【ショートショート】ひとつまみ シュールにドアをノックして

ロボモフ

文字の大きさ
39 / 61

麒麟を描く(伝説のペン)

しおりを挟む
 多くの人間を描いてきた。数え切れないほどの猫を。世界中の野生動物をずっと描き続けてきた。そろそろ次のステップに踏み出してもいいかも……。そんな野心が私の中に芽生え始めると日に日に膨らんでいき、ついには抑えきれなくなった。無数の猫を描いた経験があっても、麒麟を描くとなると話はまるで違ってくる。同じような姿勢ではその輪郭さえも捉えることはできないのだ。
 私は噂を頼りに伝説の洞窟へ足を運んだ。
(すべては麒麟ペンを手に入れるために!)

「私に描かせてください!」
「素性のわからん者に渡すことはできぬ!」
 老人は厳しい目をして言った。容易く手にできるようなら、それは街の文房具屋さんで売っていることだろう。審査のハードルが高いことは覚悟していた。

「麒麟を知っておるのか?」
「憧れています」
「ならば麒麟に乗ったことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「麒麟と暮らしたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と目で話し合ったことは?」
「ありません」
 自信を持って(はい)と答えられる問いは皆無だった。

「麒麟と喧嘩したことはあるか?」
「いいえ」
「麒麟の上から弓を引いたことはあるか?」
「いいえ」
「傷ついた麒麟を助けたことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「まったくないのか!」
 厳しく言われて返す言葉もなかった。

「麒麟と将棋を指したことはあるか?」
「ありません」
「お前が麒麟であったことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と炒飯を食べたことがあるか?」
「ありません」
「麒麟の上から夜を眺めたことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「麒麟と共に働いたことはあるか?」
「ありません」
「お前は今までいったい何をして生きてきたのだ!」
「えーと、それは……。自分なりに精一杯の努力をしたり……」
「そうか。それだけか」

「あのー」
「何じゃ」
「私では駄目なのでしょうか」
「駄目と思うのか?」
「わかりません」
「何がじゃ」
「何も答えられない自分がくやしいのです」
「そうじゃろうな」
 老人は杖を地面に突き刺しながら深いため息をついた。

「お前は麒麟を夢に見たことはあるか?」
「ありません」
「麒麟の尊敬を集めたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と野球をしたことはあるか?」
「ありません」
「麒麟と海を渡ったことはあるか?」
「ありません」
「自分を麒麟と思ったことはあるか?」
「いいえ。ありません」
「そうか」

「もう教えてください。駄目なら駄目と」
「本当に駄目になりたいのか」
「コンプレックスで爆発しちゃいそうです」
「誰でもそうじゃ」
「話を前に進めてもらえますか」
「ずっと進んでおる! 馬より速く進んでおる!」
「とても理解が追いつきません」
「お前の瞳にはずっと麒麟が映って見える」

「……」
「それが答えだ!」
「それじゃあ……」
 老人はおもむろにブリーフケースを開けて伝説を取り出した。
「これを受け取るがよい」
「いいんですか?」
「このペンで好きに麒麟を描くがよいわ!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...