イヴの訪問者

MARU助

文字の大きさ
4 / 10

第4話

しおりを挟む
 沈黙が10分以上続いただろうか、部屋にはピコンピコンという機械音だけが響いている。

 まさやは恵美の視線などお構いなしに、黙々とスマホゲームに興じている。
 相手を自主的に帰らせようと無視作戦を目論んだものの、どうやら鈍感なまさやには通用しないらしい。

 むしろ重苦しい空気と沈黙に耐え切れず、先に降参したのは恵美の方だった。
 コンコンと目の前のテーブルを指で小突いて、まさやの注目を自身に向ける。

「あなた、明日香あすかにプレゼントは?」
「え?」
「クリスマスだから会いに来たんでしょ? 普通、そんな日に手ぶらで女の家に来る?」

 非難めいた恵美の口調に、まさやは困ったように頭を掻く。

「いやぁ。そういうのに疎くて。っていうか、明日香さんとはただの友達だから」
「友達ねぇ」
「そうです、友達」
「ふ~ん、親には内緒の交際ってわけね」
「いえいえ、そんなんじゃないです」

 恵美の追求に初めて焦りを見せ始めたまさや。手元のスマホから暗いメロディーが流れた。

「あっ、ゲームオーバーだ」 

 まさやは恨めし気に恵美を見る。

 勝ち誇ったような表情でその視線を受け止めた恵美は、厳しい口調で相手を問い詰めた。

「あのね、まさや君。あなたと明日香が本当のところどんな関係なのか私には分からない。だけど、こんな夜中にベランダから女の部屋に侵入するなんて非常識よ」
「はぁ」

 まさやは困ったように頭を下げた。

「見つけたのが私だったから良かったようなものの、両親だったら大変な騒ぎだったわよ」
「確かに」
「警察に通報されるかも知れない。そうしたらあなたの親にもこのことがばれるわ。明日香と交際? 続けられると思う?」
「いやいや、本当に交際はしてないですって。でも、非常識ってことに関しては、なんとも……」

 恵美の指摘が的を得ているだけに、言い返すことができないまさやはもごもごと言葉を濁した。

 形勢逆転と見て取った恵美は、さらに追及の手を伸ばす。

「あなたさっきから明日香の彼氏じゃないって言い張ってるけど、だとしら泥棒ってことはないわよね?」
「泥棒?!」

 素っ頓狂な声を上げたまさやは、目を丸くして恵美を見た。

 まさかそんな疑いを持たれているとは露ほども思っていなかったらしく、ぶるんぶるんと大きく首を振る。

「こんな夜中に土足で女の家に侵入、よくよく考えると怪しいわよね。明日香が旅行中だってことも知らないなんて」
「勘弁してくださいよ恵美えみさん」

 泣き出しそうになっているまさやの様子から判断するに、そんなたいそれたことをしでかしそうな悪人には見えない。このまま黙って退散してくれるのであれば、これ以上責め立てるのはやめておこう。

 恵美は挑戦的な目つきでまさやを見た。

 まさやはしきりに手を握ったり開いたりしながら、深呼吸して気持ちを落ち着けている様子だ。警察という単語を聞いてからまさやの態度に焦りが現れてきている。

 もしや本当に強盗か何かをやらかした逃亡犯なのだろうか。恵美の中でそんな疑念がよぎり始めたと同時に、まさやが会話の矛先を変えてきた。

「そ、そういう恵美えみさんはどうなんです? クリスマスなんですから、男の人からプレゼントとかもらったんですか?」
「は? まさや君になんの関係があるのよ」

 苛立たしそうに言うと、まさやは口を尖らせて抗議をはじめる。

恵美えみさんは人のことにばっかり口挟んできますよね。肝心の自分はどうなんですか。こんな日に家で1人きりだなんて」
「言ったでしょ、勉強してるのよ」
「はぁ、勉強」

 恵美の言葉を受けて、まさやはゆっくりと部屋の隅々にまで視線を巡らせた。
 綺麗に片づいた机、整えられたベッド。教科書どころか、筆記用具すら出ていない。

 まさやは再び視線を恵美の方へ戻し、もの言いたげな表情でわざとらしく首を傾げた。さっきまでのおどおどしていた態度が一変し、口元に笑みが浮かんでいる。

 恵美は無言でその視線を受け止め、暗い表情で窓の外に目を向けた。暖房を入れたからだろう、先ほどまで鮮明に見えていた月の形が朧げになっている。

 今夜は雪が降るかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...