女神の彼氏は死霊使い?

き・そ・あ

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本編 神も悪魔も幽霊嫌い

44 幽霊屋敷 6

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 1階に降りると、さきほどと変わらない風景が広がっていた。
 ここまで来て全く情けないが、2人を敵にさらわれただけで全く収穫がない。

「マナは、なにか感じないか?」

「なにかって、なによ?」

「そうだな・・・。敵の気配、魔力、なんでもいい」

「うちら女神には気配を探るとかできないから・・・そのへんは人間とあまりかわらないの」

 やはり、マナでは敵を探るようなことはできないか。
 ルナもいない。リアもいない。さすがに焦ってきてはいる。どうしたものか・・。
 一応、エントランスに来たついでに玄関の扉を押してみるが、やはり動かない。
 閉じ込められている状態に変化はないようだ。

「とりあえず、先にすすもう。」

「こっちは、さっき食堂があったわ。」

 マナの手を取ると、エントランスから出て食堂の方へ通じる廊下にでた。

 パタパタパタ・・・。

「な、なに?今の音」

 誰もいなかったはずの2階から子供が走るような足音が聞こえる。
 マナが心細いのか、俺の手を固く握る。

「誰も、いなかったよな?」

「・・・」

 黙って頷く彼女。

「行くか?」

「いやよっ!」

 首を横に振り、拒む。
 まぁ、そりゃそうだ。

「それじゃ、気にせず今は先に進みますかね」

 俺が一歩踏み出した時だった。

 ドンッ!!

 2階から叩きつけるような音が響いた。
 俺とマナは一瞬体が大きく震えた。

「こ、こっちだ!」

 とにかく一番近い部屋に入り、鍵を閉めた。

 ドンドン!!ダンダン!!バタバタバタ・・・

 マナは耳をふさいでしゃがみこんでいる。
 部屋の外。
 屋敷の2階、1階では運動会でも始まったようにうるさい。走り回ったり、壁や床を叩いたり。
 ・・・音は、一斉におさまった。

「マナ、もう大丈夫のようだぞ・・・。マナ」

 俺は彼女の体を揺すると、ゆっくりとその顔を上げた。

「なぁに?今の」

「わからんが、さすがに焦ったな。・・・ん?これは?」

 部屋の隅にある机。その上に1冊のノートが置いてある。
 俺はそれをめくる。
 埃もなく、ついさっき置かれたようなものだった。

「なぁに?それ」

「日記・・・のようだな。子供が書いたようだ」

【○月×日】
 今日は、遠くの町からお勉強の先生がきた。お兄ちゃんみたいな人で、話しやすくてとっても好きになった。

【○月×日】
 今日怒られた。なかなか勉強って難しい。私ができないと、お兄ちゃん先生はすごく嫌そうに怒る。嫌われたくないから頑張らないと。

【○月×日】
 今日、パパとお兄ちゃん先生に褒められた。難しい問題ができるようになった。今度、王都へ見学に連れて行ってくれるって約束をした。パパも賛成だった。すごく楽しみ。

【○月×日】
 いよいよ明日が王都へ行く日。パパも一緒に行くと言ってくれた。久しぶりにパパとお出かけできる。今日お兄ちゃん先生は馬車を仮に隣町へ行くと言っていた。明日が楽しみで今日寝れないかも。

「お兄ちゃん先生?」

「いいとこ、都会から呼び寄せた家庭教師だろう。金持ちだからそのくらいできるんじゃないのか?」

「でも、怒るって書いてあると、厳しかったのかな。」

「どうだろうな。まだ続きがあるぞ」

(ん?)
 
 ページの合間に挟まっていた紙。そこには問題の解き方が書かれていた。文字からして、大人のものだろう。先生が書いていったものか?

【○月×日】
 今日は王都へ行く日だった。
 でも、お兄ちゃん先生は来なかった。パパも怒ってたけど連絡が付かないと言っていた。

【○月×日】
 お兄ちゃん先生は来なかった。今日は勉強の日。でも、いつもの時間に来なかった。パパにお兄ちゃん先生のことを聞くと怒るようになった。

「どう思う?」

「どう思うって言われても、俺には逃げたようにしか思えないがな」

「やっぱ、そうだよね」

【○月×日】
 今日・・・・先生が来た。・・・・パパ・・・・私・・わからない

【○月×日】
 今日もお兄ちゃん・・・。パパが・・・引越し・・・明日には・・・大好きな家・・・悲しい

【○月×日】
 パパが、今後お兄ちゃん先生のことを言うなと朝食の時に言っていた。
 今日の夜には引越しになる。これが最後のページになるんだと思うと悲しくなる。・・・先生・・・見えない・・・

「最後のページ、ほとんど読めないね。」

「あぁ、なんか、赤黒いインクみたいなので滲んでるな・・・。とりあえず、出てみるか。外も静かになったからな」

 日記を元に戻すと、俺たちは再び廊下に出た。
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