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意識を取り戻したとき、白鳥貴雄は、自分がどこにいるのか分からなかった。
次に気付いたのは、消毒薬の匂いと、機械が規則的に動く音。
それから察するに、病院だ。
だが、それらを確かめようと目を開いているはずだが、なにも見えない。
……そうだ、爆発の煽りを受けた……。
ぼんやりと、ここに至る前の記憶を手繰り寄せる。
響く爆音に、咄嗟に腕を上げて頭をーー顔をかばったように思うが……。
「痛みはあるかい?」
声を掛けられ、そちらを向いた。
が、視界は真っ暗なままだ。
「真壁?」
「そうだ、僕だ。痛みは?」
相棒の声に、どこかほっとした。
暗闇の中で、唯一の繋がりがそこにあるようで、心が少しだけ軽くなった。
「……そう……だな、頭が痛む……し、背中も痛い……」
「そうか。耐えられないほどなら、痛み止めを増やすように頼むが……?」
「我慢できないほどじゃない。それより、目が見えない。どうなってる?」
「ちょっと待っていてくれ。君の意識が戻ったと、ドクターに伝えてくる」
真壁が離れていく気配に、白鳥は一抹の不安のようなものを感じた。
§
彼は、爆弾処理のエキスパートとして、長く務めてきた。
バディの真壁百合緒と二人、解除してきた爆弾の数は、同じチームに属する他の者たちの追随を許さず、常にトップの成績を誇ってきたのだ。
だが、ドクターから聞かされた話は、トップエージェントとして活躍してきた白鳥にとって、死亡宣告に等しいものだった。
手足に負った傷は、完治する。
治療の間に、体力や筋力が落ちはするが、それはリハビリで取り戻せる。
だが、視力だけは、もう二度と取り戻せない。
その事実が、彼の胸に深く重くのしかかった。
暗闇に包まれたまま、自分の身体がかつてのように動かないことを思い知らされる日々が始まったのだ。
それでも、彼の心は、諦めきれずに叫んでいた。
ーーまだ、終わっていない……と。
退院した白鳥を、真壁が「静かに療養出来る場所を知っている」と言って、その身を引き受けてくれた。
場所は……よくわからない。
視力が奪われ、絶望に打ちひしがれている白鳥には、方向も、時間も、距離感すらあやふやだったからだ。
そして、その部屋で、白鳥は毎朝〝絶望〟の目覚めを繰り返していた。
§
その〝部屋〟は、本当に静かだった。
部屋を訪れる真壁の動く音以外、これといった音を感じない。
耳を澄ませば、換気のための空気の流れる音がかすかに聞こえるが、それ以外はまるで閉ざされた世界のようだった。
「おはよう、タカ。今日の調子はどうだ?」
優しく尋ねる声に、白鳥は無機質な声で答えた。
「……生きている……だけだ」
微かな気配の後、真壁が彼の身の回りを世話し始める。
ベッドから導き、安全に椅子に座らせる。
どこに何があるか、皿の上の朝食の詳細まで手取り足取り教えるのだ。
だが、それが白鳥の苛立ちに火をつけた。
「やめろ! 子どもじゃあるまいし!」
声を荒げて叫ぶ。
視界を失い、無力になった自分を思い知らされる日々の中で、唯一残された誇りが、今まさに引き裂かれるようだった。
だが真壁は、静かに、しかし揺るぎなく続ける。
「怒るな。この生活に少しでも慣れなきゃ……」
「うるさい! 放っておいてくれ!」
それが、八つ当たりであることは、苛立ちを爆発させた白鳥自身が一番良く分かっている。
それでも、なにもかもを叩き壊してしまいたい衝動が、止められなかった。
掴んだトレーの端を持ち上げ、床に叩きつける。
皿が割れる鋭い音と、スープの飛び散るぬめった感触が、白鳥の耳と手に伝わった。
自分がどこにいるのか分からない。目も見えない。今、自分がどんな顔をしているのかすら分からない。
なのに、真壁は、何も言わず、その場に立っている。
「……すまん」
謝罪を口にはしたものの、その声音には未だ苛立ちの色が濃い。
散った食べ物の匂いに混じって、血の匂いがしたような気がした。
だが、それが気の所為なのか、自分の所業で真壁に手傷を負わせたのかすら、わからない。
見えない恐怖が、心の奥にじわりと広がった。
「僕が片付けるよ」
真壁の声は変わらなかった。
静かで、優しく、淡々としている。
その態度が、かえって不気味に思えた。
「なあ……ゆりお……」
自分でも気づかないほど小さな声が漏れた。
「お前は……いつまで、ここにいるつもりなんだ?」
真壁は、一拍の間を置いて答えた。
「君が必要としなくなるまで」
「……必要なんて、してない」
咄嗟に言い返したが、それが虚しい言葉だと自分で分かっている。
ふっと、真壁の手が白鳥の肩に触れた。
「今は、少し気持ちが昂っているだけだ。さあ、こっちで少し落ち着こうか」
真壁は、白鳥の汚れた手を拭うと、テーブルから離れたベッドへといざなう、
そして、真壁が部屋を片付ける音が聞こえた。
「ありがとう……真壁」
無意識に、口から漏れた言葉に、自分で眉をひそめる。
なんのための礼だ? ベッドに導かれたくらいで?
その問いは、自分の心に向けたものだった。
だが、真壁はそれにすぐ答えた。
「かまわないさ。そういう気持ちになるのは、当然だ」
散らかった食器を重ねる音や、床を清める音が聞こえたのち。
「食器を置いてきて、ついでに代わりの朝食を用意するよ」
「いらんと言ってる! 俺に構うな!」
真壁が部屋から出ていき、室内には静寂が戻った。
ーーそういえば、ゆりお以外のやつが来たことがないな……。
静まり返った部屋の中で、白鳥はふと考えた。
この〝部屋〟に来て以来、別の誰かが部屋を訪れた記憶が無い。
視力以外の体の傷は回復したため、退院許可が出たが。
ドクターは、その後リハビリをするように言っていた。
だが、自分がそれを拒絶しているために、トレーナーのような者も来ていないのだ。
しかし、それ以上に。
この〝部屋〟は、壁から向こうの気配を、驚くほどに遮断している。
外界の音が、全く聞こえないのだ。
視界が奪われてしまった分、今の白鳥は聴覚や嗅覚が以前よりも研ぎ澄まされている。
その感覚に、真壁以外の存在を、全く感じない。
見舞いが来ないのは、自分の怪我の所為……だと思う。
二目と見られぬ顔になっているのは、見えない自分でも触れればなんとなく想像がつく。
ある意味、その所為で見舞いが来ないことは、自分の価値が地に落ちたような気持ちになり、白鳥の絶望感をより際立たせていた。
だが、この異常なまでの静けさはどうだ。
聞こえるのは、規則正しい自分の呼吸音と、時折聞こえる真壁の微かな動きの音だけ。
彼がいない時は、まるで宇宙空間に放り出されたかのようだ。
ことりと音がして、真壁が部屋に戻ってきた。
扉の開閉音の他に、そういえば小さな金属音がした気がする。
ーーロックを……したのか?
あの小さな音が施錠音だとしたら、一体、なんのために?
「ゆりお」
「なんだ?」
「きみは此処を、静かに療養出来る場所と言ったな。一体、どこなんだ?」
問いかけると、一瞬、静寂が訪れた。
ごく短い、だが白鳥にとっては永遠にも感じられるような沈黙。
目が見えない分、真壁の表情を読み取ることはできない。
その沈黙が何を意味するのか、白鳥には全くわからなかった。
「……安全な場所だよ」
「それじゃあ、答えになってない!」
「きみの身に危険が及ばない、安全に静養が出来る場所だ。それ以上、なんの説明が必要かい?」
返された答えは、穏やかな声で語られているが。
白鳥は、なにか底しれないものを感じてゾッとした。
その言葉は、まるで自分を隔離しているかのようではないか。
それまで、自分の経歴が断絶された絶望によって麻痺していた感覚が、一気に「恐怖」と「疑念」に置き換わっていく。
「真壁……一体何を考えているんだ?」
白鳥の声は、震えていた。
§
「全部、食べられたようだな。少しは、回復してきてるようで、嬉しいよ」
食事のトレーを持って、真壁が立ち上がる音がする。
白鳥は黙って、うなだれていた。
どれほどの拒絶や、抗いをみせても、真壁はその優しいスタンスを変えない。
そして、外に出たいと申し出ても、やんわりと断られる。
「真壁。俺は外の空気が吸いたい。此処に来てから一度も、窓を開けたこともないだろう?」
「……タカ。……今のきみは療養中で、光や雑音は良くないよ」
「退院許可が降りて、もう医者にも掛かってない。リハビリもしてないじゃないか! なにが療養だっ!」
数秒の沈黙。
「余計なことを考えちゃ駄目だ」
優しい声音だが、いつになく低い声だったように感じた。
「食器を片付けてくる」
真壁が、部屋を出ていく音がする。
白鳥は耳をそばだてた。
扉の開閉音のあとに、やはり施錠の音がする。
ーーやはり真壁は、自分をこの〝部屋〟に閉じ込めている。
白鳥は確信した。
呼吸が浅くなり、喉が渇いた。
肩が震え、吐き気すら覚えた。
心が、闇に溶けていくようだった。
§
「タカ、清拭をするよ。ちょっと体に触れるからな」
扉の開閉と、施錠の音。
続いて、キャスターのついた〝なにか〟が近付いてくる音と、微かに水音もする。
「いやだと言ってもするんだろう? 勝手にやれ」
投げやりに、白鳥は答えた。
真壁の手が背中を支えるように差し込まれ、体を起こされる。
そこに、シーツとは違うなにかを敷いているらしい音が続き、そして白鳥の着衣を脱がせ始める。
空調は適温に調整されているが、服を脱がされた肌には少し冷たい空気に思えた。
こぽこぽと響く水音。
ちゃぷちゃぷとタオルをすすぐ音。
そして、白鳥の肌に固く絞った、体温より少し熱いタオルが触れる。
すうっと、肌を撫でられると、それでも少し気分が良かった。
腕を持ち上げられたところで、なんとなく応じてその姿勢を保つ。
「協力してくれるんだ。ありがたいな」
「汗ばんでいたから、都合がいいだけだ」
言い張るように言ってしまって、少し子供じみた言い回しだったか? と思ったが。
何度かすすいで温められたタオルが触れる場所が、胸から腹、そして下腹部へと至る辺りで、白鳥は強張った。
「おい……っ!」
「ははは、なんだよ? シャワールームで互いの裸も見慣れているじゃないか」
「清拭って、そんな場所までするのかよっ!」
「きみがシャワーに応じてくれないからだろう?」
タオルごしだが、真壁の手がそこをやわやわと包み、意図を持って緩急をつけ、触れてくる。
「っ……」
声にならない吐息が漏れた。
全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
「ああ、ごめん。きみに恥をかかせるつもりはないんだ」
「うそ……つけ……っ!」
脆くも白鳥は、真壁の手の中に熱を吐き出した。
「タオルを変えるよ」
真壁の優しい声音は、しかし事務的に淡々とそう言った。
ーー替えのタオルを持ってきてる?
しかし、予備を用意していたと言われれば、それまでだ。
手つきや触れ方には、一種の悪意すら含まれていそうだが、真壁の声音や態度からは、まるで事故のようで。
更にその事故を、さらっと流すようにされては、まるで感じてしまった白鳥のほうに問題があるかのようだ。
「さっさと、終わらせろ!」
「あとは、足だけだ」
「次からは、シャワーにする」
「そうしてくれると、僕も助かるよ」
白鳥は、少し混乱していた。
§
白鳥は、冷たいシャワーが降り注ぐ中で、手探りで壁を伝い、やや途方に暮れていた。
「タカ」
背後から、真壁の声がして、びくりとすくむ。
「どうしたんだ? これ、冷水じゃないか」
背中に真壁の手が触れたと思ったところで、頭上から降る水が止まった。
次はシャワーでと言った手前、体を清めろと言われたのを、断る選択は白鳥になかった。
そして、真壁が懇切丁寧になにがどこにあるのかを説明し終わったところで、白鳥は一人で出来ると言いはった。
清拭の時の、あの不気味な真壁の対応を考えたら、どうしてもシャワーは一人で浴びたかったのだ。
だが、結果として自分は、冷水を頭から浴びて、それを止めることも出来ない有様だった。
再び蛇口をひねる音がしたところで、今度は適温の湯が降り注いでくる。
「ここに立って。ほら、ボディソープはここだ」
真壁の手が、白鳥の手を取ってぬめりのある液体を手のひらに注いでくれた。
「……すまない……」
こうなっては、他に言葉はない。
「だから、無理をするなって言っただろう」
未だ手を握ったままの真壁は、そのまま白鳥の下腹部へその手を導いた。
「真壁?」
返事はなく、前回同様にやわやわとそこに手が触れてくる。
「おいっ!」
「だってきみ、自分ではなにも出来ないじゃないか」
耳元で、低く囁かれた声に、全身が強張る。
ーーなにも出来ない。
それは、確かにその言葉通りだ。
自分は、一人でシャワーを浴びることすら出来ずに、無様な姿をさらしている。
その混乱と混沌に落ちた白鳥の思考は、真壁の手による行為によって、阻まれた。
無力感だけが残り、思考は出来ない。
しっかりと自分の足で立っているように思うのに、背中を真壁に預けて支えられているような……。
「ん……っ!」
熱の解放に、体が快感に流される。
明るいシャワールームで一方的におこなわれた行為に、目が見えていたなら余計に羞恥を感じただろうか?
否ーー。
明るい "かもしれない" 場所で、一方的に真壁の目に晒されているのは、紛れもない事実であろう。
無様な姿を、無力な自分を、彼の手の中に放ってしまった事実を。
恥などという言葉に収まりきらない、焼け付くような羞恥心に、白鳥は言葉も失っていた。
§
ベッドに戻された白鳥は、放心していた。
脱力感と倦怠感で、指一本動かすのも億劫に感じている。
一方で、思考は忙しなく動き続けていた。
ここに留まるのは、危険だ……と。
まるで昏い夢の中に閉じ込められているようだ。
目を閉じていても、開いていても、闇が広がっている。
「着替えたものを洗濯室に持っていく」
一言言いおいて、真壁は部屋を出ていった。
遠ざかる足音。
しかし、白鳥は微妙な違和感を感じていた。
ーーなんだ?
ーー出入りの時にいちいち用事を断っていくのは、いつものことじゃないか。
しばらく考えて、白鳥はハッとした。
扉の開閉音しか、聞こえなかった……ような気がする。
感じていた脱力感も倦怠感も振り捨てて、白鳥はベッドの上に起き上がった。
希望というにはあまりに脆く、恐怖と隣り合わせの感情が、血を逆流させる。
ーーいまなら、出られるかもしれない。
震える脚を下ろし、手探りで床をなぞる。
裸足のつま先に、冷たい床の感触。
手を伸ばし、壁を探り、白鳥はようやくベッドから降り立った。
距離は……八歩。
それは、真壁がベッドから離れて扉を開閉させる時、いつも数えていた数字だ。
一歩ごとに、手を前に出し、壁を伝いながら進む。
やがて指先が角に当たった。
真壁の八歩が、今の自分にはシルクロードより長く思えた。
角からさらに手探りで、扉を探す。
枠に触れた指先をてのひらとして広げ、ドアノブを掴む。
ノブを回すと、何の抵抗もなく扉は開いた。
ーー開いた!
思った瞬間、
不意に、胸が高鳴った。
ーー逃げられる!
ーーだが、どこに?
微かな恐怖に、足がすくむ。
だが、白鳥はすぐにも気を取り直した。
数々の訓練に耐え、鍛え上げられた軍人魂は、未だ白鳥の中に残っていた。
耳に聞こえるほど鼓動が鳴り響き、全身にじっとりと汗をかきながら。
一歩、白鳥は扉の外へと踏み出した。
裸足の足裏に触れる、感触が変わる。
瞬間、それまで白鳥を取り巻いていた恐怖が消え、たまらない開放感が訪れた。
真壁の、底の見えない善意から。
閉塞感に息もできないあの〝部屋〟から。
自分は抜け出したのだ!
思わず走り出した白鳥は、足がもつれて倒れた。
全身を打つ、衝撃。
だが、その痛みすらが、自由への代償に思われた。
起き上がるために、肘を付き、体を起こし、立ち上がるための力点を探して右手を伸ばす。
転ぶ直前、廊下の先に何かが〝ある〟ような、微かな気配を感じていた。
ふと触れた、布の感触。
掴んだそれは、じわっと数秒遅れて生暖かいーー人の体温を伝えてきた。
「一人で出るのは、危ないよ」
上から落ちてきた、柔らかな声音。
それは、紛れもなく真壁のものだった。
そっと、肩に手が触れる。
闇に包まれた視力の先に、さらなる深淵の闇が降りてきたような絶望感。
「さあ、手伝ってあげるから、立ち上がろうか」
するっと腰に回された、腕。
それはまるで、自分の身を縛り付ける鎖のようにも感じられた。
§
「すごいね、タカ。……きみが部屋の外まで、一人で出られるなんて思わなかったよ」
縛鎖のような腕は、白鳥の背中をいたわりながら、その身を再びあの〝部屋〟へと連れ戻した。
「ひどく転んだだろう? どこか怪我をしていないか?」
「怪我などしていない! 触るなっ!」
触れてこようとする手を振り払い、白鳥は少し強い口調で拒絶した。
数秒の間を置いて、再び真壁が口を開く。
「きみの身が、心配なんだよ」
「心配のあまり、俺を監禁したのかっ?」
とうとう、白鳥はその一言を口に出した。
自分が本当に、真壁の虜にされてしまったという、事実を認めるのが怖くて、問えなかったーーその一言を。
「……きみは、ここにいれば、もうなんの危険もない」
「どういう意味だ?」
「あの任務……、僕が行けば……」
その一言に、白鳥はカッとなる。
「じゃあなにか? ゆりおの方が俺より上手く、あれを解除出来たといいたいのか?」
「違う。……僕はただ、きみが負傷するのが嫌だったと言ってるだけだ」
「おまえの勝手な同情と思い込みに、俺を巻き込むなっ!」
しかし言ってしまってから、虚無感に襲われる。
実際に、真壁の言う通りかもしれない。
自分は無力で……。
真壁であれば、例え爆発に巻き込まれたとしても……。
「タカ……」
そっと伸ばされた手が、白鳥の顔に触れた。
新しく盛り上がった肉の部分を、指先が辿る。
「怖がらなくていい。……僕は、きみを守ろうとしているだけだ」
息が顔に掛かった……と思った時には、口付けられていた。
背中を支える腕が、そっと白鳥の体をベッドへと横たわらせる。
そして、着衣を止めている結び目がほどかれる音のあとに、素肌を手のひらで撫でられた。
「……っ!」
だが、逃げることは許されない。
真壁は、なんとも優しく、甘やかに、白鳥の唇を吸い、噛み、愛撫する。
それはまるで、本当に愛しいものを愛でるようなキスだった。
「タカ……、ごめん。……僕は……」
顔を背けた白鳥の首筋に、真壁の唇が押し当てられる。
そこからは、もう白鳥の声など聞こえないかのように、真壁は白鳥の肌を、体を、その細胞の一つまでも求めるように、触れた。
やがて、衣擦れの音となにかを床に落とす音が聞こえ、そして白鳥の体の上に、真壁が覆いかぶさってきた。
「……っ、ゆりお!」
真面目な時はきちんと〝真壁班長〟〝白鳥曹長〟と呼び合うが、現場で爆発物の処理をしている時は、その緊張を緩ませるために〝ゆりお〟〝タカ〟と呼び合っている。
「大丈夫。きみには、これ以上、傷ついてほしくはないから……」
下腹部へとたどり着いていた真壁の舌が、白鳥の熱の中心に触れた。
生暖かい口腔内に迎え入れられ、背筋をゾクゾクとした快感が這い登る。
ーーくそっ!」
心のなかで悪態をついたが、そんなことで体の反応は止まらない。
すぐにも隆とたちあがってしまったそれを、真壁は一度口から離した。
ぬちゃりと、液体か固体かわからない音が耳に聞こえ、次にぬめりを帯びた真壁の手が、白鳥の下腹部に触れた。
両手で、丁寧に扱われるそれは、唇や舌からの刺激とは違う、もう少し強く明らかな快感が押し寄せた。
「……ぐうっ」
「怖いかい? ……大丈夫、……きずつけないと……言っただろう……?」
こころなし、語る真壁の息も上がっているように感じられた。
と、思ったところで。
自分の上に、真壁がまたがってきた感触に驚く。
「ゆりおっ!」
驚きは、やや悲鳴じみた声になった。
「……あ……はは……、きみは、熱いな……」
真壁の体温が、じわりと白鳥の全身に染み渡る。
ゆっくりと動く腰の振動が、身体の芯まで揺さぶった。
真壁の息が、どんどん上がって早くなるのが分かる。
それに合わせるように、自分の鼓動も早まってゆくのを感じる。
繋がった部分から、真壁と溶け合っているような錯覚さえあった。
暗闇しかない白鳥の世界には、真壁しかいない。
だが、それは白鳥の本意ではない……はずだ。
シーツを握る手は、最後に残った矜持を掴んでいるようにも思える。
「白鳥……」
不意に、真壁の手が白鳥の顔に触れた。
「ああ……、きみは……、なんて美しいんだ……」
それは問いかけですらない、つぶやきにも聞こえたが。
白鳥にとって、皮肉にも聞こえた。
「こんな二目と見られぬ顔のどこがっ!」
「白鳥……」
思わず言い返した白鳥の唇に、そっと真壁の指が、黙れというように押し当てられる。
それから、その手がゆっくりと頬を撫で、視力を奪った傷跡をなぞる。
一呼吸分の沈黙のあと──。
真壁が、低く……、囁くように言った。
「きみを見ていると、自分が……まだ人間でいられる気がするんだ」
白鳥は息を呑んだ。
声が出なかった。
見えていたなら、どんな顔でそれを言ったのか。
いや、見えなくてよかったかもしれない。
なぜならその声には、優しさと、恐怖と、祈りが――すべてが混じっていたからだ。
部屋の中に、二人の呼吸音だけが、静かに、確かに響いていた。
白鳥の腹の上で、真壁の体が跳ねる。
ぎゅうと締め付けられて、白鳥もまた果てていた。
§
真壁の動きが緩やかに止まった。
結ばれた身体が、熱の余韻と共に、静かに名残を引いて離れていく。
そのまま、真壁はベッドの傍らに体を落ち着け、まるで子守唄でも奏でるように、白鳥の髪を、何度も何度も撫でていた。
白鳥はもう、何も言わなかった。
背中には薄いシーツが貼りつき、首筋から汗が垂れていく。
まるで夢の中にでもいたように、自分の体がどこにあるのか、遠くに感じる。
……散々、慰みものにされた。
自分の意思も、抵抗も、言葉さえも通じないままに、ただ都合よく、弄ばれていたのだと、そう思った。
もっとも信頼し、背中を……生命を預けることが出来ると信じていた相棒に……。
怒る気力も、恥じる気概も、なにもない。
全てが霞の彼方に置き去りになっているように思えた。
そもそもなにに抵抗をして、なにが自分の手の中に残るのだろう?
微かに掴んでいた矜持すら、真壁の「魂までもが美しい」という言葉の前に、塵となって消えた。
盲いた世界で、自分はもう真壁の腕の中に沈むしかない。
蜘蛛の巣に絡め取られる羽虫のように……。
白鳥は目を閉じた。
開いていても闇だが、閉じた暗闇ははるかに安堵を覚える闇だったからだ。
§
その晩、白鳥は夢を見た。
炎の中を、真壁が走っている。
その腕の中には、全身が傷つき、頭部から血を流している自分。
目が、頭が、全身が痛む。
焼け付く空気に呼吸も出来ず、手足は痺れ、真壁の体にしがみつくことすら出来ない。
ーーそうか……、すがりついてるのは、ゆりおの方だ……。
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。
必死になって、自分の体を抱いて走る真壁は、白鳥の生命を繋ぐ事だけを求めて、走っている。
途端に、気持ちがひどく軽くなった。
§
ハッと目を覚ますと、そこは医療室の中だった。
視界に広がる、光、景色。
耳に聞こえる、人々のざわめき。
はじめはぼんやりしていたが、白鳥はすぐにもその状況に驚いて周囲を見回す。
「……ここは……?」
戸惑いの声が漏れた。
見慣れた部屋、見慣れた機器、見慣れた……いつも酔っ払っている軍医の白衣姿。
そして、その隣に立つ真壁。
瞬間、白鳥は悲鳴にならない悲鳴を上げ、ベッドの上から逃げ出そうとした。
「おいっ! 動いては駄目だ」
「落ち着きなさいっ!」
「やめろっ! 離せっ!」
思うように体が動かず、もたもたしている間に肩を真壁に抑え込まれた。
「離せっ! 離せっ!」
「ドクター!」
「今、鎮静剤を打つ」
いつになくキビキビとした動きで、軍医が抑えた白鳥の腕に注射を打った。
「いやだっ……! いや……」
カクン……と、白鳥の手足から力が抜け、静かになる。
§
次に白鳥が目覚めた時、傍には酔っ払い軍医だけがいた。
と言っても、今日は酔ってはいなさそうだ。
「私が誰か、分かるかね?」
「軍医の緒形先生……」
「自分の名前は?」
「白鳥……貴雄……」
「うん、記憶に問題はないようだ」
そうして、少し落ち着いたところで、軍医が言った。
「きみはね、曹長。もう三ヶ月も意識がなかったんだよ」
つまり、自分が視力を失い、仕事もなにもかもを失って、真壁に〝部屋〟に閉じ込められていた日々は……三ヶ月の間に見ていた夢だった……と。
「まさか……」
思わず口をついて、そう言ってしまったが。
しかし、見せられた鏡の中の顔は傷一つなく……。
白鳥が落ち着いたと聞いて、改めて部屋に真壁が入ってきた。
「意識が戻らないかと、心配したよ」
微笑みながら、労りの言葉を掛けてくれる。
そうして、白鳥に向けられる真壁の顔は、以前と変わりのない穏やかなもので。
白鳥は、自分の見ていた〝とんでもない夢〟のことを、口に出す気には、なれなかった。
「意識は戻ったが、三ヶ月も寝たきりだったんだ。体力も落ちているし、なにより静養が必要だね。休暇申請の手続きは、私が上司に口添えしよう」
「ああ、それなら。僕が、静かに療養出来る場所を知っているよ」
微笑みながらそう言った真壁の声に――白鳥は、ふと、かすかな既視感を覚えた。
──きみを見ていると、自分が、まだ人間でいられる気がするんだ。
その囁きが、鼓膜の奥に、微かに残っている気がした。
終わり。
次に気付いたのは、消毒薬の匂いと、機械が規則的に動く音。
それから察するに、病院だ。
だが、それらを確かめようと目を開いているはずだが、なにも見えない。
……そうだ、爆発の煽りを受けた……。
ぼんやりと、ここに至る前の記憶を手繰り寄せる。
響く爆音に、咄嗟に腕を上げて頭をーー顔をかばったように思うが……。
「痛みはあるかい?」
声を掛けられ、そちらを向いた。
が、視界は真っ暗なままだ。
「真壁?」
「そうだ、僕だ。痛みは?」
相棒の声に、どこかほっとした。
暗闇の中で、唯一の繋がりがそこにあるようで、心が少しだけ軽くなった。
「……そう……だな、頭が痛む……し、背中も痛い……」
「そうか。耐えられないほどなら、痛み止めを増やすように頼むが……?」
「我慢できないほどじゃない。それより、目が見えない。どうなってる?」
「ちょっと待っていてくれ。君の意識が戻ったと、ドクターに伝えてくる」
真壁が離れていく気配に、白鳥は一抹の不安のようなものを感じた。
§
彼は、爆弾処理のエキスパートとして、長く務めてきた。
バディの真壁百合緒と二人、解除してきた爆弾の数は、同じチームに属する他の者たちの追随を許さず、常にトップの成績を誇ってきたのだ。
だが、ドクターから聞かされた話は、トップエージェントとして活躍してきた白鳥にとって、死亡宣告に等しいものだった。
手足に負った傷は、完治する。
治療の間に、体力や筋力が落ちはするが、それはリハビリで取り戻せる。
だが、視力だけは、もう二度と取り戻せない。
その事実が、彼の胸に深く重くのしかかった。
暗闇に包まれたまま、自分の身体がかつてのように動かないことを思い知らされる日々が始まったのだ。
それでも、彼の心は、諦めきれずに叫んでいた。
ーーまだ、終わっていない……と。
退院した白鳥を、真壁が「静かに療養出来る場所を知っている」と言って、その身を引き受けてくれた。
場所は……よくわからない。
視力が奪われ、絶望に打ちひしがれている白鳥には、方向も、時間も、距離感すらあやふやだったからだ。
そして、その部屋で、白鳥は毎朝〝絶望〟の目覚めを繰り返していた。
§
その〝部屋〟は、本当に静かだった。
部屋を訪れる真壁の動く音以外、これといった音を感じない。
耳を澄ませば、換気のための空気の流れる音がかすかに聞こえるが、それ以外はまるで閉ざされた世界のようだった。
「おはよう、タカ。今日の調子はどうだ?」
優しく尋ねる声に、白鳥は無機質な声で答えた。
「……生きている……だけだ」
微かな気配の後、真壁が彼の身の回りを世話し始める。
ベッドから導き、安全に椅子に座らせる。
どこに何があるか、皿の上の朝食の詳細まで手取り足取り教えるのだ。
だが、それが白鳥の苛立ちに火をつけた。
「やめろ! 子どもじゃあるまいし!」
声を荒げて叫ぶ。
視界を失い、無力になった自分を思い知らされる日々の中で、唯一残された誇りが、今まさに引き裂かれるようだった。
だが真壁は、静かに、しかし揺るぎなく続ける。
「怒るな。この生活に少しでも慣れなきゃ……」
「うるさい! 放っておいてくれ!」
それが、八つ当たりであることは、苛立ちを爆発させた白鳥自身が一番良く分かっている。
それでも、なにもかもを叩き壊してしまいたい衝動が、止められなかった。
掴んだトレーの端を持ち上げ、床に叩きつける。
皿が割れる鋭い音と、スープの飛び散るぬめった感触が、白鳥の耳と手に伝わった。
自分がどこにいるのか分からない。目も見えない。今、自分がどんな顔をしているのかすら分からない。
なのに、真壁は、何も言わず、その場に立っている。
「……すまん」
謝罪を口にはしたものの、その声音には未だ苛立ちの色が濃い。
散った食べ物の匂いに混じって、血の匂いがしたような気がした。
だが、それが気の所為なのか、自分の所業で真壁に手傷を負わせたのかすら、わからない。
見えない恐怖が、心の奥にじわりと広がった。
「僕が片付けるよ」
真壁の声は変わらなかった。
静かで、優しく、淡々としている。
その態度が、かえって不気味に思えた。
「なあ……ゆりお……」
自分でも気づかないほど小さな声が漏れた。
「お前は……いつまで、ここにいるつもりなんだ?」
真壁は、一拍の間を置いて答えた。
「君が必要としなくなるまで」
「……必要なんて、してない」
咄嗟に言い返したが、それが虚しい言葉だと自分で分かっている。
ふっと、真壁の手が白鳥の肩に触れた。
「今は、少し気持ちが昂っているだけだ。さあ、こっちで少し落ち着こうか」
真壁は、白鳥の汚れた手を拭うと、テーブルから離れたベッドへといざなう、
そして、真壁が部屋を片付ける音が聞こえた。
「ありがとう……真壁」
無意識に、口から漏れた言葉に、自分で眉をひそめる。
なんのための礼だ? ベッドに導かれたくらいで?
その問いは、自分の心に向けたものだった。
だが、真壁はそれにすぐ答えた。
「かまわないさ。そういう気持ちになるのは、当然だ」
散らかった食器を重ねる音や、床を清める音が聞こえたのち。
「食器を置いてきて、ついでに代わりの朝食を用意するよ」
「いらんと言ってる! 俺に構うな!」
真壁が部屋から出ていき、室内には静寂が戻った。
ーーそういえば、ゆりお以外のやつが来たことがないな……。
静まり返った部屋の中で、白鳥はふと考えた。
この〝部屋〟に来て以来、別の誰かが部屋を訪れた記憶が無い。
視力以外の体の傷は回復したため、退院許可が出たが。
ドクターは、その後リハビリをするように言っていた。
だが、自分がそれを拒絶しているために、トレーナーのような者も来ていないのだ。
しかし、それ以上に。
この〝部屋〟は、壁から向こうの気配を、驚くほどに遮断している。
外界の音が、全く聞こえないのだ。
視界が奪われてしまった分、今の白鳥は聴覚や嗅覚が以前よりも研ぎ澄まされている。
その感覚に、真壁以外の存在を、全く感じない。
見舞いが来ないのは、自分の怪我の所為……だと思う。
二目と見られぬ顔になっているのは、見えない自分でも触れればなんとなく想像がつく。
ある意味、その所為で見舞いが来ないことは、自分の価値が地に落ちたような気持ちになり、白鳥の絶望感をより際立たせていた。
だが、この異常なまでの静けさはどうだ。
聞こえるのは、規則正しい自分の呼吸音と、時折聞こえる真壁の微かな動きの音だけ。
彼がいない時は、まるで宇宙空間に放り出されたかのようだ。
ことりと音がして、真壁が部屋に戻ってきた。
扉の開閉音の他に、そういえば小さな金属音がした気がする。
ーーロックを……したのか?
あの小さな音が施錠音だとしたら、一体、なんのために?
「ゆりお」
「なんだ?」
「きみは此処を、静かに療養出来る場所と言ったな。一体、どこなんだ?」
問いかけると、一瞬、静寂が訪れた。
ごく短い、だが白鳥にとっては永遠にも感じられるような沈黙。
目が見えない分、真壁の表情を読み取ることはできない。
その沈黙が何を意味するのか、白鳥には全くわからなかった。
「……安全な場所だよ」
「それじゃあ、答えになってない!」
「きみの身に危険が及ばない、安全に静養が出来る場所だ。それ以上、なんの説明が必要かい?」
返された答えは、穏やかな声で語られているが。
白鳥は、なにか底しれないものを感じてゾッとした。
その言葉は、まるで自分を隔離しているかのようではないか。
それまで、自分の経歴が断絶された絶望によって麻痺していた感覚が、一気に「恐怖」と「疑念」に置き換わっていく。
「真壁……一体何を考えているんだ?」
白鳥の声は、震えていた。
§
「全部、食べられたようだな。少しは、回復してきてるようで、嬉しいよ」
食事のトレーを持って、真壁が立ち上がる音がする。
白鳥は黙って、うなだれていた。
どれほどの拒絶や、抗いをみせても、真壁はその優しいスタンスを変えない。
そして、外に出たいと申し出ても、やんわりと断られる。
「真壁。俺は外の空気が吸いたい。此処に来てから一度も、窓を開けたこともないだろう?」
「……タカ。……今のきみは療養中で、光や雑音は良くないよ」
「退院許可が降りて、もう医者にも掛かってない。リハビリもしてないじゃないか! なにが療養だっ!」
数秒の沈黙。
「余計なことを考えちゃ駄目だ」
優しい声音だが、いつになく低い声だったように感じた。
「食器を片付けてくる」
真壁が、部屋を出ていく音がする。
白鳥は耳をそばだてた。
扉の開閉音のあとに、やはり施錠の音がする。
ーーやはり真壁は、自分をこの〝部屋〟に閉じ込めている。
白鳥は確信した。
呼吸が浅くなり、喉が渇いた。
肩が震え、吐き気すら覚えた。
心が、闇に溶けていくようだった。
§
「タカ、清拭をするよ。ちょっと体に触れるからな」
扉の開閉と、施錠の音。
続いて、キャスターのついた〝なにか〟が近付いてくる音と、微かに水音もする。
「いやだと言ってもするんだろう? 勝手にやれ」
投げやりに、白鳥は答えた。
真壁の手が背中を支えるように差し込まれ、体を起こされる。
そこに、シーツとは違うなにかを敷いているらしい音が続き、そして白鳥の着衣を脱がせ始める。
空調は適温に調整されているが、服を脱がされた肌には少し冷たい空気に思えた。
こぽこぽと響く水音。
ちゃぷちゃぷとタオルをすすぐ音。
そして、白鳥の肌に固く絞った、体温より少し熱いタオルが触れる。
すうっと、肌を撫でられると、それでも少し気分が良かった。
腕を持ち上げられたところで、なんとなく応じてその姿勢を保つ。
「協力してくれるんだ。ありがたいな」
「汗ばんでいたから、都合がいいだけだ」
言い張るように言ってしまって、少し子供じみた言い回しだったか? と思ったが。
何度かすすいで温められたタオルが触れる場所が、胸から腹、そして下腹部へと至る辺りで、白鳥は強張った。
「おい……っ!」
「ははは、なんだよ? シャワールームで互いの裸も見慣れているじゃないか」
「清拭って、そんな場所までするのかよっ!」
「きみがシャワーに応じてくれないからだろう?」
タオルごしだが、真壁の手がそこをやわやわと包み、意図を持って緩急をつけ、触れてくる。
「っ……」
声にならない吐息が漏れた。
全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
「ああ、ごめん。きみに恥をかかせるつもりはないんだ」
「うそ……つけ……っ!」
脆くも白鳥は、真壁の手の中に熱を吐き出した。
「タオルを変えるよ」
真壁の優しい声音は、しかし事務的に淡々とそう言った。
ーー替えのタオルを持ってきてる?
しかし、予備を用意していたと言われれば、それまでだ。
手つきや触れ方には、一種の悪意すら含まれていそうだが、真壁の声音や態度からは、まるで事故のようで。
更にその事故を、さらっと流すようにされては、まるで感じてしまった白鳥のほうに問題があるかのようだ。
「さっさと、終わらせろ!」
「あとは、足だけだ」
「次からは、シャワーにする」
「そうしてくれると、僕も助かるよ」
白鳥は、少し混乱していた。
§
白鳥は、冷たいシャワーが降り注ぐ中で、手探りで壁を伝い、やや途方に暮れていた。
「タカ」
背後から、真壁の声がして、びくりとすくむ。
「どうしたんだ? これ、冷水じゃないか」
背中に真壁の手が触れたと思ったところで、頭上から降る水が止まった。
次はシャワーでと言った手前、体を清めろと言われたのを、断る選択は白鳥になかった。
そして、真壁が懇切丁寧になにがどこにあるのかを説明し終わったところで、白鳥は一人で出来ると言いはった。
清拭の時の、あの不気味な真壁の対応を考えたら、どうしてもシャワーは一人で浴びたかったのだ。
だが、結果として自分は、冷水を頭から浴びて、それを止めることも出来ない有様だった。
再び蛇口をひねる音がしたところで、今度は適温の湯が降り注いでくる。
「ここに立って。ほら、ボディソープはここだ」
真壁の手が、白鳥の手を取ってぬめりのある液体を手のひらに注いでくれた。
「……すまない……」
こうなっては、他に言葉はない。
「だから、無理をするなって言っただろう」
未だ手を握ったままの真壁は、そのまま白鳥の下腹部へその手を導いた。
「真壁?」
返事はなく、前回同様にやわやわとそこに手が触れてくる。
「おいっ!」
「だってきみ、自分ではなにも出来ないじゃないか」
耳元で、低く囁かれた声に、全身が強張る。
ーーなにも出来ない。
それは、確かにその言葉通りだ。
自分は、一人でシャワーを浴びることすら出来ずに、無様な姿をさらしている。
その混乱と混沌に落ちた白鳥の思考は、真壁の手による行為によって、阻まれた。
無力感だけが残り、思考は出来ない。
しっかりと自分の足で立っているように思うのに、背中を真壁に預けて支えられているような……。
「ん……っ!」
熱の解放に、体が快感に流される。
明るいシャワールームで一方的におこなわれた行為に、目が見えていたなら余計に羞恥を感じただろうか?
否ーー。
明るい "かもしれない" 場所で、一方的に真壁の目に晒されているのは、紛れもない事実であろう。
無様な姿を、無力な自分を、彼の手の中に放ってしまった事実を。
恥などという言葉に収まりきらない、焼け付くような羞恥心に、白鳥は言葉も失っていた。
§
ベッドに戻された白鳥は、放心していた。
脱力感と倦怠感で、指一本動かすのも億劫に感じている。
一方で、思考は忙しなく動き続けていた。
ここに留まるのは、危険だ……と。
まるで昏い夢の中に閉じ込められているようだ。
目を閉じていても、開いていても、闇が広がっている。
「着替えたものを洗濯室に持っていく」
一言言いおいて、真壁は部屋を出ていった。
遠ざかる足音。
しかし、白鳥は微妙な違和感を感じていた。
ーーなんだ?
ーー出入りの時にいちいち用事を断っていくのは、いつものことじゃないか。
しばらく考えて、白鳥はハッとした。
扉の開閉音しか、聞こえなかった……ような気がする。
感じていた脱力感も倦怠感も振り捨てて、白鳥はベッドの上に起き上がった。
希望というにはあまりに脆く、恐怖と隣り合わせの感情が、血を逆流させる。
ーーいまなら、出られるかもしれない。
震える脚を下ろし、手探りで床をなぞる。
裸足のつま先に、冷たい床の感触。
手を伸ばし、壁を探り、白鳥はようやくベッドから降り立った。
距離は……八歩。
それは、真壁がベッドから離れて扉を開閉させる時、いつも数えていた数字だ。
一歩ごとに、手を前に出し、壁を伝いながら進む。
やがて指先が角に当たった。
真壁の八歩が、今の自分にはシルクロードより長く思えた。
角からさらに手探りで、扉を探す。
枠に触れた指先をてのひらとして広げ、ドアノブを掴む。
ノブを回すと、何の抵抗もなく扉は開いた。
ーー開いた!
思った瞬間、
不意に、胸が高鳴った。
ーー逃げられる!
ーーだが、どこに?
微かな恐怖に、足がすくむ。
だが、白鳥はすぐにも気を取り直した。
数々の訓練に耐え、鍛え上げられた軍人魂は、未だ白鳥の中に残っていた。
耳に聞こえるほど鼓動が鳴り響き、全身にじっとりと汗をかきながら。
一歩、白鳥は扉の外へと踏み出した。
裸足の足裏に触れる、感触が変わる。
瞬間、それまで白鳥を取り巻いていた恐怖が消え、たまらない開放感が訪れた。
真壁の、底の見えない善意から。
閉塞感に息もできないあの〝部屋〟から。
自分は抜け出したのだ!
思わず走り出した白鳥は、足がもつれて倒れた。
全身を打つ、衝撃。
だが、その痛みすらが、自由への代償に思われた。
起き上がるために、肘を付き、体を起こし、立ち上がるための力点を探して右手を伸ばす。
転ぶ直前、廊下の先に何かが〝ある〟ような、微かな気配を感じていた。
ふと触れた、布の感触。
掴んだそれは、じわっと数秒遅れて生暖かいーー人の体温を伝えてきた。
「一人で出るのは、危ないよ」
上から落ちてきた、柔らかな声音。
それは、紛れもなく真壁のものだった。
そっと、肩に手が触れる。
闇に包まれた視力の先に、さらなる深淵の闇が降りてきたような絶望感。
「さあ、手伝ってあげるから、立ち上がろうか」
するっと腰に回された、腕。
それはまるで、自分の身を縛り付ける鎖のようにも感じられた。
§
「すごいね、タカ。……きみが部屋の外まで、一人で出られるなんて思わなかったよ」
縛鎖のような腕は、白鳥の背中をいたわりながら、その身を再びあの〝部屋〟へと連れ戻した。
「ひどく転んだだろう? どこか怪我をしていないか?」
「怪我などしていない! 触るなっ!」
触れてこようとする手を振り払い、白鳥は少し強い口調で拒絶した。
数秒の間を置いて、再び真壁が口を開く。
「きみの身が、心配なんだよ」
「心配のあまり、俺を監禁したのかっ?」
とうとう、白鳥はその一言を口に出した。
自分が本当に、真壁の虜にされてしまったという、事実を認めるのが怖くて、問えなかったーーその一言を。
「……きみは、ここにいれば、もうなんの危険もない」
「どういう意味だ?」
「あの任務……、僕が行けば……」
その一言に、白鳥はカッとなる。
「じゃあなにか? ゆりおの方が俺より上手く、あれを解除出来たといいたいのか?」
「違う。……僕はただ、きみが負傷するのが嫌だったと言ってるだけだ」
「おまえの勝手な同情と思い込みに、俺を巻き込むなっ!」
しかし言ってしまってから、虚無感に襲われる。
実際に、真壁の言う通りかもしれない。
自分は無力で……。
真壁であれば、例え爆発に巻き込まれたとしても……。
「タカ……」
そっと伸ばされた手が、白鳥の顔に触れた。
新しく盛り上がった肉の部分を、指先が辿る。
「怖がらなくていい。……僕は、きみを守ろうとしているだけだ」
息が顔に掛かった……と思った時には、口付けられていた。
背中を支える腕が、そっと白鳥の体をベッドへと横たわらせる。
そして、着衣を止めている結び目がほどかれる音のあとに、素肌を手のひらで撫でられた。
「……っ!」
だが、逃げることは許されない。
真壁は、なんとも優しく、甘やかに、白鳥の唇を吸い、噛み、愛撫する。
それはまるで、本当に愛しいものを愛でるようなキスだった。
「タカ……、ごめん。……僕は……」
顔を背けた白鳥の首筋に、真壁の唇が押し当てられる。
そこからは、もう白鳥の声など聞こえないかのように、真壁は白鳥の肌を、体を、その細胞の一つまでも求めるように、触れた。
やがて、衣擦れの音となにかを床に落とす音が聞こえ、そして白鳥の体の上に、真壁が覆いかぶさってきた。
「……っ、ゆりお!」
真面目な時はきちんと〝真壁班長〟〝白鳥曹長〟と呼び合うが、現場で爆発物の処理をしている時は、その緊張を緩ませるために〝ゆりお〟〝タカ〟と呼び合っている。
「大丈夫。きみには、これ以上、傷ついてほしくはないから……」
下腹部へとたどり着いていた真壁の舌が、白鳥の熱の中心に触れた。
生暖かい口腔内に迎え入れられ、背筋をゾクゾクとした快感が這い登る。
ーーくそっ!」
心のなかで悪態をついたが、そんなことで体の反応は止まらない。
すぐにも隆とたちあがってしまったそれを、真壁は一度口から離した。
ぬちゃりと、液体か固体かわからない音が耳に聞こえ、次にぬめりを帯びた真壁の手が、白鳥の下腹部に触れた。
両手で、丁寧に扱われるそれは、唇や舌からの刺激とは違う、もう少し強く明らかな快感が押し寄せた。
「……ぐうっ」
「怖いかい? ……大丈夫、……きずつけないと……言っただろう……?」
こころなし、語る真壁の息も上がっているように感じられた。
と、思ったところで。
自分の上に、真壁がまたがってきた感触に驚く。
「ゆりおっ!」
驚きは、やや悲鳴じみた声になった。
「……あ……はは……、きみは、熱いな……」
真壁の体温が、じわりと白鳥の全身に染み渡る。
ゆっくりと動く腰の振動が、身体の芯まで揺さぶった。
真壁の息が、どんどん上がって早くなるのが分かる。
それに合わせるように、自分の鼓動も早まってゆくのを感じる。
繋がった部分から、真壁と溶け合っているような錯覚さえあった。
暗闇しかない白鳥の世界には、真壁しかいない。
だが、それは白鳥の本意ではない……はずだ。
シーツを握る手は、最後に残った矜持を掴んでいるようにも思える。
「白鳥……」
不意に、真壁の手が白鳥の顔に触れた。
「ああ……、きみは……、なんて美しいんだ……」
それは問いかけですらない、つぶやきにも聞こえたが。
白鳥にとって、皮肉にも聞こえた。
「こんな二目と見られぬ顔のどこがっ!」
「白鳥……」
思わず言い返した白鳥の唇に、そっと真壁の指が、黙れというように押し当てられる。
それから、その手がゆっくりと頬を撫で、視力を奪った傷跡をなぞる。
一呼吸分の沈黙のあと──。
真壁が、低く……、囁くように言った。
「きみを見ていると、自分が……まだ人間でいられる気がするんだ」
白鳥は息を呑んだ。
声が出なかった。
見えていたなら、どんな顔でそれを言ったのか。
いや、見えなくてよかったかもしれない。
なぜならその声には、優しさと、恐怖と、祈りが――すべてが混じっていたからだ。
部屋の中に、二人の呼吸音だけが、静かに、確かに響いていた。
白鳥の腹の上で、真壁の体が跳ねる。
ぎゅうと締め付けられて、白鳥もまた果てていた。
§
真壁の動きが緩やかに止まった。
結ばれた身体が、熱の余韻と共に、静かに名残を引いて離れていく。
そのまま、真壁はベッドの傍らに体を落ち着け、まるで子守唄でも奏でるように、白鳥の髪を、何度も何度も撫でていた。
白鳥はもう、何も言わなかった。
背中には薄いシーツが貼りつき、首筋から汗が垂れていく。
まるで夢の中にでもいたように、自分の体がどこにあるのか、遠くに感じる。
……散々、慰みものにされた。
自分の意思も、抵抗も、言葉さえも通じないままに、ただ都合よく、弄ばれていたのだと、そう思った。
もっとも信頼し、背中を……生命を預けることが出来ると信じていた相棒に……。
怒る気力も、恥じる気概も、なにもない。
全てが霞の彼方に置き去りになっているように思えた。
そもそもなにに抵抗をして、なにが自分の手の中に残るのだろう?
微かに掴んでいた矜持すら、真壁の「魂までもが美しい」という言葉の前に、塵となって消えた。
盲いた世界で、自分はもう真壁の腕の中に沈むしかない。
蜘蛛の巣に絡め取られる羽虫のように……。
白鳥は目を閉じた。
開いていても闇だが、閉じた暗闇ははるかに安堵を覚える闇だったからだ。
§
その晩、白鳥は夢を見た。
炎の中を、真壁が走っている。
その腕の中には、全身が傷つき、頭部から血を流している自分。
目が、頭が、全身が痛む。
焼け付く空気に呼吸も出来ず、手足は痺れ、真壁の体にしがみつくことすら出来ない。
ーーそうか……、すがりついてるのは、ゆりおの方だ……。
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。
必死になって、自分の体を抱いて走る真壁は、白鳥の生命を繋ぐ事だけを求めて、走っている。
途端に、気持ちがひどく軽くなった。
§
ハッと目を覚ますと、そこは医療室の中だった。
視界に広がる、光、景色。
耳に聞こえる、人々のざわめき。
はじめはぼんやりしていたが、白鳥はすぐにもその状況に驚いて周囲を見回す。
「……ここは……?」
戸惑いの声が漏れた。
見慣れた部屋、見慣れた機器、見慣れた……いつも酔っ払っている軍医の白衣姿。
そして、その隣に立つ真壁。
瞬間、白鳥は悲鳴にならない悲鳴を上げ、ベッドの上から逃げ出そうとした。
「おいっ! 動いては駄目だ」
「落ち着きなさいっ!」
「やめろっ! 離せっ!」
思うように体が動かず、もたもたしている間に肩を真壁に抑え込まれた。
「離せっ! 離せっ!」
「ドクター!」
「今、鎮静剤を打つ」
いつになくキビキビとした動きで、軍医が抑えた白鳥の腕に注射を打った。
「いやだっ……! いや……」
カクン……と、白鳥の手足から力が抜け、静かになる。
§
次に白鳥が目覚めた時、傍には酔っ払い軍医だけがいた。
と言っても、今日は酔ってはいなさそうだ。
「私が誰か、分かるかね?」
「軍医の緒形先生……」
「自分の名前は?」
「白鳥……貴雄……」
「うん、記憶に問題はないようだ」
そうして、少し落ち着いたところで、軍医が言った。
「きみはね、曹長。もう三ヶ月も意識がなかったんだよ」
つまり、自分が視力を失い、仕事もなにもかもを失って、真壁に〝部屋〟に閉じ込められていた日々は……三ヶ月の間に見ていた夢だった……と。
「まさか……」
思わず口をついて、そう言ってしまったが。
しかし、見せられた鏡の中の顔は傷一つなく……。
白鳥が落ち着いたと聞いて、改めて部屋に真壁が入ってきた。
「意識が戻らないかと、心配したよ」
微笑みながら、労りの言葉を掛けてくれる。
そうして、白鳥に向けられる真壁の顔は、以前と変わりのない穏やかなもので。
白鳥は、自分の見ていた〝とんでもない夢〟のことを、口に出す気には、なれなかった。
「意識は戻ったが、三ヶ月も寝たきりだったんだ。体力も落ちているし、なにより静養が必要だね。休暇申請の手続きは、私が上司に口添えしよう」
「ああ、それなら。僕が、静かに療養出来る場所を知っているよ」
微笑みながらそう言った真壁の声に――白鳥は、ふと、かすかな既視感を覚えた。
──きみを見ていると、自分が、まだ人間でいられる気がするんだ。
その囁きが、鼓膜の奥に、微かに残っている気がした。
終わり。
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「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
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いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
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