去った後、ケフィを覆っていた炎が離れ人間の形状を形成していくと一人の女性が姿を現した。
「〝命逆の炎姫〟……か」
アンリエッタは、自身とケフィの間に立つ一人の女性を睨み付けていた。
「アンリエッタ……私に情けは期待しないで」
ケフィの前に立った女性は金色のツインテールを揺らし薄浅葱の瞳でアンリエッタを睨み返していた。
「ケフィ……どうしたの?」
不思議そうに首を傾げたアンリエッタが立っていたのは数十人の黄金色の髪をした女性が積み重ねらた山の頂だった。
「……おかしいと思ったんだよ」
涙を拭ったケフィは、足場になっていた女性達に視線を向けた。
女性は全員紅掛空色の瞳を開けたまま、糸が切れた人形の様になっていた。
「お前はフェイトって子を日本に送っていた筈だよな?……フェイトはどうした?」
「転移エリアを使ってヒナに預けたけど?」
視線を逸らさずに淡々と話すアンリエッタだったが、右足で足場の女性を何度も踏みつけていた。
「ならなんで報告しなかったんだ?いつもなら俺の所に来るか通信機で報告してくれるだろ?」
「ごめん……忘れてた」
(……)
普段報告だけは一度も忘れる事なく完璧にこなしていたアンリエッタが、非常事態の現状で忘れるなんて事はケフィには考えられなかった。
「……いい加減踏みつけるの辞めろよ」
ケフィと話しながらもアンリエッタは、ひたすら足場で瞳を開いたままの女性を踏みつけ続けていた。
「この国に害を与えた女なんだよ?……正直顔すら見ていたくない」
アンリエッタの瞳はとても冷たく、ケフィの指示を無視して虫を潰すかの様に何度も繰り返し踏みつけた。
「お前……鏡見たことあるか?」
「今そんな話……意味があるの?」
アンリエッタが視線を向けた時、ケフィの瞳からは拭った筈の涙が再び流れていた。
「……お前なんだろ?主様って奴は」
「何の話をしているのケフィ?」
再び涙を拭ったケフィは、アンリエッタを睨み付けて話を再開させた。
「監視カメラで見ていたんだよ。光の主力達の戦いを……光の導き手がどれだけ凄い存在だったのかを改めて実感したし、心強かった」
ケフィの話を聞きながらアンリエッタは、障壁を見つめていた。
「その映像で言ってたんだよ、〝主様〟って。お前が足場にしてる女が」
ケフィの言葉を聞いたアンリエッタは、再び冷たい眼差しを足元の女性に向けた。
「あくまでも憶測でしかない……だが、容姿も同じ武装も同じ、行動まで全く同じ……そいつらは一人の人間から造られた〝量産型機械〟だ」
アンリエッタは無表情のまま、足元に積み重ねられた女性の首元を踏みつけた。
すると女性の首は小枝の様にへし折れると、ケフィの側まで転がって来た。
「本当だ……こいつら人形だったんだ」
そう言うとアンリエッタは、首の無くなった女性の身体を蹴り落とした。
「そんな人形が……なんでお前に瓜二つなんだよ」
「ケフィ……この世には同じ顔をした人間が三人はいるらしいよ」
「容姿だけならお前にそっくりな奴を参考に造り出したんだろうと言えたし……俺もそう思いたかった」
ケフィはゆっくりとアンリエッタを指差した。
「そうじゃないと確信したのは……お前の〝特殊武装〟だよ」
アンリエッタの左右には、白色の巨大な銃身が二対浮遊していた。
「……」
「お前の特殊装備がなんでクライフに禁止されていたか分かるか?……一年前に起きた事件で障壁に大穴を開けた犯人がお前である可能性があるからだ」
一年前クレイドル南部で発生した闇の人間達の侵攻、切っ掛けとなったのはユカリが創り出した障壁に巨大な大穴が開いた事であった。
「お前は殆ど一人で、数百人近い闇の人間を葬った。その時使用していた特殊武装から放たれる光線は、大穴を開ける程の破壊力は無いように見えたが、国に戻ったファイスが確認した時に見つけたんだよ……障壁外の建物が不自然に消滅している地点がある事を」
「それがどうしたの?」
「障壁内の建物が消滅していたのなら分かるが、障壁外の建物だけが〝一直線状〟に消滅していたと言う事は……障壁内から大穴が開く程の攻撃を放ち、その影響で障壁外の廃墟と化した建物諸共消し飛んだとファイスと俺は考えた」
現場の状況は障壁内よりも、障壁外の被害が甚大であった。
闇の人間達は、人間を狙って侵攻を開始した為にユカリが創り出した建物に被害を及ぼす程では無かったが、ユカリが創り出していない障壁外の建物は数十キロ先まで何故か一直線に消滅していた。
「私は正の属性だったよ?」
「それは知ってる。光の人間だと証明されたお前は、ファイスから危険だと判断された特殊武装の使用禁止だけで済んでいたんだよ……障壁内に闇の人間は入れないからな」
「それなら——」
「でも、日本で似たような事が最近あっただろ?」
アンリエッタの言葉を遮る様にケフィは、日本で起きた出来事について話し始めた。
「導き手の右腕であるカイが闇の人間だった……日本からの情報では属性を偽る特性を持つ人間がいたらしい」
「でも、そいつは死んだんでしょ?」
「ああ……闇のボスって奴に殺されたらしいが……これで、属性を偽る事で障壁内に侵入する事が出来る事が立証された事になる」
アンリエッタは小さく溜息を吐くと、積み上げられた女性からゆっくりと降り始めた。
「そんなに私の事が信用できないの?」
「嘘吐きアンリは信用出来ない……でも、親友のアンリなら心から信じたいと思ってた」
ケフィは両手に纏わせた白色の機械武装に、黄金の雷を纏わせ始めた。
「アンリは気付いてないかもしれないけど……嘘付く癖に、嘘付くのが下手だから直ぐに分かる」
「……引き篭もりが珍しく武装してるの?……本気で私を殺すつもりなのケフィ?」
積み上げられた女性から降りて此方を見つめるアンリエッタの戸惑っていれ表情を見たケフィは、止まらない涙を流しながら無理矢理作った笑みをアンリエッタに向けたケフィは雷の勢いを強めて叫んだ。
「出会った頃に言っただろ?俺はもうしたくないんだよ!俺の大切な全てが、目の前で消えていく事を見ているだけの、決断出来ない弱い自分を悔いる事だけは!」
声を震わせながらも決意を固めたケフィは、両拳を握り締めた。
「……そっか」
ケフィの言葉に俯いたアンリエッタは一瞬不敵な笑みを浮かべると、自身の側で浮遊していた銃身を操作して銃口をケフィに向けた。
「悪く思わないでね……これは憶測でしかないケフィの妄想から私を守る為の自己防衛だから」
「過剰防衛だろ……どう考えても」
「死んだらごめんね」
二つの銃口から正属性のプラスとマイナスが入り混じった状態の光線が同時にケフィに向けて放たれた。
「出来る準備は、全て済ませてきた」
小さな声で呟いたケフィは、右手を前に出すと同時に握り締めていた拳を光線に向けて開いた。
「開け!」
ケフィの叫びに呼応する様に、右手に装備していた機械が稼働し始めた。
ケフィの雷によって作動した機械は、光線からケフィを守る様に展開されアンリエッタから視認出来ない程に広がっていった。
「障壁にすらならないよ……そんなの」
アンリエッタの言葉通り機械で形成された壁は、光線の直撃を受けると光線内で跡形も残らず塵になった。
光線は壁に隠れていたであろうケフィを巻き込みながら背後に立ち並んでいたビル群さえも消し飛ばし巨大な大穴を作り出した。
「ケフィと過ごした一年……長かったな」
アンリエッタが言葉を発して数秒後に背後から強烈な電撃が放たれた。
「俺もそう感じたよ」
気付かぬ内に背後に立っていたケフィは、右拳に最大限の雷を纏わせた状態でアンリエッタの背中目掛けて拳を叩き込んでいた。
「っ!……でも残念」
拳を喰らい吹き飛ばされたアンリエッタは、空中でケフィに向き直ると二対の銃身を操作し、再度ケフィに向けて光線を放った。
光線を喰らったケフィは、光線に包まれて姿を消し、周囲が倒壊するビル群の土煙に包まれた。
「引き篭もっていたケフィの攻撃なんて、痛くも痒くもない」
空中で体勢を立て直したアンリエッタは、二対の銃身を自身の前で合体させると、同時に先程よりも範囲の広い光線をケフィがいるであろう場所に向けて放った。
「なら……見せてやるよ」
再びアンリエッタ背後に立っていたケフィは、左手をアンリエッタの背中に向けて属性を使用した。
すると雷で構成された球体が八つ、円を描くように作り出された。
「どん底から引き上げられた……落ちぶれ者の力を!」
属性を最大に溜めた右拳で、円の中心目掛けて殴り付けた。
すると円の中心部分にあるアンリエッタの背中に拳が命中し、同時に八つ形成された球体が拳の接触地点に集まり一点に凝縮された属性によってアンリエッタは雷の槍に貫かれた様な激痛が走った。
『機械じかけの雷鎚』
「くっ!……かはっ!」
ケフィが放った渾身の一撃を喰らったアンリエッタは、前方へと吹き飛ばされると地面で数回回転した後にピクリとも動かなくなった。
「この国の総長を、甘く見過ぎた結果だ!」
(よし……時間は稼いだ……もうすぐに)
ケフィは身に付けていた武装内に内蔵された時計を確認し、身動き一つしないアンリエッタを見つめた。
(アンリがこの程度の事で倒れる筈がない……一緒にいたのは一年間だけだけど、それだけは確信を持って言える。ユカリに〝あれ〟を創り出して貰っていたのは正解だったけど……残念ながら無傷という訳にはいかなかったな)
左頭部から出血した血を拭いながら、ケフィが思考を凝らしていると先程まで全く動かなかったアンリエッタが不自然な程早く立ち上がった。
「ひっ!」
(な……なんだ?まるで〝機械が起動した〟みたいな動きだったぞ)
「随分と……コケにされた物だな」
そう言いながら向けられた瞳に、ケフィは違和感を覚えた。
(なんだ……アンリの瞳の色が変わってる?)
右眼は以前と同じ天色の瞳をしていたが、左眼は白藍の瞳に変化していた。
確認をしていたケフィの視界が突然ぐらりと揺らぎ、腹部に激痛が走った。
「どれだけの知力を有しても……圧倒的な戦力差に勝る物無し」
それは、一瞬の出来事だった。
ケフィは後方へと吹き飛ばされ、ビルに巨大なクレーターが形成された。
「っ!」
アンリエッタが立っていた場所にはまだアンリエッタが存在しているのに、ケフィの腹部に向けて銃身を変化させた大刀の様な物で腹部を強打した人物もアンリエッタだった。
(何が起こった)
ケフィの見つめていたアンリエッタは、大刀の先端を自身の後ろに向けて伸ばす様に携えていた。
そしてアンリエッタの背後に立っていたアンリエッタだった存在は、力なく地面に倒れ込んだ。
(そうか……最初に足場にしていた女の一人を無理矢理立たせて念押し様の案山子を置いていたのか……)
ケフィは壁に叩き付けられながらも、何とか壁から抜け出すと視線を逸らすことなく地面に着地した。
「我の攻撃を喰らえば一瞬で勝敗が決すると思っていたが……やはりこいつの情報は間違いではなかった様だな」
「姿はアンリだけど……お前はアンリとは違うのか?」
白色の銃身をトンファーの様に持ったアンリエッタは、ケフィに背を向けると先程案山子に使用した女性に視線を向けた。
「我の言葉が必要か?……記憶通りのケフィであれば既に確信を持っているのではないか?」
アンリエッタは再び二対の銃身を変化させると、片腕を抑え苦痛に顔を歪ませたケフィに向けた。
「記憶があるなら、私に銃口を向ける事は躊躇うんじゃないの?……アンリにとって俺はその程度の存在だったって事か」
「それは違うな」
アンリエッタに視線を向けたケフィは驚きで目を見開いた。
口調のまるで違うアンリエッタの右眼、つまり以前のアンリエッタと変わらない天色の瞳から滝のように涙が溢れていた。
「……アンリ」
(そこにいるのか……俺の親友だったお前は)
アンリの存在を認識したケフィの瞳からは、自然と涙が溢れていた。
「だからこそ我の手で葬ろう……私が心から信頼した…………私の大好きな親友を」
ゆっくりと向けられた左手を見届けたケフィは、涙を拭う事なく静かに瞳を閉じた。
(じゃあな……私の大好きなアンリ)
向けられた二つの銃口から二種類の属性を帯びた雷光が輝くと、ケフィ目掛けて先程の倍以上光線が放たれた。
ケフィはその場にしゃがみ込み、光線を避ける事を完全に諦めていた。
(悪い人生では無かったな)
「私が仲間を易々と死なせると思っているの……」
ケフィの正面から聞き慣れた声が聞こえた。
ケフィを庇う様に〝緑色の炎〟が、ケフィの身体全体を覆い尽くした。
「これは」
「ケフィ……連絡するなら私に直接して」
光線の脅威が過ぎ去った後、ケフィを覆っていた炎が離れ人間の形状を形成していくと一人の女性が姿を現した。
「〝命逆の炎姫〟……か」
アンリエッタは、自身とケフィの間に立つ一人の女性を睨み付けていた。
「アンリエッタ……私に情けは期待しないで」
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ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
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アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
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家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
我らダンジョン攻略部〜もしも現実世界にダンジョンができて、先行者利益を得られたら〜
一日千秋
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昨今、話題の現実にダンジョンができる系の作品です。
高校生達のダンジョン攻略と日常の学校生活、ビジネス活動を書いていきます。
舞台は2025年、
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オタクは知っている、ダンジョンには先行者利益があることを。
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ダンジョンの設定はステータス、レベル、スキルあり、ダンジョン内のモンスターの死体はしっかり消えます。
一話につき1000〜2500文字くらいの読みやすい量になっているので初心者には読みやすい仕様になっております。
キャラクターはところどころ新キャラが出てきますがメインストーリーは主に3人なので複雑になりすぎないように心がけています。
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※契約書、経済システムの書式、掲示板テンプレはAI生成を活用して制作しております。修正、加筆は行っております。ご了承下さい。
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