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一章 学園のヘタレ

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 彼と初めて出会ったのは、父親に連れられて後に自分も入団する事になるギルド、レイトルバーンを立ち上げた伯父であるシルヴァを祝いに行った時の事だった。


「お父様、ここが伯父様が立ち上げたギルドなの?」


「そうだよ。兄上も何を思ったのかギルドを立ち上げてしまうとはね」


 ルーナはシルヴァの実弟であるドラゴ・シャル・ド・ヴィンセントの娘であり、シルヴァの姪になる。伯父に会うのは彼女が生まれてすぐの時以来だ。父親と母親以外で彼女を抱いたのはシルヴァのみである。


「伯父様に会うのは君にとっては二度目だね」


「うん。生まれた時に抱っこしてくれたって、お母様から聞いた事はあったけど」


 二人はそんな会話をしながら、建てたばかりのギルド内の廊下を歩いた。どうやら、受付にいた女性によるとシルヴァは誰かと稽古中らしい。実弟と姪が来たにも関わらず、自ら現れない所は昔から変わっていないとドラゴは思う。


「ここだ」


 訓練所と書かれた扉の前に立った二人。中から何やら金属同士が打つかる音が聞こえる。ルーナにとっては、そんな音を聞くのは生まれて初めての経験だ。


「凄い音がするわ」


「稽古中だからね」


 昔からシルヴァは剣を振っていた。多分、幼い頃からヴィンセントの名を継ぐつもりは無かったのだろう。自由に生きる事を望み、独学で剣を学び家を出た。


 扉を開くと、扉という隔たりが無くなってその金属音が余計に大きくなった。ドラゴとルーナは稽古中と聞いていただけに、大人同士でやっているものだとばかり思っていたが、実際の光景を目にして目を疑った。


「あれは……子供」


 シルヴァに対して剣を振っているのは幼い少年だった。ドラゴとルーナが唖然としている中、彼らの存在に気が付いたシルヴァが少年に対して剣を止めるように合図する。


「よく来たな。ドラゴ」


 額に汗を滲ませながら笑顔で二人を迎えるシルヴァ。もう一人の少年は二人の存在に気付きながらも近づいてくる様子も無く、剣を鞘に納め遠くからそれを眺めるだけだった。


「久しぶりだ、兄上。ほら、挨拶なさい」


「る、ルーナです……。お久しぶりです伯父様……」


 生まれてすぐ抱いた実弟の娘。シルヴァも忘れる筈もなく、片膝をついて貴族に対する挨拶のような行動を取る。


「久しぶり……と言うには、少し時が経ちすぎてしまったな。あの時の赤ん坊が、ここまで美しい成長を見せてくれるとは」


 元貴族、というだけある。ドラゴはそう思った。やはり、幼い頃から叩き込まれた作法というのは忘れないものである。ルーナも驚きながらも母親から学んだ挨拶をぎこちないながらもして見せた。


「よく来たな。こちらもを紹介しなければならないな」


「前、手紙に書いてあったね」


「レイト、挨拶しろ」


 シルヴァに呼ばれたレイトは、面倒そうな面持ちで剣を壁に立てかけるとドラゴとルーナの目の前までやって来た。


「ども」


「ども?」


 ルーナには彼が言ったの意味が全く分からない。しかし、ドラゴは微笑みながら片膝をついて丁度レイトと同じ高さまで顔を合わせた。


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