創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第107話 終わりと始まり

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 ユウトが目覚める半日程前

「刀身に膜を張る様に、刀身を重ねて創造する事が可能かどうか……ですか?」

 決戦に向けた準備を進めていたユカリの元を訪ねたウトは、椅子に腰掛け、まとめられた情報を整理しているユカリに向けて、自身が所持していた白刃の刀を見せながら小さく頷いた。

「ファクティスと戦った時、壊れない筈の凍華零域とうかれいいきが砕かれたって言ってた。それがファクティスじゃなく、別の人の仕業なら……決戦前に対策しておきたいなって」

 (私が敵の立場なら、どんな相手でも楽に片付けられる疲労時を狙う。闇の人間が考えそうな手は、ちゃんと対策しておかないと)

 煌めく白刃に反射する自分の顔を見たウトは、ウクライナの研究所に住んでいた頃の幼き自分の事を思い出した。

 (それに、チェルノボグが言ってた奴が姿を現すなら……そろそろだろうし)

「確かに……あの時は、第三者の手によって領域の一部が消滅した様な感覚がありました。ファクティスが、その様な特異な力を有している可能性も否めませんが、情報や経験で明らかとなった敵戦力への対策は必要ですね」

 顎に右手を当て少し考えたユカリは、ウトから差し出された白刃の刀を凝視した後に、ゆっくりと瞳を閉じた。

「…………はい。これで、創造は完了しました」

「え?もう?」

 数秒で終わった事を知らされたウトは、重量の変化を実感出来ない事もあり、ユカリの前で刀を吟味していた。

 (念の為、イタリアへ向かう皆さんの武器にも、後で同様の創造をしましょうか……アーミヤと二人で最終確認する必要もありますね)

「ユカリ、これ本当に創造出来てる?」

「勿論です。重量に変化があると戦闘に支障が出る恐れがあるので、その点を考慮した上で創造しましたから、実感出来ないのも無理はありません……念の為に、修練場で試用してみても良いですよ?」

「ん、大丈夫。ユウトを信じてる様に、貴女の事も信じてるから」

「ふふ……有難うございます、ウト」

 母親の様な温かな微笑みを浮かべたユカリは、白刃を見つめるウトの決意を秘めた瞳を見て、表情を曇らせた。

「ウト、もしも不測の事態で窮地に陥った時は、皆さんにお渡しした転移端末を使って私に知らせて下さいね……どんな時でも、助けに行きますから」

「……うん。分かった」

「絶っ対、ですからね」

 気付かぬ間に椅子から立ち上がり、正面まで近付いていたらユカリから告げられたウトは、少しだけ表情を強張らせた。

「私に出来る事が無くなったら、必ず呼ぶ……その時は、任せるから」

 そう告げたウトは、ユカリの言葉に安心した様に、少しだけ頬を緩めていた。

―*―*―*―*―

 赤壁の街ヴァイス

「っ!!」

 アンリエッタと刃を交えていたユカリは、ウトの転移端末との繋がりが一瞬で消滅した事に驚愕し、目を見開いた。

「どうした……やっと誰か死んだか?」

 突然刃を弾いて後方へと飛び退いたユカリの行動と、後退した場所で俯いたまま静止している様子を見て推察したアンリエッタは、絶望の表情を浮かべたまま硬直するユカリを嘲笑うような言葉を発した。

「……」

「っ!?」

 言葉に反応し上げられた顔を見ていたアンリエッタは、先程までとは比較にならない程の殺意が込められた瞳を向けられ、一瞬で全身の毛が逆立つ恐怖を感じた。

 (なんだ、この殺気は!?)

 向けられた瞳に威圧されたアンリエッタは、その場から突如姿を消したユカリに対する反応が数秒遅れてしまった。

「……クッ!待てっ!!」

 左手を伸ばしたアンリエッタは、ユカリが既にこの場から離れている事を知ると、ゆっくりと左手を下げた。

「チッ!まさか、我に臆して逃げるとは」

 (あれ程の圧を、光の神に出せるとは……想定外だ)

 その後、静寂に包まれたヴァイスで数秒硬直していたアンリエッタは、左手を黒衣のポケットに入れ、中に入っていた黒い端末を取り出した。

「頃合いか……の方の、御迎おむかえにまいらなければ。導き手共の相手は、奴一人で十分だろう」

 その直後、背後から突如として現れた黒い渦に呑み込まれたアンリエッタは、遥か遠くに滞在している少女の元へと転移した。

―*―*―*―*―

 マリオット島

「……ウト……」

 地面に倒れていたユウは、ウトの名前を幾度となく呼び掛けながら地面を這い、近場の突き刺さっていたウトの刀の元へ向かった。

「私は、貴女に助けられてばっかりで……まだ、何も……お礼だって、言えてないのに」

 思う様に動かない身体を強引に動かし、ゆっくりと身体を起こして床に尻餅をつく体勢になったユウは、突き刺さった刀を自身の方向へと傾けた。

 身体を預ける様に倒れた刀の峰が接触したウトは、微かに残留する属性から、持ち主であるウトが消滅した喪失感に駆られ、再び涙を流し始めた。

「あああ……アァァァァアア!」

 その時、離れた場所から悲痛の叫びを上げるユウの様子を見物していたティオーは、薄笑いを浮かべながらユウの元へと歩み始めた。

「テメェの叫びも、もう聞き飽きた……次、行っとくか?」

 パキィィィィン

 左腕を失った状態のティオーがユウに右手を向けた瞬間、研究室内の何も無い空間に突如として巨大な亀裂が入ると、同時に甲高い音が室内に響き渡った。

「お?」

 (ユウト、ようく来やがったか?)

 二人の間に存在した空間を、まるで硝子の様に左手で殴り破って姿を現したのは、赤壁の街でアンリエッタと交戦中と思われていたユカリだった。

「オイオイ、マジかよ」

 (あの空間、創造の完了を待たずに飛び込んで来やがったのか)

ゆるさない」

 両腕に結晶拳リフィスタを身に付けた状態で現れたユカリは、事前に構えた状態だった右拳をティオーに向けて放った。

 (創造の失敗で、虚無の空間に消え去ってしまう恐怖を顧みずに行動したってか?)

「ハッ!光の奴の考えは、理解の外だっ!!」

 自身に迫る右手を受け止め、消滅させようと考えていたティオーは、動かそうとした右腕が結晶で床に固定されていた事に気が付いた。

「チッ!この程度!」

 その瞬間、右拳の結晶拳リフィスタがティオーの胸部に接触すると同時に砕け散り、結晶拳リフィスタ内部から大量の雪の結晶が溢れ出した。

「ハッ!テメェも、アイツと同じ小細工か?」

世界の創生ヴェルト・クリスタシス

 怒りの感情が込められた金色の瞳を向けられたティオーは、落ちた雪の結晶によって瞬時に凍結した氷の地面に、両脚を固定された。

「学習しねェなァ!こんなモンで——」

「貴方に触れた全ては消滅する。そんな事、分かってますよ」

 消滅と同時に創造される結晶から逃れられずにいたティオーは、直後に迫り上がった地面に全身を呑み込まれ、数秒の間に創り出された巨大な氷柱に閉じ込められた。

 (チッ!コイツ、破壊を上回る創造を!?)

 ズガァァァァン

 創造された氷柱によって突き破られた研究所は、轟音と土煙を放ちながら倒壊し始めた。

 創造された氷柱は、上空に存在する雲に到達する程の大きさとなり、氷柱によって生じた極寒の烈風が島中に吹き荒れた。

 そんな冷気から身を守る為に、自身とユウを囲う様に障壁を創り出したユカリは、障壁内で結晶刀クリスタリアを創造し、両手で構えた。

悪戯いたずらに命の灯火を吹き消す愚か者に、げんたる制裁を!」

 そう叫び、力強く振り上げられた結晶刀クリスタリアの刀身には、荒々しく終え上がる紅蓮の炎が纏われ、刀身から流れ落ちた炎がユカリの全身を覆う様に渦巻き始めた。

氷炎ひえんの裁き』

 柄を軸にくるりと刀を回転させ、切先を下に向けたユカリは、結晶刀クリスタリアを地面に突き刺した。

 すると、刀身から地面に向けて流れ落ちた劫火は、大陸を溶解しながら天高く創造された氷柱に向けて流れ、氷柱の中央に到達すると同時に、氷柱内部に巨大な炎の柱を発生させた。

 しかし次の瞬間、ユカリの発生させた二色の柱は中間付近から徐々にその姿を消して行った。

「無駄だって、言ってんだろ?」

 消滅開始地点である中間部に立っていたティオーは、遥か下から此方を睨み付けているユカリを冷たい眼差しで見下ろしていた。

「ま、暇潰しにしちャ上出来だったぜ?」

 消滅する氷柱と共に降下したティオーは、荒々しく燃え盛る炎を全身に纏ったユカリと視線を合わせながら、不敵な笑みを浮かべた。

「っ!貴方は、何処まで……」

「死ぬ運命だった奴を殺してやったんだ。『彼女が死に損ないにならなくて良かった』と喜んでやる所だぜ?」

 周囲に存在する瓦礫を消滅させ、ユカリが衝動的に動き出す機会を狙っていたティオーと、背後で涙するユウを護りながら戦わなければならないユカリの睨み合いが始まり掛けた。

 次の瞬間、二人の間に純白の光が放たれ、中から転移端末を使用してマリオット島に転移して来たユウトが姿を現した。

「……随分と遅い到着だな、ユウト?」

「っ!?なんでティオーが此処にっ!?」

 ユカリが抱いた怒りの感情に反応して転移したユウトは、予想外の人物が転移場所に存在する事に対して驚愕の声を上げた。

「ユウトっ!!」

 初めて聞いたユカリの怒号に身震いしたユウトが視線を向けると、滅多に見せない怒りの表情を浮かべたユカリの背後に、滝の様な涙を流しながらウトの刀を抱いているユウの姿を視認した。

 その状況から全てを悟ったユウトは、周囲を凍結させる程の冷気を放ち、両拳に結晶拳リフィスタを創造した。

「ティオー……お前……」

 ファクティスに対抗するべく、新たに心の世界を創造した事で属性を消費し空色に戻っていた瞳は、属性力の上昇によって再び琥珀色こはくいろに輝いていた。

「はぁ、テメェもかよ。残念だが、テメェ等の戯言を聞いてる暇はねェんだ」

「戯言……だと!」

 怒り眼差しを向ける二人を嘲笑う様にティオーが気怠そうに首を左右に揺らしていると、背後に突如として黒い渦が出現した。

 黒い渦からゆっくりと姿を現したのは、赤壁の街ヴァイスでユカリが刃を交えていたアンリエッタだった。

「役者は揃った。後は、コイツらに告げるだけだ」

―*―*―*―*―

 遥か昔、神は生物に六種の属性を与えた。

 属性を与えた神は、生物を光と闇に部別するだけで無く、世の始まりと終わりを告げるモノとして、二つの種を刻の道へと投げ入れた。

 様々な道を歩んだ生物は、いつか必ずその道へと辿り着き、二つの種を手にする刻が来る。

 幾千年の時を経て、光と闇の運命を宿した種を手にした者が現れた時、世は新たに誕生した神によって、終わりと始まりを迎える。

 それが、世界に伝えられた属性の伝説。

―*―*―*―*―

「神は揃った……さあ、決めるとするか」

 黒い渦から現れたアンリエッタが両腕を上げて抱えていたのは、白いワンピースを身に纏い、純白の髪と右眼に白い眼帯をした少女だった。

「俺達の『運命フェイト』を」

 身体の節々に包帯を巻いた少女は、アンリエッタに抱えられた状態で安らかに眠っていた。
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