4 / 10
第4話
しおりを挟む
沈黙が10分以上続いただろうか、部屋にはピコンピコンという機械音だけが響いている。
まさやは恵美の視線などお構いなしに、黙々とスマホゲームに興じている。
相手を自主的に帰らせようと無視作戦を目論んだものの、どうやら鈍感なまさやには通用しないらしい。
むしろ重苦しい空気と沈黙に耐え切れず、先に降参したのは恵美の方だった。
コンコンと目の前のテーブルを指で小突いて、まさやの注目を自身に向ける。
「あなた、明日香にプレゼントは?」
「え?」
「クリスマスだから会いに来たんでしょ? 普通、そんな日に手ぶらで女の家に来る?」
非難めいた恵美の口調に、まさやは困ったように頭を掻く。
「いやぁ。そういうのに疎くて。っていうか、明日香さんとはただの友達だから」
「友達ねぇ」
「そうです、友達」
「ふ~ん、親には内緒の交際ってわけね」
「いえいえ、そんなんじゃないです」
恵美の追求に初めて焦りを見せ始めたまさや。手元のスマホから暗いメロディーが流れた。
「あっ、ゲームオーバーだ」
まさやは恨めし気に恵美を見る。
勝ち誇ったような表情でその視線を受け止めた恵美は、厳しい口調で相手を問い詰めた。
「あのね、まさや君。あなたと明日香が本当のところどんな関係なのか私には分からない。だけど、こんな夜中にベランダから女の部屋に侵入するなんて非常識よ」
「はぁ」
まさやは困ったように頭を下げた。
「見つけたのが私だったから良かったようなものの、両親だったら大変な騒ぎだったわよ」
「確かに」
「警察に通報されるかも知れない。そうしたらあなたの親にもこのことがばれるわ。明日香と交際? 続けられると思う?」
「いやいや、本当に交際はしてないですって。でも、非常識ってことに関しては、なんとも……」
恵美の指摘が的を得ているだけに、言い返すことができないまさやはもごもごと言葉を濁した。
形勢逆転と見て取った恵美は、さらに追及の手を伸ばす。
「あなたさっきから明日香の彼氏じゃないって言い張ってるけど、だとしら泥棒ってことはないわよね?」
「泥棒?!」
素っ頓狂な声を上げたまさやは、目を丸くして恵美を見た。
まさかそんな疑いを持たれているとは露ほども思っていなかったらしく、ぶるんぶるんと大きく首を振る。
「こんな夜中に土足で女の家に侵入、よくよく考えると怪しいわよね。明日香が旅行中だってことも知らないなんて」
「勘弁してくださいよ恵美さん」
泣き出しそうになっているまさやの様子から判断するに、そんなたいそれたことをしでかしそうな悪人には見えない。このまま黙って退散してくれるのであれば、これ以上責め立てるのはやめておこう。
恵美は挑戦的な目つきでまさやを見た。
まさやはしきりに手を握ったり開いたりしながら、深呼吸して気持ちを落ち着けている様子だ。警察という単語を聞いてからまさやの態度に焦りが現れてきている。
もしや本当に強盗か何かをやらかした逃亡犯なのだろうか。恵美の中でそんな疑念がよぎり始めたと同時に、まさやが会話の矛先を変えてきた。
「そ、そういう恵美さんはどうなんです? クリスマスなんですから、男の人からプレゼントとかもらったんですか?」
「は? まさや君になんの関係があるのよ」
苛立たしそうに言うと、まさやは口を尖らせて抗議をはじめる。
「恵美さんは人のことにばっかり口挟んできますよね。肝心の自分はどうなんですか。こんな日に家で1人きりだなんて」
「言ったでしょ、勉強してるのよ」
「はぁ、勉強」
恵美の言葉を受けて、まさやはゆっくりと部屋の隅々にまで視線を巡らせた。
綺麗に片づいた机、整えられたベッド。教科書どころか、筆記用具すら出ていない。
まさやは再び視線を恵美の方へ戻し、もの言いたげな表情でわざとらしく首を傾げた。さっきまでのおどおどしていた態度が一変し、口元に笑みが浮かんでいる。
恵美は無言でその視線を受け止め、暗い表情で窓の外に目を向けた。暖房を入れたからだろう、先ほどまで鮮明に見えていた月の形が朧げになっている。
今夜は雪が降るかもしれない。
まさやは恵美の視線などお構いなしに、黙々とスマホゲームに興じている。
相手を自主的に帰らせようと無視作戦を目論んだものの、どうやら鈍感なまさやには通用しないらしい。
むしろ重苦しい空気と沈黙に耐え切れず、先に降参したのは恵美の方だった。
コンコンと目の前のテーブルを指で小突いて、まさやの注目を自身に向ける。
「あなた、明日香にプレゼントは?」
「え?」
「クリスマスだから会いに来たんでしょ? 普通、そんな日に手ぶらで女の家に来る?」
非難めいた恵美の口調に、まさやは困ったように頭を掻く。
「いやぁ。そういうのに疎くて。っていうか、明日香さんとはただの友達だから」
「友達ねぇ」
「そうです、友達」
「ふ~ん、親には内緒の交際ってわけね」
「いえいえ、そんなんじゃないです」
恵美の追求に初めて焦りを見せ始めたまさや。手元のスマホから暗いメロディーが流れた。
「あっ、ゲームオーバーだ」
まさやは恨めし気に恵美を見る。
勝ち誇ったような表情でその視線を受け止めた恵美は、厳しい口調で相手を問い詰めた。
「あのね、まさや君。あなたと明日香が本当のところどんな関係なのか私には分からない。だけど、こんな夜中にベランダから女の部屋に侵入するなんて非常識よ」
「はぁ」
まさやは困ったように頭を下げた。
「見つけたのが私だったから良かったようなものの、両親だったら大変な騒ぎだったわよ」
「確かに」
「警察に通報されるかも知れない。そうしたらあなたの親にもこのことがばれるわ。明日香と交際? 続けられると思う?」
「いやいや、本当に交際はしてないですって。でも、非常識ってことに関しては、なんとも……」
恵美の指摘が的を得ているだけに、言い返すことができないまさやはもごもごと言葉を濁した。
形勢逆転と見て取った恵美は、さらに追及の手を伸ばす。
「あなたさっきから明日香の彼氏じゃないって言い張ってるけど、だとしら泥棒ってことはないわよね?」
「泥棒?!」
素っ頓狂な声を上げたまさやは、目を丸くして恵美を見た。
まさかそんな疑いを持たれているとは露ほども思っていなかったらしく、ぶるんぶるんと大きく首を振る。
「こんな夜中に土足で女の家に侵入、よくよく考えると怪しいわよね。明日香が旅行中だってことも知らないなんて」
「勘弁してくださいよ恵美さん」
泣き出しそうになっているまさやの様子から判断するに、そんなたいそれたことをしでかしそうな悪人には見えない。このまま黙って退散してくれるのであれば、これ以上責め立てるのはやめておこう。
恵美は挑戦的な目つきでまさやを見た。
まさやはしきりに手を握ったり開いたりしながら、深呼吸して気持ちを落ち着けている様子だ。警察という単語を聞いてからまさやの態度に焦りが現れてきている。
もしや本当に強盗か何かをやらかした逃亡犯なのだろうか。恵美の中でそんな疑念がよぎり始めたと同時に、まさやが会話の矛先を変えてきた。
「そ、そういう恵美さんはどうなんです? クリスマスなんですから、男の人からプレゼントとかもらったんですか?」
「は? まさや君になんの関係があるのよ」
苛立たしそうに言うと、まさやは口を尖らせて抗議をはじめる。
「恵美さんは人のことにばっかり口挟んできますよね。肝心の自分はどうなんですか。こんな日に家で1人きりだなんて」
「言ったでしょ、勉強してるのよ」
「はぁ、勉強」
恵美の言葉を受けて、まさやはゆっくりと部屋の隅々にまで視線を巡らせた。
綺麗に片づいた机、整えられたベッド。教科書どころか、筆記用具すら出ていない。
まさやは再び視線を恵美の方へ戻し、もの言いたげな表情でわざとらしく首を傾げた。さっきまでのおどおどしていた態度が一変し、口元に笑みが浮かんでいる。
恵美は無言でその視線を受け止め、暗い表情で窓の外に目を向けた。暖房を入れたからだろう、先ほどまで鮮明に見えていた月の形が朧げになっている。
今夜は雪が降るかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる