背徳の海に舞うナリラ

菜種K

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第二章

3.ひとつの偽り

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「……お互いに体が熱くなって……その熱を求め合って……女の子はとろけるように柔らかく……男の子は弾けそうなほど固く……その一番熱く柔らかいところと一番熱く固いところが重なり合って……」
 
 香の煙に包まれた石畳の上は、少女たちにとって異空間……別の宇宙になりつつあった。

「……その二つの間に蜜が溢れかえって……そしてそれが……荒々しく入ってくる……」
 シファが思わずエラナの手を握った。
 エラナも握り返しながら、興奮を隠せず口を開く。
 
 モカナが頬を上気させながら聞いた。
「痛い……んですか?」
「痛いわ。まるで炎の槍で貫かれたように……純潔を守る花弁が切り裂かれて、その中でそれが踊り狂うの。でもやがて痛みが愛しさに変わってゆく……」

 モカナは信じられない、という表情を浮かべた。
 その瞳には涙さえ浮かんでいる。
 まるで、いま自らが初めてを奪われて純潔を失ったように。

「愛しさと喜びに二人は踊り、男の子は獣のように吠える……そして弾けて熱い滴を勢いよく注いで……女の子のお腹に愛の証を残すのよ」

 三人の少女は揃って大きく息を吐いた。
 なんとか緊張を解こうとするが、下半身に力が入らない様子だ。

 ナリラはパンと手を叩いた。
「さあ! お話はおしまい。お稽古の続きをしましょ!」

 少女たちはよろよろと立ち上がり、何かの違和感に気づいて、見られないようそっと腰蓑に指を差し入れる。
 ナリラはエラナの足元に一粒の滴が落ちるのを見た。
 処女おとめが色に目覚め、初めて落とした熱い蜜。

 巫女は何かを拾うふりをして、その滴を指ですくい──
 海の方を向いて唇に差し入れた。
 一瞬、その顔が淫らな欲望に歪む。

「ナリラ様……」
 モカナの声に振り返った時には、ナリラは巫女の笑顔を取り戻していた。
「なあに?」
「ナリラ様は……その……本当にないんですか? その……誰かと、そういうことを……したことが」
「どうしてそんなこと聞くの?」
 モカナは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「だって……あんまりにもお話に実感がこもってて、本当に経験したようにしか聞こえなかったから……ごめんなさい!」

 先輩巫女は笑顔のまま答えた。
「ないわ。ほんとよ。今のお話は全部お友達からの受け売り」

 嘘ではなかった。
 ナリラには、人間の男と交わった経験は無い。
 少女たちに話したことに、何一つ嘘はなかった。

 いや、一つあった。

 彼女の舞いを美しく見せているのは、女神ムロシャラへの信心などではなかった。
 魔の道に堕ちた女の愉悦と欲望だった。
 
 その夜──

 自室で執務をしていた神官トルリルは、ナリラの寝所となっている控えの間から響いてくる、少女たちの楽しそうな声を聞いて目を細めた。
 ナリラはすっかり少女たちの人気者となったようだ。
 彼女に、巫女候補たちの教育を任せてよかった。

 彼女たちが巫女への道を選ぶかどうかは彼女たちと親御の判断次第だが、もしその道に進んだら、ナリラのように慈愛に満ち、島民に慕われる巫女になって欲しいものだ。

 休む前、夜風にあたろうと外へ向かったトルリルは静かになった控えの間の方を見て印を結び、女神ムロシャラに祈った。
 
 どうか、ナリラと少女たちを呪いからお守りください……と。

 だが、その時控えの間にいたのは、夢に沈んだ三人の少女たちだけで、ナリラはいなかった。
 そしてトルリルは、彼の祈りが完全に手遅れであることを知る由もなかった。
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