過去のやらかしと野営飯

琉斗六

文字の大きさ
13 / 21
幼馴染と暴走と野営飯

 王都の冒険者ギルドに駆け込んだところで、ランスは顔なじみの受付嬢の元へと走った。

「ジョナサンを呼んでくれ! 緊急に伝えたいことがある」
「は……、はい、わかりました」

 ランスの様子に逼迫したものを感じ、受付嬢は奥に走ってすぐにギルド長を呼んできてくれる。

「よう、ランス。ワイバーンどうだった?」
「それはあとだ、こっちに戻ってくる途中で、スタンピードの予兆があった」
「なんだと?! 場所は?」
「まずは地図であろうよ」

 ランスとジョナサンの間に割って入ったダリウスが、自分の異次元鞄から地図を取り出し、カウンターに広げた。

「気配を感じたのはこの辺りだ。近くにダンジョンがあるか?」
「ランス……、こちらの貴族様は……?」
「名前はダリウス。アルジャンティス伯爵の血族だが、一級のライセンス持ちだ」
「へえ……。どんどんすごい知り合い増えてんな……」
「うむ。王都は〝ふりだし〟だからな。あまり一級なぞとは顔を合わすこともないのであろ? よっく、この顔を拝んでおけい」

──ジョナサン、〝鼻の穴を見せびらかしてんな〟って思ってんだろうな……。

 半口を開けているジョナサンの顔を見やり、ランスは自分が最初にダリウスに会った時の感想を、同じようにいだいているだろうな……と想像した。

「初心者研修に使ってるダンジョンの傍だな。瘴気の濃度は?」
「予兆と分かるが、まだ切羽詰まっちゃいないと思う……が。断言はできん」
「まずは斥候を出して、状況の把握だな……。よし、報告、感謝する」

 ジョナサンは、そこで即座に受付嬢や奥で作業をしている職員を呼び集め、スタンピード対策の指示を出し始めた。

「おい、手を貸すか?」
「莫迦。おまえはもう、ウチのギルド所属じゃねぇんだ。ま、実際にスタンピードが起きたら、一級サマの腕を借りなきゃならんが。予兆がそのまましりすぼみになることもあるからな」

 ジョナサンはニヤッと笑って、奥へ引っ込んでいった。

「ランスは、スタンピードにあったことがあるんですか?」

 それまで、自分に出来ることがないことを理解し、大人しく成り行きを見ていたユーリイが、話が一段落したことを察して口を開く。

「若い頃は、ダンジョン行って稼ぎもしたからなぁ。足をやられたのが、そういえばスタンピードの時だった」
「ほう、スタンピードに巻き込まれ、足を怪我して、よく生きて戻れたものだな」
「仲間が良かったのさ」

 慌ただしくなったギルドにいては邪魔だろうと、三人は外に向かった。


§


「ランス?」

 出口に向かいかけた一行に、待ち合いの冒険者たちに紛れていた男が、そっと……遠慮がちに声を掛ける。
 振り返ったランスは、パッと破顔ハガンした。

「ヴィオか?」
「やっぱり! ランスか! あんまり凄そうな奴らに囲まれてたから、人違いかと思ったぞ!」

 ランスよりも頭一つ大きな、背丈。
 背負っている大盾おおたてに見合った、広い肩幅。
 そんな大柄おおがらな体格とは裏腹な、素朴な笑顔。
 気の優しそうなその人物と、ランスは笑い合いながら、互いに肩をたたき合い、ハグをする。

「……誰……?」

 ボソッと漏れたユーリイの一言を、ダリウスは聞き逃さなかった。

「なんだ? 〝僕の知らない笑顔〟とでも言いたげであるな?」

 ユーリイはチラッと、苛立ちを含んだ鋭い視線をダリウスに投げかけてから──。
 言葉を返さずに踏み出す。

「ランス。このかた、どちらさまですか?」

 二人の間に割入わりいるようにして、ユーリイが訊ねた。

「ああ、うん。こいつはヴィオ。一緒に王都に出てきた、幼馴染だよ。ヴィオ、こっちはユーリイ、俺が指導した教え子で一番の出世株だ。あっちはダリウス。ユーリイのパーティーの魔法使いだ」
「ヴィオランだ。二級に上がったばかりです」

 ヴィオの自己紹介に、ランスはやや驚いた顔になった。
 だが、何かを言う前に、ユーリイが口を開く。

「ユーリイです。一級です」

 らしからぬ尊大な態度で自己紹介するユーリイを、ダリウスが鼻で笑った。

「ダリウス・デュ・アルジャンティス。アルジャンティス伯爵の者である」
「へえ、貴族様ですか! こりゃすげぇや」
「ランス。ここは今、少々慌ただしい。旧友殿と旧交も温めたかろう。今日はここで解散といかぬか?」
「ちょ……、ダリウス……っ!」

 ユーリイは不満そうな声を上げたが、それはダリウスに遮られてしまう。
 ヴィオとの再会に意識が向いていたランスは、そんなユーリイの様子には気付かなかった。

「そうか? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうか」
「久しぶりだ。山羊の蹄亭でエールといくか?」
「ああ、そいつはいい!」

 ランスはヴィオと、肩を並べてギルドを出ていった。

「ちょっと、ダリウス! なんですか、それ!」
「なんだもなにもあるまい。旧友との再会は〝また楽しからずや〟と言うではないか。あまり心狭く嫉妬深いと、ランスに嫌がられてしまうぞ?」

 ニヤニヤ笑うダリウスを、ユーリイは眉根を寄せて睨みつけた。
 が──。

「全く! あなたって本当に僕の邪魔しかしませんよねっ!」

 ぷいっと顔を背け、一人、ギルドを出ていった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。