孤影の旅路

琉斗六

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7.ウェスの迷い【2】

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 焚き火のそばで、ウェスはじっと炎の揺らめきを見つめていた。
 レッドがこうして何かと世話を焼いてくれることに対し、自分は素直に感謝を示せていない……と感じている。
 それでも、ウェスはレッドに対して素直になることに抵抗があった。
 それはレッドのせいではなく、ウェス自身の心に根付いた恐怖のせいだった。

 ファビアンは、ウェスを守るために犠牲になった。
 守護者ケルヴィンガーは何があってもその子を守り抜く。
 それが神耶族イルンとしての本能だ、とファビアンは言っていた。
 フィルギアに囚われる前、二人で旅をしていた時。
 ファビアンは神耶族イルンとして生きるためのすべや知識を、一つ一つ丁寧に教えてくれた。
 上位のものが下位のものを導くことを信条とするファビアンは、非常に優れた教師だった。

 そしてウェスの契金翼エヴンハールであったフィルギア。
 やつとの関係は、あまりにも歪でだった。
 仇でありながら、掌中の珠。
 あるじであるはずのウェスは、従者たるフィルギアに監禁されていた。
 自身を虐待している相手しか、ウェスのそばにはいなかった。

 あの窓一つない部屋から解放されたあと、同胞はレッドが言うところの "アフターケア" を何もせずに、自分を放りだしてしまった。
 ただ一人取り残されたウェスは、洞窟で長い孤独の時間を過ごした。
 その中で、フィルギアのような存在でもそばにいただけマシ・・だった……と考えるようになった。
 だが、フィルギアが世界にした仕打ちは、レッドの話を聞くまでもなく酷いものだ。
 それがマシ・・だったと考える自分は、どれほど身勝手でひどい存在なのだろう?
 今度襲いかかってきた感情は罪悪感だった。

 フィルギアは、最初から下心があって自分たちを虜にした。
 それが、実際にそうだったのかすら、わからなくなる。
 自分がフィルギアに与えた飛び抜けた能力値ステータス
 それが、あの惨劇を招く要因になったのではないか?

 そして今日、魔族ディアブロがウェスを狙って襲いかかってきた。
 自分は、ともにあるものに不幸を振りまく存在なのではなかろうか?

『このままレッドと居ては、彼を失うかもしれない……』

 それなら、今のうちに離れるべきなのでは?
 彼が眠っているこの隙に、この場を去れば……。
 そんな思考が、じわじわとウェスの心に忍び寄る。

「なあ、ウェス」

 唐突に声を掛けられて、ウェスはハッと顔を上げた。

「な…なんだ?」
「噂じゃ、森を抜けた向こうにある街には、温泉があるらしい。ウェスは風呂に入ったことがあるか?」
「風呂? 湯に浸かる……んだったか? ファビアンが、そんな文化があるって言ってたが、実際に入ったことはない」
「風呂はいいぞぉ。特に手足を伸ばせる広い風呂は、心身ともに整う。次の目的地は決まりだな」
「オマエが行きたいなら、そうすればいい」

 適当に答えつつも、ウェスは混乱していた。
 次? レッドは自分と訪れる次の街の話をしている?
 自分と共にいた所為で、魔族ディアブロと交戦状態になったのに?
 レッドは、自分を重荷に感じていないのか?

 それはウェスの心に歓喜とともに、恐怖を呼んだ。
 まるで隣にいることが自然のように、笑ってくれるレッド。
 もしレッドが、自分のせいで傷ついたり、命を落とすようなことになったら……。
 その時、自分は正気でいられるのか?

 ウェスはただ、息を詰めて焚き火の炎を見つめていた。
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