ハキダメギク

谷 羊大

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第一章 僕のおわり

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   咲島さきしま きく。僕の名前だ。

   はじめましての人間には、よく女の子みたいな名前だねと言われる。暫くして仲良くなった人間には、呼びにくい名前だと怒られる。

ほとんどの友人は最初、僕のことを“菊くん”と呼ぶのだが、“く”が重複して言い辛いのだそうで。彼等の試行錯誤の末に、僕の愛称はだいたい“きっくん”か“菊”に落ち着く。

ごく稀に“咲島くん”だとか他人行儀な呼び方をされる場合もあるにはあるが。

   そして、今日。

   僕たち三年生にとっては、中学最後の文化祭が行われていた。ちなみに僕のクラスは三年三組だが、男子生徒のゴリ押しによってメイド喫茶が開店している。

あ、そうそう。世の男性諸君には期待させておいて申し訳ないのだが、このメイド喫茶には、チラリズムもポロリもない。萌えすらも皆無だ。何故なら、接客しているメイドは全員男だからだ。

かくいう僕も、“お菊”と書かれた名札を付けて「いらっしゃいませ、ご主人様」と死んだ目をしながら接客している最中である。

客の目も死んでいた…。

看板だけを見て、何も知らずノコノコやってきたのだろう。心中お察しする。



「咲島くん、これ三番テーブルに持って行ってくれる?」



「ああ、うん。」



   ケーキと紅茶が二つずつ乗ったお盆を差し出したのは、耶蘇寺やそでら ミサ。

僕のことを“咲島くん”と呼ぶ少数派の人間だ。彼女はこのクラスの学級委員長兼生徒会長であり、このオカマ喫茶を作り出した張本人でもある。

この可憐な生徒会長が何をしたのかというと、特段大したことはしていない。ただ言葉の裏をかいただけなのだが、僕たち男子生徒を地獄に突き落とすには十分だった。

   HRで文化祭の出し物を論議していた日のことである。「なんでもするから」出し物をメイド喫茶にしてくれと言った男子生徒の懇願を笑顔で受け入れた彼女は、女神と呼ばれることになる。

三日後、再びHRで耶蘇寺 ミサが壇上に立ち文化祭の出し物がメイド喫茶に確定したことを報告した。

教室に歓喜の声が木霊したのも束の間、詳細のプリントが配られてクラスは沈黙を余儀なくされた。(正しくは、女子生徒の小さな笑い声は教室に響いていたのだけれど。)

   何故、僕たちが沈黙を余儀なくされたのかは言わなくても察しているだろうが敢えて言おう。詳細のプリントには、メイドは男子生徒が担当すること、と書かれていたのだった。

恐れ多くも耶蘇寺 ミサに抗議の声を上げた奴がいたが、女子生徒がメイドをすることは風紀の乱れ等の配慮で却下されたこと、けれどもあんなにメイド喫茶をやりたがっていたからどうにか実現させてあげたかったことを笑顔で説明された挙句、「なんでもするって言ったわよね?」の一言で完全に白旗を揚げてしまった。

これが後に語られる三日女神事件である。



「ねえ、君。」



「え?僕、ですか?」



回想中、ブツリと思考を断ったのは高らかな女性の声だった。いまどき珍しい三つ編みおさげといったヘアスタイルをしている。目が合った女性に首を傾げると、ニマッと笑顔になった。



「お菊ちゃん、僕っ子なんだねぇ。いやぁ~コレが萌えというやつですか。」



「はぁ?」



   馴れ馴れしく話しかけてくる女性に大いにたじろぐが、彼女はおかまいなしにジロジロと僕の顔を覗き込んでくる。

このセーラー服は確か坂裏道さかうらみ高校の制服だ。女子高生という生き物は、皆このように不躾なのだろうか。

若干引き気味に後ずさると、彼女の背後から長身の男が現れてこの不躾な女子高生の首根っこを掴む。さながら猫のような扱いだが、女子高生も慣れているのか大人しくされるがままになっている。



「ごめん。びっくりしたでしょ。こいつ人間との距離感がわからないみたいでさ。」



「あ、いや、大丈夫です。少しびっくりしましたけど。」



「そう、よかった。接客頑張ってネお菊ちゃん。」



   長身の男は貼り付けたような胡散臭い笑みを浮かべると、女子高生を連れて何処かへ行ってしまった。

彼が去った後、近くにいた女子生徒が黄色い声をあげるくらいには彼はイケメンだった。

全くもって不愉快だ。

なんだったんだと思いながらも、その後も客足は途絶えることがなく、接客にてんやわんやしている内に変な二人組のことは頭の隅へと追いやられてしまったのだった。


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