創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第27話 露から召集されし魯

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 むかしむかしあるところに、ふたりのだんじょがおりました。

 二人は、たがいに愛しあっていました。

 男は愛するかのじょのために、女は愛するかれしのためにたたかっていました。

 そんなある日かのじょは、ひとつのミスを犯しました。

 一人の少女にほばくされたふたりは、おたがいを庇うように叫びあばれました。

 そんなふたりをみていた少女は、ひとつの提案をしました。

『おとこにこの林檎をくわせたらおまえは解放してやる』

 少女はそうつげると、美味しそうな一玉の赤いりんごを手渡しました。

 何かをさとったかのじょは、しんぱいそうにかのじょをみていた男をみつめ涙を流すとこう告げました。

『ごめんね……私がドジだったから』

 笑みを浮かべた彼女は、手に持った林檎を男に渡す事なくかじり付きました。

 すると彼女の身体は、突如黒い炎に包まれてしまいました。

 炭となり姿を消した彼女の足元には黒ずんだ林檎が落ちていました。

 少女に見逃された男は、涙を流しながら黒い林檎を胸に抱き決意しました。

『君を一人にはしない』

 男は涙ながらに告げた後、黒く染まった林檎に齧り付きました。

―*―*―*―*―

 アメリカ中央拠点クレイドル 北部

「これが……全てを捧げても愛すると誓った女の最後か」

 戦闘を終え属性を使い果たしたヨハネは、大刀を地面に倒し身体をふらつかせながらユウトに近付いた。

「大丈夫か?……ユウト」

 近付いて来たヨハネは、座り込むユウトに手を差し伸べたがバランスを崩しユウトを押し倒し覆い被さってしまった。

「「あっ!」」

 ルアの行動に衝撃を受けて硬直していた二人は、目の前で起きた出来事に驚き正気を取り戻した。

「だ、大丈夫ですか?」

「……」

 心配して座り込んだユウに対しウトは、少しだけ頬を膨らませて視線を逸らしていた。

「大丈夫じゃないのはお互い様だ……ヨハネ」

「……その通りだ……押し倒してすまない」

 先に起き上がったヨハネは、ユウトに手を差し伸べ起き上がらせると向き合うように座り込んだ。

「狂愛……ルアと私は、相性が良かったようだ」

 座り込んだヨハネは、自身の両手を見つめて話を始めた。

「奴は私の攻撃を防ぐ際に、必ず異質な属性を纏っていた。あの属性には相手の属性を奪うだけでなく身体能力を低下させる効果もあったようだ」

 ヨハネが片手で地面を軽く何度か叩くと、小さな亀裂が徐々に大きくなっていた。

 その光景は、ヨハネの吸収されていた力が徐々に回復している事を物語っていた。

「奴に私の力を防ぐだけの力は無いが、属性によって力を奪えば対等の力で戦う事が出来ると考えたんだろう。奴の思惑通り私は、全力の半分程しか力を発揮出来なかった」

「あれで半分だったのか?」

「転生を経ても私の属性は、転生以前と殆ど変化が無かった……ユウト……転生前の私と刃を交えたお前は、よく知っているだろう?」

 実際ヨハネと対峙したユウトは、ヨハネの常人離れした力を目の当たりにしていた。

 ユウキの状態で歯が立たず、レンとの約束を破り暴走した挙句、闇に堕ちる寸前まで力を暴走させる事でようやく勝利する事が出来た事を思い出したユウトは、無言のまま頷いた。

「実際に、属性は身体能力に関連している。光の導き手であるユカリもロシアで世界最強と呼ばれるソーンも開花する事で常人では考えられない程の身体能力を得ている」

 ヨハネの言う通り属性と人体には、関係があるとされている。

 属性開花で最も変化があったのは世界最強の一人ソーンで、百メートルの記録は一秒掛からない速度を叩き出している。

 最強だけでなく最速とも称されている彼女だが、基本的に眠っている時間が多い猫のような性格は国民から愛される理由の一つである。

「ルアとの戦闘を終えた事で、一先ず戦闘は小休止だ。第一に、ユウトが属性を使い切っている状態での戦闘は困難だろうからな」

「そうですね……」

「ユウトは回復するまで安静にしてて」

 周辺を警戒していた二人が、座り込んだユウトに視線を向けて言葉を発すると、ユウトは俯きながら何度か頷いた。

 (小休止か……恐らくあの男がロシアの情勢を知り尽くしている辺りロシアでの戦争が本命だと思うが……属性を使い尽くしている今のユウトには伝えられんな)

 ユウトの回復までは自身の憶測に関して口を閉ざす事を誓ったヨハネは、晴天の中遠方に聳え立つクレイドルを静かに見つめていた。

―*―*―*―*―

 アメリカ中央拠点クレイドル支援部隊本部

「急な要請に対応して頂いて有難うございます」

 要請を受け転移エリアではなく転移端末を使用し、支援部隊の本部へと転移して来た〝二人〟の男性にクライフは感謝の言葉を口にした。

「気にしないで下さい。僕は、『皇帝の住まう街ツァリ・グラード』に無理言ってお世話になっている居候の身なんですから」



 クライフの正面に立った眼鏡をかけた不言色いわぬいろの髪をした男性は、苦笑いを浮かべながら返答した。

 (フィアの話に疑いを抱く事は無いけど……少なからず転移用の端末は、あの障壁周辺に創造されていた端末にのみ影響を与えている事は確認出来た)

 クライフの背後に立っていたファイスは、腕を組みながら転移して来た二人とクライフが身に付けていた機能しない転移端末を見て考察していた。

「挨拶が遅れましたが、僕はイタリアの光拠点シエラに所属している……いや、所属していたアダムと言います」

 自己紹介をしたアダムは、クライフに向けて右手を差し出した。

「私は、アメリカ中央拠点クレイドルの副長を務めさせて頂いているクライフと申します」

 同様に自己紹介をしたクライフは、差し出された手を握った。

「そちらの方も、初めてお会いしましたよね?」

 クライフは、アダムの背後に立っていた褐色の男性に視線を向けた。

「おっと!申し遅れました……私はムスリムと言います」



 笑顔を向けたムスリムは、アダムの隣に立ちクライフに右手を差し出しクライフは、アダムの時と同じように差し出された手を握った。

「彼はロシアの現状報告をするようにと指示を受けていたので同行して貰ったんです」

 その言葉を聞いたムスリムは、小さく頷いた。

「彼の事を宜しくお願いします」

 深々とお辞儀をしたアダムを隣で見ていたムスリムは、アダムの背中を少し強めに叩いた。

「アダムこそ頑張れよ!待ち焦がれた恋人との再会なんだ……しっかりな」

 最初は笑みを浮かべていたムスリムだったが、最後の一言だけは真剣な眼差しでアダムに告げていた。

「ありがとう……ムスリム……ロシアのみんなにも帰ったら伝えて欲しい」

 背中を叩かれ少しよろけたアダムは、苦笑いを浮かべてムスリムの言葉に応えた。

「ではアダムは、あそこにいる支援部隊総長から指示を受けて指定の場所へ向かって下さい」

 クライフは、上層で忙しそうに情報整理をしているケフィを指差した。

「分かりました」

 ケフィの元へと向きを変え歩み始めたアダムの背中を見つめ表情を曇らせていたムスリムは、アダムの後を追い呼び止めると、軽いハグをして笑い合っていた。

「ファイス様……彼は本当に傷心しているのでしょうか?」

 二人の様子を見ていたクライフは、背後に立っているファイスに向けて小声で問いかけたが、ファイスから言葉が返ってこなかった。

「…………ファイス様?」

 背後に視線を向けると、ファイスは真剣な眼差しでケフィの元へと向かうアダムを見つめていた。

「クライフ……彼は全てを知った上でこの場所にやって来た。どれ程残酷な未来が待ち受けていると聞かされても」

 (彼の瞳は、転生したヨハネと同じ瞳をしていた)

 ファイスは、転生したヨハネから向けられた決意を秘めた瞳を思い出していた。

「全てを覚悟した上で、この場所に来ているの」

 ファイスの言葉を聞いたクライフは、ヨハネの言葉を思い出し表情を曇らせた。

 そしてアダムとの会話を終えたムスリムは、ファイスの元へと歩み寄り小声で〝ある報告〟をした。

「実は——」

 ムスリムからの報告を聞いたファイスは、目を見開いた。

「…………そう」

 そして安らかに瞳を閉じ俯いたファイスは、一筋の涙を流していた。
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