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第16話
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食事を済ませて、多聞は早々に出掛けていった。
柊一は二階の寝室に戻り、そこで静かにステレオをかけて本を読んでいたのだが。
しかし、数分もしないうちに柊一は本の表紙を閉じてしまった。
考えないようにしても、気持ちは先程の脅迫犯の事を考えてしまう。
そして、考えれば考えるほど、無性に腹が立った。
確かに多聞と自分は共謀して、こんなろくでもないコトをやらかしているが。
それに便乗して、公的にも私的にも心痛の極みに立たされている北沢達に被害を及ぼすとは…。
多聞の身勝手に端を発し、柊一の都合でこんな事態を引き起こしてしまったものの、その事態に対する反省というか、回りに及ぼした迷惑の量はそれなりに自覚している。
それが気心の知れているバンドのメンバーや、マネージャーに対する甘えに寄るところが大きいのも事実だが、しかし少なくとも自分達には彼らに甘えるだけの理由も、甘えて良い資格もあるのだ。
確かに、事が発覚すれば世間を騒がせた分の責任はとらなければならないし、それなりの罰も受けなければならないだろう。
それでも、北沢を含めた「自分達を親身になって心配してくれていた面々」は、最後には許してくれる事を知っている。
しかし、脅迫犯にそんな権利は一欠片もないのだ。
なにより一番柊一を腹立たしく感じさせているのは、こうした事態になってしまったにもかかわらず、自分が全く動けないと言う現実だった。
この状況を維持しようとするには、そうするしか選択の余地が無くて、頼りない多聞を行かせたが。
やはり、これはもうそんな自分達の都合やエゴを考えている場合ではなくなっているのではないだろうか?
いっそ自分も多聞と一緒に東京に戻り、事の真相を全て打ち明けるべきなのではないだろうか。
医者の診察を受けるのは死ぬ程イヤだが、あまりにも事態が深刻になりすぎている。
柊一は少し逡巡してからおもむろにベッドを離れると、隣の部屋にある電話機へと向かった。
隣室の電話は、多聞が柊一を監禁するべく一度モジュール線を引き抜かれ、裏手の物置小屋に放り込まれていたのだが、事情が変わった後に多聞が改めて繋ぎ直している。
おかげで、壁や天井に這わせてあった長いモジュール線が、そのまま床にズルズルと放置されていて、夕方の暗がりなどで下手に室内に踏み込むとかなり危険な状態だった。
特に柊一は、松葉杖をついて足を引きずっているから、危険度は平素の数倍に増している。
しかし、当たり前だが最初多聞に監禁された時に、柊一の携帯は着衣と一緒に焼却処分の憂き目に合っていた。
つまり電話を使いたいと思ったら、否や応もなくこの部屋の固定電話を使わざるを得ないのである。
この部屋に来るのは気が進まなかったのだが、どうにか用心してモジュール線を避けて歩き、柊一は受話器を取り上げた。
多聞の携帯の短縮ナンバーを押すと、短いコールの後で女性のアナウンスが聞こえてきた。
「充電切らしやがったのか?」
舌打ちをして受話器を置き、柊一はそこで暫し受話器を見つめる。
連絡が付かないとなれば、多聞を呼び戻す事は当然出来ない。
柊一は、このままもう一度受話器を取り上げて、東京の事務所に電話を掛けてしまおうかと思った。
だが、それも手を伸ばしかけてやめた。
それはやはり、多聞に対して気が咎めたからだ。
とはいえ、あまりのんきに構えている訳にもいかない。
本当に身代金を支払われてしまってからでは、手遅れになってしまう。
しばらく考えた末、柊一は多聞にもう一度連絡を取ってみようと思った。
だが、受話器に手を伸ばしかけて、動きを止めた。
連絡を取る事を諦めた訳ではなくて、階下から物音が聞こえたような気がしたのだ。
息を殺し、耳をそばだてる。
確かに、誰かがこの山小屋の中に入り込み、気配を殺しながら階段を上ってくるような気がした。
柊一は細心の注意を払って扉の方へと移動し、細めに扉を開けて踊り場の様子を伺う。
しかしそこに人影はない。
しばらくジッと見つめていたが、誰かがやってくる様子もなく、どうやら神経が過敏になりすぎている自分の気の所為だったのかと、溜息をついた。
改めて多聞に連絡を入れようと、柊一は再度電話をする為に部屋の奥へ戻ろうとしたが。
「…っ!」
床で螺旋状にたごまっていたモジュール線に足を取られ、しまったと思った時には既に身体が斜めに傾いていた。
「…痛…ってえ…」
身体の痛みに呻きながら起きあがり、手放してしまった松葉杖を探す。
少し離れたところに転がっている杖に気付き、手に取ろうとした瞬間、ふいに杖が動いた。
ギョッとして顔を上げる間もなく、柊一は頭を殴られて昏倒していた。
柊一は二階の寝室に戻り、そこで静かにステレオをかけて本を読んでいたのだが。
しかし、数分もしないうちに柊一は本の表紙を閉じてしまった。
考えないようにしても、気持ちは先程の脅迫犯の事を考えてしまう。
そして、考えれば考えるほど、無性に腹が立った。
確かに多聞と自分は共謀して、こんなろくでもないコトをやらかしているが。
それに便乗して、公的にも私的にも心痛の極みに立たされている北沢達に被害を及ぼすとは…。
多聞の身勝手に端を発し、柊一の都合でこんな事態を引き起こしてしまったものの、その事態に対する反省というか、回りに及ぼした迷惑の量はそれなりに自覚している。
それが気心の知れているバンドのメンバーや、マネージャーに対する甘えに寄るところが大きいのも事実だが、しかし少なくとも自分達には彼らに甘えるだけの理由も、甘えて良い資格もあるのだ。
確かに、事が発覚すれば世間を騒がせた分の責任はとらなければならないし、それなりの罰も受けなければならないだろう。
それでも、北沢を含めた「自分達を親身になって心配してくれていた面々」は、最後には許してくれる事を知っている。
しかし、脅迫犯にそんな権利は一欠片もないのだ。
なにより一番柊一を腹立たしく感じさせているのは、こうした事態になってしまったにもかかわらず、自分が全く動けないと言う現実だった。
この状況を維持しようとするには、そうするしか選択の余地が無くて、頼りない多聞を行かせたが。
やはり、これはもうそんな自分達の都合やエゴを考えている場合ではなくなっているのではないだろうか?
いっそ自分も多聞と一緒に東京に戻り、事の真相を全て打ち明けるべきなのではないだろうか。
医者の診察を受けるのは死ぬ程イヤだが、あまりにも事態が深刻になりすぎている。
柊一は少し逡巡してからおもむろにベッドを離れると、隣の部屋にある電話機へと向かった。
隣室の電話は、多聞が柊一を監禁するべく一度モジュール線を引き抜かれ、裏手の物置小屋に放り込まれていたのだが、事情が変わった後に多聞が改めて繋ぎ直している。
おかげで、壁や天井に這わせてあった長いモジュール線が、そのまま床にズルズルと放置されていて、夕方の暗がりなどで下手に室内に踏み込むとかなり危険な状態だった。
特に柊一は、松葉杖をついて足を引きずっているから、危険度は平素の数倍に増している。
しかし、当たり前だが最初多聞に監禁された時に、柊一の携帯は着衣と一緒に焼却処分の憂き目に合っていた。
つまり電話を使いたいと思ったら、否や応もなくこの部屋の固定電話を使わざるを得ないのである。
この部屋に来るのは気が進まなかったのだが、どうにか用心してモジュール線を避けて歩き、柊一は受話器を取り上げた。
多聞の携帯の短縮ナンバーを押すと、短いコールの後で女性のアナウンスが聞こえてきた。
「充電切らしやがったのか?」
舌打ちをして受話器を置き、柊一はそこで暫し受話器を見つめる。
連絡が付かないとなれば、多聞を呼び戻す事は当然出来ない。
柊一は、このままもう一度受話器を取り上げて、東京の事務所に電話を掛けてしまおうかと思った。
だが、それも手を伸ばしかけてやめた。
それはやはり、多聞に対して気が咎めたからだ。
とはいえ、あまりのんきに構えている訳にもいかない。
本当に身代金を支払われてしまってからでは、手遅れになってしまう。
しばらく考えた末、柊一は多聞にもう一度連絡を取ってみようと思った。
だが、受話器に手を伸ばしかけて、動きを止めた。
連絡を取る事を諦めた訳ではなくて、階下から物音が聞こえたような気がしたのだ。
息を殺し、耳をそばだてる。
確かに、誰かがこの山小屋の中に入り込み、気配を殺しながら階段を上ってくるような気がした。
柊一は細心の注意を払って扉の方へと移動し、細めに扉を開けて踊り場の様子を伺う。
しかしそこに人影はない。
しばらくジッと見つめていたが、誰かがやってくる様子もなく、どうやら神経が過敏になりすぎている自分の気の所為だったのかと、溜息をついた。
改めて多聞に連絡を入れようと、柊一は再度電話をする為に部屋の奥へ戻ろうとしたが。
「…っ!」
床で螺旋状にたごまっていたモジュール線に足を取られ、しまったと思った時には既に身体が斜めに傾いていた。
「…痛…ってえ…」
身体の痛みに呻きながら起きあがり、手放してしまった松葉杖を探す。
少し離れたところに転がっている杖に気付き、手に取ろうとした瞬間、ふいに杖が動いた。
ギョッとして顔を上げる間もなく、柊一は頭を殴られて昏倒していた。
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