鬼の用心棒 〜過ぎたる力は誰がために〜

三須田 急

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時は戦国時代…
この山の山腹に広がる扇状地に
中規模の村落が形成されていた。

他の農村と変わらず人々は
地を耕し、稲を植え、
その恵みから細やかな営みを続けていた。

そして、平穏を許されなかったのも
この時代の他の農村と何ら変わりなかった。

この村は門田氏と木谷氏という、
古くから対立する両家の国境線の近くに
存在していた。

長らく門田氏の領内にあるものの、
いつまた戦が始まってもおかしくなかった。

版図はんとを奪い合う両家の小競り合いも
厄介極まりないのだが、
村民達にとって恐ろしいのは
時だ。

戦の焼け野は野盗・落武者・迷い込んだ兵卒
といった荒くれ者どもを
幾度となく生み出してきた。

そういった者達が村に押し寄せ、
田畑を荒らし、僅かな財とかてを奪い、
挙げ句の果てに人々の
生命と純潔を踏みにじった。

もちろん村民達も黙っていた訳ではない。
武具や障害物を用意し、魑魅魍魎ちみもうりょうとなった者共と戦ってきた。

だが、次から次へと押し寄せる荒くれ者どもに
人々は次第に疲れ果て、
数多くの防戦と敗北を経験する度に
幾多の生命が散っていった。

かつて老いも若きも男も女もむつまじく暮らしていた村は、七割程が老人という有様となった。

ある年の九月、
村人達は一箇所に集まっていた。
村の丁度真ん中に位置する広場に
皆座り込むように一人の人物を囲んでいる。
村一番の長老、孝蔵である。

「皆の衆、間も無く稲刈りの時期が来る!」
「だが、野盗どもはまた我らの稲を
奪い取りに来るだろう!」

「だからこそ決めねばならない!
野盗どもに米を渡すか‼︎
これまで通り戦うか‼︎」

うつむき黙っていたが、
一人の若者が立ち上がり声を上げた。

「無論闘う‼︎それが俺たちがすべき事だ‼︎」
声を上げた義助は周りを見渡すが、
皆の反応は思わしくなかった。

「どうしたんだ皆!
野盗どもの好きにさせる
訳にはいかないだろ‼︎」

しばらくの沈黙の後、ある者が口を開いた。
「…義助…そらぁオラ達も野盗どもを
おっぱらいてぇ…」
「…だども…暴れるには歳をとりすぎた…」

さらに若い者たちも
「……死んじまったら…ガキの面倒を
見れる者がいなくなる…」
「もう、これ以上死んじまうこともねぇ…
米で済むならそれに越したことねぇ…」
と口々に声を上げる。

「何言ってやがる!
面白半分で奴らに殺されちまうかも
しれねぇんだぞ!」
周囲を見渡しながら懇願する。
「頼むよ皆!ここは俺たちの村だろ‼︎」

「…義助……オイでよかったら……
力になるど…」
七兵衛が勇気を振り絞って声を上げた。

「…お…俺も…度胸はねぇけど……」
臆病な平助も立ち上がって応えた。

「二人ともありがとう!他には誰かいないか?」
だが、その後が続かない

「二人だけか……」
皆闘いに疲れ、命を落とすことに怯えていた。

だが、心の底では悔しいのは違いなかった。
事実、自らの無力さに打ちひしがれ、
俯きながら涙をボロボロと流す者が大半だった。

重苦しい空気が場を支配しようとしていた時、
孝蔵が口を開いた。
「……ほこらの大鬼なら…
何とかしてくれるかもしれん…」
「まさか、じぃ様!それはよした方がええ!」

村の者たちは口々に反対したが、
義助と七兵衛だけは反応が違った。
「なるほど…アレの力が借りられれば…」

かつて、この村には人間より恐ろしいもの
がのさばっていた。
“大菊童子”と呼ばれる大鬼である。

平安の昔、都で好きな物を奪い取って喰らい、
気に入らない物を手当たり次第に破壊した。

市中を炎に包んだその悪鬼は帝により
追討令が出され、
それに応えた侍達によって都を追われた。
そして遂にソレは村から遠く離れた祠に封じられることとなったのである。
孝蔵はその鬼の力を借りようというのである。

「流石は爺様だぁ!それなら百人!
いや、千人力だど‼︎」
感激する七兵衛の横から平助が口を挟んだ。

「けっ…けどよぉ……ありゃ…
おっ…おっかねぇ…」
「だども、義助の太刀がなけりゃ
アレは動けねぇんだど!」

大菊童子が封じられる時、大太刀は封印を解く鍵として義助の家に受け継がれてきた。
何を隠そう、義助の祖先は鬼を封じた侍達の頭領なのである。

「そっ…そうかねぇ…」
「そうだども!百年近く動けねぇんだ!
きっと自由の為ならオイらの話も聞くはずだぁ!」
にわかに村民達がざわつき出した。

「義助もそう思うだど⁈」
「…あぁ、俺もそう思う!」
「よし!決まっただ!皆もそれでいいだか?」

先ほどまだ俯いていた村民達は顔を上げ、
各々相談を始めたが、
彼らを止める者は遂に出なかった。

「皆!俺は明日にでも出立する、支度を頼む」
孝蔵は三人の若者に会釈し、皆と準備に取り掛かった。

その若者達は明日に備えて、
各々の寝床へと向かっていった。
その胸には不安以上に
己が負った使命と勇気に満ち満ちていた。

「本当に…大丈夫だろうかねぇ…」
ただ一人を除いては
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