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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
異世界再認識 店主、暗闇の中で八方塞がり
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店主の、巨大な魔力の事情を口止めしてもらいたい願いに応えるジムナーとニィナ。
しかしジムナーはともかく、ニィナに迅速さが足りなかった。
病室から出たニィナは自分の店に戻り、手伝いに来ていた者達へ店主の事を誰にも話さないように釘を刺したが、すでにデルフィが何人かに店主の話をしていた後だった。
噂とは、その件の当事者ではない者がその話を耳にし、その件において負う責任がなく、気軽に誰かに伝えることで発生することが多い。そしてそれは瞬く間に広がる。
心の中に生ずる不安を持つ者は、その噂によっても少しずつ増える。
店主、デルフィ、彼と一緒にニィナ=バナー建具店に手伝いに来る五名ほどの若者たち。
そして、それまでは特に気にしなかったが、ニィナも少なからず不安を感じるようになる。何せ来訪者による被害者の一人でもあるからだ。
店主が入院している魔術診療所の医師のジムナーも、不安はないものの店主には関心は持つようになる。
店主は人生で一番、この上ない不安の中に埋もれている。
自分に襲ってきた者は誰なのか、目的は何なのか、次はいつ、どこから狙われるのか。
そんな思いが何度も繰り返される。
苦しい思いから逃れたいために、何度も何度もその原因を突き止めようと考える。
結局最後は、セレナがこの世界に自分を引きずり込んだためという結論となる。
しかしその結論が出たところで、事態が好転するわけでもない。
その彼女は店主の知らないところに冒険者としての仕事をしていて、いつ帰って来るか分からない。
(この世界で、何とか筆談は出来るが会話が出来ない。だから不安を聞いてもらうこともできないし、適当な相手もいない。……義理はない。義理はないが、あのクソジジィとのことを周囲に打ち明けるわけにもいかない)
[そうだ。日本に帰ればそれでいいんじゃ……!]
横たわっていたベッドから跳ね起きて、突然閃いた解決策に思わず声が出る。
しかし間が悪いことに、店主の傍に居た人物は見舞いに来たニィナではなく、わずかな間席を外す代わりに病室にいるように彼女に頼まれたデルフィ。
いきなりの日本語に、デルフィは明らかに不審人物を怪しむような目で店主を睨む。
「……あんた、一体何者だ? 大陸語じゃねぇし、群島語でもねぇ。聞いたことのねぇ言葉だぜ? 姐御はあんたのこと心配してたけどよ、俺はお前も怪しいって思ってんだよ。だってあんた、自分の事何にも喋んねぇじゃねぇか。疚しいこと、あるんじゃねぇのか?」
しかし店主には普通に喋る言葉の速さには耳がついていけず、何と言われているのか分からない。
そして自らのその発想は自分で打ち消すことになった。
(……そう言えばあのクソジジィ、その気になったらあの扉の効果の制限を取っ払うことが出来るって言ってなかったか? それが出来るのはあのジジィだけとは限らない……。逃げ場がどこにもねぇ……。なんてこった)
そう考えてしょげる店主。
しかしデルフィには店主の考えていることは分からない。デルフィは、店主の動作は自分の言ったことが図星であることが証明されたようなものと受け取った。
「なぁ、あんた。そろそろ正体現せよ。あんた一体何者だ? 姐御に何しようとした? 何企んでやがんだ!」
デルフィは立ち上がり店主の傍に近寄って胸ぐらを掴む。
予想もしなかった行為に店主は更に戸惑う。
「なぁにやってんだ、デルフィ! テンシュに何してんだい!」
「あ、姐御! だってこいつ、何にも喋らねぇしよ!」
その時病室に入ってきたニィナ。二人の体勢を見て、デルフィに怒りの感情をむき出しにする。
「喋りたくないならしょうがねぇだろ! 過去の事言いたがらねぇ奴なんざこの町には山ほどいるさ! わけわかんねぇ言葉喋るだけでそんな事して何がどう変わるんだい!」
片手で店主の胸ぐらを掴むデルフィのもう片方の手は、硬い握り拳が作られていた。
「得体のしれない人物の手先。そうかもしれないとしても、一緒に被害を受けたんだ。黒幕の手掛かりにはなりゃしないしトカゲのしっぽも同然じゃないか。切り捨てられて、それでも生きてるなら身の置き場がどこにもないってことだよ。大体それでも身を挺してあたしを守ってくれたんだ。恩人であることには違いないんだよ!」
デルフィの両手から力が抜ける。
店主はデルフィから解放されたが、だからと言って店主の考える対策は何も浮かばない。
起き上がる気力も失った。
しかしニィナは、それはデルフィに脅されたせいと考え、店主に無礼を詫びながら労わる。
勘違いではあるが誰もそれを指摘は出来ない。
店主は店主で、言葉はすぐには理解できないまでも、ニィナの気遣いは理解した。
だが店主が今求める物ではない。
メモに乱暴に書き込む店主。
「……少し、休みたい、か。うん、分かった。ロビーにいるから、何かあったら、あたしを呼びな」
店主にはニィナの言葉は聞き取れたが、理解しようとする気力もない。
ニィナとデルフィは静かに病室を出る。
(……こんな気持ちになったのはいつ以来か。いや、初めてだな。これが絶望ってやつか)
両手によって視界を遮り、そのまま暗闇の中に居続ける店主。
彼が出来ることは、思考をそこから自分の過去の記憶を漂わせるだけしか出来なくなった。
しかしジムナーはともかく、ニィナに迅速さが足りなかった。
病室から出たニィナは自分の店に戻り、手伝いに来ていた者達へ店主の事を誰にも話さないように釘を刺したが、すでにデルフィが何人かに店主の話をしていた後だった。
噂とは、その件の当事者ではない者がその話を耳にし、その件において負う責任がなく、気軽に誰かに伝えることで発生することが多い。そしてそれは瞬く間に広がる。
心の中に生ずる不安を持つ者は、その噂によっても少しずつ増える。
店主、デルフィ、彼と一緒にニィナ=バナー建具店に手伝いに来る五名ほどの若者たち。
そして、それまでは特に気にしなかったが、ニィナも少なからず不安を感じるようになる。何せ来訪者による被害者の一人でもあるからだ。
店主が入院している魔術診療所の医師のジムナーも、不安はないものの店主には関心は持つようになる。
店主は人生で一番、この上ない不安の中に埋もれている。
自分に襲ってきた者は誰なのか、目的は何なのか、次はいつ、どこから狙われるのか。
そんな思いが何度も繰り返される。
苦しい思いから逃れたいために、何度も何度もその原因を突き止めようと考える。
結局最後は、セレナがこの世界に自分を引きずり込んだためという結論となる。
しかしその結論が出たところで、事態が好転するわけでもない。
その彼女は店主の知らないところに冒険者としての仕事をしていて、いつ帰って来るか分からない。
(この世界で、何とか筆談は出来るが会話が出来ない。だから不安を聞いてもらうこともできないし、適当な相手もいない。……義理はない。義理はないが、あのクソジジィとのことを周囲に打ち明けるわけにもいかない)
[そうだ。日本に帰ればそれでいいんじゃ……!]
横たわっていたベッドから跳ね起きて、突然閃いた解決策に思わず声が出る。
しかし間が悪いことに、店主の傍に居た人物は見舞いに来たニィナではなく、わずかな間席を外す代わりに病室にいるように彼女に頼まれたデルフィ。
いきなりの日本語に、デルフィは明らかに不審人物を怪しむような目で店主を睨む。
「……あんた、一体何者だ? 大陸語じゃねぇし、群島語でもねぇ。聞いたことのねぇ言葉だぜ? 姐御はあんたのこと心配してたけどよ、俺はお前も怪しいって思ってんだよ。だってあんた、自分の事何にも喋んねぇじゃねぇか。疚しいこと、あるんじゃねぇのか?」
しかし店主には普通に喋る言葉の速さには耳がついていけず、何と言われているのか分からない。
そして自らのその発想は自分で打ち消すことになった。
(……そう言えばあのクソジジィ、その気になったらあの扉の効果の制限を取っ払うことが出来るって言ってなかったか? それが出来るのはあのジジィだけとは限らない……。逃げ場がどこにもねぇ……。なんてこった)
そう考えてしょげる店主。
しかしデルフィには店主の考えていることは分からない。デルフィは、店主の動作は自分の言ったことが図星であることが証明されたようなものと受け取った。
「なぁ、あんた。そろそろ正体現せよ。あんた一体何者だ? 姐御に何しようとした? 何企んでやがんだ!」
デルフィは立ち上がり店主の傍に近寄って胸ぐらを掴む。
予想もしなかった行為に店主は更に戸惑う。
「なぁにやってんだ、デルフィ! テンシュに何してんだい!」
「あ、姐御! だってこいつ、何にも喋らねぇしよ!」
その時病室に入ってきたニィナ。二人の体勢を見て、デルフィに怒りの感情をむき出しにする。
「喋りたくないならしょうがねぇだろ! 過去の事言いたがらねぇ奴なんざこの町には山ほどいるさ! わけわかんねぇ言葉喋るだけでそんな事して何がどう変わるんだい!」
片手で店主の胸ぐらを掴むデルフィのもう片方の手は、硬い握り拳が作られていた。
「得体のしれない人物の手先。そうかもしれないとしても、一緒に被害を受けたんだ。黒幕の手掛かりにはなりゃしないしトカゲのしっぽも同然じゃないか。切り捨てられて、それでも生きてるなら身の置き場がどこにもないってことだよ。大体それでも身を挺してあたしを守ってくれたんだ。恩人であることには違いないんだよ!」
デルフィの両手から力が抜ける。
店主はデルフィから解放されたが、だからと言って店主の考える対策は何も浮かばない。
起き上がる気力も失った。
しかしニィナは、それはデルフィに脅されたせいと考え、店主に無礼を詫びながら労わる。
勘違いではあるが誰もそれを指摘は出来ない。
店主は店主で、言葉はすぐには理解できないまでも、ニィナの気遣いは理解した。
だが店主が今求める物ではない。
メモに乱暴に書き込む店主。
「……少し、休みたい、か。うん、分かった。ロビーにいるから、何かあったら、あたしを呼びな」
店主にはニィナの言葉は聞き取れたが、理解しようとする気力もない。
ニィナとデルフィは静かに病室を出る。
(……こんな気持ちになったのはいつ以来か。いや、初めてだな。これが絶望ってやつか)
両手によって視界を遮り、そのまま暗闇の中に居続ける店主。
彼が出来ることは、思考をそこから自分の過去の記憶を漂わせるだけしか出来なくなった。
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