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元・婚約者
駄犬〜ユシエルSide〜
しおりを挟むお仕置き部屋から出て、
また本棚を動かして入り口を隠す。
そして部屋から美都様の痕跡を隠し、
あの駄犬のところへ向かう。
瀬野は人狼だ。
つまり魔族。
美都様との婚約はいわゆる人間界も魔界も仲良くしましょう的な意味合いが大きい。
瀬野は人狼の中でも、人狼を取りまとめる名家に生まれた。
でも魔族にとって人間の違いを見分けるのはなかなか難しいらしく、
美都様の婚約破棄の件の話も彼抜きだったから案外楽に進んだ。
瀬野は昔から変わらない。
真っ直ぐで熱くて、大切な人はちゃんと大事にするために行動できるやつだ。
だからこそ納得いかないんだろう。
美都様が今監禁されてヴァンパイアの家畜にでもされていると思っているのだろうか。
魔界での学院生活の頃、彼とは同級生だった。
ハーフヴァンパイアの僕を周囲は腫物扱いしていたが、瀬野はそんなことも気にせず話しかけてくれたいいやつだ。
だからこそ、
今回の話はややこしそうだ。
はあ…。大きなため息と共に、扉を開けた。
「ご主人様…」
執事が何かを言うのを制する。事情もこいつの思いもわかっている。
「久しぶりだな、瀬野。元気にしてたか」
「はっ、てめぇ…ユシエル‼︎よくも俺の婚約者を」
「元婚約者です。もう家同士の話は付けてありますが」
「いや、そんなまどろこしい話はいいんだよ‼︎美都を返せ!」
「あなたのものでもないのに、なぜ返す義理があるのでしょうか」
「ペラペラと理屈ばっか並べてないで、美都の顔見せろ!」
「申し訳ありませんが、美都様は今お取込み中でして、お合わせすることはできません」
「取り組み中だあ!」
「はい。部外者はお帰りください。後日きちんと面会する旨を事前に申請してからいらっしてください」
乗り込んできて部が悪いことをわかっているからか、瀬野が少し大人しくなる。
単細胞のような行動をする彼だが、これでも頭はいい方から数えた方が早い男だ。
「一度だけなら特別に美都様への面会を許可しましょう。」
「……」
「ただし、美都様を僕から奪おうとしたら…美都様がどうなるかわかりますよね?」
「……っ」
別に美都様が嫌がることをしたいわけじゃない。
美都様は愛おしくて可愛らしい世界で一番大事にしたい存在だ。
でも僕の出生故に、一筋縄にいかない関係だ。
魔族から見たら、人間なんてほぼ見分けがつかないと言うけれど、
人間界の代表的な立場であっても、
僕が奪い取れるくらい脆い配役なんだ。
だからこそ…。
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