4 / 22
本編
3歩み寄りと波乱の幕開け…?
しおりを挟む
「ん……」
光とともに、花の模様が彩られた天井が目に入る。
目が覚めたことに気づいたエマが駆け寄ってきた。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」
「……ええ、心配しないで。慣れない環境で少し疲れただけよ。それより、私イザーク様と庭園にいたのだけれど、その後がわからないの」
「お嬢さまが倒れてしまった時、私はお二人から少し距離を取っていましたので、すぐ駆け寄ることができませんでした。ですが、イザークさまがお嬢さまをお支えになられて、そのままこの部屋まで運んでくださったのです」
何とも誇らしげに話しているが、そんなことがあるのだろうか?
「運んだって……一体どうやって?」
「もちろんお抱えになられていましたよ!」
「抱え……!?」
さも当然かのように言われたが、貴族の男性なら使用人の誰かに適当に運ばせるのが妥当だ。
ましてや、無慈悲な人間が政略結婚の相手を抱え、ベッドまで連れて来るなんてあり得ないのだ。
動揺していると、ノック音がした。
エマが確認するより早く、ドアから勝手に入ってくる人影が見え、コツコツと足音が近づく。
「イザークさま……?」
訓練場に行く前なのだろうか、騎士団長の制服を着ていると、より凛々しく感じる。
「起きたのか」
「はい。あの、昨日はごめんなさい」
急いで起き上がると、また血の気が引き、目の前を火の粉が散らした。
「病人が無理に起き上がるな」
すぐに背中に手が回され、ベッドへと逆戻りになる。
「申し訳ありません……それに、イザークさまが抱えてくださったと聞きました」
「使用人に任せるより、私が運んだ方が早いからな」
相変わらず表情はないが、なんだか今日は雰囲気が柔らかい。
いつの間にかベッド横に用意されていた椅子に腰掛け、こちらの様子を伺っているように見える。
「昨日はすまなかった」
真っ直ぐな謝罪に思わず目を見開いた。
本来は立場上、人に謝らなくて良い御方なのに改まってまで謝罪をくれた。
「いいえ、イザーク様が謝られることは何もございません。私が感情的になってしまったのが悪いのです」
「君の体調がなるべく落ち着いていられるよう、善処する」
「イザークさま……ありがとうございます」
それから、部下の方が呼びに来られるまで、そっと横にいてくださった。
不思議と苦しくなく、穏やかな時間が流れた────。
その晩、イザークさまは話があるとのことでまた部屋に来られた。
「定例ならば、正式な婚姻前に婚約発表のため舞踏会を開くのだが、なくしても良い。君はどうしたい?」
「舞踏会、ですか」
ブロッサム家管轄の領土では、舞踏会ほど大きなことはしない。
怖い人間ばかりな上、特に御令嬢達には嫌な思いばかりされた。
そのため正直に言ってしまうと嫌だ。
舞踏会が終わった後……というより、最中から体調が崩れることも予想できる。
しかし、いくら政略的とはいえ、アンスリウム家は私を迎え入れてくださった家であるし、仮にも百戦錬磨の騎士、イザークさまの妻だ。
「大丈夫です。定例通り行いましょう」
一呼吸置いてから、しっかりと胸を張って答えた。
すると、瞳の奥底を覗かれるかのようにジッと見られる。
その間、真っ直ぐ見つめ返し続けた。
「……わかった、途中で戻っても良い。どうせつまらん連中だ」
そう悪態をつくイザークさまを見ていると、なんだか少し気分が軽くなったのだった。
光とともに、花の模様が彩られた天井が目に入る。
目が覚めたことに気づいたエマが駆け寄ってきた。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」
「……ええ、心配しないで。慣れない環境で少し疲れただけよ。それより、私イザーク様と庭園にいたのだけれど、その後がわからないの」
「お嬢さまが倒れてしまった時、私はお二人から少し距離を取っていましたので、すぐ駆け寄ることができませんでした。ですが、イザークさまがお嬢さまをお支えになられて、そのままこの部屋まで運んでくださったのです」
何とも誇らしげに話しているが、そんなことがあるのだろうか?
「運んだって……一体どうやって?」
「もちろんお抱えになられていましたよ!」
「抱え……!?」
さも当然かのように言われたが、貴族の男性なら使用人の誰かに適当に運ばせるのが妥当だ。
ましてや、無慈悲な人間が政略結婚の相手を抱え、ベッドまで連れて来るなんてあり得ないのだ。
動揺していると、ノック音がした。
エマが確認するより早く、ドアから勝手に入ってくる人影が見え、コツコツと足音が近づく。
「イザークさま……?」
訓練場に行く前なのだろうか、騎士団長の制服を着ていると、より凛々しく感じる。
「起きたのか」
「はい。あの、昨日はごめんなさい」
急いで起き上がると、また血の気が引き、目の前を火の粉が散らした。
「病人が無理に起き上がるな」
すぐに背中に手が回され、ベッドへと逆戻りになる。
「申し訳ありません……それに、イザークさまが抱えてくださったと聞きました」
「使用人に任せるより、私が運んだ方が早いからな」
相変わらず表情はないが、なんだか今日は雰囲気が柔らかい。
いつの間にかベッド横に用意されていた椅子に腰掛け、こちらの様子を伺っているように見える。
「昨日はすまなかった」
真っ直ぐな謝罪に思わず目を見開いた。
本来は立場上、人に謝らなくて良い御方なのに改まってまで謝罪をくれた。
「いいえ、イザーク様が謝られることは何もございません。私が感情的になってしまったのが悪いのです」
「君の体調がなるべく落ち着いていられるよう、善処する」
「イザークさま……ありがとうございます」
それから、部下の方が呼びに来られるまで、そっと横にいてくださった。
不思議と苦しくなく、穏やかな時間が流れた────。
その晩、イザークさまは話があるとのことでまた部屋に来られた。
「定例ならば、正式な婚姻前に婚約発表のため舞踏会を開くのだが、なくしても良い。君はどうしたい?」
「舞踏会、ですか」
ブロッサム家管轄の領土では、舞踏会ほど大きなことはしない。
怖い人間ばかりな上、特に御令嬢達には嫌な思いばかりされた。
そのため正直に言ってしまうと嫌だ。
舞踏会が終わった後……というより、最中から体調が崩れることも予想できる。
しかし、いくら政略的とはいえ、アンスリウム家は私を迎え入れてくださった家であるし、仮にも百戦錬磨の騎士、イザークさまの妻だ。
「大丈夫です。定例通り行いましょう」
一呼吸置いてから、しっかりと胸を張って答えた。
すると、瞳の奥底を覗かれるかのようにジッと見られる。
その間、真っ直ぐ見つめ返し続けた。
「……わかった、途中で戻っても良い。どうせつまらん連中だ」
そう悪態をつくイザークさまを見ていると、なんだか少し気分が軽くなったのだった。
33
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる