1 / 20
春の雨は、不思議な出会いを連れてくる
しおりを挟む
春。
桜の香りが甘く周囲に立ち込める、とある日の昼すぎ。
獣狩として日夜獣を狩る青年は、突然の雷雨に見舞われ、雨宿りができる場所を探して山の中を彷徨っていた。
曇り空だなぁ、とは思っていたが、ここまで天気が悪くなるとは思わなかったのだ。
初めて足を踏み入れた山だからか、どこに何があるかがさっぱりわからず、さっきから見当違いな場所を進んでいる気がする。
「足場が悪いな……」
土の足場はぐちゃりと音を立てて足に絡みつき、くっきりと足跡が残る。足跡にはすぐに水が溜まり、水は茶色く濁っていった。それらが足に絡みつくと、ただでさえ降る雨で体温を奪われている身体から、一気に体力も奪われていく。
「雨宿りができる場所は……」
周囲を見渡そうにも、雨で視界が悪い上に木々が邪魔をして遠くまでは見えない。
はぁ、とため息を一つついて、青年はとりあえず上を目指すことにした。この雨で増水した川の濁流に流される、なんてことは避けたい。
しばらく足場の悪い山道を登ると、道はだんだんと雨に濡れた石が目立つようになった。滑らないようにだけ気を付ければ、泥に足を置いた瞬間に足が滑って力が抜ける、あの気持ちの悪い感触を味わわずに済む。
重心のかけ方に注意しつつ、どこから来たのかわからない大きな石を跨いだ。土と石でできている、草の生えた足場を黙々と登っていく。目の前に現れた大きな岩を登ると、ふと目の前に洞窟が現れた。
15歳ほどの青年も屈まずに入れるくらい、洞窟は広く奥に続いている。地面はごつごつとしているが、歩けないほどの凹凸ではないし、雨宿りをするのなら奥に進む必要もない。雨に濡れない程度に中に入って、手拭いで身体を拭いていく。
仮にここが野生動物の巣だったとしても、彼らには悪いが青年は獣狩だ。自身に命の危険が迫れば、問答無用で狩らせてもらう。
身体を拭きながら、そう考えていた時だ。
「シャーッ!!」
青年の後方、洞窟の奥の奥から、明らかに獣のものと思われる威嚇音が聞こえてきた。
音は高く、熊や猪のような低いぐるる、という威嚇音ではない。
例えば、そう──
「……っ」
蛇のような、威嚇音。
警戒しながらじりじりと進んだ洞窟の奥には、真っ白な鱗に赤い目を持つ、巨大な蛇がいた。上体を起こし、青年に向かって威嚇している。全身はとぐろを巻いて洞窟の最奥に鎮座し、青年を完全に敵視して睨みつけていた。
────しまった、完全に気を抜いた。何やってんだ、俺。
青年は視線だけで周囲を見回して、音だけで周囲を探った。当然、何も無い。チリチリとした緊張感が青年の頸を灼く。剣を抜いてしまえば、不利になるのは青年のほうだ。
青年の武器は大太刀だ。広い洞窟内とはいえ、大太刀を自由に振り回せるほどこの洞窟は広くない。
「シャーッ!!」
大蛇はその場から動かない。しかし頭部を低くして青年を威嚇している。
どうする、どうすればいい?どうすればこの状況から逃れられる?
表情には表さず、けれど生唾を飲み込みながら、青年も体勢を低くしつつ大太刀の柄に手を伸ばす。
「シャーッ!!!!」
「……っ!」
勢いを増した威嚇音に青年が息を詰めた瞬間──
「……………………ぉじいちゃん、うるさぃ……むにゃ」
「「……………………」」
声の主は、幼い少女のようだった。
そして訪れる、無音。静寂。沈黙。
きょとん、とした顔の青年と、ビクッ!と反応して慌てだす大蛇。
「す、すまん。櫻……」
「!?だ、大蛇が喋った!?!?」
「んん~、おじいちゃんうるさいってぇ……ぐぅ」
「いや、今のは儂ではないぞ!」
「んんむぅ……」
まだ眠たげに目を擦りながら、大蛇のとぐろの中から少女がゆっくりと顔を出す。青年と目が合うと、その大きな瞳をぱちくりと瞬く。こてん、と首を傾げながら少女は可愛らしい声で言った。
「……お兄ちゃん、だぁれ?」
桜の香りが甘く周囲に立ち込める、とある日の昼すぎ。
獣狩として日夜獣を狩る青年は、突然の雷雨に見舞われ、雨宿りができる場所を探して山の中を彷徨っていた。
曇り空だなぁ、とは思っていたが、ここまで天気が悪くなるとは思わなかったのだ。
初めて足を踏み入れた山だからか、どこに何があるかがさっぱりわからず、さっきから見当違いな場所を進んでいる気がする。
「足場が悪いな……」
土の足場はぐちゃりと音を立てて足に絡みつき、くっきりと足跡が残る。足跡にはすぐに水が溜まり、水は茶色く濁っていった。それらが足に絡みつくと、ただでさえ降る雨で体温を奪われている身体から、一気に体力も奪われていく。
「雨宿りができる場所は……」
周囲を見渡そうにも、雨で視界が悪い上に木々が邪魔をして遠くまでは見えない。
はぁ、とため息を一つついて、青年はとりあえず上を目指すことにした。この雨で増水した川の濁流に流される、なんてことは避けたい。
しばらく足場の悪い山道を登ると、道はだんだんと雨に濡れた石が目立つようになった。滑らないようにだけ気を付ければ、泥に足を置いた瞬間に足が滑って力が抜ける、あの気持ちの悪い感触を味わわずに済む。
重心のかけ方に注意しつつ、どこから来たのかわからない大きな石を跨いだ。土と石でできている、草の生えた足場を黙々と登っていく。目の前に現れた大きな岩を登ると、ふと目の前に洞窟が現れた。
15歳ほどの青年も屈まずに入れるくらい、洞窟は広く奥に続いている。地面はごつごつとしているが、歩けないほどの凹凸ではないし、雨宿りをするのなら奥に進む必要もない。雨に濡れない程度に中に入って、手拭いで身体を拭いていく。
仮にここが野生動物の巣だったとしても、彼らには悪いが青年は獣狩だ。自身に命の危険が迫れば、問答無用で狩らせてもらう。
身体を拭きながら、そう考えていた時だ。
「シャーッ!!」
青年の後方、洞窟の奥の奥から、明らかに獣のものと思われる威嚇音が聞こえてきた。
音は高く、熊や猪のような低いぐるる、という威嚇音ではない。
例えば、そう──
「……っ」
蛇のような、威嚇音。
警戒しながらじりじりと進んだ洞窟の奥には、真っ白な鱗に赤い目を持つ、巨大な蛇がいた。上体を起こし、青年に向かって威嚇している。全身はとぐろを巻いて洞窟の最奥に鎮座し、青年を完全に敵視して睨みつけていた。
────しまった、完全に気を抜いた。何やってんだ、俺。
青年は視線だけで周囲を見回して、音だけで周囲を探った。当然、何も無い。チリチリとした緊張感が青年の頸を灼く。剣を抜いてしまえば、不利になるのは青年のほうだ。
青年の武器は大太刀だ。広い洞窟内とはいえ、大太刀を自由に振り回せるほどこの洞窟は広くない。
「シャーッ!!」
大蛇はその場から動かない。しかし頭部を低くして青年を威嚇している。
どうする、どうすればいい?どうすればこの状況から逃れられる?
表情には表さず、けれど生唾を飲み込みながら、青年も体勢を低くしつつ大太刀の柄に手を伸ばす。
「シャーッ!!!!」
「……っ!」
勢いを増した威嚇音に青年が息を詰めた瞬間──
「……………………ぉじいちゃん、うるさぃ……むにゃ」
「「……………………」」
声の主は、幼い少女のようだった。
そして訪れる、無音。静寂。沈黙。
きょとん、とした顔の青年と、ビクッ!と反応して慌てだす大蛇。
「す、すまん。櫻……」
「!?だ、大蛇が喋った!?!?」
「んん~、おじいちゃんうるさいってぇ……ぐぅ」
「いや、今のは儂ではないぞ!」
「んんむぅ……」
まだ眠たげに目を擦りながら、大蛇のとぐろの中から少女がゆっくりと顔を出す。青年と目が合うと、その大きな瞳をぱちくりと瞬く。こてん、と首を傾げながら少女は可愛らしい声で言った。
「……お兄ちゃん、だぁれ?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる