【夢小説】夢まち 「痛みは消せない。忘れるしかないんだよ」記憶の奥の物語によって

ロボモフ

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夢と希望

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 したのかされたのかよくわからなかった。重なった唇は柔らかく、とてもよい香りがした。僕は誘惑に負けて動くことができなかった。10秒ほどすぎてから、ようやく正気に返ると目を開けて、絡みついた体を引き離した。よく知らない人じゃないか。彼女は笑っていた。
 バスに乗って去る間際に「手紙を書く」と言った。僕にではない。世界中に向けて書くと言ったのだ。
 僕はコインランドリーに駆け込んだ。蛇口をひねっても水はぽつりぽつりとしか出なかった。僕は手ですくって何とか水を飲もうとした。シャツが濡れるじゃないですかと側にいた男が文句を言った。「ごめんなさい」だけど、とても喉が渇いて仕方がないのです。

 落ち葉を踏んでその音で存在を悟られないように、ずっと慎重な姿勢を通していたのに、それでも先生に見つかって当てられてしまう。
「サリーちゃんを知っていますか」
「いいえ」
 本当はわかっていたけど、僕だけが知っていると目立ってしまうから、僕はみんなの答えに合わせてうそをついた。いつから僕はこんなにもおとなしくなってしまったのだろう。
「お食べ」
 おばあさんが差し出した半分のゆで卵には、親切に塩がかかっていて、こんなの上手いに決まっているじゃないか。塩にとろけて僕はスタジアムの中にいた。ランナーが三遊間に挟まれてどうにもならなくなったところで、主審が間に入ってプレーを止めた。マウンドに皆が集合してキャプテンに対してイエローカードが出されると、観衆がざわめいている。
「今のプレーについて説明します」
 審判が問題にしたのはフィールドにいる選手ではなく、ベンチで指をくわえている若者のことだった。
「口に指がくるということは、勝負をなめているということです」
 審判の厳しいジャッジの中に、一匹の犬が迷い込んできて空気が和んだ。

 どこをさまよい歩いているのかわからない。浮遊する力はとっくに失われていた。同じところを何時間もぐるぐると回っているかのようだった。突然、正面に高島屋がみえてきた時には安堵のあまりため息が漏れた。ようやく帰れるのだと思った瞬間、ポケットに財布がないことに気がついた。財布がない!
(彼女だ!)
 誘惑に負けている間に、僕は大事なものを失っていたのだ。バス停の明かりが小さく灯っている。もうバスは来ない。コの字型のベンチにかけて「なんでやねん」へと続くぼやきの輪に加わった。人それぞれに言いたいことはあるのだ。今なら僕にも多少はわかる。そうだそうだ。みんな身勝手なことばかり。鞄がない!
 さっきまで財布の中にあったWAONの残高を気にかけていたが、今度のはそれとは比較にならないほどの問題(喪失)だ。そこには今までしてきたことのすべてが入っている。すべての友がいるのだ。
(どこに?)
 記憶がない。いったいいつからないのだろう。最後にあった記憶は、いつまで遡っても現れない。
 その時、僕は自分の体が布団の上にあることをうっすらと自覚し始めた。そうだ。これはみんな夢だよ。
 僕は少し負けただけ。
 まだすべてを失ったわけではないのだ。
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