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2 アダルトショップ【ディーペン ラブ】
飲み屋街からも駅からも外れた、オフィスビル群を抜けた路地の向こうにひっそりと建っている四角い白いお店。
アダルトショップ【deepen love】
看板はなく、小さな擦りガラスの窓が数か所と、壁と同色の片開きドアが正面左側についているシンプルな建物で、よく倉庫と間違われるらしい。
ちなみに瀬奈ははじめ、公衆トイレと間違えて入ったのだが店長には内緒だ。
周りに人がいないのを確認してから、押戸を開けて素早く店内へ入る。
内装もシンプルで、背丈ほど高さがある商品棚とレジカウンターのみ。
棚にはびっしりと【大人のおもちゃ】が綺麗に陳列されていて、バイブやディルド、ローター、軽めのSMグッズなどがジャンルごとにわけられていて、お目当ての商品も探しやすい。
もちろんローションやスキンなどの消耗品も置いてあるため、大多数の人達の【愛の営み】準備はすべてここでまかなえる。とっても便利なお店だ。
と、常連客である瀬奈は思うのだが、約一年通っていて自分以外の客を見たことがない。
店長も売り上げの話は笑って誤魔化すので、まあそういうことなのだろう。
瀬奈としては、他の客がいない方が気兼ねなく吟味できるのでありがたいことではあるが、それで閉店なんてことになっては大変困る。
この店は瀬奈にとって唯一の癒しといっても過言ではなかった。
平日五日間の激務に耐え、家には風呂と着替えと寝に帰る日々を過ごしてからの金曜日の残業終わり。
溜めに溜めたストレスをなるべく発散させて泥のように寝るために自分を慰めるためのおもちゃを買う。
この一連のルーティンが、どれほど瀬奈のメンタルを支えているかは一目瞭然である。
そしてなにより瀬奈をこの店へ通わせる理由は、店長の久下の存在が大きかった。
久下は瀬奈より一回り年上の男性で未婚。背も高くショップ店員にもかかわらずガタイもいい。
少しテンパの入った無造作ヘアはだらしなさを感じるが、彼の気さくでちょっとおじさんくさいしゃべり方に合っていて瀬奈は好きだった。
顔もアラフォーにしては若々しく、彫りも深い。正直かなり男前だと思う。
認めよう。瀬奈は久下に淡い恋心を抱いていた。
とはいえ、地味系喪女の瀬奈にちょい悪おじさんを口説くなんて芸当は不可能なので、もっぱらひとりえっちのおかずにするだけで満足している。
「そういえば店長の姿が見えないけど、裏で在庫でも確認してるのかな?」
瀬奈は少しがっかりした気分になったが仕方がない。こういうことはたまにある。
アダルトショップ特有の気遣いなのか、ここはドアがいても客の来店を知らせるベルがない。
その代わり監視カメラはたくさんついていて、商品ひとつひとつに盗難防止用のシールが張られているため万引きはないそうだが、こうして客が来たことに気がつかないのだ。
他の客は知らないが、瀬奈は常連なのでとくに気にすることもなく、勝手知ったる様子で目的の棚へ向かった。
そこは数ある商品棚の中でもとくに目立つ、手書きPOPがでかでかとつけられた棚。
【店長のおすすめ☆おもちゃコーナ】
ラインナップは毎週変わり、久下が厳選したアダルトグッズがジャンル別で紹介されている。
今日は少し余裕があるものの、いつも瀬奈が来店するのは終電まであと二、三十分というギリギリの時間なので、とてもじゃないが商品を吟味している時間はない。
だがアダルトショップ店長が選んだおすすめグッズであれば、好みはあっても買って後悔することはほぼないため、瀬奈はいつもこの棚から選んで買っていた。
「今日のおすすめは……ディルドは極太サイズでイボ付き、ローターは遠隔機能が付いたもの……うーん、自分で使うのに遠隔機能はいらなかな。バイブは……あっ、これ、私持ってる」
パッケージに大きく【まるで本物!?極上のクンニ体験!潮吹きびしょ濡れ確定!】と書かれた吸引バイブだった。
クン二を体験したことがない人には共感してもらえるかもしれないが、自慰であそこを弄っているとたまに、人に舐められるってどんな感じなんだろうと無性に興味が湧いてくることがある。
指やバイブも気持ちがいいが、肉感のある舌でぺろぺろと舐められたらどれだけ気持ちがいいのだろうか。
たまに見るAVの女優さんがクンニされて狂ったように喘いで腰を揺らしている姿を見ると、期待がどんどん膨らんでいく。かといって舐めてくださいとお願いできる人もいない。
となるとやはり、それを売りにしている吸引バイブを手に取ることになるというわけだ。
この吸引バイブは突発的に欲しくなったためお店ではなく通販で買ったのだが、有名なアダルトメーカーが作った商品でレビューも高かったこともあり、かなり期待して使用したのを覚えている。
だが結果は惨敗だった。
舌の形をしたシリコンゴムが上下に振動して舐めているときの動きを再現しているはずなのだが、威力が強すぎてとても当てていられなかったのだ。
説明に書いてあった通りローションもたくさん塗ったし、はじめは押しつけるのではなく先端で弾くくらいの距離でクリトリスに当て、様子をみながら使用するようにとあったため、その通りにした。
だが、ピンピンと敏感なそこを容赦なくビンタされている感じになって気持ちいいどころではなかったのだ。
それなりに高い買い物だったこともあり、瀬奈は何度かチャレンジしたのだが、それが仇になって数日股間がヒリヒリして大変だった。
その日の自慰もそれ以上できず消化不良で月曜日を迎えることになったのに加えて、デスクワークにとってイスにすわることがつらいのがかなりしんどかった。
そのため、吸引バイブはその日限りでお蔵入りとなったのだ。
それとまったく同じ吸引バイブがおすすめされている。それも、他とは別に【今週一押し!】とカラフルなPOPまでついて。
瀬奈は吸引バイブを手に取り、その時の恨みを思い出してパッケージを睨んだ。
これを一押しにするとは……。
久下はどこを評価したのだろう。
久下のことは信頼していることもあって、瀬奈は少し不満を感じた。
「あ、瀬奈ちゃん。来てたの?」
その時、カウンターの方から待ち望んでいた声が聞こえて振り返った。
案の定そこには、店のロゴ入りエプロン姿の【deepen love】店長、久下 雅哉が大きな段ボールを抱えて立っていた。
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