【R-18】杏華の恋

都鳥

文字の大きさ
1 / 5

出逢い

しおりを挟む
 好いた女が居る。

 彼女は雪女だ。
 仲間たちは、あの女たちはやめておけと言う。いわく、雪女たちはその身だけでなく、心まで冷たいのだそうだ。

 俺たちと雪女たちは隣の山に住んでいて、基本的には互いの縄張りを侵さない。
 最初に彼女を見かけたのは、雪女の縄張りからわずかに外れたところだった。

 俺が迂闊うかつだった。鹿を狩っていて、追い過ぎてしまったのだ。
 落ち着いた誰何すいかの声に顔を上げると、白い髪に白い肌の女が立っていた。

 美しい…… 女だと思った。

 相手の山にまで足を踏み入れてはいないとはいえ、驚かせ不安を与えてしまったのは俺の失態だ。
 その日は詫びにと、狩った鹿を半分渡した。
 そうしたら翌日、その雪女は焼いた兎肉と握り飯を俺に寄越してくれた。

 それから顔を合わせれば、いくらか話をするようになった。


 俺の種族の女達は、皆大柄で声も大きく、大酒飲みでよく食べる。
 笑ったり泣いたりする時の表現は大袈裟おおげさなくらいに激しい。恋愛に対しても積極的で、惚れた相手にはぐいぐいと迫っていく。
 そこが、他の仲間より度胸のない俺には、少しだけ合わないのだ。

 雪女は冷たい……と聞いていたが、俺にはそうは見えなかった。

 彼女は俺たちとは違って、感情を表に出すのが苦手らしい。楽しい話をしてみせても、大きく口を開けて笑うような事はしない。
 でもだからと言って、喜んだり笑ったりしない訳ではないのだと、俺は知った。
 そして、細くはかなくも見える身でありながら、はじめて俺と会った時に見せた毅然きぜんな態度。その心の強さにもかれた。

 雪女は惚れた相手には術を使って篭絡ろうらくするという。
 ただでさえ、これほどに眉目みめが美しいのだ。好む相手がいれば、その心を手中に収めるなど容易たやすいだろう。

 雪女たちに比べて、俺たちは粗暴で荒々しい。
 しかも俺は仲間の内では中途半端だ。力はそれなりにあって、獣を狩るのは得意だが、仲間たちとの喧嘩には勝てた覚えがない。情けない。
 俺のような半端な乱暴者が、あのような美しい女に好まれるとは思えない。

 それでも毎日のように狩りを理由に縄張りを出て、彼女に出会う事を期待してしまうのを、俺はやめられないのだ。

 * * *

 気になっている殿方が居る。

 私の種族に男は居ない。
 男が欲しければ人間か他種族の男に術を使って篭絡なさいと、母からは教わった。
 曰く、私たちはそうして血を繋いできたのだと。
 でもその術を使うのが、私は得意ではない。
 ただでさえ恋愛経験が少ない私は、意中の男相手にどう接していいのかがわからない。

 彼は隣の山に棲む鬼の一族だ。
 鬼は一夫多妻制で、好んだ女であれば何人でも自分のそばにおくのだそうだ。
 つまりはそれだけ、鬼の男に惹かれる女も多いのだろう。また気に入った女が居ればさらってでも我が物にするらしい。
 きっと女に不自由はしていないだろう。

 鬼の一族の女は、皆健康的な力強い美しさを持つ者ばかりだ。
 我らの折れそうな細い腕、日差しにも弱い白い肌。何の色も映さない白い髪。鬼族の女に比べたら、どれほど心もとないものか。
 他種族のこんなひ弱な女になど、きっと興味もわかないだろう。

 きっかけは偶然だった。
 
 普段は山を下る事などしないのに、その日はようやく兎が2羽獲れただけだった。せめて木の実をと探していて、山を下り過ぎてしまった。
 そこがもう山のふもとだと気付いたのは、その男に出会った時だった。

 思いがけず他種族の者に出会った驚きで、つい強い言葉で誰何の声を上げてしまった。

 燃えるような赤い髪を持つその鬼は、見事な鹿を捕らえていた。
 縄張りを侵されたわけではない。詫びる必要などないというのに、彼は詫びにと鹿を半分も分けてくれた。

 久々に食べる鹿の肉は美味くて、私が一人でいただくには多すぎて。
 彼の大きな体には、半分の鹿では足りなかっただろうと、申し訳ない気持ちになった。

 翌日、同じ場所で彼に出会ったのは偶然だろう。
 私の差し出した握り飯を、彼は本当に美味そうに食べた。

 その次の日、彼はまた礼にと今度は猪を分けてくれた。
 若くてたくましい彼は、それらを素手で狩るのだそうだ。

 自分には無い力強さと、彼のおおらかな笑顔と優しさに、いつから惹かれていたのだろうか。

 * * *

 兄者に話をすると、い女なら攫ってくればいいと言う。
 でも俺にはそんな度胸はない。

 そんな事をしたら、彼女に嫌われてしまうだろう。
 いっそのこと、俺の事を篭絡してはくれないものか……

 * * *

 母上は男などいくらでも魅了すればいいと言う。
 でも私はうまく術を扱えず、また殿方をたぶらかすような手管てくだもないのだ

 そうして彼を思うようにしても、心を寄せてもらえるわけではないだろう。
 ああ、それならばいっそ、私の事を攫ってはくれないものか……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...