【ショートショート】ひとつまみ シュールにドアをノックして

ロボモフ

文字の大きさ
27 / 61

フード・ライター

しおりを挟む
 おばあさんは星のない名店をいくつも知っていた。外観はお世辞にも綺麗とは言えない。暖簾は黒ずんでいて店の名前も半分消えている。扉を開けて中に入れば、どこか別世界に足を踏み入れたような気がする。そんな店によく連れて行ってもらった。
 腐りかけた壁にメニューとは違う絵を見つけた。

「あの抽象画は?」
「あれはね、サインと言って人の名前よ」
「サイン? キャッチャーが出す奴?」

「手書きと言ってね、マジックを持ち自分の名前を書くのね」
 おばあさんは昔のことを何でも教えてくれる。

「手で持つの? 花火を持つみたいに?」
「箸を持つみたいによ」

「どうやって書くの?」

「書き順に沿ってはじめから」
「打順みたいなもの?」
「そうね。1から2番目3番目と続いていくわ」

「順番を破ったらどうなるの?」
「特にどうもならないわ」

「じゃあ何のためのものなの?」

「順に沿うと美しくなるの。忘れにくくもなるわね」
「そうなんだ。いちいち手を動かして書くの?」
「そうよ。それが手書きというものよ」
 昔の人は色々と苦労が多かったみたい。

「あれは誰?」

「イチローね」
 イチローは時を刻んだ偉人だ。

「カレーライス、お待たせしました」
 ここの名物はカレーライスだ。

「わー、すごい色!」

「ずっと煮込んでいるとこうなるのよ」

 食べ始めるとスプーンが止まらない。
 水も飲まずに一気に食べてしまった。

「ごちそうさま!」

「うちのカレーより美味しいでしょ」

 (勿論)と出かけた言葉を引っ込めた。
 皿を横にずらしワープロを開くと、おばあさんはカチカチと食レポを打ち込み始める。
 おばあさんの仕事は、フード・ライターだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...