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(14)競技会
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鷹人の父さんに言われた競技会は大学の陸上競技部が主催するもので、高校生から社会人まで幅広く参加が認められていた。
走高跳は競技開始時刻が午後四時なので、俺は昼過ぎに会場に着くつもりで家を出た。会場は主催している大学の陸上競技場。鷹人の父さんが監督をしている陸上部はその大学の附属高校で、同じ敷地内にあるため競技開始までのウォーミングアップはその高校のグラウンドを使えることになっている。
朝見とはそのグラウンドの前で会うことになっていた。
――今はそっちのコーチなのに俺といてもいいの?
昨夜の電話で尋ねた俺に、朝見はいつも以上に柔らかな声で言った。
――小林先生との約束は今日の練習までだから。明日の僕はもう遼平のコーチだよ。
駅からバスに乗り住宅街を抜けていく。緩い坂道を上るバスの窓からは、視線より上の高さに並ぶいくつもの建物が見える。あそこが会場となっている学校だろう。
校門の前に降り立てば、肌に触れる風には涼しさが混じっていた。吸い込んだ空気には濃い緑の匂いがあり、何重もの蝉の声が体を包み込む。真上の空には薄い雲が広がっていて、夏の暑さを少しだけ和らげてくれていた。
「少し早かったかな」
スマートフォンで時間を確認すれば、まだお昼前の時間だった。
電車を降りてからも、会場に向かうバスの中でも、敷地内に入ってからも自分と同じ参加者らしきひとは見かけなかった。競技会自体は午前九時から行われているので、多くの参加者はすでに会場に入っているのだろう。個人の参加が認められているとはいえ、チームでの参加がほとんどだろうから。
山を切り開いた広大な敷地にはいくつもの建物が並んでいる。構内案内図を確かめれば、今立っている正門はちょうど高校と大学の敷地の境目にあり、朝見と待ち合わせているグラウンドは手前の校舎を曲がったところにある。会場となっている競技場もとても近く、風の音とともにアナウンスの声が聞こえた。
じり、と胸の奥が焼ける。記録会には参加していたけれど、こうして走高跳をもう一度やると決めてからは初めての試合だった。規模はそれほど大きくない。トラック種目の参加者は多いが、フィールド種目の、走高跳の参加者は十数名ほどだと朝見が言っていた。そこまで多くはない人数に少しだけ息を吐き出せば、電話の向こうで朝見は言いづらそうに言葉を続けた。
――人数は少ないけど、出場する選手のレベルは高いよ。
それは俺が敵わないくらい? 出かかった言葉を寸前で飲み込む。レベルが違うことなんて初めからわかっていたじゃないか。だからこそ朝見は俺が参加することに反対したのだから。それでも参加することを、跳ぶことを決めたのは俺自身だ。
――そっか。それは楽しみだな。
強がりでもいい。言葉にすることが今は大事だと思うから。そうしたなら朝見もきっと笑って「そうだね」って言ってくれるから。
――うん。遼平が跳ぶのを楽しみにしているよ。
それだけで、その言葉だけで俺の中にある光は何倍も強くなる。
巨大な校舎の影を抜け、最初に感じたのは土の匂い。もうすぐ前方にグラウンドが見える、そう思い足を速めたときだった。
視界に入れる前、肌に触れた空気だけで伝わってくる。まだたどり着いてはいない。そこにいるひとの顔も見えない距離。それでも、わかる。
――朝見コーチのレベルから考えると、やっぱりオリンピック目指しちゃうような選手とか?
耳の奥に残っていた平井の言葉に自然と頷いていた。
きっとここはそういうところだ。
二日ぶりに見た朝見は完全にコーチの顔をしていた。
昨日の電話では「明日の僕はもう遼平のコーチだよ」と言っていたけれど。朝見はグラウンドの端に設置されている走高跳のバーの近く、最終調整を行っている選手たちと話をしていた。
ピンと張りつめた空気と真剣な表情。一昨日の朝に見た笑顔はどこにもなかった。コーチをしているのは同じでも、いつもの――うちの陸上部での――朝見とは明らかに違った。接し方が変わったわけではない。ひとりひとりに丁寧に声をかけるのも変わらない。だけど、違う。「何が」とは言えないけれど、違った。
向けられる熱量が違うからだろうか。高みを目指す選手の心に触れて、自分を慕い求める想いに触れて、朝見の中で何かが変わったのかもしれない。必ず戻るのだと言っていたけれど。実際に触れることで朝見自身が感じることも思うこともあるだろう。
――君は君自身で自分の立場と実力を知りなさい。
鷹人の父さんに言われた言葉は単純に自分と周りとの差を自覚しなさい、というだけではなかったのかもしれない。そこに関わっていく朝見のことも、どういう環境が、どういう相手が朝見にふさわしいのかもその目で確かめなさい、という意味もあったに違いない。
ここにあるのはただ単純に上の大会を目指すというものではない。もっと先の未来を見据え、そのために必要なことをしているのだという、もっと強い想いだ。夢ではなく目標。遠くの未来ではない、自分が歩く道の先にある現実。希望なんて優しい言葉ではない。手を伸ばすのではなく、この手で掴むことを意識した、強く切実な想い。
このあとの試合を考え、跳ぶ本数は制限されているだろうけれど、朝見の言葉を聞く前と後の二本を見れば十分だった。もともとここには優秀な選手しかいない。朝見のアドバイスを受け、跳べば跳ぶほど美しく空へと近づいていく。本数を重ねなくても想像できてしまう。言葉を受け取り、意味を飲み込み、すぐに体現させてみせる。選手個人の力もあるけれど。それを引き出せてしまうのは、やはり『朝見凛』だから、なのだろう。
――陸上界全体のための提案だよ。
鷹人の父さんの言葉が蘇る。朝見の力をもっと活かせる場所に、と思うのは当然だ。たった数分の会話でこんなにも変わっていくのだから。
陸上界のために。
朝見の才能のために。
頂点を目指す選手たちのために。
鷹人の父さんが求めるのは、世間が望むのは、選手たちが欲するのは、そういう『朝見凛』なのだろう。指導者として陸上界に戻り、未来へと向かう選手たちのために力を注ぐ。それは五年前にいなくなってしまった『朝見凛』の「その後」としてきっとふさわしい。
「……」
握りしめた手は熱く湿っていた。見上げた空には雲がかかっていて、地面に落ちる影は薄く不安定な色をしている。熱を含んだ空気が吸い込むたびに胸を苦しくさせる。
それでも。この場所に立つことを選んだのは自分だから。これを望んだのは俺自身だから。今は目の前の現実と向き合って、飲み込んでいくしかない。
走高跳の競技開始は四時間後。通常の大会では一次召集でリストにある自分の名前を確認し、二次招集でスパイクとナンバーカードの確認を行ってからスタート地点へと向かう。この競技会ではフィールド種目の参加者が少ないためか、フィールド種目の参加者に限っては競技開始の三十分前に集合すればよいことになっていた。俺は学校単位の参加ではないので、他の競技を応援する必要もなく、招集時刻までは自由だった。
待ち合わせ場所であるグラウンドの入口へと足を進める。歩くたびに背中からはカチャカチャと小さな音が鳴る。リュックにはお弁当がふたつ入っていた。母さんに「朝見さんとふたり分ね」と渡されたのだ。食卓に並んでいた桃も別の容器に詰められ「ふたりで食べてね」と追加された。走高跳の練習はグラウンドの端で行われていたので、朝見のいる場所からは少しずつ遠ざかるかたちになる。声をかけることはしなかった。邪魔をしたくはなかったし、そんなことをしなくても来てくれるのだと信じていたかったから。
グラウンドではそれぞれの競技に合わせてアップを行う姿が多く見られる。この高校の陸上部だけではもちろんない。ほかの高校の陸上部や大学生の姿もある。
入り口で足を止めた俺はグラウンドに背を向け、そっと息を吸い込んだ。校舎に遮られ見ることはできないが、この先の競技場では試合が行われている。この時間帯は一番参加者の多い100m走だったはず。スタートの合図であるピストル音が風に乗って聞こえてくる。
静かに目を閉じれば思い出されるのは一年前まで当たり前にあった風景。自分の競技時刻とチームメイトの競技時刻を確認し、できるだけ応援に参加できるようスケジュールを頭に入れていた。スタンドから見下ろす競技場内は広く、青いトラックでは常に誰かが走っていて、真ん中のフィールドでは跳躍種目や投てき種目が行われている。広いと言っても地区予選で使われる競技場はそれほど大きくはなく、声もよく響いた。
走高跳の応援は手拍子が多い。タン、タン、タン、と打ち鳴らされるリズムが体の中で反響し、内側から力が引っ張りだされていく。高まっていく気持ちに合わせてトン、と足を踏み出せば聞こえていた音は消え、体の中に生まれた熱が風を求め駆け出していく。カーブに合わせてスピードが徐々に上がり、踏み切りの二歩手前で重心を下げ、力をさらにためて……。
「――朝見コーチ」
耳に飛び込んできた声に、一瞬にして景色は変わる。光を取り戻したばかりの視界を声の聞こえた方角へと向ける。グラウンドの端を通ってこちらへと向かってくるのは朝見と、先ほどまで一緒に練習を行っていた選手たち。お揃いのTシャツを着ている数人がさらにその周りを囲っている。おそらく朝見が指導していた陸上部員たちだろう。ざっと十人ほどいる。朝見はそのひとりひとりの声に答えながら俺の方へとやって来る。
離れていたこの二日間。朝見がどんなふうに過ごしてきたのかは周りの顔を見ればわかる。憧れと信頼のまなざしを向けられ、そのひとつひとつに丁寧に接してきたのだろう。
近づいてくる集団に体が自然と固くなる。
朝見に集まる多くの人。その輪を少し遠くから見つめる自分。これが本来の距離なのかもしれない。手を伸ばしても届かないけれど、視界に入れることも、声を聞くこともできる。自分だけに向けられるわけではないけれど、自分に向けてもらえるものもある。
それだけで十分だと思うべきなのだろう。
「……あさ」
「遼平!」
俺が呼び掛けるよりも一瞬早く、こちらに気づいた朝見が名前を呼んだ。あんなに丁寧に対応していたのに、周りから向けられる視線も戸惑う表情さえも気にせず「僕のお昼も持ってきてくれたんでしょ? 涼子さんから聞いてるよ。どこで食べようか? 競技開始まではまだ時間あるし、少しゆっくりできる方がいいよね」と言葉を連ねながら歩くスピードを上げてやって来る。
「……」
迷いのない動きに朝見の心がどこに向けられているのか、苦しいくらいに伝わってくる。離れている間にもしかしたら少しは揺らいだのかもしれないと、完璧なコーチの顔をした朝見に不安を感じてしまったけれど。
視線の先にあるのは俺のよく知る、見慣れた顔で。弾んでしまっている声さえ耳慣れたもので。柔らかな空気に、甘い香りに固くなっていた心を解かれる。
――それはきっと俺だけではない。
向かい合う瞳の中に映るのはお互いの姿だから。
言葉にしなくても、もうわかる。朝見が望むのなら。信じてくれるのなら。俺も一緒に目指すだけだ。誰かの作った理想では意味などない。朝見自身がそれを望んでいないのなら意味はないと、俺は思うから。
朝見が俺を一番に考えてくれるように。俺も朝見のことを考えたい。朝見のために。自分のために。ふたりの未来のために。
受け止められるだろうか。認めさせられるだろうか。全員は無理でも。今すぐにとはいかなくても。いつか。ふたりで歩くからこそ見せられるものが、届けられるものがあると。
「うん。一緒に食べよう」
目の前にある空は出会った頃と変わらず、まっすぐに俺を映してくれる。ふっと表情を緩め「今日ずっと楽しみにしてたんだよね」と朝見が笑った。コーチのそれではなく、俺が接してきた、俺が一番に浮かべる朝見の顔がそこにはあった。
ウォーミングアップを終え競技場へと移動する間にも、俺が隣にいても関係なく朝見のところにはいろんな選手がやってきた。自分の競技を終えて結果を報告に来るもの、競技前に話して力をもらいにくるもの、できればずっと朝見にいてほしいと直接伝えに来るもの。どんな言葉にも朝見は丁寧に応える。それはおそらく俺のためでもあるのだろう。
直接口にすることはなくても。言葉にしなくても伝わるものはある。朝見の隣にいる俺へと向ける鋭い視線が「どうしてこいつが」「どうして朝見コーチはこんなやつを」と語っていた。
「遼平」
競技場の入り口で朝見が足を止める。競技を終えた選手の何人かがこちらを振り返っている。朝見はフィールド内には入れない。スタンドから見守ってはくれるけれど、今のように手を伸ばせば届く距離ではなくなる。ここから先は俺だけで向かわなくてはならない。隣に朝見がいても向けられる視線を、今度はひとりで受け止めることになる。視線だけでなく、直接的な言葉もあるかもしれない。
「……」
自然と俯いてしまっていた。
ふっと柔らかな香りが触れた気がして顔を上げれば「遼平」と小さく目尻を下げて朝見が笑っていた。
「遼平なら大丈夫だよ」
何が、なんて言わなくてもいい。ただひとこと朝見が「大丈夫」と言ってくれれば、それだけで十分だった。それだけで全部を背負っていける。周りから向けられるいくつもの視線も。言葉だけでなく仕草や態度で伝えられる思いも。この道の先にあるもの――全部を。
「いってくる」
「うん。いってらっしゃい」
走高跳に出場する選手は俺を含めて十二名だった。社会人二名に、大学生五名。残り五名が高校生。そのうち朝見がコーチをしていた――鷹人の父さんが監督をする――陸上部員はふたりしかいなかった。練習をしていたのはこのふたりだけではなかったはずだけど。参加標準記録はないので希望すれば全員が出られるはずの試合。こんな小さな試合すら鷹人の父さんは一定のレベルに達した部員しか出さないのだろうか。
――父さんが許してくれないから。
不意に思い出されたのは鷹人の震えた声。
インターハイへの出場を決めているふたりのための調整として出場させているのかもしれないけれど。でも……。朝見へと向けられていた視線は誰もが本気で競技に取り組んでいるのだとはっきりと伝わってくるものだった。
「……」
鷹人の父さんには鷹人の父さんのやり方や方針があるのだろう。それについて自分が何かを言える立場にはないし、言うべきことでもない。ほかのふたりもインターハイ出場を決めていて、参加する高校生の中でなんの実績もないのは自分だけだ。俺にあるのはコーチである朝見の名前と推薦してくれた鷹人の父さんの名前だけ。こんな俺がここにいることの意味。それを俺は自分で確かめなくてはならない。
「よく来れたよな」
案内されたフィールド内でスパイクへと履き替えていたときだった。話しかけるでもなく、聞こえるように落とされた言葉に顔を上げる。向けられたまなざしの強さに思わず息が止まった。
感じるのは嫉妬と羨望だけではない。
「お前、あのとき跳べなかったやつだろ」
明らかな侮蔑を込めてかけられた声。同じテントにいたからよく覚えている、と吐き出すように笑われ「もう跳べるの?」とバカにしたような視線を向けられる。
冷たい熱。体の先まで痛みを引き起こすような不快感。それでも振り払うのではなく、受け止める。
過去は変えられない。足を止めてしまったこと。逃げ出してしまったこと。今さらどうにもできない。なかったことにはできないのだから――その全部を受け止めて進むしかない。
「ああ、そうだよ」
悔しさも怒りも浮かばなかった。
――ここにあるのは光だから。
紐を結ぶ手に力を入れる。キュッと布地に包み込まれた足が温かくなる。夕陽が差し込む中で交わされた約束は色褪せることなくここにある。
「でも、今は跳べるよ」
立ち上がると同時に息を吸い込む。湿気を含んだ熱い風を体に送り込む。競技場の真上の空にはまだ薄く雲がかかっていた。突き刺すような日差しはわずかに揺らぎ、芝の上を影が流れていく。
汗ばむ肌を撫でていく風。体の先まで広がる温度。胸の奥の光が失われることはない。指先にまで沁み込む風の感覚をそっと確かめるように手を握る。静かに目を閉じれば、自分のためだけに跳んでくれた、あの日の朝見の姿が浮かぶ。
――君は、あの『朝見凛』がコーチをするほどの選手になれるかい?
蘇った声を静かに受け止め、そっと飲み込む。もう逃げはしない。あの『朝見凛』がコーチをするほどの選手になることを、朝見と一緒に目指すことを、俺は決めたのだから。
踏切と助走の目安となるマークをつけるため、支柱からスパイクで歩数を確認する。全員が確認と練習を終えると、バーの高さは一メートル八十五センチにセットされた。この高さは中学の全国大会(全中)の参加標準記録でもある。
――まずはここが最低ライン、ということだろう。
バーの高さは出場選手の提出した記録をもとに当日決めることになっていた。インターハイの地区予選では一メートル七十センチからスタートしたので、この高さでバーがセッティングされたということが、ここにはそのレベルの選手しかいないのだと伝えていた。
横に置かれた白いバーの真ん中、オレンジ色の印を静かに見つめる。トン、と軽く跳ねてから助走を開始する。朝見から贈られたスパイクが地面を捉え、接着面から跳ね返る力が体の中へと溜まっていく。緩やかな加速にあわせて自分の作り出す風が膨らんでいく。
頭で、というよりは何度と繰り返してきた練習の先にある感覚でマークを捉える。踏み切る手前で重心を落とし、溜めこまれた力を上へと導く。腕の振り。体の軸。空中姿勢。足の先がバーを抜けるまで。力ではなく、神経を注ぐ。
――それは一瞬のこと。
瞬きにも満たない一瞬の景色。それでも届きたいと願い、触れたいと焦がれ、目の前の光へと手を伸ばす。頭上に広がる空をこの瞳に映したくて。近づいたそばから離れていくような、刹那の輝きであっても。胸に落ちていくこの熱が消えることはもうない。
背中がマットの感触を捉え、視線を移動させる。自分の足が降りた視界の真ん中には、変わることのない白い直線が揺れることなく存在していた。
ふっと息を吐き出し、待機スペースへと戻る。このくらいの高さなら周りにいる選手たちは簡単に越えてくるだろう。
そっとスタンドへ視線を向ければ、静かに笑う顔がある。言葉はなくても。一瞬だけ繋げた視線の先には変わらない空の色がある。この距離でも俺にはもうそれがはっきりとわかる。
今はただ跳ぶことしかできない。たとえ記録が周りの選手に遠く及ばなくても。この目の前にある一本一本を越えていくしかない。どこまで食らいついていけるかはわからないけれど、それしか今の自分ができることはないのだから。やれるだけやるしかない。
バーは三センチずつ上げられ、その高さは一メートル九十七センチになった。俺が中学時代に出した自己ベストと同じ高さ。二メートルには満たない。高校では参加標準記録がないとはいえ、二メートルを越えないことには、今いるメンバーとはスタートラインにも並べないだろう。今の自分はまだそこまでいっていない。
その事実も実力も認めたうえで、それでも跳ぶことを決めた。
――今、超えるべきは一年前の自分。
ほかの選手からすれば、大した高さではない。インターハイに出るためのレベルには届いていない。それでもここを乗り越えるのは、俺の中では意味のあることだから。
スタート位置で止まってしまった自分ではもうない。動けずしゃがみ込んでしまった自分ではもうない。
吸い込んだ空気から熱が伝わってくる。
一メートル九十七センチ。
高さを意識した瞬間に、わずかに体が強張った。踏み切った瞬間に力に乗れていないと気づき、無理やり姿勢を保とうと余計に力が入った。視界に映る景色を感じる余裕もなく、失敗したとわかる。背中が着地すると同時にバーは落下した。
ギュッと胸を掴まれるような痛みが走り、思わず息が止まる。
ここまで誰も失敗はしていない。全員が一本目でクリアしていた。バーが落ちたのはこれが初めてだった。止まってしまった風の中でため息と失笑が耳に届く。静かに顔を向ければ嘲りの滲んだまなざしで突き刺される。
ドクドクと心臓が騒ぎ出し、指先から熱が消えていく。
朝見が鷹人の父さんに何かを言われているのが見える。
まだ足りない。まだなれない。そんなの、わかっている。立ち止まりそうになる心を奮い立たせ、顔を前に向ける。それでも……俺以外の全員が危なげなくバーを越えていく姿に、体の芯へと冷たい熱がたまっていくのを止めることはできなかった。
――二本目。
抜けたかに思われたが最後の最後でバーは落ちてきた。
先ほどよりも濃くなった侮蔑の色。増えていくため息の重さ。自分を捕えようとする空気に飲み込まれる。こんなところで立ち止まっていたくはないのに。もっと先に進まないといけないのに。たった三センチ前までは当たり前にできていたことができなくなる。また失敗するかもしれない。俺には越えられないのかもしれない。不安が全身へと広がっていく。
「遼平」
強くはなかった。大きくもなかった。声になっていたのかもわからない。響いたのは胸の奥。振り返った視界の先、スタンドに立つ朝見はただ小さく頷いただけだった。触れなくても、直接声を聞けなくても繋がっている場所がある。失われることのない輝きを俺はもう持っている。
「……っ」
ここで終わりたくない。
これくらいでいい、なんて思えない。
――遼平は自分が思っているよりも負けず嫌いなんだよ。『これくらいでいい』って自分で線を引いても最後は自分から超えていくから。だから信じるだけでいい。
朝見の言葉が体の奥で響く。
――遼平は自分の力を信じるだけでいいんだよ。
残り一本。
「こんなもんかよ」
後ろから聞こえた言葉を背中で受け止める。今はまだ「こんなもの」かもしれない。誰かに認めてもらえるような場所には立てていない自覚もある。
だけど――立ち止まったことがある自分だからこそ見せられる姿がある。たった二か月でも朝見に教わったからこそ伝えられるものがある。今はまだ「いつか」でしかなくても。
スタンドからは大会の時のような手拍子は聞こえない。応援の声も、広げられた空色のタオルもない。ない――けれど。タン、タン、タン……スタンドからの手拍子は頭の中で響く。鮮やかな空を広げた仲間たちの姿も思い出される。その後ろに見えるのは今の陸上部の仲間たちだ。自分の中にあるもの。自分が出会ってきたもの。そのすべてを無駄にはしたくないから。
体の内側へと響く音が熱となって広がっていく。この視界に映ることがなくても。目を閉じていても。感じることができる。この胸の中にあの景色を映すことができる。
踏み出す直前に視線を向けたのは、一緒に空へと向かう約束の象徴。
――遼平、僕と一緒に空を見にいこう。
向けられる視線にも、投げかけられる周囲の言葉にも、もう折れはしない。俺は自分の空を目指すことだけを考える。言葉だけではきっと伝わらない。すべてを理解してもらおうなんて思ってもいない。ただ、それでもこの先の世界を、朝見と一緒に俺は見たいから。
ゆっくりと足を踏み出す。地面から返ってくる力が体に溜まっていく。コーナーマークを越えカーブに沿って加速する。体が円の内側へと傾き、重心が下がる。踏み切る足からまっすぐ伸びた軸を意識し、手を振り上げる。
――その一瞬に感じたのは全身を貫くように走る光だった。
体の芯に沿って力が突き抜けていく感覚。今まで跳んできたのとは違う。捉えて初めて自覚する。掴みきれてはいなかったのだと。見えてはいたけれど、触れてはいたけれど、この手にしっかりと掴みきれてはいなかった。捉えきれてはいなかった。ぼやけていた景色が鮮明に目の前に迫る。
――跳べる。
バーを越える前から、確信は自然と生まれていた。
助走、踏切、腕の振り上げ、空中姿勢。作り出した力と持っていたバネがしっかりと噛み合う。足の裏から頭の先へと風とともに光が駆けていく感覚。
道具も何もない。自分の力だけで跳ぶ。それがこんなにも楽しく、美しい景色を見せてくれるものなのだと、自分自身に改めて教えられた気がした。
一瞬の浮遊感のあと、背中が沈む。雲が切れ、青すぎる空が広がる手前、白い直線がまっすぐ伸びる。
この手に触れた。この手に掴んだ。求め続けた世界、焦がれ続けた背中。ほんの一瞬だけど。確かに届いたのだとわかる。
あの日の、画面越しの朝見を思い出す。跳ぶのだと誰もが確信した。跳べるのだと誰よりも朝見自身が確信していた。その瞳に映る空の美しさを誰もが見ていた――あの一瞬を。
俺の最終的な記録は二メートル三センチ、順位としては十位。どうにか二メートルは越えたがそこまでだった。それでもきっと次は跳べる。次でなくても。その次でも。跳べると思えた。
最も高いバーを越えたのは鷹人の父さんが教える陸上部の選手だった。その記録は二メートル二十一センチ。俺との差は十八センチ。自分の越えられなかった高さを次々と越えていく姿に目が離せなかった。もっと近くであの景色を見られるのが羨ましくてたまらない。もっと高く。もっとそばで。もっとあの感覚を味わっていたい。
高さを越えていくだけの、自分の力で跳ぶだけの競技。一瞬で終わってしまうような時間。それでも、何ものにも代えられない輝きがそこにはあった。
この場所にいる全員が同じものに魅せられていた。
認めてもらえたとは思えない。納得してもらえたなんて到底思えない。それでも譲りたくはないから。どんな言葉も想いも。全部を受け止めてでも、前に進んでいくのだと決めたのだから。
「――全国まで来なさい」
試合後、鷹人の父さんから言われたのはその一言だけだった。それだけで十分だった。
「はいっ」
頭を深く下げた俺の視界には、朝見との約束の象徴であるスパイクがしっかりと地面に並んでいた。
その夜、鷹人から電話があった。
試合で味わった感覚と興奮が抜けない俺は、部屋でいつもより丁寧にストレッチを行っていた。ゆっくりと体を伸ばしながら床に置いたスマートフォンへと視線を向ける。スピーカーに切り替えられた鷹人の声はいつもより柔らかく聞こえた。
――まだ完全に認めたわけじゃないだろうけど。でも、遼平のこと「楽しそうに跳ぶ」って言ってたよ。
鷹人が俺を気にして聞いてくれたのか、鷹人の父さんの方から話したのかはわからないけれど。微かに弾む声に、父親の隣で緊張していた鷹人ではもうないのかもしれないと思えた。
「楽しそう?」
――うん。
「それって喜んでいいんだよな」
――いいんじゃない。
小さく笑いを含んで言われた言葉にくすぐったくなる。
右に伸ばしていた上体の向きを変え、前の床へと倒したときだった。
――ああ、あと……空を映す目、とも言っていたかな。
聞こえた言葉に体が止まる。床の冷たさが心地よく染み込んでくるのを感じたまま問い返す。
「空を映す目?」
静かに息を吸い込んでから鷹人は言った。
――朝見凛も同じ目をしていたってさ。
細く開けられていた窓から風が入り込む。ふわりと揺れるカーテンの隙間から夏の夜の匂いが流れてくる。
「それは……最大級の誉め言葉だな」
窓辺にかけられた風鈴の涼やかな音に、電話越しのふたつの笑い声は重なった。
走高跳は競技開始時刻が午後四時なので、俺は昼過ぎに会場に着くつもりで家を出た。会場は主催している大学の陸上競技場。鷹人の父さんが監督をしている陸上部はその大学の附属高校で、同じ敷地内にあるため競技開始までのウォーミングアップはその高校のグラウンドを使えることになっている。
朝見とはそのグラウンドの前で会うことになっていた。
――今はそっちのコーチなのに俺といてもいいの?
昨夜の電話で尋ねた俺に、朝見はいつも以上に柔らかな声で言った。
――小林先生との約束は今日の練習までだから。明日の僕はもう遼平のコーチだよ。
駅からバスに乗り住宅街を抜けていく。緩い坂道を上るバスの窓からは、視線より上の高さに並ぶいくつもの建物が見える。あそこが会場となっている学校だろう。
校門の前に降り立てば、肌に触れる風には涼しさが混じっていた。吸い込んだ空気には濃い緑の匂いがあり、何重もの蝉の声が体を包み込む。真上の空には薄い雲が広がっていて、夏の暑さを少しだけ和らげてくれていた。
「少し早かったかな」
スマートフォンで時間を確認すれば、まだお昼前の時間だった。
電車を降りてからも、会場に向かうバスの中でも、敷地内に入ってからも自分と同じ参加者らしきひとは見かけなかった。競技会自体は午前九時から行われているので、多くの参加者はすでに会場に入っているのだろう。個人の参加が認められているとはいえ、チームでの参加がほとんどだろうから。
山を切り開いた広大な敷地にはいくつもの建物が並んでいる。構内案内図を確かめれば、今立っている正門はちょうど高校と大学の敷地の境目にあり、朝見と待ち合わせているグラウンドは手前の校舎を曲がったところにある。会場となっている競技場もとても近く、風の音とともにアナウンスの声が聞こえた。
じり、と胸の奥が焼ける。記録会には参加していたけれど、こうして走高跳をもう一度やると決めてからは初めての試合だった。規模はそれほど大きくない。トラック種目の参加者は多いが、フィールド種目の、走高跳の参加者は十数名ほどだと朝見が言っていた。そこまで多くはない人数に少しだけ息を吐き出せば、電話の向こうで朝見は言いづらそうに言葉を続けた。
――人数は少ないけど、出場する選手のレベルは高いよ。
それは俺が敵わないくらい? 出かかった言葉を寸前で飲み込む。レベルが違うことなんて初めからわかっていたじゃないか。だからこそ朝見は俺が参加することに反対したのだから。それでも参加することを、跳ぶことを決めたのは俺自身だ。
――そっか。それは楽しみだな。
強がりでもいい。言葉にすることが今は大事だと思うから。そうしたなら朝見もきっと笑って「そうだね」って言ってくれるから。
――うん。遼平が跳ぶのを楽しみにしているよ。
それだけで、その言葉だけで俺の中にある光は何倍も強くなる。
巨大な校舎の影を抜け、最初に感じたのは土の匂い。もうすぐ前方にグラウンドが見える、そう思い足を速めたときだった。
視界に入れる前、肌に触れた空気だけで伝わってくる。まだたどり着いてはいない。そこにいるひとの顔も見えない距離。それでも、わかる。
――朝見コーチのレベルから考えると、やっぱりオリンピック目指しちゃうような選手とか?
耳の奥に残っていた平井の言葉に自然と頷いていた。
きっとここはそういうところだ。
二日ぶりに見た朝見は完全にコーチの顔をしていた。
昨日の電話では「明日の僕はもう遼平のコーチだよ」と言っていたけれど。朝見はグラウンドの端に設置されている走高跳のバーの近く、最終調整を行っている選手たちと話をしていた。
ピンと張りつめた空気と真剣な表情。一昨日の朝に見た笑顔はどこにもなかった。コーチをしているのは同じでも、いつもの――うちの陸上部での――朝見とは明らかに違った。接し方が変わったわけではない。ひとりひとりに丁寧に声をかけるのも変わらない。だけど、違う。「何が」とは言えないけれど、違った。
向けられる熱量が違うからだろうか。高みを目指す選手の心に触れて、自分を慕い求める想いに触れて、朝見の中で何かが変わったのかもしれない。必ず戻るのだと言っていたけれど。実際に触れることで朝見自身が感じることも思うこともあるだろう。
――君は君自身で自分の立場と実力を知りなさい。
鷹人の父さんに言われた言葉は単純に自分と周りとの差を自覚しなさい、というだけではなかったのかもしれない。そこに関わっていく朝見のことも、どういう環境が、どういう相手が朝見にふさわしいのかもその目で確かめなさい、という意味もあったに違いない。
ここにあるのはただ単純に上の大会を目指すというものではない。もっと先の未来を見据え、そのために必要なことをしているのだという、もっと強い想いだ。夢ではなく目標。遠くの未来ではない、自分が歩く道の先にある現実。希望なんて優しい言葉ではない。手を伸ばすのではなく、この手で掴むことを意識した、強く切実な想い。
このあとの試合を考え、跳ぶ本数は制限されているだろうけれど、朝見の言葉を聞く前と後の二本を見れば十分だった。もともとここには優秀な選手しかいない。朝見のアドバイスを受け、跳べば跳ぶほど美しく空へと近づいていく。本数を重ねなくても想像できてしまう。言葉を受け取り、意味を飲み込み、すぐに体現させてみせる。選手個人の力もあるけれど。それを引き出せてしまうのは、やはり『朝見凛』だから、なのだろう。
――陸上界全体のための提案だよ。
鷹人の父さんの言葉が蘇る。朝見の力をもっと活かせる場所に、と思うのは当然だ。たった数分の会話でこんなにも変わっていくのだから。
陸上界のために。
朝見の才能のために。
頂点を目指す選手たちのために。
鷹人の父さんが求めるのは、世間が望むのは、選手たちが欲するのは、そういう『朝見凛』なのだろう。指導者として陸上界に戻り、未来へと向かう選手たちのために力を注ぐ。それは五年前にいなくなってしまった『朝見凛』の「その後」としてきっとふさわしい。
「……」
握りしめた手は熱く湿っていた。見上げた空には雲がかかっていて、地面に落ちる影は薄く不安定な色をしている。熱を含んだ空気が吸い込むたびに胸を苦しくさせる。
それでも。この場所に立つことを選んだのは自分だから。これを望んだのは俺自身だから。今は目の前の現実と向き合って、飲み込んでいくしかない。
走高跳の競技開始は四時間後。通常の大会では一次召集でリストにある自分の名前を確認し、二次招集でスパイクとナンバーカードの確認を行ってからスタート地点へと向かう。この競技会ではフィールド種目の参加者が少ないためか、フィールド種目の参加者に限っては競技開始の三十分前に集合すればよいことになっていた。俺は学校単位の参加ではないので、他の競技を応援する必要もなく、招集時刻までは自由だった。
待ち合わせ場所であるグラウンドの入口へと足を進める。歩くたびに背中からはカチャカチャと小さな音が鳴る。リュックにはお弁当がふたつ入っていた。母さんに「朝見さんとふたり分ね」と渡されたのだ。食卓に並んでいた桃も別の容器に詰められ「ふたりで食べてね」と追加された。走高跳の練習はグラウンドの端で行われていたので、朝見のいる場所からは少しずつ遠ざかるかたちになる。声をかけることはしなかった。邪魔をしたくはなかったし、そんなことをしなくても来てくれるのだと信じていたかったから。
グラウンドではそれぞれの競技に合わせてアップを行う姿が多く見られる。この高校の陸上部だけではもちろんない。ほかの高校の陸上部や大学生の姿もある。
入り口で足を止めた俺はグラウンドに背を向け、そっと息を吸い込んだ。校舎に遮られ見ることはできないが、この先の競技場では試合が行われている。この時間帯は一番参加者の多い100m走だったはず。スタートの合図であるピストル音が風に乗って聞こえてくる。
静かに目を閉じれば思い出されるのは一年前まで当たり前にあった風景。自分の競技時刻とチームメイトの競技時刻を確認し、できるだけ応援に参加できるようスケジュールを頭に入れていた。スタンドから見下ろす競技場内は広く、青いトラックでは常に誰かが走っていて、真ん中のフィールドでは跳躍種目や投てき種目が行われている。広いと言っても地区予選で使われる競技場はそれほど大きくはなく、声もよく響いた。
走高跳の応援は手拍子が多い。タン、タン、タン、と打ち鳴らされるリズムが体の中で反響し、内側から力が引っ張りだされていく。高まっていく気持ちに合わせてトン、と足を踏み出せば聞こえていた音は消え、体の中に生まれた熱が風を求め駆け出していく。カーブに合わせてスピードが徐々に上がり、踏み切りの二歩手前で重心を下げ、力をさらにためて……。
「――朝見コーチ」
耳に飛び込んできた声に、一瞬にして景色は変わる。光を取り戻したばかりの視界を声の聞こえた方角へと向ける。グラウンドの端を通ってこちらへと向かってくるのは朝見と、先ほどまで一緒に練習を行っていた選手たち。お揃いのTシャツを着ている数人がさらにその周りを囲っている。おそらく朝見が指導していた陸上部員たちだろう。ざっと十人ほどいる。朝見はそのひとりひとりの声に答えながら俺の方へとやって来る。
離れていたこの二日間。朝見がどんなふうに過ごしてきたのかは周りの顔を見ればわかる。憧れと信頼のまなざしを向けられ、そのひとつひとつに丁寧に接してきたのだろう。
近づいてくる集団に体が自然と固くなる。
朝見に集まる多くの人。その輪を少し遠くから見つめる自分。これが本来の距離なのかもしれない。手を伸ばしても届かないけれど、視界に入れることも、声を聞くこともできる。自分だけに向けられるわけではないけれど、自分に向けてもらえるものもある。
それだけで十分だと思うべきなのだろう。
「……あさ」
「遼平!」
俺が呼び掛けるよりも一瞬早く、こちらに気づいた朝見が名前を呼んだ。あんなに丁寧に対応していたのに、周りから向けられる視線も戸惑う表情さえも気にせず「僕のお昼も持ってきてくれたんでしょ? 涼子さんから聞いてるよ。どこで食べようか? 競技開始まではまだ時間あるし、少しゆっくりできる方がいいよね」と言葉を連ねながら歩くスピードを上げてやって来る。
「……」
迷いのない動きに朝見の心がどこに向けられているのか、苦しいくらいに伝わってくる。離れている間にもしかしたら少しは揺らいだのかもしれないと、完璧なコーチの顔をした朝見に不安を感じてしまったけれど。
視線の先にあるのは俺のよく知る、見慣れた顔で。弾んでしまっている声さえ耳慣れたもので。柔らかな空気に、甘い香りに固くなっていた心を解かれる。
――それはきっと俺だけではない。
向かい合う瞳の中に映るのはお互いの姿だから。
言葉にしなくても、もうわかる。朝見が望むのなら。信じてくれるのなら。俺も一緒に目指すだけだ。誰かの作った理想では意味などない。朝見自身がそれを望んでいないのなら意味はないと、俺は思うから。
朝見が俺を一番に考えてくれるように。俺も朝見のことを考えたい。朝見のために。自分のために。ふたりの未来のために。
受け止められるだろうか。認めさせられるだろうか。全員は無理でも。今すぐにとはいかなくても。いつか。ふたりで歩くからこそ見せられるものが、届けられるものがあると。
「うん。一緒に食べよう」
目の前にある空は出会った頃と変わらず、まっすぐに俺を映してくれる。ふっと表情を緩め「今日ずっと楽しみにしてたんだよね」と朝見が笑った。コーチのそれではなく、俺が接してきた、俺が一番に浮かべる朝見の顔がそこにはあった。
ウォーミングアップを終え競技場へと移動する間にも、俺が隣にいても関係なく朝見のところにはいろんな選手がやってきた。自分の競技を終えて結果を報告に来るもの、競技前に話して力をもらいにくるもの、できればずっと朝見にいてほしいと直接伝えに来るもの。どんな言葉にも朝見は丁寧に応える。それはおそらく俺のためでもあるのだろう。
直接口にすることはなくても。言葉にしなくても伝わるものはある。朝見の隣にいる俺へと向ける鋭い視線が「どうしてこいつが」「どうして朝見コーチはこんなやつを」と語っていた。
「遼平」
競技場の入り口で朝見が足を止める。競技を終えた選手の何人かがこちらを振り返っている。朝見はフィールド内には入れない。スタンドから見守ってはくれるけれど、今のように手を伸ばせば届く距離ではなくなる。ここから先は俺だけで向かわなくてはならない。隣に朝見がいても向けられる視線を、今度はひとりで受け止めることになる。視線だけでなく、直接的な言葉もあるかもしれない。
「……」
自然と俯いてしまっていた。
ふっと柔らかな香りが触れた気がして顔を上げれば「遼平」と小さく目尻を下げて朝見が笑っていた。
「遼平なら大丈夫だよ」
何が、なんて言わなくてもいい。ただひとこと朝見が「大丈夫」と言ってくれれば、それだけで十分だった。それだけで全部を背負っていける。周りから向けられるいくつもの視線も。言葉だけでなく仕草や態度で伝えられる思いも。この道の先にあるもの――全部を。
「いってくる」
「うん。いってらっしゃい」
走高跳に出場する選手は俺を含めて十二名だった。社会人二名に、大学生五名。残り五名が高校生。そのうち朝見がコーチをしていた――鷹人の父さんが監督をする――陸上部員はふたりしかいなかった。練習をしていたのはこのふたりだけではなかったはずだけど。参加標準記録はないので希望すれば全員が出られるはずの試合。こんな小さな試合すら鷹人の父さんは一定のレベルに達した部員しか出さないのだろうか。
――父さんが許してくれないから。
不意に思い出されたのは鷹人の震えた声。
インターハイへの出場を決めているふたりのための調整として出場させているのかもしれないけれど。でも……。朝見へと向けられていた視線は誰もが本気で競技に取り組んでいるのだとはっきりと伝わってくるものだった。
「……」
鷹人の父さんには鷹人の父さんのやり方や方針があるのだろう。それについて自分が何かを言える立場にはないし、言うべきことでもない。ほかのふたりもインターハイ出場を決めていて、参加する高校生の中でなんの実績もないのは自分だけだ。俺にあるのはコーチである朝見の名前と推薦してくれた鷹人の父さんの名前だけ。こんな俺がここにいることの意味。それを俺は自分で確かめなくてはならない。
「よく来れたよな」
案内されたフィールド内でスパイクへと履き替えていたときだった。話しかけるでもなく、聞こえるように落とされた言葉に顔を上げる。向けられたまなざしの強さに思わず息が止まった。
感じるのは嫉妬と羨望だけではない。
「お前、あのとき跳べなかったやつだろ」
明らかな侮蔑を込めてかけられた声。同じテントにいたからよく覚えている、と吐き出すように笑われ「もう跳べるの?」とバカにしたような視線を向けられる。
冷たい熱。体の先まで痛みを引き起こすような不快感。それでも振り払うのではなく、受け止める。
過去は変えられない。足を止めてしまったこと。逃げ出してしまったこと。今さらどうにもできない。なかったことにはできないのだから――その全部を受け止めて進むしかない。
「ああ、そうだよ」
悔しさも怒りも浮かばなかった。
――ここにあるのは光だから。
紐を結ぶ手に力を入れる。キュッと布地に包み込まれた足が温かくなる。夕陽が差し込む中で交わされた約束は色褪せることなくここにある。
「でも、今は跳べるよ」
立ち上がると同時に息を吸い込む。湿気を含んだ熱い風を体に送り込む。競技場の真上の空にはまだ薄く雲がかかっていた。突き刺すような日差しはわずかに揺らぎ、芝の上を影が流れていく。
汗ばむ肌を撫でていく風。体の先まで広がる温度。胸の奥の光が失われることはない。指先にまで沁み込む風の感覚をそっと確かめるように手を握る。静かに目を閉じれば、自分のためだけに跳んでくれた、あの日の朝見の姿が浮かぶ。
――君は、あの『朝見凛』がコーチをするほどの選手になれるかい?
蘇った声を静かに受け止め、そっと飲み込む。もう逃げはしない。あの『朝見凛』がコーチをするほどの選手になることを、朝見と一緒に目指すことを、俺は決めたのだから。
踏切と助走の目安となるマークをつけるため、支柱からスパイクで歩数を確認する。全員が確認と練習を終えると、バーの高さは一メートル八十五センチにセットされた。この高さは中学の全国大会(全中)の参加標準記録でもある。
――まずはここが最低ライン、ということだろう。
バーの高さは出場選手の提出した記録をもとに当日決めることになっていた。インターハイの地区予選では一メートル七十センチからスタートしたので、この高さでバーがセッティングされたということが、ここにはそのレベルの選手しかいないのだと伝えていた。
横に置かれた白いバーの真ん中、オレンジ色の印を静かに見つめる。トン、と軽く跳ねてから助走を開始する。朝見から贈られたスパイクが地面を捉え、接着面から跳ね返る力が体の中へと溜まっていく。緩やかな加速にあわせて自分の作り出す風が膨らんでいく。
頭で、というよりは何度と繰り返してきた練習の先にある感覚でマークを捉える。踏み切る手前で重心を落とし、溜めこまれた力を上へと導く。腕の振り。体の軸。空中姿勢。足の先がバーを抜けるまで。力ではなく、神経を注ぐ。
――それは一瞬のこと。
瞬きにも満たない一瞬の景色。それでも届きたいと願い、触れたいと焦がれ、目の前の光へと手を伸ばす。頭上に広がる空をこの瞳に映したくて。近づいたそばから離れていくような、刹那の輝きであっても。胸に落ちていくこの熱が消えることはもうない。
背中がマットの感触を捉え、視線を移動させる。自分の足が降りた視界の真ん中には、変わることのない白い直線が揺れることなく存在していた。
ふっと息を吐き出し、待機スペースへと戻る。このくらいの高さなら周りにいる選手たちは簡単に越えてくるだろう。
そっとスタンドへ視線を向ければ、静かに笑う顔がある。言葉はなくても。一瞬だけ繋げた視線の先には変わらない空の色がある。この距離でも俺にはもうそれがはっきりとわかる。
今はただ跳ぶことしかできない。たとえ記録が周りの選手に遠く及ばなくても。この目の前にある一本一本を越えていくしかない。どこまで食らいついていけるかはわからないけれど、それしか今の自分ができることはないのだから。やれるだけやるしかない。
バーは三センチずつ上げられ、その高さは一メートル九十七センチになった。俺が中学時代に出した自己ベストと同じ高さ。二メートルには満たない。高校では参加標準記録がないとはいえ、二メートルを越えないことには、今いるメンバーとはスタートラインにも並べないだろう。今の自分はまだそこまでいっていない。
その事実も実力も認めたうえで、それでも跳ぶことを決めた。
――今、超えるべきは一年前の自分。
ほかの選手からすれば、大した高さではない。インターハイに出るためのレベルには届いていない。それでもここを乗り越えるのは、俺の中では意味のあることだから。
スタート位置で止まってしまった自分ではもうない。動けずしゃがみ込んでしまった自分ではもうない。
吸い込んだ空気から熱が伝わってくる。
一メートル九十七センチ。
高さを意識した瞬間に、わずかに体が強張った。踏み切った瞬間に力に乗れていないと気づき、無理やり姿勢を保とうと余計に力が入った。視界に映る景色を感じる余裕もなく、失敗したとわかる。背中が着地すると同時にバーは落下した。
ギュッと胸を掴まれるような痛みが走り、思わず息が止まる。
ここまで誰も失敗はしていない。全員が一本目でクリアしていた。バーが落ちたのはこれが初めてだった。止まってしまった風の中でため息と失笑が耳に届く。静かに顔を向ければ嘲りの滲んだまなざしで突き刺される。
ドクドクと心臓が騒ぎ出し、指先から熱が消えていく。
朝見が鷹人の父さんに何かを言われているのが見える。
まだ足りない。まだなれない。そんなの、わかっている。立ち止まりそうになる心を奮い立たせ、顔を前に向ける。それでも……俺以外の全員が危なげなくバーを越えていく姿に、体の芯へと冷たい熱がたまっていくのを止めることはできなかった。
――二本目。
抜けたかに思われたが最後の最後でバーは落ちてきた。
先ほどよりも濃くなった侮蔑の色。増えていくため息の重さ。自分を捕えようとする空気に飲み込まれる。こんなところで立ち止まっていたくはないのに。もっと先に進まないといけないのに。たった三センチ前までは当たり前にできていたことができなくなる。また失敗するかもしれない。俺には越えられないのかもしれない。不安が全身へと広がっていく。
「遼平」
強くはなかった。大きくもなかった。声になっていたのかもわからない。響いたのは胸の奥。振り返った視界の先、スタンドに立つ朝見はただ小さく頷いただけだった。触れなくても、直接声を聞けなくても繋がっている場所がある。失われることのない輝きを俺はもう持っている。
「……っ」
ここで終わりたくない。
これくらいでいい、なんて思えない。
――遼平は自分が思っているよりも負けず嫌いなんだよ。『これくらいでいい』って自分で線を引いても最後は自分から超えていくから。だから信じるだけでいい。
朝見の言葉が体の奥で響く。
――遼平は自分の力を信じるだけでいいんだよ。
残り一本。
「こんなもんかよ」
後ろから聞こえた言葉を背中で受け止める。今はまだ「こんなもの」かもしれない。誰かに認めてもらえるような場所には立てていない自覚もある。
だけど――立ち止まったことがある自分だからこそ見せられる姿がある。たった二か月でも朝見に教わったからこそ伝えられるものがある。今はまだ「いつか」でしかなくても。
スタンドからは大会の時のような手拍子は聞こえない。応援の声も、広げられた空色のタオルもない。ない――けれど。タン、タン、タン……スタンドからの手拍子は頭の中で響く。鮮やかな空を広げた仲間たちの姿も思い出される。その後ろに見えるのは今の陸上部の仲間たちだ。自分の中にあるもの。自分が出会ってきたもの。そのすべてを無駄にはしたくないから。
体の内側へと響く音が熱となって広がっていく。この視界に映ることがなくても。目を閉じていても。感じることができる。この胸の中にあの景色を映すことができる。
踏み出す直前に視線を向けたのは、一緒に空へと向かう約束の象徴。
――遼平、僕と一緒に空を見にいこう。
向けられる視線にも、投げかけられる周囲の言葉にも、もう折れはしない。俺は自分の空を目指すことだけを考える。言葉だけではきっと伝わらない。すべてを理解してもらおうなんて思ってもいない。ただ、それでもこの先の世界を、朝見と一緒に俺は見たいから。
ゆっくりと足を踏み出す。地面から返ってくる力が体に溜まっていく。コーナーマークを越えカーブに沿って加速する。体が円の内側へと傾き、重心が下がる。踏み切る足からまっすぐ伸びた軸を意識し、手を振り上げる。
――その一瞬に感じたのは全身を貫くように走る光だった。
体の芯に沿って力が突き抜けていく感覚。今まで跳んできたのとは違う。捉えて初めて自覚する。掴みきれてはいなかったのだと。見えてはいたけれど、触れてはいたけれど、この手にしっかりと掴みきれてはいなかった。捉えきれてはいなかった。ぼやけていた景色が鮮明に目の前に迫る。
――跳べる。
バーを越える前から、確信は自然と生まれていた。
助走、踏切、腕の振り上げ、空中姿勢。作り出した力と持っていたバネがしっかりと噛み合う。足の裏から頭の先へと風とともに光が駆けていく感覚。
道具も何もない。自分の力だけで跳ぶ。それがこんなにも楽しく、美しい景色を見せてくれるものなのだと、自分自身に改めて教えられた気がした。
一瞬の浮遊感のあと、背中が沈む。雲が切れ、青すぎる空が広がる手前、白い直線がまっすぐ伸びる。
この手に触れた。この手に掴んだ。求め続けた世界、焦がれ続けた背中。ほんの一瞬だけど。確かに届いたのだとわかる。
あの日の、画面越しの朝見を思い出す。跳ぶのだと誰もが確信した。跳べるのだと誰よりも朝見自身が確信していた。その瞳に映る空の美しさを誰もが見ていた――あの一瞬を。
俺の最終的な記録は二メートル三センチ、順位としては十位。どうにか二メートルは越えたがそこまでだった。それでもきっと次は跳べる。次でなくても。その次でも。跳べると思えた。
最も高いバーを越えたのは鷹人の父さんが教える陸上部の選手だった。その記録は二メートル二十一センチ。俺との差は十八センチ。自分の越えられなかった高さを次々と越えていく姿に目が離せなかった。もっと近くであの景色を見られるのが羨ましくてたまらない。もっと高く。もっとそばで。もっとあの感覚を味わっていたい。
高さを越えていくだけの、自分の力で跳ぶだけの競技。一瞬で終わってしまうような時間。それでも、何ものにも代えられない輝きがそこにはあった。
この場所にいる全員が同じものに魅せられていた。
認めてもらえたとは思えない。納得してもらえたなんて到底思えない。それでも譲りたくはないから。どんな言葉も想いも。全部を受け止めてでも、前に進んでいくのだと決めたのだから。
「――全国まで来なさい」
試合後、鷹人の父さんから言われたのはその一言だけだった。それだけで十分だった。
「はいっ」
頭を深く下げた俺の視界には、朝見との約束の象徴であるスパイクがしっかりと地面に並んでいた。
その夜、鷹人から電話があった。
試合で味わった感覚と興奮が抜けない俺は、部屋でいつもより丁寧にストレッチを行っていた。ゆっくりと体を伸ばしながら床に置いたスマートフォンへと視線を向ける。スピーカーに切り替えられた鷹人の声はいつもより柔らかく聞こえた。
――まだ完全に認めたわけじゃないだろうけど。でも、遼平のこと「楽しそうに跳ぶ」って言ってたよ。
鷹人が俺を気にして聞いてくれたのか、鷹人の父さんの方から話したのかはわからないけれど。微かに弾む声に、父親の隣で緊張していた鷹人ではもうないのかもしれないと思えた。
「楽しそう?」
――うん。
「それって喜んでいいんだよな」
――いいんじゃない。
小さく笑いを含んで言われた言葉にくすぐったくなる。
右に伸ばしていた上体の向きを変え、前の床へと倒したときだった。
――ああ、あと……空を映す目、とも言っていたかな。
聞こえた言葉に体が止まる。床の冷たさが心地よく染み込んでくるのを感じたまま問い返す。
「空を映す目?」
静かに息を吸い込んでから鷹人は言った。
――朝見凛も同じ目をしていたってさ。
細く開けられていた窓から風が入り込む。ふわりと揺れるカーテンの隙間から夏の夜の匂いが流れてくる。
「それは……最大級の誉め言葉だな」
窓辺にかけられた風鈴の涼やかな音に、電話越しのふたつの笑い声は重なった。
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