ド田舎男爵令嬢、実家に仕送りします

那珂川

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転生したようです

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「お嬢様!又そんな所に登って!」

「だって雨漏りがするんだもの!早く修繕しないと!」

「それは業者を頼みますから、早く降りてきて下さい!」

「頼んだらお金かかるじゃない!うちは貧乏なんだから、出来ることは自分でしなきゃ!」



  お屋敷の屋根の上から私は庭のアネッテへ声を張り上げる。張り上げないと聞こえないからね。



「と、兎に角っ お茶の時間ですから降りて来て下さい!又奥様に怒られますよ!」



  マズイ……それだけは勘弁して欲しい。



「分かった!降りるから!」



  私は持って来た板はそのままにして、金槌を中に戻した道具箱を持ってスルスルと2m横の窓枠まで移動する。そして窓から室内に入ると急いでテラスがある広間へと向かう。

  髪を整えドアを開けるとお母様が既にお茶を召し上がっていた。



「お母様、遅くなって申し訳ございません」

「いいのよ。それよりレティシア、先程『貧乏』だの何だのと声が聞こえましたが、まさか貴女ではないですよね?田舎とは言え、我が男爵家は腐っても貴族。その様な端ない声は挙げませんよね?」



  お母様は笑顔だけど、背後からゴゴゴゴゴって聞こえてくるし、圧が凄いし、『腐っても』って言ってるし…



「ま、まさかワタクシが……オホホホホ」

「ところでお天気はどうでしたか?」

「すっごく良い天気ですよ!今のうちに屋根を修理しておけば次の雨も安心…」

「れーてぃーしーあー??」

「あ…………」









  2時間後、漸く説教から解放された私は道具箱を持って窓枠に上がり、コソコソと屋根へ戻って来た。石板と上板を剥がせば、腐っている部分があり隙間が開いて、ここから雨漏りしていたらしい。

  その部分の板を2枚取り外し、新しい板に取り替え釘を打つ。

  多分お母様には聞こえてるだろうなぁ…。



  修理が終わる頃には陽は傾き色を変え、庭にある木の影も長くなっていた。



 



  私の名前は宇賀神 あかり。元日本人。

  現在はレティシア・ダークサイト

  ダークサイドじゃなくてダークサイト。

 

  日本のド田舎の村に住んでた私は成績が良かった為に、高校の先生に言われるまま東京の大学を受験して合格、両親が遺してくれたお金を入学金にして進学した。大好きな村の為に勉強して貢献するつもりだったのに、世の中甘くなかった。

  周りの同級生の様に仕送りがあるわけじゃなく、奨学金制度を利用した私は毎日の授業とアルバイトに追われて疲れ果てていた。多分都会の生活も合わなかったんだと思う。空気悪かったし。

 

  そしてある日のバイトからの帰り道、私は3人の男に絡まれ、腕を掴んできた男に平手打ちをしたのだ。逆上した男は私を車道に突き飛ばした。

  運悪く走ってきた乗用車に跳ね飛ばされ、そのまま意識を失った。



  目が覚めると私は何処かに寝かされてて、声を出そうにもウーとかアーしか出せず、ハッキリとは見えない視界に赤ん坊の右手を見た。動かしてみればやはり自分の手で、その時に輪廻転生したのだと分かった。



  暫くの間、状況を確認してみる。

  確認してみると言っても20代前後サリーと30代前後アネッテという外国人顔メイドの言葉に耳を傾けてただけだけど。

  時々凄く綺麗で優しい人が来て笑いかけてくれるのが嬉しかったんだけど、その優しい人は今は鬼になってるお母様だったりする。

  お父様も美形だけど、丁度眠りかけた時に私にちょっかい出してくるからお母様やメイドに怒られてたな。可哀想に。

  そして私が掴まり立ち出来るようになった頃、漸くここが異世界であることが判明した。

  だって庭の花にお父様が魔法で水をやってたから。

  庭師は居ないのかって?庭師が居たら屋根の修理なんかしないわ。

  辛うじてメイドさんは二人居るけど、私が生まれたのはド田舎貧乏男爵の娘としてだったりする。



  しかし私は悲観するどころが田舎の風景を見て喜んだ。空気は美味しいし、水も美味い!

  それにお父様は地元に優しい領主であることから、領民との距離も近かった。

  だから私はもの心ついた頃には村の子供達とも気軽に遊んだ。

  家督はお父様に似て優しい1つ上の兄が継ぐし、12歳になった私は自由に………とはいかないものの(貴族としてのマナーやダンスの練習は苦手だったりしたので)、充実した日々を過ごしていた。





  そして



「あら、今日は豪勢ね。ボア肉かしら?」

「はい奥様。久しぶりに手に入りまして」

「もしかしてこれはレッドボアじゃないかい?」

「左様でございます、旦那様」



  テーブルにいつもより豪勢な料理が並ぶ夕食時、一瞬沈黙が生まれた。



「………レティシア?まさか貴女……森に入ってないわよね?」

「あ…えっと……最近森からレッドボアが畑にまで出てくるって村長が……」

「レティシア!いつも言ってるでしょ!貴女はダークサイト家の令嬢なのよ!何で率先して狩りまくるの!?」

「まぁまぁ、無事ならいいじゃないか?節約にもなるし。確かこの前ブルーベアも倒したんだっけ?レティシア」

「何言ってるんですか、貴方は!こんなにお転婆で嫁ぎ先があると思って!?」

「大丈夫だよ、お母様。レティシアなら結婚相手も仕留めてくるって」



  えらい言われようだ。

 

  お父様の魔法を見た私はそれから魔力向上に勤しんだ。

  ラノベにも書いてあった魔力枯渇方法を繰り返し、今ではレッドボアどころか3mはあるブルーベアも倒すことが出来るようになった。

  しかし私はそれで満足しない。

  書庫で読んだ魔法の本には会得してない魔法が沢山あり、ドラゴンが存在すると言う記述もあった。

  きっと前の人生より楽しめるはず!



  そう思っていた矢先、お母様からの言葉に愕然とする。



  「このままでは本当に野生児になってしまうわ」



  本気で悩んだお母様は王都にある王立魔法学校への入学を決めてしまったのだ。



「え?お兄様も行ってないのに?」

「僕は来年王立騎士学院に行くことになってるよ。魔法学校も14歳からだけど、レティシアの魔法と勉強のレベルなら大丈夫だから飛び級させるって鼻息荒く言ってたね」

 

  えええええ 都会は嫌だよーーーー!



「お兄様……」

「あ、僕にはお母様を止めることは出来ないからね。多分お父様にも無理だと思う。それに僕はレティシアの実力は領内で燻らせるのは勿体ないと思うよ。レティシア好きでしょ?『勿体ない』って言葉」





  それから1ヶ月後、私は村の用心棒パックさんが御者をする馬車で、20代のメイドのサリーと共に魔法学校の試験を受けに王都へと向かった。

  馬車で5日掛け王都に入り宿を借りる。

  もし合格すれば入学式後は寮生活になる。



  王都の印象?

  予想通り中世ヨーロッパの街並み、人も多い。

  普通の少女なら都会に出れば喜ぶんじゃないかと思う。だって華やかなお店も多いしね。

  でも宿から見える範囲に山も森も無い。

  それが前の人生のトラウマを呼び起こし、私は憂鬱になった。

 

 



  試験当日

  受験生の中に居て思ったことがある。

 

  この国の美形率の多さ。

  地球でも外国では顔の整った人が多かったように思うが、ここまでじゃなかったと思う。

  まぁ、私には関係無い。

  落ちたら落ちたでお母様からの制裁が待ってる身としては全力で試験を受けるしかないのだ。



  筆記試験を終え次は実技試験。

  予想してなかったのは昼休憩挟まずに実技試験が行われたことだった。

 

  え?お昼ご飯抜き??え?

  今朝緊張して紅茶しか飲んできてないのに?



  「あの……顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」



  その声の主を見ると

  うわっ!美少女ーーーー!

  目玉クリクリ!

  これまたピンクの髪ときたーーー!

  え、これ何ゲー??

  あ、ダメダメ、冷静にならなきゃ。

 

「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「いえ、初めて見た時から気になっておりまして、儚げで…」



  え?儚げ?誰が?



「わたくし、アイラ・デティールと申します。共に試験頑張りましょうね」

「はい、頑張りましょう」



  試験内容は簡単な物で、それぞれ得意な魔法を見せることだった。



  五人ずつ試験は行われた。

  それぞれ水魔法や火魔法を披露するが、何やら皆ボソボソと呟いている。

  あれって詠唱ってやつかな?ヤバい、私詠唱知らないんだけど。それに皆手加減してんのかな?

  多分ご両親が優しいのね。私みたいにマナーの時間に逃亡計っただけでお尻を叩かれた後に説教2時間とか無いんだわ。



  先程のアイラちゃんは詠唱で魔法陣を床に描き、可愛らしい兎を召喚していた。

  ちょ、美少女とモフモフの兎って、御褒美ですか?いや、私はオッサンじゃないけど、可愛い物は大好きなのよ。だから目の前で召喚した兎を抱っこしてる姿に鼻血が出そうになるのも仕方ないことなのよ。



  名前を呼ばれてハッとする。私の番だ。

 

  私は森でも使っていた氷魔法を選ぶ。氷だと獲物の毛皮も焼けないし、便利なのよね。



氷の砲弾(小)アイス・シェル



  心で唱えると上空に魔法陣が3つ浮かび上がり、2m程の菱形の氷を試験会場に撃ち付けた。

 

  あ、床破壊してしまった……。もしかして弁償??

  いや、だって試験会場だから壊れにくい素材で造られてるんじゃないの??



  ザワザワしていた会場内は静まり返り、私はオロオロしてしまった。



  弁償なんて家には無理だよ。どうしよう。



「受験番号44番ですよね?」



  試験官が恐る恐る声を掛けてくる。

  はい、日本では不吉なその番号は紛れも無く私です。

 

  はい、と答えるとその試験官は他の試験官と慌てて話しだし、アイラちゃんはこちらを見てウットリしていた。





  合格発表はその日の午後に言い渡されるので、私はアイラちゃんと一緒に学園の食堂へ向かい昼食を摂ることにした。合格すれば寮生は無料チケットが貰えるらしい。とても魅力的な話だ。



  そう言えば名前を言ってなかったなと思い、アイラちゃんに名を告げるとレティシア様と言われたので、様は要らないと言ってみた。



「それではレティちゃんで宜しいでしょうか?」

「アイラちゃん、敬語も要らないよ~」

「あ、幼い頃からの癖でして、この話し方の方が楽なんですよ」

「だったらいっかぁ」

「それにしてもレティちゃんの魔法、とっても素晴らしかったですわ」

「ん?そうかな?弁償しろって言われなくて本当に良かったよ」



  私は心底胸を撫で下ろす。



「だって無詠唱であの威力でしょ?試験官の方々も大慌てでしたわ」

「へ?あれは私が床を壊したからじゃないの?って言うか、皆詠唱してたけど、それが普通なの?」

「基本的には詠唱するのですわ。確か魔法学の歴史によれば無詠唱では効果が殆ど無いって言われてるんですのよ」

 

  私の魔法は書庫にあった本の通りにしたものだけれど、その本にはそんなこと書かれてなかったな。

  すっごく古い本ではあったけど。



「それにその白金の御髪が舞って、発動する姿はとても美しかったですわ」

「お、お世辞はいいよぉ~!私よりアイラちゃんと召喚獣の方が綺麗で可愛かったよ!」

「レティちゃんったら…そんなこと仰られると恥ずかしいです……」



  真っ赤になったアイラちゃん、どストライクです。



「それはそうとレティちゃんは、もしかするとダークサイト家の関係者ですの?」

「うん」

「だと思いましたわ。その紫の瞳はダークサイト家独特のものですものね」

「うーん、私のコンプレックスなんだよね、これ」



  お父様とお兄様の髪は私と同じ白金だけど、綺麗な紫色の瞳をしている。

  私の瞳はと言うと、パッと見紫っぽく見えるのだけれど、虹彩部分の上半分がピンク、下半分がブルーで、偶にその色が濃くなったりするらしい。

  物語であれば中二病全開でドヤ顔出来そうだけど、実際そんな瞳を持ってしまうと自分でも気持ち悪い。

  お母様はブルーの瞳なので、遺伝子的にこんな色になるとも思えず、私のコンプレックスになっている。

  家族や村の人々は気持ち悪がったりはしないが、私が領地を離れるのが嫌だった理由の1つでもある。

  王都に着いて、周りの人々の瞳を確認してみたが、見た限りでは同じような瞳を持った人は居なかった。



「とてもお綺麗なのに……」

「えへへへ、ありがとう」





  ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐





「受験番号44番、ダークサイト家か」

「ダークサイトと言えばあの大魔法士『唯一の無詠唱演者』の子孫か!?」

「しかしここ何十年と名前も聞かなくなっていたが」

「一応男爵家として田舎の小さな領地で細々とやっていたようだが?」

「試験に当たった者からの報告では無詠唱だったとか」

「「「「・・・・・・・・」」」」



「筆記試験はどうだったんだ?」

「一問不正解でした……」

「一問?その問題は?」

「詠唱に関する問題で、『分かりません』と書いてありました」



「これは……周りも上位成績者で固めるしかないな……早速発表の準備をしてくれ」
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