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中学生編
43 環
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今日は俺の家で蓮琉と三田と一緒に学校の課題をすることになった。
彼らが来るまで部屋で勉強していた俺は一階の騒ぎに気がつくのが遅れてしまった。
階段をおりて玄関にいくと、俺の目は点になった。
何故か玄関に散乱している大量のスリッパ。
花奈の手には今から投げられるであろうスリッパが握られている。花奈の目はすわっており、その冷たい目は三田に向けられていた。
(三田がなにかやらかして、花奈を怒らせたな。)
俺は状況を把握して、その場にいる蓮琉をちらりと見た。
蓮琉がこの場にいたんなら、花奈をここまで怒らせる前に対処してそうなもんだけどな。
俺は状況を確認しようと、蓮琉に話しかけようとしたが、ふと動きを止めた。
何故か蓮琉自身も気まずい顔をしており、花奈から視線をそらしている。
俺は内心首をかしげつつ、彼らに話しかけた。
しかし、俺が穏やかに話せたのは、三田の言葉を聞くまでだった。
『妹ちゃんとだったら俺セックスできそう。』
俺は素早く竹刀を握ると、三田に勢いよく振り下ろした。
花奈に欲情してんじゃねえよ。この野郎!
俺はヤツにきっちりと制裁をくわえさせて頂いた。
勉強を始めた俺らに遠慮して、花奈が二階の自分の部屋にあがっていった。
別に花奈がいても勉強の邪魔にはならないからここにいてもいいのに。蓮琉も同じ考えなのか、え?行くの?って目で花奈を見ている。その目は普通の女だったら間違いなく勘違いしそうなほど熱のこもったものだが、花奈は全く気がつくことなく、階段へと歩き去って行った。
「うわあ、妹ちゃん。安定のスルーだね。」
「うるせえよ、三田ァ。」
「一条が怒った~。タマちゃん助けて?」
「うわ。なんか腹立つ。環の後ろに隠れるなよ!卑怯だぞ?」
小学生の喧嘩かよ。
俺は深いため息をつくと、まだ言い合いを続けている二人を睨んで黙らせた。
「いいからさっさと課題進めようぜ。」
俺は再び参考書を開いて目を通し始めた。
課題を黙々と進めていく。
そういえば、三田が真面目に勉強してるところなんてみたことがない。
予想どおり、三田は少ししたら退屈そうに俺にちょっかいをかけてきた。
「ねえねえ、タマちゃん。さやちゃんが後輩くんに声かけたんだよね。大丈夫だった?」
俺は課題を解く手を止めずに返事をした。
「大丈夫って?なにが?」
「ええとね、のっかられて童貞奪われなかったってこと。さやちゃんオシが強いからねえ。後輩くん真面目そうだし経験なさそうだし。パックリ食べられてそう。」
俺の手の中のシャーペンの芯がポッキリ折れた。
ついでに蓮琉のも折れた。
「桜ちゃんに聞いたんだけど、妹ちゃん誰かに尾行されてたんだって?誰が犯人か分かったの?」
蓮琉が気を取り直すようにシャーペンの持ち直すと、少し眉をひそめて三田に答えた。
「いや……まだだ。桜木先生が調べて下さるらしいんだけど。連絡待ちだ。環、花奈にはまだ先生から連絡がないんだろう?」
「おう。まだみたいだな。なんだ、蓮琉。まだ気にしてんのか?」
桜木先生の話が出た途端、わかりやすくムッとした蓮琉に俺は呆れた目を向けた。三田が何故かくいついてきた。
「なあに?なにかあったの?」
「いやあ、この前桜木先生に助けてもらったんだけど、その時に先生と花奈の間で何かあったんじゃないかって、蓮琉が機嫌悪いんだよ。」
「花奈の様子が、いつもと違う感じがするんだ。はっきりとは言えないんだけど。」
自分でもはっきりわからないらしく、言葉をにごす蓮琉に、三田は呆れた目を向けた。
「妹ちゃんだって、女だからね。秘密の一つや二つあるんじゃない?」
「花奈はそこらへんの女とは違う。」
「うわ。なにそれ。ひくわ~。夢見すぎでしょ。」
蓮琉はそのまま黙り込んでしまった。
課題をしているフリをしているがまったく進んでないのが丸わかりだ。
「あ~あ。でも、まだ一条のこと諦めてなさそうだよねえ。さやちゃんてばけっこう執念深いんだよなあ。」
俺はこいつの倫理観がたまにわからない。
九条沙也加に呼び出されたら、まだ会ってるみたいだし。かといって脅されてるわけでもない。あの女が好きなわけでもない。
まあ、こちらとしても別にバラされてこまることもないし、いいんだけどな。
いつの間にか、俺は三田をじっと見ていたらしい。
三田は何故か顔を赤くして焦ったように言葉を続けた。
「あっ……でも、俺ね?タマちゃんと妹ちゃんが危なくなるようなお願いはもう断るから。ほんとだよ?」
泣きそうな顔で俺をみる三田に、俺はため息をついて頭をなでた。すると、三田がうれしそうに頭を擦り付けてくる。ほんとこいつポン太だよな。
「わかってる。大丈夫だよ……え?」
そのまま何気なく三田のノートをみた俺は、驚いて二度見した。
「お前、もう課題終わってんの?」
「うん。今回は簡単だったね。」
簡単だったか?俺はまだ終わってないし、けっこう苦労してるんだけどな。
三田って、けっこう頭いいのか?
俺達の話を聞いていた蓮琉が目を丸くして三田を見た。そして、三田に頼み込んだ。
「マジか?じゃあ、教えてくれないか?ここの英文わからないんだ。」
「うん。いいよ~?えへへ、なんだか頼られてるみたいでうれしいなあ。」
結果。
三田の教え方は、自己流すぎて、蓮琉にはかなり分かりにくかったらしく、聞いてるそばから、すぐに頭を抱えていた。
三田はいつも飄々としているが、実は勉強もできて、運動神経もいい文武両道を地で行く奴だったらしい。本気でやればすげえ上を目指せそうなのにいつもへらっとしているから勿体ないよな。
しばらくすると、休憩してお茶にしようということになった。俺らだけだったら、各自飲み物を持参するからわざわざお茶休憩なんてしない。今日は花奈がいるからだ。蓮琉が花奈を呼びに二階へあがっていった。あ~あ。蓮琉のヤツ、すげえ嬉しそう。
俺は苦笑しながら蓮琉を見送った。
紅茶をいれるためにリビングに行った三田が戻ってきた。
背中でもわかる蓮琉のご機嫌具合をじっと見つめている。
何故か俺の家なのに三田が紅茶をいれることになったのかは、本人の希望だ。
珈琲は好きじゃないので、わざわざ紅茶の茶葉を持参してきたらしい。花奈が紅茶が好きだと伝えると、何故かはりきってキッチンへと向かっていったのだ。戻ってきたいま、三田の手には紅茶の入ったティーセットと三田の手土産のシュークリームがのっている。三田は蓮琉の背中を見ながら、ポツリと呟いた。
「一条って、妹ちゃん大好きだよねえ。」
「あ~?そうだなあ。」
「妹ちゃんも、一条のこと好きなの?」
「好きだとは思うけど……恋愛的な意味で好きかって言われたらそうでもねえんじゃねえのかな?俺にもよくわからないんだ。あいつらの関係。」
「ふうん。」
三田はそれきり黙り込んだ。
蓮琉は完全に花奈が好きだ。
それは見ててわかる。
でも花奈が蓮琉を恋愛の対象としているかと言われると、よくわからない。
蓮琉からのあの甘ったるいアプローチを完全スルーだぞ?
小さい頃からそばにいたから隣の優しいお兄ちゃんとしか見られてないのか?
もしそうだとしたら同じ男として、蓮琉はかなり不憫だ。
俺はいつの間にか考え込んでいて気がついたら三田がいなかった。
トイレか?
しばらくすると蓮琉と花奈と三田がリビングに戻ってきた。
三田は何かを考えているのか、しきりに首をひねっている。
俺たちは三田のいれてくれた紅茶と三田が持ってきてくれたシュークリームを頂くことにした。
クリームが濃厚で美味しい。
食べ方の作法とかあるんだろうけど、俺たちはとりあえずかぶりついた。たっぷりのクリームがこぼれそうになる。花奈も苦労しているようで、手についてしまったクリームをなめとっていた。
自分のぶんを早々に食べ終わった三田がその姿を見てエロいとか抜かすので、俺と蓮琉は参考書で攻撃した。
なんだ、こいつ花奈に気でもあるのか?
ダメだ。こいつにだけは花奈と付き合うのを認めたくない。
数あるセフレの中の一人だなんて冗談じゃない。
俺は三田を問い詰めようと口を開こうとしたら、家のインターホンがなり、口を噤んだ。
誰だろう。
インターホンの画面を確認すると、中学校の時、同じ剣道部だった先輩だった。
不安そうに画面を見ている花奈を安心させるように頭をなでると、俺は玄関に向かった。
俺は中学校時代、俺のことを天使だとかいって崇め奉る輩がいるのは知っていた。
アイドルのようにもてはやされることに辟易した俺は、そのことを伝えた。すると表だってではなく陰から見守られることになった。それもどうかと思ったけれど、まあいいかと割り切ることにした。
環教信者の言葉にはひいたけど。
さっき画面にうつっていた奴はその中でも熱心な部類に入る。熱心なといえば聞こえがいいが、ほとんど執着に近い。
そんな奴が今頃何の用だ?
俺が玄関から姿を表すと、そいつは目に見えて嬉しそうな顔をした。
「環くん、久しぶり!」
「少し背が伸びた?」
「相変わらず可愛いねえ……。」
最後の言葉はなんかおかしいぞ。
俺は少し顔を引き攣らせながら笑いかけた。
「お久しぶりです。加川先輩。」
「急に訪問してすまないね。君に話しておかなくてはならないことができてしまったんだ。僕の力不足というか。君にはほんとうに申し訳なくてね……っ。」
加川先輩はいい人なんだけどこうなったら長いんだよな。中学校の頃を思い出して俺は遠い目をした。
先輩の話の前置きはまだ続いている。
いつまでも終わりそうにないので、俺は必殺技を使うことにした。
「先輩、話したいことってなんですか?」
少し上目遣いで、先輩を見上げて少し首を傾げる。
恥ずかしそうにするのもポイントだ。我ながら寒いが背に腹は変えられない。
「た、環くん……っ。ああ、そうだった話したいことはね、我々『斎藤くんを陰から見守り隊』に背信者がでてしまったんだ。彼らは何故か妹さんを目の敵にしていてね。美しい君の周りに平凡な妹さんは必要ないと言い出してるんだ。実際に行動に出る前に止めたいんだけどどうにも話をきかないんだ。君に先に連絡しとおかないと、と思って急いできたんだけどね。」
「なっ……。」
「我々は、君の妹さんを排除するつもりはない。どちらかというと、二人でいる時の君の慈しみに溢れた表情で丼が3杯食べられるくらいだ。」
俺は先輩の話を聞いてなかった。
もしかして、この前花奈を尾行していたのたのってそいつか?
その人物の名前を聞こうと口を開き掛けた俺は勢いよく開いたドアから花奈が飛び出すようにでてきたことに驚いてそのままかたまった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「花奈!お前、なんで……っ?」
俺は目の前の光景に呆気にとられた。
おい、なんで花奈、お前の手には俺の竹刀が握られてるんだ。
スローモーションのように花奈が先輩に向かって走っていくのが見える。
「えいっ!」
そして俺の前でゆっくりと竹刀が振り下ろされていった。
その剣先は花奈が目をつむっているため、ぶれぶれである。
花奈の持っている竹刀は、加川先輩のギリギリ横に振り下ろされた。
先輩はなんとか逃げたみたいだが、顔がひきっている。
花奈がこんなことをするとは思えなかったんだろう。
花奈は基本いつも控えめで大人しい。
花奈がここまで憤ることはめったにない。
でもたまに花奈のこんな姿をみることがある。だいたいが、俺か蓮琉に何かあった時だ。この前、九条沙也加にも言い返していた。きっと怖かっただろうに。
誰かを守るためなら花奈は勇気がでる。
俺はそんな花奈が大好きだ。
でも今は花奈を止めないとな。
先輩は俺たちを害する奴らではないみたいだし。
俺は花奈を後ろから抱きしめた。
「花奈、加川先輩は大丈夫。」
「……ほんと?」
俺は黙って花奈を抱きしめる力を強めた。
「ほんとだよ。先輩は俺に知らせにきてくれたんだ。」
花奈はふっと体から力をぬいて、俺に背中を預けた。
ふと玄関をみると、花奈を追いかけてきたらしい蓮琉と三田が家の外にでてきていた。
花奈の勇姿をみた三田の口がポカンと開いている。
蓮琉は、状況を理解したのか苦笑している。
俺はとりあえず茫然自失で立ち尽くしている先輩に声をかけることにした。
彼らが来るまで部屋で勉強していた俺は一階の騒ぎに気がつくのが遅れてしまった。
階段をおりて玄関にいくと、俺の目は点になった。
何故か玄関に散乱している大量のスリッパ。
花奈の手には今から投げられるであろうスリッパが握られている。花奈の目はすわっており、その冷たい目は三田に向けられていた。
(三田がなにかやらかして、花奈を怒らせたな。)
俺は状況を把握して、その場にいる蓮琉をちらりと見た。
蓮琉がこの場にいたんなら、花奈をここまで怒らせる前に対処してそうなもんだけどな。
俺は状況を確認しようと、蓮琉に話しかけようとしたが、ふと動きを止めた。
何故か蓮琉自身も気まずい顔をしており、花奈から視線をそらしている。
俺は内心首をかしげつつ、彼らに話しかけた。
しかし、俺が穏やかに話せたのは、三田の言葉を聞くまでだった。
『妹ちゃんとだったら俺セックスできそう。』
俺は素早く竹刀を握ると、三田に勢いよく振り下ろした。
花奈に欲情してんじゃねえよ。この野郎!
俺はヤツにきっちりと制裁をくわえさせて頂いた。
勉強を始めた俺らに遠慮して、花奈が二階の自分の部屋にあがっていった。
別に花奈がいても勉強の邪魔にはならないからここにいてもいいのに。蓮琉も同じ考えなのか、え?行くの?って目で花奈を見ている。その目は普通の女だったら間違いなく勘違いしそうなほど熱のこもったものだが、花奈は全く気がつくことなく、階段へと歩き去って行った。
「うわあ、妹ちゃん。安定のスルーだね。」
「うるせえよ、三田ァ。」
「一条が怒った~。タマちゃん助けて?」
「うわ。なんか腹立つ。環の後ろに隠れるなよ!卑怯だぞ?」
小学生の喧嘩かよ。
俺は深いため息をつくと、まだ言い合いを続けている二人を睨んで黙らせた。
「いいからさっさと課題進めようぜ。」
俺は再び参考書を開いて目を通し始めた。
課題を黙々と進めていく。
そういえば、三田が真面目に勉強してるところなんてみたことがない。
予想どおり、三田は少ししたら退屈そうに俺にちょっかいをかけてきた。
「ねえねえ、タマちゃん。さやちゃんが後輩くんに声かけたんだよね。大丈夫だった?」
俺は課題を解く手を止めずに返事をした。
「大丈夫って?なにが?」
「ええとね、のっかられて童貞奪われなかったってこと。さやちゃんオシが強いからねえ。後輩くん真面目そうだし経験なさそうだし。パックリ食べられてそう。」
俺の手の中のシャーペンの芯がポッキリ折れた。
ついでに蓮琉のも折れた。
「桜ちゃんに聞いたんだけど、妹ちゃん誰かに尾行されてたんだって?誰が犯人か分かったの?」
蓮琉が気を取り直すようにシャーペンの持ち直すと、少し眉をひそめて三田に答えた。
「いや……まだだ。桜木先生が調べて下さるらしいんだけど。連絡待ちだ。環、花奈にはまだ先生から連絡がないんだろう?」
「おう。まだみたいだな。なんだ、蓮琉。まだ気にしてんのか?」
桜木先生の話が出た途端、わかりやすくムッとした蓮琉に俺は呆れた目を向けた。三田が何故かくいついてきた。
「なあに?なにかあったの?」
「いやあ、この前桜木先生に助けてもらったんだけど、その時に先生と花奈の間で何かあったんじゃないかって、蓮琉が機嫌悪いんだよ。」
「花奈の様子が、いつもと違う感じがするんだ。はっきりとは言えないんだけど。」
自分でもはっきりわからないらしく、言葉をにごす蓮琉に、三田は呆れた目を向けた。
「妹ちゃんだって、女だからね。秘密の一つや二つあるんじゃない?」
「花奈はそこらへんの女とは違う。」
「うわ。なにそれ。ひくわ~。夢見すぎでしょ。」
蓮琉はそのまま黙り込んでしまった。
課題をしているフリをしているがまったく進んでないのが丸わかりだ。
「あ~あ。でも、まだ一条のこと諦めてなさそうだよねえ。さやちゃんてばけっこう執念深いんだよなあ。」
俺はこいつの倫理観がたまにわからない。
九条沙也加に呼び出されたら、まだ会ってるみたいだし。かといって脅されてるわけでもない。あの女が好きなわけでもない。
まあ、こちらとしても別にバラされてこまることもないし、いいんだけどな。
いつの間にか、俺は三田をじっと見ていたらしい。
三田は何故か顔を赤くして焦ったように言葉を続けた。
「あっ……でも、俺ね?タマちゃんと妹ちゃんが危なくなるようなお願いはもう断るから。ほんとだよ?」
泣きそうな顔で俺をみる三田に、俺はため息をついて頭をなでた。すると、三田がうれしそうに頭を擦り付けてくる。ほんとこいつポン太だよな。
「わかってる。大丈夫だよ……え?」
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「お前、もう課題終わってんの?」
「うん。今回は簡単だったね。」
簡単だったか?俺はまだ終わってないし、けっこう苦労してるんだけどな。
三田って、けっこう頭いいのか?
俺達の話を聞いていた蓮琉が目を丸くして三田を見た。そして、三田に頼み込んだ。
「マジか?じゃあ、教えてくれないか?ここの英文わからないんだ。」
「うん。いいよ~?えへへ、なんだか頼られてるみたいでうれしいなあ。」
結果。
三田の教え方は、自己流すぎて、蓮琉にはかなり分かりにくかったらしく、聞いてるそばから、すぐに頭を抱えていた。
三田はいつも飄々としているが、実は勉強もできて、運動神経もいい文武両道を地で行く奴だったらしい。本気でやればすげえ上を目指せそうなのにいつもへらっとしているから勿体ないよな。
しばらくすると、休憩してお茶にしようということになった。俺らだけだったら、各自飲み物を持参するからわざわざお茶休憩なんてしない。今日は花奈がいるからだ。蓮琉が花奈を呼びに二階へあがっていった。あ~あ。蓮琉のヤツ、すげえ嬉しそう。
俺は苦笑しながら蓮琉を見送った。
紅茶をいれるためにリビングに行った三田が戻ってきた。
背中でもわかる蓮琉のご機嫌具合をじっと見つめている。
何故か俺の家なのに三田が紅茶をいれることになったのかは、本人の希望だ。
珈琲は好きじゃないので、わざわざ紅茶の茶葉を持参してきたらしい。花奈が紅茶が好きだと伝えると、何故かはりきってキッチンへと向かっていったのだ。戻ってきたいま、三田の手には紅茶の入ったティーセットと三田の手土産のシュークリームがのっている。三田は蓮琉の背中を見ながら、ポツリと呟いた。
「一条って、妹ちゃん大好きだよねえ。」
「あ~?そうだなあ。」
「妹ちゃんも、一条のこと好きなの?」
「好きだとは思うけど……恋愛的な意味で好きかって言われたらそうでもねえんじゃねえのかな?俺にもよくわからないんだ。あいつらの関係。」
「ふうん。」
三田はそれきり黙り込んだ。
蓮琉は完全に花奈が好きだ。
それは見ててわかる。
でも花奈が蓮琉を恋愛の対象としているかと言われると、よくわからない。
蓮琉からのあの甘ったるいアプローチを完全スルーだぞ?
小さい頃からそばにいたから隣の優しいお兄ちゃんとしか見られてないのか?
もしそうだとしたら同じ男として、蓮琉はかなり不憫だ。
俺はいつの間にか考え込んでいて気がついたら三田がいなかった。
トイレか?
しばらくすると蓮琉と花奈と三田がリビングに戻ってきた。
三田は何かを考えているのか、しきりに首をひねっている。
俺たちは三田のいれてくれた紅茶と三田が持ってきてくれたシュークリームを頂くことにした。
クリームが濃厚で美味しい。
食べ方の作法とかあるんだろうけど、俺たちはとりあえずかぶりついた。たっぷりのクリームがこぼれそうになる。花奈も苦労しているようで、手についてしまったクリームをなめとっていた。
自分のぶんを早々に食べ終わった三田がその姿を見てエロいとか抜かすので、俺と蓮琉は参考書で攻撃した。
なんだ、こいつ花奈に気でもあるのか?
ダメだ。こいつにだけは花奈と付き合うのを認めたくない。
数あるセフレの中の一人だなんて冗談じゃない。
俺は三田を問い詰めようと口を開こうとしたら、家のインターホンがなり、口を噤んだ。
誰だろう。
インターホンの画面を確認すると、中学校の時、同じ剣道部だった先輩だった。
不安そうに画面を見ている花奈を安心させるように頭をなでると、俺は玄関に向かった。
俺は中学校時代、俺のことを天使だとかいって崇め奉る輩がいるのは知っていた。
アイドルのようにもてはやされることに辟易した俺は、そのことを伝えた。すると表だってではなく陰から見守られることになった。それもどうかと思ったけれど、まあいいかと割り切ることにした。
環教信者の言葉にはひいたけど。
さっき画面にうつっていた奴はその中でも熱心な部類に入る。熱心なといえば聞こえがいいが、ほとんど執着に近い。
そんな奴が今頃何の用だ?
俺が玄関から姿を表すと、そいつは目に見えて嬉しそうな顔をした。
「環くん、久しぶり!」
「少し背が伸びた?」
「相変わらず可愛いねえ……。」
最後の言葉はなんかおかしいぞ。
俺は少し顔を引き攣らせながら笑いかけた。
「お久しぶりです。加川先輩。」
「急に訪問してすまないね。君に話しておかなくてはならないことができてしまったんだ。僕の力不足というか。君にはほんとうに申し訳なくてね……っ。」
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いつまでも終わりそうにないので、俺は必殺技を使うことにした。
「先輩、話したいことってなんですか?」
少し上目遣いで、先輩を見上げて少し首を傾げる。
恥ずかしそうにするのもポイントだ。我ながら寒いが背に腹は変えられない。
「た、環くん……っ。ああ、そうだった話したいことはね、我々『斎藤くんを陰から見守り隊』に背信者がでてしまったんだ。彼らは何故か妹さんを目の敵にしていてね。美しい君の周りに平凡な妹さんは必要ないと言い出してるんだ。実際に行動に出る前に止めたいんだけどどうにも話をきかないんだ。君に先に連絡しとおかないと、と思って急いできたんだけどね。」
「なっ……。」
「我々は、君の妹さんを排除するつもりはない。どちらかというと、二人でいる時の君の慈しみに溢れた表情で丼が3杯食べられるくらいだ。」
俺は先輩の話を聞いてなかった。
もしかして、この前花奈を尾行していたのたのってそいつか?
その人物の名前を聞こうと口を開き掛けた俺は勢いよく開いたドアから花奈が飛び出すようにでてきたことに驚いてそのままかたまった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「花奈!お前、なんで……っ?」
俺は目の前の光景に呆気にとられた。
おい、なんで花奈、お前の手には俺の竹刀が握られてるんだ。
スローモーションのように花奈が先輩に向かって走っていくのが見える。
「えいっ!」
そして俺の前でゆっくりと竹刀が振り下ろされていった。
その剣先は花奈が目をつむっているため、ぶれぶれである。
花奈の持っている竹刀は、加川先輩のギリギリ横に振り下ろされた。
先輩はなんとか逃げたみたいだが、顔がひきっている。
花奈がこんなことをするとは思えなかったんだろう。
花奈は基本いつも控えめで大人しい。
花奈がここまで憤ることはめったにない。
でもたまに花奈のこんな姿をみることがある。だいたいが、俺か蓮琉に何かあった時だ。この前、九条沙也加にも言い返していた。きっと怖かっただろうに。
誰かを守るためなら花奈は勇気がでる。
俺はそんな花奈が大好きだ。
でも今は花奈を止めないとな。
先輩は俺たちを害する奴らではないみたいだし。
俺は花奈を後ろから抱きしめた。
「花奈、加川先輩は大丈夫。」
「……ほんと?」
俺は黙って花奈を抱きしめる力を強めた。
「ほんとだよ。先輩は俺に知らせにきてくれたんだ。」
花奈はふっと体から力をぬいて、俺に背中を預けた。
ふと玄関をみると、花奈を追いかけてきたらしい蓮琉と三田が家の外にでてきていた。
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