ワーカホリックな彼の秘密

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第81話

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「や………っ、かん……なぎ、灯りを消せ……って……」
「暗いと柊一サンの顔が見えなくなるから、ダメ。嘘を見抜くのに、困るモン」
「嘘なんか…吐いてない…っ」

 吐精したばかりの身体は、どこもいつも以上に過敏になっていて。
 反面、一度熱を解放している分、追い詰められても直ぐには高みに昇りきれない。
 皮膚の柔らかい部分に痕を残しながら、神巫の口唇は感じやすい場所を選りすぐって刺激を繰り返す。

「か………んなぎっ!」
「俺の質問に答えてくれなきゃ、イカしてあげませんからね。今度は」
「あぁっ!」

 根元を押さえ込んだまま、神巫の口唇が再び屹立し始めた場所をねっとりと愛撫する。
 ヒクつく花弁から蜜が溢れ、ソコを存分に犯されたい衝動に柊一は悩ましげな呻きをあげた。
 他人との接触を疎んじる精神とは裏腹に、柊一の身体は性的な快楽を熱烈に欲している。
 半ば発作じみた衝動を強靱な精神力で抑え込み続けている柊一の身体は、今まで抑え込まれていた反動とでも言うように刺激を与えられるとより貪欲に食らいついてくるのだ。

「スッゴイ、大洪水になってますね? 俺の、欲しいんでしょう?」
「ちが………っ!」
「欲しがる柊一サン、スゴク魅力的ですよ。でも今日は、ちゃんとお返事してくれるまではあげられないなぁ」
「かんな…………あぁっ!」

 伸ばされた柊一の手が、神巫の髪を掴むが。
 それとてもほとんど力が入らず、狂おしげに身体を捩らせただけに終わる。

「もう、ホントに素直じゃないな~」

 神巫は柊一の根元を押さえたまま、裏側にある異性の象徴に舌を這わせた。

「ああっ!」

 尖らせた舌先で嬲りそれからやんわり噛み付くと、柊一はあられもない悲鳴を上げて身体を仰け反らせる。

「ほら、我を張ってるとこっちばっかり大洪水になるだけですよ? 両方同時に気持ち良くなりたいでしょう?」
「か…んなぎ………も、いいかげんに………」
「じゃあ、教えて下さい。そりゃあ、俺は実際に柊一サンがどれくらいの屈託を持っているかなんて、解りませんけど。でも、本当は俺や俺とのセックスなんかより、あの会社でプログラミングをするコトの方が柊一サンのストレスを緩和出来てるって知ってるし……」
「バ…………カやろ……っ!」

 投げかけられた言葉は、まるで叱責するような声音を含んでいて。
 神巫はビックリして顔を上げた。
 真正面に、やや怒ったような柊一の顔がある。

「俺にとって……オマエがそんなに無価値だと思うのかっ?」
「だって………っ!」
「本当にオマエの存在が、俺にとってその程度なら………白王華と心中してまで守ろうと思うかよっ!」
「白王華と心中ぅ!?」

 予想外のとんでもない台詞に仰天して、神巫は思わず柊一を凝視してしまったが。
 それっきり柊一は神巫から顔を背けてしまい、黙り込む。

「………あ……」

 一瞬言葉に詰まり、それからドッと襲いかかってきた戸惑いと喜びと憤激とに両腕を伸ばして柊一の身体を抱き寄せる。
 首筋に噛み付くようなキスをして、抱き寄せた腰を一気に貫いた。

「あああっ!」

 仰け反る身体を更に強く抱き寄せ、神巫は泣き出しそうになる自分を必死に堪える。
 柊一が神巫を守ろうとした理由は、神巫が期待するような感情から発したものでは無い。
 それはただ、親鳥が雛を守ろうとするのと同じような慈愛であって、色恋とは無縁のものだろう。
 それでもやはり、柊一が自分を庇ってくれた事は何にも代え難い喜びだったし、どんなカタチであれ柊一の心の中に自分の存在がある事をハッキリと証明された。
 だが同時に、誰かに掠め取られるどころか、柊一の存在そのものが危うくなっていた事と、それに全く気付いていなかった自分の迂闊さに腹が立つ。
 柊一は、きっとどんなに神巫が「心中なんて言葉は、二度と口にしないで、思いつきもしないで欲しい」と懇願したところで、その場になったらあっさり己の命を手放してしまうだろう。
 生きている事が既に苦悩のような柊一にとっては、それもまた一つの逃げ道に過ぎない。
 つまり、実際に効力を持って柊一を引き止める術など無いと神巫は知っているのだ。

 照明を落とした室内は、しばらくすると薄闇に目が慣れてくる。
 機器に付属しているデジタル表示の時計などの微かな灯りが、室内を闇に変えないのだ。
 柊一の身体を抱き寄せると、髪から微かな甘い匂いがする。
 神巫は目を閉じて、しばらくジッと動かずにいた。
 子供のようなワガママで、柊一を困らせている…と思う。
 あんな風に責め立てたりするのは、バカげている…とも思う。
 しかし、それをせずにはいられない。
 そうした子供じみた独占欲というか、嫉妬というか、とにかく柊一にしてみれば「理不尽」極まりない神巫のワガママに、柊一が呆れてしまえばいいと思う事もある。
 それらを全て、最後に柊一が許してしまうから、自分はどんどんつけあがってしまうのだと。
 けれど、もし柊一が本気で神巫を見限って手を離されてしまったら、自分はどうにかなってしまうかもしれない…とも思うのだ。
 神巫の理不尽なワガママを許す柊一は、同時に決して神巫を恋人とは認めてくれない。
 柊一にとって神巫はあくまで「くちばしの黄色いヒヨッコ」であり、それは「守るべき存在」に過ぎず、神巫のワガママをただ大人の顔で許容してくれるだけなのだ。

「柊一サンが死んじゃったら、俺だって死んじゃいますよ………」

 必ず許してはくれても、決して解ってくれない柊一をほんの少しだけ恨めしく思って。
 思わずポツリと独り言めいた言葉が、口から零れしまったが。
 待ってみても、予想した通りに返事はなかった。
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