花影のさくら

月神茜

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春の雨は、不思議な出会いを連れてくる

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春。
桜の香りが甘く周囲に立ち込める、とある日の昼すぎ。

獣狩ししがりとして日夜けものを狩る青年は、突然の雷雨に見舞われ、雨宿りができる場所を探して山の中を彷徨っていた。
曇り空だなぁ、とは思っていたが、ここまで天気が悪くなるとは思わなかったのだ。

初めて足を踏み入れた山だからか、どこに何があるかがさっぱりわからず、さっきから見当違いな場所を進んでいる気がする。


「足場が悪いな……」


土の足場はぐちゃりと音を立てて足に絡みつき、くっきりと足跡が残る。足跡にはすぐに水が溜まり、水は茶色く濁っていった。それらが足に絡みつくと、ただでさえ降る雨で体温を奪われている身体から、一気に体力も奪われていく。


「雨宿りができる場所は……」


周囲を見渡そうにも、雨で視界が悪い上に木々が邪魔をして遠くまでは見えない。
はぁ、とため息を一つついて、青年はとりあえず上を目指すことにした。この雨で増水した川の濁流に流される、なんてことは避けたい。

しばらく足場の悪い山道を登ると、道はだんだんと雨に濡れた石が目立つようになった。滑らないようにだけ気を付ければ、泥に足を置いた瞬間に足が滑って力が抜ける、あの気持ちの悪い感触を味わわずに済む。

重心のかけ方に注意しつつ、どこから来たのかわからない大きな石を跨いだ。土と石でできている、草の生えた足場を黙々と登っていく。目の前に現れた大きな岩を登ると、ふと目の前に洞窟が現れた。
15歳ほどの青年も屈まずに入れるくらい、洞窟は広く奥に続いている。地面はごつごつとしているが、歩けないほどの凹凸ではないし、雨宿りをするのなら奥に進む必要もない。雨に濡れない程度に中に入って、手拭いで身体を拭いていく。

仮にここが野生動物の巣だったとしても、彼らには悪いが青年は獣狩ししがりだ。自身に命の危険が迫れば、問答無用で狩らせてもらう。

身体を拭きながら、そう考えていた時だ。


「シャーッ!!」


青年の後方、洞窟の奥の奥から、明らかに獣のものと思われる威嚇音が聞こえてきた。
音は高く、熊や猪のような低いぐるる、という威嚇音ではない。

例えば、そう──


「……っ」


蛇のような、威嚇音。
警戒しながらじりじりと進んだ洞窟の奥には、真っ白な鱗に赤い目を持つ、巨大な蛇がいた。上体を起こし、青年に向かって威嚇している。全身はとぐろを巻いて洞窟の最奥に鎮座し、青年を完全に敵視して睨みつけていた。


────しまった、完全に気を抜いた。何やってんだ、俺。


青年は視線だけで周囲を見回して、音だけで周囲を探った。当然、何も無い。チリチリとした緊張感が青年のうなじを灼く。剣を抜いてしまえば、不利になるのは青年のほうだ。
青年の武器は大太刀だ。広い洞窟内とはいえ、大太刀を自由に振り回せるほどこの洞窟は広くない。


「シャーッ!!」


大蛇だいじゃはその場から動かない。しかし頭部を低くして青年を威嚇している。
どうする、どうすればいい?どうすればこの状況から逃れられる?
表情には表さず、けれど生唾を飲み込みながら、青年も体勢を低くしつつ大太刀の柄に手を伸ばす。


「シャーッ!!!!」
「……っ!」


勢いを増した威嚇音に青年が息を詰めた瞬間──


「……………………ぉじいちゃん、うるさぃ……むにゃ」
「「……………………」」


声の主は、幼い少女のようだった。

そして訪れる、無音。静寂。沈黙。
きょとん、とした顔の青年と、ビクッ!と反応して慌てだす大蛇だいじゃ
 

「す、すまん。さくら……」
「!?だ、大蛇だいじゃが喋った!?!?」
「んん~、おじいちゃんうるさいってぇ……ぐぅ」
「いや、今のはわたしではないぞ!」
「んんむぅ……」


まだ眠たげに目を擦りながら、大蛇だいじゃのとぐろの中から少女がゆっくりと顔を出す。青年と目が合うと、その大きな瞳をぱちくりと瞬く。こてん、と首を傾げながら少女は可愛らしい声で言った。


「……お兄ちゃん、だぁれ?」
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