火はまた沈む

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 <あいつ、また寝てるよ> <本当ね。恥ずかしくないのかしら> <年食うとそういう感情、消えるんじゃね> <おお、コワ>
 小春日和の昼下がり、カウンターに立つ3人のレファレンサーが口々に、僕の陰口を叩くのには訳があった。もちろん僕が彼らの前にデンとうつぶし、いびきをかくような[挑戦]をしていたのではない。彼らとは遠く離れた、季節柄非常に混んでいる自習室で読書をしていたところ、いつの間にか眠ってしまっていたのを監視カメラに映されてしまった、だけの事なのだが。
 その本、写真集、戦後間もなくの混乱は刺激的で、決して眠くなるような手合ではなかったのだが、いつしか空想が本の客観から自身の過去の主観へと飛び、そのまま夢の世界へ分け入ってしまったのだ。
 
 カラカラカラ。勝手口の呼び鈴が金切り声を挙げた。<おばあちゃん、誰か来たよ> <まあ、また傷病兵さんが来たのね。マー坊、こっち来ちゃダメよ>
 障子の陰で見守っているといつもの事らしく、手際よく財布からいくばくかの小銭を鷲づかみにすると、そそくさと戻ってきた。そして再び僕と目が合うと、少し恐顔で<めっ>と一喝し、また勝手口へ向かって行った。
 5~6歳の児はみなそうであるように、僕もそっと隠れながら勝手口へ向かった。
 いささか綻びの目立つ軍帽、軍服を纏った彼は、ややうつ向き加減で祖母からの施しを、ベルトの脇に吊るされた空き缶に入れてもらっていた。
 50歳前後だったろうか。無精髭が顔中を狼藉し、右松葉杖に支えられた方の膝から下は無く、その先端の肉球は寒さのせいか、蒼白くつるつるとして光っていた。そして僕の気配を感じたのか顔をあげると、視線が合った。見えていたのだろうか。その両目は白く澱んでいた。
 彼が背を向け出て行こうとした時、今まで間断なく降り注いでいたみぞれが一端軽やかに反転し、空へ向かうような仕草を見せた後、鮮やかな白色へと変わった。そしてその白色の中へ傷病兵が消えていこうとする刹那、僕の脳裏に奇妙な音楽が鳴り響いた。それが、これである。
 
 妖 https://youtu.be/0gvlYTwtir8
 (/右の0はゼロ、lはLの小文字)です。
 

 

 
  

 

 
 
 

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