【将棋掌編集】明日を指して

ロボモフ

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時代対局

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 屈んだ拍子にワイシャツのポケットから鉛筆が落ちた。おかしなことに畳の隙間に挟まって抜けなくなった。無理に引くと逆に引き込まれ深い穴の中に落ちてしまった。 
 気がついた時にはもう対局が始まっていた。
 タブレットがない!
 机の上には対局時計と記録用紙、それに鉛筆と消しゴムだ。
「指したよ」
「あっ、すみません!」
 僕は慌てて棋譜に4三銀と書き込んだ。
(先生?)
 棋士の先生は2人とも30年若返っているようにみえた。

「銀でっか、なるほどー。ふぁー」
「何やあくびか。眠いんかいな」
「そうや。最近寝不足やねん」
「ほー。そりゃまたなんでや」
「ゲームや」
 先生たちは手を動かさず口ばかり動かしている。
 のんびしとした朝だった。

「何のゲームや」
「穴に入ったり宝箱集めたりする奴や」
「何やそれ。面白いんかいな」
「これがなかなかおもろいんや」
「将棋のゲームはせーへんのか」
「コンピュータ弱すぎるからな」
「確かにな。ようわからん手指しよるやろ」
「そうや。誰か教えたらなあかん」
「まあ、人に追いつくには100年かかるわ」
「100年はないわ。あんた読みが甘いんちゃう」
「俺は一生負けへんで」

「わかったぞ!」
 これは過去の対局なのだ。
 まだソフトより人間の実力が上だった時代に、僕はタイムスリップした。そして、古きよき時代の対局室で記録を取っているのだ。
「君。私の手がわかるのかね」
「はっはっはっはっはっ!」
「失礼しました」
 お2人ともとても優しい。

「時に、メシとかどないしてますの?」
「外食やな。作るのもええけど片づけとか面倒やん」
「ああ、確かにな」
「器ごとレンジでチンして食べたら捨てられるみたいなのあったらええけどな」
「あほ言いなはれ。そんなもんあるわけないやん」
「へーくしょん!」
 マスクもつけずに先生は遠慮ないくしゃみをした。

「風邪でっか?」
「風邪や。熱もありまんねん」
「へー。大変でんな」
「まあ微熱ですわ。37.5度くらいやな」
「病人っぽくはないね」
「マスクでもしましょうか」
「マスクの棋士でっか」
「誰がやねん!」
「まあ指しとったら治るわ」
「そうや。将棋に勝つのが何よりの薬ですわ」
「ほんだらここは玉入っときましょ。勝たせませんでっとな」
 ようやく手が動いた。
 僕は9九玉と棋譜をつけた。
 今は穴熊黄金時代なのか……。

「あんた穴熊好きやな」
「みんな好きやねん」
「堅めりゃええ思うてませんか」
「思うてますよ」
「ほー、熊か」
「なんやあんたも入るつもりか」
「まあそれもあるわな」
「遠慮せんでもええよ」
 午前中は主に雑談と近況報告のような時間だった。
 本格的に駒がぶつかるのは午後からのようだ。
 一昔前は、こんなのんびりしていたのか……。

「ほな、もうメシやな」
「もうそんな時間か」
「休憩に入れてくれる?」
「はい」
「よし、昼メシ行くかー」
 対局時計を止めて、僕は鉛筆を置いた。

「昼メシ、君も行くか?」
「えっ?」
「近くにええラーメン屋ができてん」
「あっ、はい」
 いー時代やん!
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