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桜木先生のお話
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「三田。お前自分の病室に帰れ。」
「桜ちゃんも帰りなよ。」
「俺はいいんだよ。」
「じゃあ俺だってい~じゃん。明日には一条が来るんだろ?今みたいに妹ちゃんにべったりくっつけないし。」
病院のベッドの角度を変えて座っていると、何故か三田くんがニコニコ笑いながら私の横に座ってきた。
表向きは隔離病棟となってるけど、どうやらこの部屋は桜木組関係者が身を隠すために使用しているみたいで、冷蔵庫や、テレビなど様々な機器がそろっていた。中でも驚いたのが、ホームシアターだ。
桜木先生の舎弟の人が暇つぶしに、といろいろ借りてきてくださったブルーレイが、部屋の隅の棚に山となっている。恋愛ドラマから、サスペンス。アニメまで盛りだくさんだ。
少し前から二人で並んでサスペンスドラマを見てるんだけど、今は三田くんが甘えるみたいに私の膝に頭をおいてきている。なんだかひなたぼっこしている猫みたいだ。先程までは私の肩にもたれかかって、私の頬に頬擦りしてみたり手をつないだりしてきてたんだけど、先生に殴られて渋々体勢を変えた。とはいっても膝枕。恥ずかしいのにはかわりがない。
桜木先生は、机の上にパソコンをおいて、仕事をしているようだ。
三田くんが私に甘えるたびにキーボードを叩く音がイライラとした音になるので、その度にビクッとしてしまう。
ついさっきまで、活火山のような攻め攻めキャラな先生だったんだけど、今は嘘のように落ち着いている。
さっきまでのことは夢だったのかもしれない、と思い始めた頃、先生が椅子から立ち上がってプリントアウトしたばかりの紙の束を私のところに持ってきてくれた。
「ほら。今日の授業の内容だ。他教科の先生にも協力して頂いた。もしわからなかったら言えよ?連絡とるから。」
「わあっ、先生ありがとうございます!」
入院していたら、授業がわからなくなってしまうと実は秘かに心配していたので、先生の心遣いに私はうれしくなって満面の笑を浮かべた。
先生はそんな私を満足そうに眺めている。
早速取り掛かろうとした私は、筆記用具がないことに気がついた。
「三田くん、すみません。筆記用具をとるので膝からどいてください。」
「ん?俺とるよ。カバンの中?」
「あ、はい。三田くん、すみません。ありがとうございます。……んっ!」
三田くんがひょい、とベッドから下りて私のカバンを取りに行くと、先生がさり気なく私のベッドに腰掛けて、素早くキスをしてきた。
「せ、先生?」
「お前もしかして夢オチにしようとしてないだろうな。夢じゃねえからな。俺の人生もらってくれるんだろう?」
「う……っ。」
私の顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。
先生は、そんな私を面白そうに眺めていたが、急にむっとした顔になって、私の肩や足を軽くはたいた。
「三田の野郎、さっきから斎藤にベタベタくっつきやがって。」
「何か言った~?」
私のカバンを持った三田くんが戻ってきた。
だるそうな声の三田くんに先生がイラッとした声を出した。
「お前がさっきから斎藤にべたべたとくっつきすぎる
って、言ったんだよ。」
「はあ?そんなの俺の自由だし~。人生もらってもらうからって、妹ちゃん独占する権利なんてねえし。そんなの一条に言ってみなよ。あいつ、暴れるよ?はい、妹ちゃん。カバン。」
「あ、ありがとうございます。」
「一条か……。」
「そうだよ、一条。妹ちゃんが誰を選ぶとしても、絶対幼馴染みの権利主張して妹ちゃんから離れないだろうなって思うんだよね。だったら俺だって遠慮することないよねえ?あ、このドラマ婚約者が犯人だったんだね。スッキリした。」
「俺だって他の男に触れさせたくはないがな……。」
「あ~。聞こえな~い。」
(ん?)
カバンから筆記用具を取り出した私は、ふと動きを止めた。
『婚約者』という言葉に引っ掛かりを覚えたのだ。
「どうした?斎藤。」
動きの止まった私に、桜木先生が訝しげに話しかけてきた。ドラマでは、犯人解明で盛り上がっている。目の端に主演女優の長い髪がさらりと揺れた。
「あ!」
思わず声をあげた私は、ガバッと音がしそうな動きで先生を見た。
先生は私の勢いに若干引き気味になっている。
「さ、斎藤?」
「婚約者……先生、婚約者がいるじゃないですか!」
「ああ?」
修学旅行の時に、出会った綺麗な女性。
名前は確か暁美さんだった。
桜木組に協力的な坂田組のお嬢さんだ。
ビジュアル的にも家系としても先生にピッタリの女性。
うわ~。危なかった。
また勘違いするところだった。
そうだよね。先生が、私なんかをそういう意味で好きになるはずなかったんだ。私が先生を庇って肩に傷をおったから、責任とろうとして、あんな告白もどきをしたのかも。
ぼんやりと考え込んでいた私は、小さくため息をつくと、袋小路に陥りそうな思考を散らすべく、頭を振った……と思ったら、顔を両手で掴まれた。
目の前には、ちょっと不機嫌な先生の顔。
あれ?と思っていると、息があたるぐらいに先生の顔が近づいてきて。
「んんんんっ~!」
ガブって効果音がしそうな勢いで私の唇に先生のそれがあわさったかと思うとぬるりとしたものが入ってきた。口内を愛撫するような動きから深く激しくからみあう動きに変化し、どちらのものともわからない唾液が唇の端をつたう。
「んっ……せんせっ。」
ひとしきり私の口内を蹂躙した先生は、最後に音をたてて私の頬にキスをすると、私の目を真剣な表情でのぞきこんできた。頭がぼうっとしてきた私は、快楽に潤んだ瞳で先生を見上げた。
「今何考えてた?」
「………んっ。」
また、頬にキスがひとつ落ちた。
「お前、危なっかしいな。気を抜くとどこかに飛んでいって消えちまいそうだ。いいか?何度でも言ってやる。俺はお前に惚れてる。お前が俺の生きてる理由なんだ。俺を庇ってできたこの肩の傷だって……。」
先生は私の肩のあたりをはだけさせると、傷のあたりにそっと唇をふれさせた。
「俺を守ってくれたこの傷……この傷が疼く度にお前は俺を思い出すだろう?俺は卑怯者だからな。使えるものはなんでも使う。お前をそばにおくために必要なら、なんでもな。」
「でも、先生には婚約者がいるじゃないですか。」
思わずポロリとでた言葉に、自分でも固まった。
先生の顔がうまく見ることができなくて、すぐに俯いて表情を隠す。
「……その、婚約者は大事にするべきです。私だったらすごく悲しいと思います。」
(綺麗で、家柄的にも先生の横に立つのに相応しい。)
「斎藤、お前……。」
先生が口を開こうとしたその時。
病室の扉が開く音がした。
コツコツとハイヒールをはいて歩くような音がして、覚えのある香りが病室に広がる。
「面会謝絶ですって?見舞いに来たわよ。」
「普通、面会謝絶ってのは、見舞いに来れねえんだけどな?」
よく手入れされたツヤツヤの髪に、いい女の代表のような豊満ボディ。目鼻立ちの整った、どこから見てもすこぶるつきの美女。
坂口組令嬢、坂口暁美。
その人が艶やかに微笑んで立っていた。
「桜ちゃんも帰りなよ。」
「俺はいいんだよ。」
「じゃあ俺だってい~じゃん。明日には一条が来るんだろ?今みたいに妹ちゃんにべったりくっつけないし。」
病院のベッドの角度を変えて座っていると、何故か三田くんがニコニコ笑いながら私の横に座ってきた。
表向きは隔離病棟となってるけど、どうやらこの部屋は桜木組関係者が身を隠すために使用しているみたいで、冷蔵庫や、テレビなど様々な機器がそろっていた。中でも驚いたのが、ホームシアターだ。
桜木先生の舎弟の人が暇つぶしに、といろいろ借りてきてくださったブルーレイが、部屋の隅の棚に山となっている。恋愛ドラマから、サスペンス。アニメまで盛りだくさんだ。
少し前から二人で並んでサスペンスドラマを見てるんだけど、今は三田くんが甘えるみたいに私の膝に頭をおいてきている。なんだかひなたぼっこしている猫みたいだ。先程までは私の肩にもたれかかって、私の頬に頬擦りしてみたり手をつないだりしてきてたんだけど、先生に殴られて渋々体勢を変えた。とはいっても膝枕。恥ずかしいのにはかわりがない。
桜木先生は、机の上にパソコンをおいて、仕事をしているようだ。
三田くんが私に甘えるたびにキーボードを叩く音がイライラとした音になるので、その度にビクッとしてしまう。
ついさっきまで、活火山のような攻め攻めキャラな先生だったんだけど、今は嘘のように落ち着いている。
さっきまでのことは夢だったのかもしれない、と思い始めた頃、先生が椅子から立ち上がってプリントアウトしたばかりの紙の束を私のところに持ってきてくれた。
「ほら。今日の授業の内容だ。他教科の先生にも協力して頂いた。もしわからなかったら言えよ?連絡とるから。」
「わあっ、先生ありがとうございます!」
入院していたら、授業がわからなくなってしまうと実は秘かに心配していたので、先生の心遣いに私はうれしくなって満面の笑を浮かべた。
先生はそんな私を満足そうに眺めている。
早速取り掛かろうとした私は、筆記用具がないことに気がついた。
「三田くん、すみません。筆記用具をとるので膝からどいてください。」
「ん?俺とるよ。カバンの中?」
「あ、はい。三田くん、すみません。ありがとうございます。……んっ!」
三田くんがひょい、とベッドから下りて私のカバンを取りに行くと、先生がさり気なく私のベッドに腰掛けて、素早くキスをしてきた。
「せ、先生?」
「お前もしかして夢オチにしようとしてないだろうな。夢じゃねえからな。俺の人生もらってくれるんだろう?」
「う……っ。」
私の顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。
先生は、そんな私を面白そうに眺めていたが、急にむっとした顔になって、私の肩や足を軽くはたいた。
「三田の野郎、さっきから斎藤にベタベタくっつきやがって。」
「何か言った~?」
私のカバンを持った三田くんが戻ってきた。
だるそうな声の三田くんに先生がイラッとした声を出した。
「お前がさっきから斎藤にべたべたとくっつきすぎる
って、言ったんだよ。」
「はあ?そんなの俺の自由だし~。人生もらってもらうからって、妹ちゃん独占する権利なんてねえし。そんなの一条に言ってみなよ。あいつ、暴れるよ?はい、妹ちゃん。カバン。」
「あ、ありがとうございます。」
「一条か……。」
「そうだよ、一条。妹ちゃんが誰を選ぶとしても、絶対幼馴染みの権利主張して妹ちゃんから離れないだろうなって思うんだよね。だったら俺だって遠慮することないよねえ?あ、このドラマ婚約者が犯人だったんだね。スッキリした。」
「俺だって他の男に触れさせたくはないがな……。」
「あ~。聞こえな~い。」
(ん?)
カバンから筆記用具を取り出した私は、ふと動きを止めた。
『婚約者』という言葉に引っ掛かりを覚えたのだ。
「どうした?斎藤。」
動きの止まった私に、桜木先生が訝しげに話しかけてきた。ドラマでは、犯人解明で盛り上がっている。目の端に主演女優の長い髪がさらりと揺れた。
「あ!」
思わず声をあげた私は、ガバッと音がしそうな動きで先生を見た。
先生は私の勢いに若干引き気味になっている。
「さ、斎藤?」
「婚約者……先生、婚約者がいるじゃないですか!」
「ああ?」
修学旅行の時に、出会った綺麗な女性。
名前は確か暁美さんだった。
桜木組に協力的な坂田組のお嬢さんだ。
ビジュアル的にも家系としても先生にピッタリの女性。
うわ~。危なかった。
また勘違いするところだった。
そうだよね。先生が、私なんかをそういう意味で好きになるはずなかったんだ。私が先生を庇って肩に傷をおったから、責任とろうとして、あんな告白もどきをしたのかも。
ぼんやりと考え込んでいた私は、小さくため息をつくと、袋小路に陥りそうな思考を散らすべく、頭を振った……と思ったら、顔を両手で掴まれた。
目の前には、ちょっと不機嫌な先生の顔。
あれ?と思っていると、息があたるぐらいに先生の顔が近づいてきて。
「んんんんっ~!」
ガブって効果音がしそうな勢いで私の唇に先生のそれがあわさったかと思うとぬるりとしたものが入ってきた。口内を愛撫するような動きから深く激しくからみあう動きに変化し、どちらのものともわからない唾液が唇の端をつたう。
「んっ……せんせっ。」
ひとしきり私の口内を蹂躙した先生は、最後に音をたてて私の頬にキスをすると、私の目を真剣な表情でのぞきこんできた。頭がぼうっとしてきた私は、快楽に潤んだ瞳で先生を見上げた。
「今何考えてた?」
「………んっ。」
また、頬にキスがひとつ落ちた。
「お前、危なっかしいな。気を抜くとどこかに飛んでいって消えちまいそうだ。いいか?何度でも言ってやる。俺はお前に惚れてる。お前が俺の生きてる理由なんだ。俺を庇ってできたこの肩の傷だって……。」
先生は私の肩のあたりをはだけさせると、傷のあたりにそっと唇をふれさせた。
「俺を守ってくれたこの傷……この傷が疼く度にお前は俺を思い出すだろう?俺は卑怯者だからな。使えるものはなんでも使う。お前をそばにおくために必要なら、なんでもな。」
「でも、先生には婚約者がいるじゃないですか。」
思わずポロリとでた言葉に、自分でも固まった。
先生の顔がうまく見ることができなくて、すぐに俯いて表情を隠す。
「……その、婚約者は大事にするべきです。私だったらすごく悲しいと思います。」
(綺麗で、家柄的にも先生の横に立つのに相応しい。)
「斎藤、お前……。」
先生が口を開こうとしたその時。
病室の扉が開く音がした。
コツコツとハイヒールをはいて歩くような音がして、覚えのある香りが病室に広がる。
「面会謝絶ですって?見舞いに来たわよ。」
「普通、面会謝絶ってのは、見舞いに来れねえんだけどな?」
よく手入れされたツヤツヤの髪に、いい女の代表のような豊満ボディ。目鼻立ちの整った、どこから見てもすこぶるつきの美女。
坂口組令嬢、坂口暁美。
その人が艶やかに微笑んで立っていた。
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