74 / 146
動き始めた闇
72話:次期国王は誰?
しおりを挟む
――君が死ねばいい
トワにその言葉を理解する暇も与えず、誠は勢いよく話し続ける。
「マツムラは君が死んだ後、国王になるつもりだよ。その為に君には死んでもらいたいみたいだ」
「まさか、ハハハ。将来国王になるのは僕だよ、そんなことあり得ないよ」
「でも、ちょっと考えてみてよ。もし君に何かあったら、次は誰が一番?」
「誰がって……」
トワは言い淀んだ。
国王も王妃も、兄も死んだ。王族はトワが最後の生き残りである。
王位継承順位で考えれば他にも何人か候補は存在するが、すでに国を出たもの、高齢で激務に耐えられないもの、王位継承権を放棄しているものなど、次にバトンタッチできる存在がいない。
トワが成人して子を成せば問題は解決するが、現状ではトワが死ねば王室は途絶える。
おそらく次の国王は一般の人間から選ばれることになる。
誠の言う通りそれに一番近い位置にいるのはマツムラだろう。
彼がユグドリアの血を引かぬ日本人だということに不満が出るだろうが、トワと同じく絶大な人気を誇っていることから、そうした心配も無用のはず。
マツムラはアンドレ国王の代から国の繁栄に力を注いでおり、それは誰もが知るところだ。
国を脅かすテロリスト集団キロッスに対しても、断固たる抵抗姿勢を見せており、国民の絶大な支持を得ている。屈服よりも制裁を、それがが彼の主義主張だ。
しかし、トワにしてみれば強硬姿勢をとる前に、一度対話の場を設けたいというのが本音だ。
キロッスのテロ行為により負傷者こそ出ているものの、死者はゼロ。偶然というよりも、あえて誰も傷つかないように計算しての行動に思えるのだ。
その負傷者にしても一般人ではなく政府関係者というところが余計にそう思わせられる。
キロッスの要求が現政権の退陣ということを考えれば、トワとマツムラを快く思っていない人間達なのだろう。
どこの国でも政権に反対する勢力は存在する。何もおかしいことではない。
誠はトワのだんまりを答えと受け取ったらしい。
「やっぱりマツムラが国王になる可能性が高いんだね。だったらこうしちゃいられない」
誠は勢いよく立ち上がり、トワの手を引いて部屋から連れ出そうとする。
驚いたトワは誠の手を払いのけ、首を振る。
「どうしたの誠くん。さっきから何を言ってるの、なんだかまるで夢物語だよ」
「夢じゃない。確かに聞いたんだ」
「だったらそれはタチの悪い冗談だね」
「冗談? 君が死ぬなんてこと冗談でも僕が言うと思ってるの?」
誠の目はあまりにも真剣で、ともすればトワの方がその剣幕に飲み込まれてしまいそうだった。
だからトワも必死にその場に留まろうと言葉を探す。彼も必死だった。
もし誠から聞いた話が現実だったとしたら、トワの幼い心では受け止めきれない現実なのだから。
「誠くん……もしかして羨ましいの?」
「え?」
「僕が皆に愛されているから、だからもしかして僻んでるの?」
「何言ってるの? トワ」
「君は僕が一人ぼっちだと思ってたけど、実際は多くの国民に愛され、父親代わりのマツムラがいて、皆が僕のこと気にかけてくれてる。それに腹を立ててるんだろ?」
誠は信じられないものを見るような目でトワを見た。
トワにその言葉を理解する暇も与えず、誠は勢いよく話し続ける。
「マツムラは君が死んだ後、国王になるつもりだよ。その為に君には死んでもらいたいみたいだ」
「まさか、ハハハ。将来国王になるのは僕だよ、そんなことあり得ないよ」
「でも、ちょっと考えてみてよ。もし君に何かあったら、次は誰が一番?」
「誰がって……」
トワは言い淀んだ。
国王も王妃も、兄も死んだ。王族はトワが最後の生き残りである。
王位継承順位で考えれば他にも何人か候補は存在するが、すでに国を出たもの、高齢で激務に耐えられないもの、王位継承権を放棄しているものなど、次にバトンタッチできる存在がいない。
トワが成人して子を成せば問題は解決するが、現状ではトワが死ねば王室は途絶える。
おそらく次の国王は一般の人間から選ばれることになる。
誠の言う通りそれに一番近い位置にいるのはマツムラだろう。
彼がユグドリアの血を引かぬ日本人だということに不満が出るだろうが、トワと同じく絶大な人気を誇っていることから、そうした心配も無用のはず。
マツムラはアンドレ国王の代から国の繁栄に力を注いでおり、それは誰もが知るところだ。
国を脅かすテロリスト集団キロッスに対しても、断固たる抵抗姿勢を見せており、国民の絶大な支持を得ている。屈服よりも制裁を、それがが彼の主義主張だ。
しかし、トワにしてみれば強硬姿勢をとる前に、一度対話の場を設けたいというのが本音だ。
キロッスのテロ行為により負傷者こそ出ているものの、死者はゼロ。偶然というよりも、あえて誰も傷つかないように計算しての行動に思えるのだ。
その負傷者にしても一般人ではなく政府関係者というところが余計にそう思わせられる。
キロッスの要求が現政権の退陣ということを考えれば、トワとマツムラを快く思っていない人間達なのだろう。
どこの国でも政権に反対する勢力は存在する。何もおかしいことではない。
誠はトワのだんまりを答えと受け取ったらしい。
「やっぱりマツムラが国王になる可能性が高いんだね。だったらこうしちゃいられない」
誠は勢いよく立ち上がり、トワの手を引いて部屋から連れ出そうとする。
驚いたトワは誠の手を払いのけ、首を振る。
「どうしたの誠くん。さっきから何を言ってるの、なんだかまるで夢物語だよ」
「夢じゃない。確かに聞いたんだ」
「だったらそれはタチの悪い冗談だね」
「冗談? 君が死ぬなんてこと冗談でも僕が言うと思ってるの?」
誠の目はあまりにも真剣で、ともすればトワの方がその剣幕に飲み込まれてしまいそうだった。
だからトワも必死にその場に留まろうと言葉を探す。彼も必死だった。
もし誠から聞いた話が現実だったとしたら、トワの幼い心では受け止めきれない現実なのだから。
「誠くん……もしかして羨ましいの?」
「え?」
「僕が皆に愛されているから、だからもしかして僻んでるの?」
「何言ってるの? トワ」
「君は僕が一人ぼっちだと思ってたけど、実際は多くの国民に愛され、父親代わりのマツムラがいて、皆が僕のこと気にかけてくれてる。それに腹を立ててるんだろ?」
誠は信じられないものを見るような目でトワを見た。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる