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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
店と村 店主とセレナのすり合わせ
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「どういう風の吹き回し?」
「何がよ」
セレナと店主は竜車に乗り、予定通り三日ほどかけて王都のミラージャーナにたどり着いた。
「ここ、首都よ? 皇居のある都市じゃない。てっきりテンシュ、猊下から遠い所に引っ越し先のメドつけるのかと思ってた」
「首都っつっても広いだろ。それと一々トラブル食らって引っ越しを余儀なくされるってのも面倒くせぇしな」
人口が多い首都とはいえ、郊外は自然が豊かな場所が多い。
御者に、土と水がきれいなところ。贅沢を言えば岸壁も近くにある場所を尋ね、該当する場所まで案内してもらい、そこで降りる。
「店をやるんなら、そこでずっと続けられる方が面倒がなくていいやな。だったら素材がたくさんありそうな町や村より、人が多い都市のこんな場所で展開した方がいい」
「でも量は多くなさそうだよ? もっとも種類より中身の良さを優先するならここも悪くはなさそうだけどさ」
「その地域に愛着がある奴からすりゃ、余所者に対しては、ようこそいらっしゃいましたと歓迎するか、この土地のことは我々がよく知ってるから我々の言うことに従うようにって言われるかのどちらかじゃねぇか?」
その地域の前知識も何もない者がいきなり店を構えて、その地域のために貢献できることはほとんどない。
よしんばあったとしても、その地域や住民達はそれを受け入れてもらえるだろうか。
店主はセレナがいつからベルナット村であの店を始めたかは知らない。
しかしそれでも歓迎されず、このように出て行くことになる。
店を構え営業するためそこで生活し、衣食住を満たすためにその地域で製造販売している物で補充するだけでは、その地域に貢献しているとは言い難い。
なぜなら協力体制をとることが出来る同業者であるかもしれないが、他店の売り上げを阻む商売敵ともなるからだ。
競争社会が良い方向で地域に関わると地域の活性化につながるが、足の引っ張り合いになると悪い評判が生まれるだけ。雰囲気を悪くする一方である。
「そんなこと言ってたらどこも同じじゃない。ここだって追い出される時が来るかもしれないよ?」
「ところがそうはなんねぇよ」
「え?」
「あの村は俺達を追い出した。なぜか。俺達がいなくなることで自分の生活が良くなる。それは当てはまるだろう。だがそれだけじゃ俺達が村から出て行かなきゃならねぇ理由はない」
そのことで生活が良くなる者もいるだろう。でも追い出そうとする奴が他のところに引っ越ししても問題ないはず」
「えーと……それはちょっと違うんじゃない? 私達『だけ』が引っ越ししたら、残った全員の生活が良くなるってことなんじゃないかな。追い出そうとしてるのって一人や二人じゃないから、チェリムさんの耳にも入ったんじゃない?」
井戸端会議のレベル。
チェリムはそう言っていた。
セレナの言う通り、一人や二人どころではそうはなるまい。いわゆる公的発言か私的発言かと言うレベルではないだろうか。
「一人が引っ越して解決するか、それ以外すべてが引っ越しして解決するか。この二通りの解決法なら初めの方が手っ取り早く解決できる。だが理由はそればかりじゃねぇ」
草を踏む感触、足の下から感じる土の力、これらを噛みしめながらゆっくりと歩く店主は、頭の中もゆっくりとしかし確実に思考を進めていく。
「郷土愛、土着愛。これの濃淡の問題も当然あるが、この場合は村に対する責任の所在、責任感の有無も関わってくるかもしれん」
「……確かにあの村を良くしようっていう思いは……」
「勘違いすんな。それが正しいか間違ってるかは、あの村に居たいか出たいかによって答えは変わる。善悪の問題じゃねぇな」
落ち込むセレナを励ます気は毛頭ない。しかしこれから生活する上でも必要な知恵でもある。
それはセレナにも理解してもらわなければ、生活の基盤の意地すら危うくなる。
「何がよ」
セレナと店主は竜車に乗り、予定通り三日ほどかけて王都のミラージャーナにたどり着いた。
「ここ、首都よ? 皇居のある都市じゃない。てっきりテンシュ、猊下から遠い所に引っ越し先のメドつけるのかと思ってた」
「首都っつっても広いだろ。それと一々トラブル食らって引っ越しを余儀なくされるってのも面倒くせぇしな」
人口が多い首都とはいえ、郊外は自然が豊かな場所が多い。
御者に、土と水がきれいなところ。贅沢を言えば岸壁も近くにある場所を尋ね、該当する場所まで案内してもらい、そこで降りる。
「店をやるんなら、そこでずっと続けられる方が面倒がなくていいやな。だったら素材がたくさんありそうな町や村より、人が多い都市のこんな場所で展開した方がいい」
「でも量は多くなさそうだよ? もっとも種類より中身の良さを優先するならここも悪くはなさそうだけどさ」
「その地域に愛着がある奴からすりゃ、余所者に対しては、ようこそいらっしゃいましたと歓迎するか、この土地のことは我々がよく知ってるから我々の言うことに従うようにって言われるかのどちらかじゃねぇか?」
その地域の前知識も何もない者がいきなり店を構えて、その地域のために貢献できることはほとんどない。
よしんばあったとしても、その地域や住民達はそれを受け入れてもらえるだろうか。
店主はセレナがいつからベルナット村であの店を始めたかは知らない。
しかしそれでも歓迎されず、このように出て行くことになる。
店を構え営業するためそこで生活し、衣食住を満たすためにその地域で製造販売している物で補充するだけでは、その地域に貢献しているとは言い難い。
なぜなら協力体制をとることが出来る同業者であるかもしれないが、他店の売り上げを阻む商売敵ともなるからだ。
競争社会が良い方向で地域に関わると地域の活性化につながるが、足の引っ張り合いになると悪い評判が生まれるだけ。雰囲気を悪くする一方である。
「そんなこと言ってたらどこも同じじゃない。ここだって追い出される時が来るかもしれないよ?」
「ところがそうはなんねぇよ」
「え?」
「あの村は俺達を追い出した。なぜか。俺達がいなくなることで自分の生活が良くなる。それは当てはまるだろう。だがそれだけじゃ俺達が村から出て行かなきゃならねぇ理由はない」
そのことで生活が良くなる者もいるだろう。でも追い出そうとする奴が他のところに引っ越ししても問題ないはず」
「えーと……それはちょっと違うんじゃない? 私達『だけ』が引っ越ししたら、残った全員の生活が良くなるってことなんじゃないかな。追い出そうとしてるのって一人や二人じゃないから、チェリムさんの耳にも入ったんじゃない?」
井戸端会議のレベル。
チェリムはそう言っていた。
セレナの言う通り、一人や二人どころではそうはなるまい。いわゆる公的発言か私的発言かと言うレベルではないだろうか。
「一人が引っ越して解決するか、それ以外すべてが引っ越しして解決するか。この二通りの解決法なら初めの方が手っ取り早く解決できる。だが理由はそればかりじゃねぇ」
草を踏む感触、足の下から感じる土の力、これらを噛みしめながらゆっくりと歩く店主は、頭の中もゆっくりとしかし確実に思考を進めていく。
「郷土愛、土着愛。これの濃淡の問題も当然あるが、この場合は村に対する責任の所在、責任感の有無も関わってくるかもしれん」
「……確かにあの村を良くしようっていう思いは……」
「勘違いすんな。それが正しいか間違ってるかは、あの村に居たいか出たいかによって答えは変わる。善悪の問題じゃねぇな」
落ち込むセレナを励ます気は毛頭ない。しかしこれから生活する上でも必要な知恵でもある。
それはセレナにも理解してもらわなければ、生活の基盤の意地すら危うくなる。
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