ワーカホリックな彼の秘密

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第38話

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 月曜の朝と言えば、ごく一般的に言えばあまりゴキゲンとは言いかねる。
 青山にとって、特に今朝の出勤は「気の進まない」朝だった。
 製作室の現状としては、平素の忙しさはあれど切羽詰まった締め切り目前の仕事はなく、神巫が大きな仕事を一つ抱えてはいるけれどそれ以外は至って平穏なのだが。
 しかし、週末の金曜日に珍しく自分達と一緒に製作室を後にした柊一が扉に施錠をしてそのままその鍵を手渡してきたのだ。
 柊一は半年に一度から一年に一度のペースで、個人的に医者にかかっている。
 一応「法人」を名乗っている会社は、国が定める所の「雇用者の健康管理の義務」を遂行する為に年に一度の健康診断を設けているが、柊一はこの検診に参加していない。
 具体的な内容は何一つ教えられてはいないが、なにやら「持病」と称する疾患を抱えているので、かかりつけの医者以外は信用出来ない……らしい。
 つまり、鍵を手渡してきた翌日(が休みの時は休み明けの最初の日)は有休を取っていて、柊一は出勤してこない………という事なのだ。
 そうなれば、現場の統括は青山がしなければならない。
 ハッキリした肩書きはない物の、現状として柊一の補佐を務めているのが青山だったからだ。
 勤続年数から言えば、広尾の方がほんの数ヶ月だが先になる。
 しかし、それに関しては柊一にキッパリと「監督官としての才能は広尾には無い」と言われてしまっている。
 しかも広尾自身も「他人の面倒を見るくらいなら、仕事に没頭している方が良い」と言い切ってしまっていて、現場の進行や監督などと言った部分を青山がすることになんのわだかまりもないと来ている。
 青山にしてみれば、自分だとて上に立つよりは、仕事に没頭したい。
 だが、そう思っていても結局それらに気付いてしまうのも事実なのだ。
 席を並べて仕事をしていても、広尾は時に用事があって声を掛けていても気付かない時すらある「集中型」人間だから、結局柊一が抜けた日は青山がその穴を埋めざるを得ないのだ。
 いつもの時間に出勤すると、当たり前だが製作室の扉は施錠されていた。

「おんがらや~す!」

 無駄な期待をしたと思いながらも解錠していると、背後から脳天気でハイテンションな声がする。
 振り返ると、神巫が立っていた。

「あっれ~? 東雲サンどうしたンすか?」
「今日は有休取ってていないよ。それより今のナニ?」
「ええ~! 製作部唯一の華、掃き溜めの中の高貴な鶴がいらっしゃらないんですかっ!」
「またワケ分かんないコト言ってェ…。ハルカもねェ、いい加減にしないとシノさんに呆れられても知らないからね」
「まさか! この期待の新星、超大型新人・神巫悠の才能を、伝説のプログラマーな東雲サンが見抜けないワケ無いでしょう」
「カンナギ君、うるさいよ。ほら、企画の多聞サンが不審な顔でこっち見てるじゃない」
「うえ? あ、おんがらや~す!」

 廊下の向こうで企画室の扉に手を掛けていた多聞は、神巫が挨拶をするよりも早く目線を外すと扉の中に消えた。

「なに、アレ……。感じワル~」
「多聞サンはシノさんと同じくらい忙しいんだから、くちばしの黄色いヒヨッコの相手なんてしてるヒマないの。さぁ、開けたから入って!」
「なんです、なんです? まるで俺が製作室の恥かきっコみたいに! ヒッドイなぁ、青山サン!」

 室内に入ると、ブツブツ言いながらも神巫はそうそうにマシンの電源を入れ始める。
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