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これが僕たち、わたし達の答え。
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ピピピピっ、ピピピピっ、ピピ……ガチャ。
あれ、もう朝か。若干眠いな……。
目覚まし時計を止めて、ちらり時計を見る。
九時十分。昨日は今日が大学休みという事もあって夜ふかししてしまった。
目覚ましも遅めに設定したけど、やっぱり眠気は残る。
「起きるか」
ベッドから上体を起こし、這うようにして寝床から立ち上がる。
鳥が微かに鳴いている。すずめかな?可愛い声でちゅんちゅん鳴いている。
ちゅんちゅん、ちゅんちゅんちゅん。
窓から差し込む朝光りに照らされた部屋。窓のカーテンを開けることなく、キャラクターのパジャマ姿で自室をちどりあしで出た。
眠い、眠い。
居間に向かうほどに朝の清々しい空気も鼻に入り、次第に何か香ばしい匂いも感じるようになる。
今日はトーストかな。
居間にでてまず二人の顔が映る。
キッチンで卵を焼く母に、気だるげに目玉焼きの乗ったトーストをもちゃもちゃ食べる姉。
いつもの風景に落ち着いて、僕も食卓に座った。
「あら、おはよう。あとり」
「……あとり、おはよ」
母だけでなく、姉も無愛想にボソボソ挨拶してくれる。
「おはよう」
彼女達に挨拶を返して、僕はトーストを手にとって齧りだす。
姉とは色々あって、前よりかは話すようになって仲もよくなった……ような気がするが、とにかく接する機会が増えたのだ。
だから、苦手だった姉の事を少し好きになって、こうしておはようと言ってくれて、こんな時間を過ごせて僕は嬉しい。
「……あとり、なんか前より女っぽくなったよね」
僕と同じ白い髪を持っていて、でも僕より目つきの悪い赤い瞳の姉はじゅるじゅる半熟の黄身を啜りながら訊いてきた。
「そ、そうかな?お姉ちゃんが弟だとおもってるからじゃない?」
「……だって弟じゃん。今は、妹みたいだけど」
姉は無表情に文句を垂れて僕を責める。
確かに僕は前より女の子の服を着るようになった。
可愛い服を着て、髪型も意識するようになった。
そうしてくうちに、性自認も女性だと思うようになって、違和感なくなった。
これも『彼女』が似合うと言ってくれたから、だと思う。
「まあ、いいんじゃない?似合ってるし」
「……ふふ、ありがと。お姉ちゃん」
『彼女』の事を意識してる時に姉もあの子と同じような事言うから、余計思い出してしまう。そして、
「そういえば、大学で友達できたん?高校生の時は一時誰かと遊んでたみたいだけど」
姉が、瑠美が『彼女』の事を訊いてくる。
あの日からしばらくして、忽然と姿を消した彼女。噂で聞けば、最近体を壊した父の出張先に引っ越した……とか聴いたけど、それでなんとなく納得した。
何も言わずに「さよなら」の置き手紙でほんとにさよならされてしまったけど、僕はずっと、ずーっと彼女の事が頭から離れなかった。
一週間、半年、一年。
雲が少しずつでも確実に動くように、僕の事を時間は置いて行ってくれなかった。
半年、一年過ぎると彼女の事を忘れる時が多くなった。でも、ふとした瞬間に彼女を思い出してしまって。苦しくて苦しくて、姉に八つ当たりする事もあった。
今まで反抗すらしなかった弟の姿に姉はびっくりしたのだろう。その時は何も言わないで去っていったけど、あとでこっぴどく怒鳴られ、僕も頭にきて怒鳴り返した。売り言葉に買い言葉。ケンカにケンカ。毎日顔を合わせる度にケンカしたのを今でも覚えてる。
ほんとは僕に怒る権利ないし、駄目だと思うけど、今までの鬱憤が溜まってたのか全てを姉にぶつけてしまい、姉も対抗してたけど次第に向こうが折れてしまい、泣きつかれてしまった。
ああ、また人を悲しませてしまった。その罪悪感がまた襲ってきて、姉に謝罪して姉も謝る。
それで姉とは今みたいな関係になったけど、でも彼女の事を完全に忘れることはなかった。
たった一ヶ月ちょっとの関係だったかもしれない。
でも、それでも、彼女に友達以上の感情を寄せていたのはほんとで。だから。
今も、彼女が元気でいるといいなぁ。
じゅるじゅるじゅるじゅる……。
「瑠美、さっきからじゅるじゅるうるさいわよ!?」
「あっ、ごめん」
今だに目玉焼きにちゅっちゅしてる姉に苦笑いして、僕もトーストを食べ進めた。
彼と別れて、数年。
私は二十歳になって、立派な大人。彼との一方的な約束もそろそろだ。
「たまちゃん、元気で会社に行くのよ?」
「たま、頑張れよ」
母も父も、そう言って送り出してくれた。
「うん。でもお父さん、またでけー病気かからないでよ~?」
「わかーってるよ、ちゃんと体に気を付ける」
「大丈夫、ママがパパの事見張るから」
「ちょ、ママ、あんまり厳しくしないでくれよ……」
「ふふ、あははははは!」
空港でこれから別れるのに、そんな楽しい雰囲気で送り出してくれた両親に感謝。私の両親はやっぱり、いつもこうである。
飛行機に乗り、ある程度電車に乗って、生まれ故郷に帰ってきた。
しかも、前住んでたとこよりも彼の家に近いマンション。
徒歩で少し歩く距離だから、ほんと近い。
都市街に住んでたのもあってここらへんは、やっぱり自然が多いなぁと思う。さすが、開発停止指定区域。
このマンションとか彼の近くの家を探すのには、本当に苦労した。ネットで調べまくって、近くの不動産も予約して何件か一時的にこっちに帰ってたっけ。
近くを歩いた時は彼の家を訪れる事も考えた。でも、誕生日も来てないし、気持ちの準備もなく訪れるのはどうかと思って、やめた。
マンションを契約して、すぐに誕生日を迎えて、二十歳になって。
その時が今、ようやく来て、今家を出る準備をしている。
転校先の高校を卒業して、すぐに就職したけど、色々覚えるの大変だった。
会社の契約先の返信を違う会社にしてしまったり、指定の文書とか振り分けを間違えたり。
時には第一世代のオジサンにセクハラされて、めちゃくちゃ大変だったけど、やっと昇進して。でも。
仕事で受け持っている大事な契約先でやらかすという大惨事で契約自体、取り消しになってしまって。
それまた、その会社が結構、勤め先の主力となっていると聞いて責任取ることになったのは辛かったけど。
会社をやめて、しばらくニート生活。一時期付き合っていた第二世代の同僚に声をかけられ、心配される始末。
やっぱり何か違う、と交際をやめても未だに友達と思ってくれる彼に助けを借りて偶然、『彼』が住んでる所に就職する事になって。
会社への挨拶とか仕事の案内でしばらく忙しかったけど、ようやく『彼』に会える。
『彼』じゃない人とも付き合ってやっぱり違う。
やっぱり『彼』じゃないと駄目だと分かって、偶然が重なる。
そして今、とびっきりのオシャレをして玄関を出るところ。
ガチャ。
扉に鍵を閉めて、同じマンションの人にすれ違って挨拶。
おはようございます。
そう言ってその人とは違う方向に向かい下の階層、地上へと向かう。
この辺は少し開発されてあるけど、少しでるともうほんと田舎道。
周りは麦わら帽を被ったおじいちゃんがトラクターに乗って田植えしてたり。
周りは田んぼだらけで苗を植え終わった場所はまるで草原のように、苗たちがそよ風にたなびいてる。ささーっと揺れて、ファンタジーでよく見る草原の光を、現実でも遠くから線にして走らせる。
綺麗だなぁ。
空気も、景色も、田舎の生活感も。
『彼』は、一体どうしてるだろうか?私はすぐに就職したけど、もしかしたら大学行ってたり。ちょっとヤバいかもだけどニートだったり。
何をしてるかなぁ。一応休日の日曜日の今日を選んだけど、いるといいなぁ。楽しみだなぁ。
ちょっとした住宅街に着いて、前に来たときとちっとも変わって無くて。
『大鳥』の表札を探して、記憶を頼りに『彼』の家を捜索。
ちょっとストーカーみたいで変態っぽいな、私。イヤだなぁ、でもそう見えるよなー。はぁ。
家の庭に出てる人に少し訊いたりして、やっと『大鳥』の表札が彫られた家の前に立つ。ごくり。
あの時、私を連れてきてくれた時と変わらない景観。2階建ての家。確かあそこが『彼』の部屋。
……懐かしい。
玄関に立って、深呼吸。
すーっ、は~~~っ。
よし、インターホン……ぽちっとな!
ピーンポーン、ピーンポーン……。
ガチャ。
「はい?」
そこにはきょとんとした可愛いパジャマ姿の『彼』の姿があって。いや、もう彼女なのかもしれない。
肩から胸に長い白髪をプレゼントした三毛模様のシュシュでお下げにして、少し胡乱げな彼女。赤い瞳が細められ、頭をこてんとかしげる君。
あの時のまんまだ。少し可愛くなってるけど、あの時と変わらない姿。
しばらくして彼女の顔は、真をついて悟ったようにはっとした表情に変わり、呟く。
「猫野、さん?」
「はい!お久しぶりです、あとりさん」
そう言って彼女の、いや彼か、その華奢な身体に抱きついて、ふわふわないい匂いするその胸に顔を埋めた。
「おかえり、猫野さん」
しばらく驚いてたその顔は、慈しみを宿した優しい表情に変わって私の頭をそっと撫でてくれた。
「ただいまです……っ!あとりさん」
私は瞳を潤ませて、この人の身体にしがみつく。
離さない、もう離れない。
この人と一緒にいる。それが私の見つけた答え。
「約束、果たしに来ちゃいました」
彼女とまた一緒にいたかった。もう間違えない。
僕の家に来る前にお揃いの模様を買って、その時着けていた三毛模様のヘアピン。かなり意気込んだのだろう、手の込んだオシャレ。
あの子が、彼女が、猫野さんという存在が今そこに、いる。
この人と一緒にいる。それが僕の見つけた答え。
「ありがと、約束守りにきてくれて」
あれ、もう朝か。若干眠いな……。
目覚まし時計を止めて、ちらり時計を見る。
九時十分。昨日は今日が大学休みという事もあって夜ふかししてしまった。
目覚ましも遅めに設定したけど、やっぱり眠気は残る。
「起きるか」
ベッドから上体を起こし、這うようにして寝床から立ち上がる。
鳥が微かに鳴いている。すずめかな?可愛い声でちゅんちゅん鳴いている。
ちゅんちゅん、ちゅんちゅんちゅん。
窓から差し込む朝光りに照らされた部屋。窓のカーテンを開けることなく、キャラクターのパジャマ姿で自室をちどりあしで出た。
眠い、眠い。
居間に向かうほどに朝の清々しい空気も鼻に入り、次第に何か香ばしい匂いも感じるようになる。
今日はトーストかな。
居間にでてまず二人の顔が映る。
キッチンで卵を焼く母に、気だるげに目玉焼きの乗ったトーストをもちゃもちゃ食べる姉。
いつもの風景に落ち着いて、僕も食卓に座った。
「あら、おはよう。あとり」
「……あとり、おはよ」
母だけでなく、姉も無愛想にボソボソ挨拶してくれる。
「おはよう」
彼女達に挨拶を返して、僕はトーストを手にとって齧りだす。
姉とは色々あって、前よりかは話すようになって仲もよくなった……ような気がするが、とにかく接する機会が増えたのだ。
だから、苦手だった姉の事を少し好きになって、こうしておはようと言ってくれて、こんな時間を過ごせて僕は嬉しい。
「……あとり、なんか前より女っぽくなったよね」
僕と同じ白い髪を持っていて、でも僕より目つきの悪い赤い瞳の姉はじゅるじゅる半熟の黄身を啜りながら訊いてきた。
「そ、そうかな?お姉ちゃんが弟だとおもってるからじゃない?」
「……だって弟じゃん。今は、妹みたいだけど」
姉は無表情に文句を垂れて僕を責める。
確かに僕は前より女の子の服を着るようになった。
可愛い服を着て、髪型も意識するようになった。
そうしてくうちに、性自認も女性だと思うようになって、違和感なくなった。
これも『彼女』が似合うと言ってくれたから、だと思う。
「まあ、いいんじゃない?似合ってるし」
「……ふふ、ありがと。お姉ちゃん」
『彼女』の事を意識してる時に姉もあの子と同じような事言うから、余計思い出してしまう。そして、
「そういえば、大学で友達できたん?高校生の時は一時誰かと遊んでたみたいだけど」
姉が、瑠美が『彼女』の事を訊いてくる。
あの日からしばらくして、忽然と姿を消した彼女。噂で聞けば、最近体を壊した父の出張先に引っ越した……とか聴いたけど、それでなんとなく納得した。
何も言わずに「さよなら」の置き手紙でほんとにさよならされてしまったけど、僕はずっと、ずーっと彼女の事が頭から離れなかった。
一週間、半年、一年。
雲が少しずつでも確実に動くように、僕の事を時間は置いて行ってくれなかった。
半年、一年過ぎると彼女の事を忘れる時が多くなった。でも、ふとした瞬間に彼女を思い出してしまって。苦しくて苦しくて、姉に八つ当たりする事もあった。
今まで反抗すらしなかった弟の姿に姉はびっくりしたのだろう。その時は何も言わないで去っていったけど、あとでこっぴどく怒鳴られ、僕も頭にきて怒鳴り返した。売り言葉に買い言葉。ケンカにケンカ。毎日顔を合わせる度にケンカしたのを今でも覚えてる。
ほんとは僕に怒る権利ないし、駄目だと思うけど、今までの鬱憤が溜まってたのか全てを姉にぶつけてしまい、姉も対抗してたけど次第に向こうが折れてしまい、泣きつかれてしまった。
ああ、また人を悲しませてしまった。その罪悪感がまた襲ってきて、姉に謝罪して姉も謝る。
それで姉とは今みたいな関係になったけど、でも彼女の事を完全に忘れることはなかった。
たった一ヶ月ちょっとの関係だったかもしれない。
でも、それでも、彼女に友達以上の感情を寄せていたのはほんとで。だから。
今も、彼女が元気でいるといいなぁ。
じゅるじゅるじゅるじゅる……。
「瑠美、さっきからじゅるじゅるうるさいわよ!?」
「あっ、ごめん」
今だに目玉焼きにちゅっちゅしてる姉に苦笑いして、僕もトーストを食べ進めた。
彼と別れて、数年。
私は二十歳になって、立派な大人。彼との一方的な約束もそろそろだ。
「たまちゃん、元気で会社に行くのよ?」
「たま、頑張れよ」
母も父も、そう言って送り出してくれた。
「うん。でもお父さん、またでけー病気かからないでよ~?」
「わかーってるよ、ちゃんと体に気を付ける」
「大丈夫、ママがパパの事見張るから」
「ちょ、ママ、あんまり厳しくしないでくれよ……」
「ふふ、あははははは!」
空港でこれから別れるのに、そんな楽しい雰囲気で送り出してくれた両親に感謝。私の両親はやっぱり、いつもこうである。
飛行機に乗り、ある程度電車に乗って、生まれ故郷に帰ってきた。
しかも、前住んでたとこよりも彼の家に近いマンション。
徒歩で少し歩く距離だから、ほんと近い。
都市街に住んでたのもあってここらへんは、やっぱり自然が多いなぁと思う。さすが、開発停止指定区域。
このマンションとか彼の近くの家を探すのには、本当に苦労した。ネットで調べまくって、近くの不動産も予約して何件か一時的にこっちに帰ってたっけ。
近くを歩いた時は彼の家を訪れる事も考えた。でも、誕生日も来てないし、気持ちの準備もなく訪れるのはどうかと思って、やめた。
マンションを契約して、すぐに誕生日を迎えて、二十歳になって。
その時が今、ようやく来て、今家を出る準備をしている。
転校先の高校を卒業して、すぐに就職したけど、色々覚えるの大変だった。
会社の契約先の返信を違う会社にしてしまったり、指定の文書とか振り分けを間違えたり。
時には第一世代のオジサンにセクハラされて、めちゃくちゃ大変だったけど、やっと昇進して。でも。
仕事で受け持っている大事な契約先でやらかすという大惨事で契約自体、取り消しになってしまって。
それまた、その会社が結構、勤め先の主力となっていると聞いて責任取ることになったのは辛かったけど。
会社をやめて、しばらくニート生活。一時期付き合っていた第二世代の同僚に声をかけられ、心配される始末。
やっぱり何か違う、と交際をやめても未だに友達と思ってくれる彼に助けを借りて偶然、『彼』が住んでる所に就職する事になって。
会社への挨拶とか仕事の案内でしばらく忙しかったけど、ようやく『彼』に会える。
『彼』じゃない人とも付き合ってやっぱり違う。
やっぱり『彼』じゃないと駄目だと分かって、偶然が重なる。
そして今、とびっきりのオシャレをして玄関を出るところ。
ガチャ。
扉に鍵を閉めて、同じマンションの人にすれ違って挨拶。
おはようございます。
そう言ってその人とは違う方向に向かい下の階層、地上へと向かう。
この辺は少し開発されてあるけど、少しでるともうほんと田舎道。
周りは麦わら帽を被ったおじいちゃんがトラクターに乗って田植えしてたり。
周りは田んぼだらけで苗を植え終わった場所はまるで草原のように、苗たちがそよ風にたなびいてる。ささーっと揺れて、ファンタジーでよく見る草原の光を、現実でも遠くから線にして走らせる。
綺麗だなぁ。
空気も、景色も、田舎の生活感も。
『彼』は、一体どうしてるだろうか?私はすぐに就職したけど、もしかしたら大学行ってたり。ちょっとヤバいかもだけどニートだったり。
何をしてるかなぁ。一応休日の日曜日の今日を選んだけど、いるといいなぁ。楽しみだなぁ。
ちょっとした住宅街に着いて、前に来たときとちっとも変わって無くて。
『大鳥』の表札を探して、記憶を頼りに『彼』の家を捜索。
ちょっとストーカーみたいで変態っぽいな、私。イヤだなぁ、でもそう見えるよなー。はぁ。
家の庭に出てる人に少し訊いたりして、やっと『大鳥』の表札が彫られた家の前に立つ。ごくり。
あの時、私を連れてきてくれた時と変わらない景観。2階建ての家。確かあそこが『彼』の部屋。
……懐かしい。
玄関に立って、深呼吸。
すーっ、は~~~っ。
よし、インターホン……ぽちっとな!
ピーンポーン、ピーンポーン……。
ガチャ。
「はい?」
そこにはきょとんとした可愛いパジャマ姿の『彼』の姿があって。いや、もう彼女なのかもしれない。
肩から胸に長い白髪をプレゼントした三毛模様のシュシュでお下げにして、少し胡乱げな彼女。赤い瞳が細められ、頭をこてんとかしげる君。
あの時のまんまだ。少し可愛くなってるけど、あの時と変わらない姿。
しばらくして彼女の顔は、真をついて悟ったようにはっとした表情に変わり、呟く。
「猫野、さん?」
「はい!お久しぶりです、あとりさん」
そう言って彼女の、いや彼か、その華奢な身体に抱きついて、ふわふわないい匂いするその胸に顔を埋めた。
「おかえり、猫野さん」
しばらく驚いてたその顔は、慈しみを宿した優しい表情に変わって私の頭をそっと撫でてくれた。
「ただいまです……っ!あとりさん」
私は瞳を潤ませて、この人の身体にしがみつく。
離さない、もう離れない。
この人と一緒にいる。それが私の見つけた答え。
「約束、果たしに来ちゃいました」
彼女とまた一緒にいたかった。もう間違えない。
僕の家に来る前にお揃いの模様を買って、その時着けていた三毛模様のヘアピン。かなり意気込んだのだろう、手の込んだオシャレ。
あの子が、彼女が、猫野さんという存在が今そこに、いる。
この人と一緒にいる。それが僕の見つけた答え。
「ありがと、約束守りにきてくれて」
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