ド田舎男爵令嬢、実家に仕送りします

那珂川

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出逢い

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「あれが噂の殺戮の銀乙女か?」

「そうそう、ワイバーンを取って来たかと思えば、何日か後にグリーンツッチーノッコを取ってきて、ギルドもその素材売買で懐がホクホクだとさ」

「マジかよ……」



  俺は最近噂になってると言う少女の話を確認しに冒険者ギルドに来ていた。

  見れば華奢な女の子で、美少女って言われればそうかもしれないなって感じの子だ。

  俺は女の美醜には疎くて、周りがウットリしている相手でもピンと来たことがない。

  社交界でも化粧して宝石ジャラジャラ付けて澄ましている姿見ても美しいなんて思ったこともなかった。



  そう考えてる内に、殺戮の銀乙女は何かのクエストを選んだようだった。

  俺はコソコソするのが苦手だから直接聞いてみようと思う。



「よぉ、殺戮の銀乙女」

「は!?何それ!?」

「え?周りがそう言ってたけど…?知らなかったのか?」

「いや、知らないわよ。何その凶悪な二つ名…」



  ん?周りの奴等の顔が青褪めてるけど、どうしたんだろ?



「まぁ、それより活躍してるって?今日はどんなクエスト選んだんだ?」

「………」

「あ、絡んでるわけじゃないぞ。ちょっと興味があって話したかっただけなんだ」



  思いっ切り警戒してるな。

  俺は顔の前で両手の平を合わせてお願いしてみた。



「ちょっとだけ見学させてくんない?」



  彼女は暫くするとクスクス笑い出し、邪魔しないならと同行をOKしてくれた。



「ところで今日はどんなクエスト?」



  俺達はギルドを出ながら話す。

  因みに彼女は防具と言う防具も付けておらず、武器も携えていない。

  逆に俺は中堅所の防具と、信頼出来るドワーフの店で購入した剣を携えている。

  彼女に聞いてみれば必要無いと言うし、今日は近所のワッカの森に薬草採取だと言う。

  そこで俺は薬草採取か、とガッカリはしない。

  噂では、彼女が受けるクエストのメインは薬草採取で、魔物自体はその採取中に出くわしたから討伐したとなっていたからだ。

  以前読んだ何処かの国の物語に、ある探偵が行動すると、何故か事件に出くわすというものがあった。多分それに似て、彼女は魔物と遭遇する体質なのではないかと、俺は既にワクワクしていたのだ。



  王都からワッカの森までは走って30分ぐらいだろうか?

  彼女の身体に魔法陣が施され、次に俺にも魔法陣が現れる。



「!?」

「身体強化の魔法を掛けたから付いて来てね」



  驚いた。

  最近親父や弟も言ってた無詠唱魔法だったし、魔法陣自体も俺が見た事無い物だったからだ。

  身体に力が漲ってる。

  俺は彼女を見失わないように追い掛けた。



  10分程してワッカの森に到着したが、全く息切れも無い。

  彼女を見ると手の平を前方に翳している。

  すると即座にさっきの魔法陣(同じかどうか分からないけど、色形は似ている)が現れ、そのまま森に吸い込まれていく。

  俺は邪魔しないように彼女に聞かず、その状況を見守っていたと言いたいが、実際はその光景に驚いて声が出せなかった。

 魔法陣が吸い込まれた後は、そこかしこに点滅している光が現れ、彼女はその光に向かって歩き出した。



「薬草か……」



  そう、その光の点滅はクエストで採取するべき薬草の場所を示していたのだ。



「……凄いな」



  彼女はその光の点滅全てでは無く、ある程度採取すると再び手を翳して光を消した。

  まぁ、後のことを考えてだろう。過去に何人も総動員して根こそぎ薬草を採取し、近隣の森から消えた薬草もあるから、彼女がマナーのある冒険者で良かったと思う。



「君は凄いな。それでクエストは完了か?」

「もう一種類受けてるから奥に進むけど大丈夫?」

「ああ、この森自体は何回か来たことあるし、君が掛けてくれた魔法のお陰で全く疲労していないから大丈夫だぞ」



  彼女はニッコリと微笑み、俺達は奥へ進んだ。

  暫く歩き、彼女が再び同じ様に魔法を使い、もう一種類の採取も終了したその時だった。





「ギャギャギャ!!」



  色とりどりの羽根を持ったビッグルースターだ。



「うわっ!派手な鶏!」

「あれはビッグルースターだ!足は早いし飛んで攻撃して来るぞ!」



  良く見ると1頭では無く、他に3頭も近くでこちらの様子を伺っている。



「あなた、魔物に詳しいの?」

「図鑑に載ってる魔物ならな」

「あれ、食べれたりするの?」

「え?ああ、肉は美味いし、羽根自体も飾りとして人気だな。しかし王都周辺に現れるとは聞いたことないぜ……」

 

  俺がそう言うと、彼女は「お金になるわね……」と呟いた。

  次の瞬間、ビッグルースター4頭の首が切り離されていた。



  剣を抜いていた俺は、そのまま剣を鞘に戻した。



  4頭は今、首が無い状態で逆さまに宙に浮いている。

  血抜きも万全な様だが、これ、もし俺の弟が見たら貧血起こすんじゃないかと思う。

  魔物討伐した経験のある俺ですらその手際の良さに驚いたから。

  それに彼女の嬉しそうな顔。



「トサカに生えてる羽根もお金になるらしいぞ」

「え?そうなの?じゃあ、頭も血抜きして持って帰らなきゃ」

「流石、殺戮の銀乙女だ」

「ちょ、ちょっと止めてよ」

「質問していいか?」

「え?うん」

「冒険者が金目的でクエストを受けるのは分かってるけど、君もそんなに金が必要なのか?」

「あ~~~~うん。うちの地元が貧乏だから仕送りしてるの」

「仕送り?王都には出稼ぎに来たのか?」

「まぁ、そんな感じかな?うちは凄い田舎だから冒険者ギルドも無くてね。魔物を狩っても高額買取なんてなくて村で消費してただけだったの」

「冒険者ギルドが無い場所なのか……」

「私はそんな地元が好きだけど、ここに来たからにはそれなりに村に仕送り貢献出来るし、都会は苦手だったけど助かってるわ」



  宙に浮いた4頭のビッグルースターの首からはボトボトと血が落ち、その前で彼女は俺を見ながら微笑んでいる。

  俺はそれを見て美しいと思った。

  別に自分が血を好んでいる訳では無い。

  まだ幼さの残る彼女が、自分の為では無く、地元の為に危険(彼女にとって危険だったかどうかは別にして)を省みずクエストをこなし、それを苦にもせず(実際苦にはなって無さそうだが)穏やかに微笑んでいるのを美しいと思ったのだ。



  そう思った途端、俺の胸はどうにかなってしまったのか普段よりも鼓動が早くなった。



「殺戮の銀乙女、君の名前を教えてくれないか?」

「あら、人に名前を聞く時は先ず自分が名乗るんじゃないの?」

「ああ、失礼した。俺の名前はジークフリード、ジークって呼んでくれ」

「私はレティシア、レティでいいわ」

「良ければ偶にでいいから君のクエストを又見学させて貰えないか?必要であれば俺も加勢するし、魔物に関しては知識を持っている。勿論、足でまといにはならないつもりだ」

「…………そうね、邪魔しないならいいわ。今日の情報も有難かったし」

「今日みたいに週末にギルドに行けば会える?」

「受けるか受けないかはその時のクエストにもよるけど、土精霊の曜日と太陽の曜日はギルドに確認に行くわ」

「分かった。俺も毎週末は無理だが、君に会いに行くよ」

「ふふ、私もイケメンは目の保養になるから歓迎だわ」

「イケメン?イケメンって何だ?」

「あ、いいのいいの、独り言だから」



  イケメンって何だろうな?帰って調べてみるか?

  それにしても何て逞しい女の子なんだろうか。

  いや、逞しいだけじゃない。

  地元思いで強くて………美しい。

  俺はもっと彼女のことが知りたくなった。





 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



「父上……何やら兄上が食事中にも関わらず上の空なんですが…」

「ああ、普段なら食事時も楽しそうにあれこれ話すし、お前を誉めちぎったり煩いのにな」

「う、煩いは言い過ぎですよ。確かに兄上の僕に対する愛情は過剰だと思いますが、兄上自身はとても雄々しくて尊敬出来ますし」

「しかし、フォークに肉を刺したまま動かないぞ?もしや病気か?」

「思い出したように顔を赤らめた様子を見るに、病気の様ですね」

「び、病気!?医者を……」

「父上、落ち着いて下さい!病気と言ってもあれは医者も治せないものです」

「あああ……なんと言うことだ……ジークフリード……」

「あれは恋の病です」

「……は?社交界でも男とばかり喋っているジークフリードがか?」

「はい。どんなに美しい令嬢が現れても見向きもせず、父上にダンスを申し込めと言われて漸く渋々と申し込みに行き、曲が終われば即座に男友達の元に戻っていた兄上がです」

「ジークフリードはもしかしたら男にしか興味が無いのではないかと心配していたが……」

「父上、相手が女性とは限りませんよ?」

「は!そうだった!アーサー、確かめる方法は無いのか?」

「お任せ下さい。父上。僕が聞けば兄上は胸の内を開いてくれること間違いなしです。兄上?兄上?大丈夫ですか?ボーッとしてどうかしましたか?」





「………え?ああ、アーサーか。いや、その」

「親愛なる兄上、僕には何でもお話下さい。僕は兄上が即位した暁には兄上の右腕として支えていきたいのですから」

「アーサー………本当にお前は素晴らしい弟だ。………実はな、今日、とても素敵な少女に出会ったんだ」





「父上、聞きましたか?(小声)」

「聞いたぞ、女だな(小声)」





「どのような少女なのですか?」

「華奢なのに強くて逞しくて優しくてとても美しい少女だった」

「強くて逞しい?城下でお知り合いに?」





「この際平民でも構わんぞ。ジークフリードがその気になっとるなら(小声)」

「父上、慎重にいきましょう(小声)」





「とても稀有な少女の様ですが、兄上」

「ああ、彼女には二つ名があってな。『殺戮の銀乙女』と言うのだ」



 ブフォ!!



「ち、父上、お茶を吹き出さないで下さい(小声)」

「ゲホッゲホッ」



「親父、どうかしたのか?」

「いや、大丈夫だ」

「そんなことより兄上、殺戮の銀乙女とは?」





「アーサー、そんなことよりとは冷たいのではないか?(小声)」

「父上は黙ってて下さい(小声)」





「地方から出稼ぎに来た冒険者らしいんだ。彼女が住んでいた場所は冒険者ギルドも無い田舎らしくてな。その田舎に仕送りする為にクエストを請け負っている健気な少女なんだ。今日はあのビッグルースターを4頭を一瞬で仕留めたんだぞ?素晴らしくないか?」

「な、名前は聞いたのですか?」

「ああ、彼女に相応しい可憐な名前だった」

「兄上、教えて下さい!」

「アーサー、一体どうしたんだ?目が血走ってるぞ?いつも穏やかで美しいお前なのに」

「な、名前を……」

「ああ、レティシアと言うらしい。お、親父??ワイン吹き出してどうしたんだ?変な所にでも入ったか?おい、アーサーまで、一体どうしたって言うんだ?何でそんな不敵な笑みを浮かべてるんだ?」

「兄上、僕は兄上の運の強さに惚れ惚れしますよ」

「ん?運の強さ?良く分からんが」





「アーサー、ちょっと待て、レティシアとはあの娘のことではないのか?(小声)」

「間違いないでしょう(小声)」

「ひいいぃ 一体どうすれば(小声)」

「父上、このまま兄上を応援しましょう。レティシア嬢が兄上の婚約者、いえ、王妃となればこの国は安泰どころか、どの国からも攻められたりしませんよ(小声)」

「…………しかし(小声)」

「大丈夫です。レティシア嬢をその気にさせれば良いのですから、決して無理強いは致しません(小声)」





「親父?アーサー?」



「あ、兄上!その少女とは又会う約束を?」

「ああ、彼女は週末に冒険者ギルドに行くらしいから、もし会えばクエストを見学させて貰うことになっている」

「兄上!頑張って下さい!」

「ん?ああ?精々足でまといにはならない様にするつもりだ」

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