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お茶会は難あり
白と黒がめぐる時
しおりを挟む私たちは馬車でカナサーディン侯爵家に向かった。カイン付きの執事、ケイさんと一緒に和気あいあいと楽しくおしゃべりしながら時間は過ぎて、ついに侯爵家に到着した。
サルディーナの挨拶からお茶会は和やかに始まった。
私、フィーシアとカインは挨拶をしながら席を回っていく。途中、素敵な婚約者様ですね、とかますますカイン様は素敵になられましたわね、とかカインのことを喋るご令嬢達を笑顔でスルーしていきながら、なんとか乗り切れた。
「カイン、きてくれたのね。嬉しいわ。あら?」
挨拶がひと段落ついた後、プライベートな時間が始まると同時に、光の反射で神々しく感じるサルディーナが声をかけてきた。
「…サルディーナか。ここ最近はあまり会わなかったね。婚約パーティーぐらいかな?」
隣にいたカインがいつのまにか私がサルディーナを見えないくらい前に立ちはだかり、王子様ルックスによく合う余所行きの口調に変わった。
「…ええ。そうそう、そちらの方は?」
サルディーナが私に目線をよこす。カインと喋っていた時の熱っぽい声色が変化はしないが、冷めたような目と表情によって敵対意識を持たれているのがわかった。
カインの背中をぐいっと押しのけて、淑女らしく礼を取る。
「え、あ。私は、フィーシア・バーバジニです。今日はご招待ありがとうございます」
「わたくしはサルディーナ・カナサーディンです。どうぞよろしくですわ。婚約者様?」
ゲームよりも一段と美しく見えるアルビノの少女。
一瞬、カインがとても心配した顔、サルディーナが、とても歪んだ笑みを浮かべていた気がした。
「あら、ご冗談ですわよ、うふふ。フィーシア様と呼んで良いかしら?婚約パーティーの頃から存じていましたわ!フィーシア様はとても可愛らしい方ね。噂とは大違い」
「う、噂ですか…?サルディーナ様も神秘的なお姿ですわね!」
「ふふふふ。噂はね、カインに取り憑く黒の髪の魔女とか、殿下に近づく不届き者、とかですわねぇ。御本人に知られていないのも無理ありませんわね」
『噂はね、お前がカインに取り憑く魔女とかあまつさえ殿下にも近づく不届き者のことを言っているのよ!貴女には知られていないかもしれないわねぇ』
自分でもわかりやすく心に響く。これはゲーム内でサルディーナがヒロインに言った一言と重なりがあった。
カインに取り憑くと噂されるのはサルディーナの取り巻きが総出で広げていくからだろう。不届き者は、転生している前のフィーシアの姿からだろう。
側で黙って見ていたカインが、声を荒げて私の肩を抱き寄せる。
「サルディーナ!フィーシアを虐めるな!」
『サルディーナ!○○を虐めるな!』
ゲームのイベントと混ざり合う。
やっぱりここはゲームの世界なんだ。
どうしよう。
どうしたらいいの。
(私はカインの邪魔してまで人の恋路を踏み潰しちゃうの?…いいえ違う。これは彼らの意思。決めたじゃないフィーシア!カインの隣を歩んでいくと!)
靄がかかっていたのが晴れたように頭が回りだす。
(そうね。サルディーナ、今度は私のターンよ)
「…カイン、荒げないでくださいませ。サルディーナ様
ところでこの庭地の花は立派ですわね。すみません、わたくし、今植物に興味がありまして、特にあの花とか」
私の目線には、大輪の花から離れた隅の方に鉢植えに入っている小さく可憐な花がある。
崩れかけていた笑顔をもう一度引き締めた。サルディーナは、顔を大きく強張らせた。
「あ…あの花ですか?すみません、私が育てている花ですので、フィーシア様にはお目汚しにきっとなってしまうわ」
「あら!なおさら見てみたくなってしまいましたわ!是非近くで見たいですわね」
固まりだしたサルディーナを横目に、カインを見つめる。
「っ?どうしたフィーシア?」
心配そうに見つめてくる瞳は、私の好きな色。
(だからこそ、彼を、私の想いびとを守り続けたい!)
「カイン…しばらくはごめんなさい…!」
「ふぃ、フィーシアッ?!」
私は静々と花に歩いて行った。
サルディーナとカインは訳もわからず困惑している。
今の私は知識足らずの、常識足らずの令嬢。
演じるのだ。なにも言わせずやるために。
サルディーナが育てている花は『七星花』と呼ばれるこの世界の元のゲーム独自の毒をもつ花だ。
名前の由来は、7つの花が咲きその花が美しい7つの種を実らせることからだ。
実って栄養を蓄える種は星のような煌めきを持ち、暗闇ではまさに星の煌めきのように美しく見えるという。
「な、いけませんわ!お辞めになってッ」
サルディーナが強張りながら必死になって走り、止めにかかる。
私は星の様に煌めく種の一つを手に取り、匂いを嗅いだ。ふわりと甘ったるい香りがする。途端に頭は回らなくなり、やがて体は立つことをやめた。
ドンッ…
視界が大きく落ちる。
最早感覚もなくなりつつある私はそのままサルディーナが育てている七星花に手を伸ばす。
(綺麗、綺麗、きれい…)
届かなかった手は宙を切った。
「あ、あぁ…あ。いやぁぁあああ!」
「…ふぃ、フィーシアッッ!」
サルディーナは狼狽し、カインは私にすぐに駆け寄った。
整っている顔。
本当に綺麗ね。
涙で霞んでるわ…貴方は泣かないで。
少しだけ、眠らせて、…ごめんなさい。
「~~~!ッ!____………」
白い髪はサルディーナね、そして私の瞳に大きく映っているのは、カイン、ね。
もうなにを話しかけてくれてるかわからなくなっているけど、心配しないで。
******
「君には驚かされたよ…フィーシア」
毒で眠りについた筈の私に移ったのは、あの日見た鳥だった。
応援ありがとうございます!
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物凄く好みのお話でした!
いつ更新されるか分かりませんが、とても楽しみに待っています!(*≧∀≦*)
感想ありがとうございます!
気長にお待ち頂けると幸いですm(__)m
少しずつですが、これからも作品共々よろしくお願いします。