ボクとユキ、緘黙症の聲。

蒼井瑠水

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キミは私のモノ。

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 目が覚めると知らない天井が視界に映った。
「んっ、んん……」
 ひりひりとした目元を擦って起き上がる。すると突然、
「あら、起きたの?」
 びくっ。
 思わず反射的に肩が跳ね上がる。聴き覚えのある声。さっきまで聴いてた声。記憶が途切れる直前まで聴こえてた、声。その声の持ち主は、
「おはよう、って言ってもお昼だけどね。あの後、泣き疲れて寝ちゃったから大変だったよ。男の子って重いね。行く宛もないだろうからウチに泊まらせたの。大丈夫だった?」
「えっ?はっはい……。でもなんでーー」
 あっ、と間の抜けた声を出した直前、一刹那、記憶が蘇る。彼女の、女性の銀髪と清艶かつ凄艶な顔立ちが印象的なこの人は、酔っ払いながらボクの話を聞いてくれた、そして慰めてくれた女性だった。
(ウチ?ウチってことはここはこの人の……)
 家、なのか。と、なるとこの部屋はこの人の部屋で、じゃあボクが寝ているこのベッドはーー、
「わたしのベッドに寝て嫌だった……?」
 ボクがしきりにベッドを凝視しているからかそう愁眉に問うてくる女性。
 ああ、困った顔も綺麗だ。つい、このお姉さんのベッドに寝ているという事もあって体中が熱くなって頬を染めてしまう。あとあそこもピンピン反応する。
「いっいえ、とんでもない。すぐこの家出て行きますんで……」
 そそくさと自分にかかってる布団をはがすと、
「だめっ」
「えっ……」
 座卓に置いてあるタブレットになにか描いていたらしい女性は、ペンを座卓に乗せて立ち上がった。そしてベッドの元に歩み寄ってくる。
「だめよ、行く所ないんだから」
「でも迷惑になるし、さっき大丈夫だったかって訊いてーー」
「だめったらだめ。きみ、わたしの子になりなさい」
「へっ!?」
 突然の発言に条件反射で出た声が変に裏返る。なに言ってんだこの人。
「行く所ないんでしょう?帰る場所ないんでしょう?じゃあウチにいなさい。あなたが一人立ちできるようになるまで支えてあげるから。養ってあげるから。だから」
 ウチにいなさい。
 そう、にっこり優しく微笑んでボクの頭に陶磁器のように白い手を乗せる。
 ぽんぽんっ。
 あれっ、いつしか、誰かにもこうしてもらった事がある。誰だっけ。おぼろげな輪郭しか持たないその人は確か女性だった。確かにこの人と同性の人だった。誰だったっけか。ーー忘れた。
「あなたのお母さんにはわたしから言ってあげる。戸籍も移してあげる。いいでしょ?わたしがしたいんだから」
「ーー」
「?まだ反抗する気?」
 女性の顔がちょっとムッとする。むーっとボクをじと目で見つめる彼女に完敗して、こう、照れくさげに呟いた。そっぽを向いて。
「じゃあ、お願いします」
「ふふっ、きーまり~っ。じゃあきみのスマホ借りて行ってくるね♪あっ、画面ロック解除のパスワード教えて」
「あっ、はい」
 セキュリティーの解除法だけ教えると、女性はふむふむとボクがスマホをいじる画面を覗き込む。
 どきっ。
 こんなに綺麗なお姉さんに顔を近付けられると彼女がいるボクでさえ緊張する。
「なるほど。じゃあ行ってきます。あっ、絶対部屋から出ちゃだめだよ。トイレと食べる時以外絶対っ!!」
 いや、それ部屋から出てんじゃん。そう言おうとしたが、
「お腹空いたらテキトーに冷蔵庫のもの食べていいから♪じゃあね~」
 ばたんっ。
 女性は扉を閉めて出て行ってしまった。
 まるで風のような人だった。そういえば名前も訊き忘れてた。やべっ。
 ーーーー……どうしよう、暇だ。
 荒らすわけでもないけれど、初めて入った他人の女性の部屋を宛てもなく物色して、本棚に並ぶ何故か豊富なラノベの本を取り出したりして読みふけった。そして、
 ガチャッ。
「たーだいま~っ!お母さんと話つけて役所の手続きを済ませてきたよぉ~うっ!」
 ……ほんとに風みたいな人だ。突風レベルの。
「そうですか…、その、訊きそびれていたんですけどお姉さんの名前は?」
「ん~?わたしの名前~?わたしは風花っていうの♪これできみもこの家の子だよ~っ♪」
「?」
 も?もって言った?この人。もって言わなかった?
 他にも誰か子どもがいるのだろうか。この若さで。
 風花と名乗った女性は嬉しげにボクを見つめ、どこで買ってきたのかよく分からない膨らんだレジ袋を座卓に置いた。
「それは……?」
「ん?これはお祝いのお酒。きみには飲ませないけどね♪ーーと、そういえば名前訊いてなかったけど翼くんでいいんだよね?」
「あっ、はい、そうですけど……」
 すると途端に風花は哀切の表情に切り替え、こう、言う。
「ごめんね、お母さん退学届出してたみたいできみは高校から除席されてるみたいなの」
 ほんとにごめんね、と謝ってくれる彼女にいえっ、と首を振り笑顔を作る。
 そうか、それならそれでいい。あそこにはもういれない。いたくない。他に通信制の高校でも通うか働き口でも探そう。
「そろそろ晩ご飯の時間ね。あの子も帰ってきてるし、そろそろ用意しなくちゃ♪」
「あの子?」
 ボクが疑問の声を上げたのにも気付かずに風花はパタパタと部屋を出て行ってしまう。
 ボクもつられて部屋をあとにすると、トイレの時とか、あんまり意識して見てなかった中の内装が鮮明に映し出された。
「……」
 キャラもののグッズが壁に掛けられたり鎮座している中をとことこと歩き、リビングへと出る。
 どうやらリビングにキッチンがあるらしく、そこで風花がせっせと野菜やらお肉やらを冷蔵庫から取り出していた。
 そして、リビングの中央に部屋を鎮守するかのように一際目立って存在するソファに女の子が一人座っていて。ーー……何故か全身白い肌色で、座って、……いた。
「お姉ちゃ~ん、今日のご飯なに~」
 猫なで声で風花に質問する女の子は全裸だった。いや、パンツは穿いているみたいだった。
 しかし、タオルを首に掛けて足をぶらぶらさせながらテレビのリモコンを操作する彼女にボクはどんな対応すればいいのか分からなかった。そもそも、そもそも分からない以前に彼女が見知った顔である事に驚愕していて、どうしたらいいのかよく分からなかった。だって彼女は、彼女は、
「ゆっ、由希?」
「へっ?」
 間抜けな声を出して振り向いた彼女は、由希は愕然とした。超が付くぐらい、愕然とした。そりゃあ顎が外れんじゃないかってぐらい、あんぐり口を開けている。
「ッ!?ッ!?ッ!?ッ!?ッッッ!?」
 風花とボクを交互に見やり、最後にボクの事を熟視する。
「ーー……!ッ!!ッ!!ッッッ~~~~!!」
 あっけらかんとした彼女はようやく理解が追いついて、いや、現実を直視して、自分の体に目をやり、次に自分の口元を押さえ、顔を茹で上がらせていく由希。ぼんっとショートして煙が巻き上がってるかのような錯覚を受ける程、顔を真っ赤に紅潮させる。
 そしてばっとソファの影に体を丸めて隠し、唇を噛んでなぜかボクを睨んでくる。
「ごっごめん!!」
 ボクは慌ててリビングを出て扉を閉める。扉に背を預けてドクドクと心臓を高鳴らせて、あとあそこも高鳴らせて、ひと息吐いた。
 まっ、まあ当然の反応か。彼氏がラッキースケベで彼女の体を見ちゃったんだからな……。

 次にリビングに入ったのは夕ご飯で風花に呼ばれてからだった。
 それまでさきほど居させてもらった風花の部屋に待避して難を凌ぎ、やりきった。が、今のこの状況は……、
「……」
 じーっと由希が見つめてくる。怒ってるわけでもなく恥ずかしがってるわけでもなく無表情。真顔。
 食卓を囲んでいるボクらはとても気まずい状況だった。由希が黙々と食べながらこっちを凝視してくるから。風花もどこかぎこちない真顔で食を摂っていた。
 どうやら由希は風花の妹だったらしい。姉妹揃って美人だが性格は正反対だ。突風レベルの風のように元気な風花と桜のような暖かい雰囲気を持ちながらも雪のようにしんとして静かでころころと変わっていく由希。
 どうやらボクがいない間に話を済ませていたらしく、だからというわけでもないだろうが由希は今までと違ってとにかく無表情だった。あんなころころ表情が変わる愛嬌のある可愛い子だったのに一体どうしたっていうんだ。ボクが何をしたっていうんだ。ラッキースケベをしただけじゃないか。意図せず。そんなにラッキースケベは犯罪性のある罪深き男子の救済措置なのか。
「……ごめん」
「……」
 じーっ。
「……ごめん」
「……」
 じーーーっ。
「……ごめんっ」
 声が震えだす。でも、
「……」
 じーーーーーーーっ。
 由希は視線を送る事をやめない。
 ぼとっ。
「あっ」
 風花が箸でつまんだ目玉焼きを皿に落とした。
 かちゃっ。
 風花が箸を置く。
「ねえ、二人ともやめてよ。付き合ってるなんて知らなかったし、女所帯だから風呂上がりに裸でいる事も当たり前だったの。だからうっかり忘れちゃってて……。だから……」
 風花はぽつぽつと言葉を途切れさせながらも紡ぐ。
「わたしたち姉弟になるんだから、これぐらいいいんじゃないの、ね?由希♪」
 そう作り笑いを浮かべて風花は由希ににこっと微笑みかけるが、
 ぎろっ。
 由希は風花に殺気を叩きつけ、睨みつけた。
「すっ、すみません……」
 今までの風のような勢いをなくして風花はおずおずと平謝りした。あの突風レベルのこの人が、だ。
 由希って案外怖いんだな。そう痛感した瞬間だった。夕食を済ませた後、ボクの部屋が割り当てられた。その部屋は由希の部屋だった。
「じゃあきみは由希と一緒ね?」
 なんで?なぜ相部屋なんだ。そう抗議したが、そのクレーム活動は不発に終わった。理由は部屋がないから。
 風花の部屋は仕事部屋としても使用するため、ダメとのことだった。
 風花はイラストレーターをやっているらしく、ボクが寝ている間も絶賛仕事中だったらしい。そういえば可愛い女の子のイラストがタブレットにちらっと見えて、ラノベが本棚に揃えられてたなーっと散りばめられた情報が符合する。
(……すごくいい匂いする)
 シトラスフルーティの香気がムンムンとする彼女の部屋はなんというか、とても質素な部屋だった。本棚があって、机があって、それに伴うデスクチェア、なぜかこいつだけ一際目立って存在するダブルベッド、などなどそれぐらいしかない。とてもじゃないけどあまり女の子らしいとはいえない簡素な部屋だった。
「……」
 じーっ。
 未だに由希はボクを見つめてくる。“無表情,,で。もうやめてくれ。しかも真っ隣で至近距離で凝視してくるもんだからすんげぇーきつい。
 彼女の空虚な視線をどうにか色付けようと彼女の名前を呼ぶ。すると、
「由希、どうしたの、さっきから」
「ッ!?……ッ」
 途端に顔を染めて、眼を見開く由希。そしてそっぽを向く。
 ……可愛いらしい。
「大丈夫?……由希?」
「……っ」
 体育座りしてる彼女にボクは少し心配げに声かける。ーーと。
「好き、だから」
「……えっ?」
 啾々とした声。小さな、その、“聲,,。この無音の部屋でそれが、人の声が聴こえた事に唖然とする。呆れる。なぜその声が聴けたのか。なぜその声が聴こえたのか。よく分からなかった。そして呆然とするのは次も、次に聴こえた人の音もそう。
「キミの事、好きだから」
 初めて間近で聴いた声だった。さっきちらっと聴取した声は彼女の体を意識し過ぎて聞き流していたけど、聞き逃していたけど、でも今聴いた声は由希の、本物の声だった。今まで聴かなかった、聴けなかった銀鈴の声音。凛としたその声にボクは、ボクの声は上擦る。
「こ、れ……が、君の声?」
「……そうだよ」
 感動、感激以上の言葉でしか言い表せないのに、その言葉さえも見つからない。
 彼女の声がボクの脳髄でただただ残響し、踊り、舞う。花吹雪く桜のように。ずっと姿を見せなかった桜の花びらが風に吹雪き、雪のようにほろほろと舞い降りた、その鈴の音。それが聴けただけで、本当に、ただ、ただ、嬉しかった。
 ふと、彼女が振り向く。
「ーーねえ、キスしない?」
「……」
 由希の甘い発言に唖然として声すらも出せない。
「ーーして、いいんだよね?」
 彼女の顔が肉薄する。彼女の雪のように白い小さな右手がボクの後頭部に添えられ、対を成す隻腕がボクの首に絡められる。
 次第に、静かだったボクの胸の中はどんどん音をたてて煩くしていく。やがてそれは脳に響く程の騒音になると、ボクの頭を反響でくらくらさせる。
 ちゅっ。
 まず唇が触れ合う。重なる。
「んむ、んぐ……」
 ちゅぴっ、くちゅ。
「ん、ん……」
 次に彼女の舌がボクの唇を割って入り込み、中を掻き乱す。舌尖が歯列をなぞり、舌と舌とが絡みあい、唾液が混ざり合う。飲んで、飲まれ、食まれて飲まされ、ボクの体が、心が彼女に溶かされていくのを感じる。溶け合っていくのを感じる。応酬を、相即していく感覚を味わう。
(ああ、気持ちいい……)
 形さえ無くして、輪郭を失ったそれはもう、再起不能。完全に彼女の熱に溶解し、熔解させられたボクの精神は、もう、彼女の“モノ,,。ーーそして、煌めく銀糸が緩い曲線を靡かせ、描き、靡いて、顔が離れる。
「ぁ、はあ、はあっ」
「これでおあいこ、でもまだまだ続かせて?私、ヘンタイだから」
 そのまま由希に押し倒され、されるがままに夜を共に過ごした。

「由希」
 誰だろう。私の名前を呼ぶのは。
「ほら、行こう、由希」
 ああ、そうか。これは彼の声だ。
 またこの夢を見ているんだ。彼との始まりの、出逢いの夢。
 いつも眠ると夢に出てくる彼は初めて見た時、名前は分からなかった。

 気付けば私は大樹の木陰で背を預けていた。伸ばした足の爪先を見つめていた私は、ふとして出来た人影に顔を上げる。
「由希」
「?誰?」
 いつもは自分に課した呪いが発動して声が出せないのに今回だけ出せた。嬉しくて、宛てもなく声を出してみる。
「あー、あー。あれ、人前で声が出せる」
「不思議な子だな、君は。そんなの当たり前じゃないか」
 私を見下ろす男の子。私と同世代だろうか?十五歳くらいの少し幼さの残る顔をした、顔、体ともに線の細い女の子のような顔立ちをした子だった。
 まともに話せたのは姉の風花以外の他人だと久しぶりだ。初めてに近いぐらい。なぜかこの子ともっと話したくなる。興味を持ち出す。
「キミについていってもいい?」
「ん?いいよ?」
 私は地に生い茂る野草に手を乗せて腰を上げる。お尻を払うと、周りは草原。空は蒼天。
「ほら、行こう、由希」
「うん」
 彼は私に手を差し出す。私はそれを掴む。人肌の温かい、男の子にしてはふにふに柔らかい綺麗な、細い指。女爪の彼の小さな可愛い手が私の手中にある。それがたまらなく嬉しかった。けど、すぐに離れてしまう。
 無限に広がる大草原に私と男の子の二人。ただ二人。二人だけ。二人だけの世界が広がっている。
 何を目的地とする事もなく、地図もバッグすらも持たない白いフリルの付いたワンピースの私と真っ白なシャツを着た彼。
 深い蒼茫たる蒼穹に向かって歩む私達を見守るように、白い小鳥が二羽、羽撃いていく。
「キミはなんていう名前なの?」
 私は訊いてみた。
「ん?僕は翼っていうんだ」
「へえー、翼くんか~。なんか私達似てるね」
「どこが?」
「白い雪と白い翼。ほら、似てるでしょう?」
「確かに」
 ふふふっ、と笑いあって、今度は手を繋いでみる。その彼の人肌の温度が恋しくて。またその華奢な手に触れたくて。
「どうしたの?心細くなった?」
「いや、なんでも」
 こんな風に男の子と手を繋いでみたかった。興味のある子と睦まじく。
 踏み躙られるだけの泥だらけの雪の私に彼は声を掛けてくれた。自分の、本当の意味の白い“ユキ,,の名前で呼んでくれた。ただそれがなによりも嬉しくて。だから、
「翼くん、いつか私と付き合ってね?」
 そして、
「私を自由にさせて」
 それだけが私の願い。彼に救われる事に、そのためだけに生まれてきたのだから。
「うん。分かった」
 彼は微笑んで顎を引いてくれる。首肯してくれる。
「ーー約束だよ」
 私の言葉を最後に感覚が、意識がフェードアウトしていく。次第にはぷつり“私,,が途切れた。

 小鳥たちのさえずりを耳にして、朦朧としていた意識が一気に現実味を帯びていく。
 目を開けると、水色の薄暗い部屋の天井が目に映った。
 視界の隅っこでは頼りなく常夜灯がちかり、輝いている。隣を見ると睫毛の長い女の子のような顔が視界に捉えられる。
 愛しい私の彼。私が脱げ脱げ!と言わんばかりに全裸になった私が小首を傾げて彼を見つめると、彼は仕方ないと、否応にシャツを脱ぎ始めた。
 彼の、翼くんの体は女の子みたいに華奢で、下腹部だけが、「僕は男です」と主張していた。
 私と鏡合わせのように耳まで顔を綺麗なリンゴ色にしてる翼くんは、やっぱり、可愛かった。そう、母性を刺激されるように。堪らなく、うっとりする。
 初めて同士の私達は、手探りでやり方を模索。翼くんは、女の子の身体は初見のようで、胸をそっと触っていた。まるでコワレモノを扱うように、優しく。人差し指でツンツンつつく。そんな彼の手つきがたまらなくおかしくて、笑っちゃう。
「笑わないでよ」彼はそう抗議したけど、私はそんなキミの手を掴んで、ぽったりと膨らんだ胸に押し込んだ。
「ひゃあ!!」
 翼くんは女子じみた悲鳴を上げて、私の身体から手を離そうとしたけど、私はそれをムリヤリ抑えこんだ。力を込めた。
「私の心臓、動いてるでしょ?」
「えっ?……うん」
 私が問うとキミはまた黙り込んだ。顔の色もまた、私と鏡合わせ。
「怖かったら無理しなくていいからね」
「……うん。ごめん」
 そういいながらも硬くなったキミの股間が体に当たってたのを私は知ってる。
「今度はキミから誘ってね?」
「……うん。ごめん」
 キミはそれしか言わなかった。いや、言えなかったんだよね。
 私は硬くなったそれをもっと引き寄せるように翼くんを抱き締めた。
 女の子みたいに肌はもちもち、すべすべ。ちょっと妬ましい……。でも、それでも硬いものが「ボクは男です!!」と主張している。その頑張りに応じて許してあげようか。
「ねえ、由希?」
「うん?」
「ボクは君が大好きだ」
「うん。分かってる」
 私達はお姉ちゃんと使ってたベッドに身を任せた。
 そして、今も。

 起伏に富んだ自分の体を見下ろす。そして、無意識にお腹をさすった。
 将来、この中に愛する人との子どもが育まれるんだ。そして、その愛する人は隣にいる。
「由希?」
「ん?」
 ずーっと私に可愛いその顔を向けていればいいものを、私が起きたときには背中しか見せてなかった。
 上体を起こして家族設計を考えていた私が振り向けば、今は頼りない表情でその女顔をこちらに向けている。このクソめ。
「今日、ひとみさんに会いに行っていいかな」
「ダメって言っちゃだめなんでしょ?」
「うん、まあ、その。謝りにいくだけだから。大丈夫、だよ?」
 なぜ疑問形で終わらせる?まったく。
「いいよ。でもキミはもう、私のモノだからね?」
「分かってるよっ」
 ふふっ。
 彼は苦笑した。

 これはある男の子が初恋と友情を辿った軌跡、逢瀬を祝福するかのような『幸』と私が自由の『翼』を手に入れるまでの、倖せになるための恋物語。
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