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幼馴染と暴走と野営飯
4
ランスたちは、一度宿に戻った。
ちょっとした買い物のつもりで出ていたために、装備品などを置いてきてしまっていたからだ。
「ユリィ、ダンジョンには何回ぐらい潜った?」
新調されたバックパックとウェストポーチに、荷物を詰めながらランスが言った。
「僕は昇級を急いでましたから。ランスと基礎を学ぶために潜った回数を数えなければ、片手に余る程度です」
「ダリウスは?」
「覚えておらんが、ユーリイよりは経験者であるぞ」
「じゃあ、ユーリイ。ダンジョンのなんたるかは覚えてるな?」
「ええ、みっちり教えてもらいましたから」
にこりと、ユーリイは笑った。
「外に比べて、魔獣が凶暴化していること。死んだものは装備品も含めて、数日で跡形もなく失われること」
「一部の研究者が最近発表した論文では、ダンジョンは巨大な魔獣の一種であり、ダンジョン内で出現する魔獣は、ダンジョンと共生関係にある……などという〝奇説〟もあるな」
ダリウスが付け足した。
「そうなんですか?」
「貴殿は、ニュースペーパーを読まぬのか?」
呆れ顔で、ダリウスは肩を竦める。
「悪い。俺もニュースペーパーは読まん。……と言うか、最近まではそんなものを購読出来るほどの金銭的な余裕はなくてな」
「では、ランスもその説を知らんのか?」
「いや、冒険者たちの間で噂になってたから、話だけは知ってる」
「なるほど。だが、口伝では、少々尾ひれがついておると思った方がよかろうよ」
装備と荷物を整えたところで、一行は宿を出る。
ギルドの前には、ダリウスの騎竜の他に、ランスとユーリイの分の貸し騎竜が用意されていた。
今朝受け取ったばかりの鞍を乗せ、ランスは騎竜に騎乗する。
そうして一行は、ダンジョン目指して出発をした。
§
「此度のダンジョン、ランスは経験あるのか?」
走る騎竜の上から、ダリウスが問うた。
「あるが……、深層まで潜ったのは昔の話だ。初心者講習に、浅層なら頻繁に潜ってるがな」
「では、案内を頼めるのだな」
「一応マップは覚えてる……つもりだ。先遣隊が魔獣と遭遇したのは中層だって話だが……」
「ギルドマスターのお話では、先遣隊が出発したのが五日前……でしたっけ?」
「ああ。だが、先遣隊はそこそこの人数で動いていた。俺たちだけなら、もうちょっと速度が上がるだろう」
──それでも、中層に着くには、ダンジョン内で一泊は必要だろうな……。
気ばかり焦るが、最大の速度で移動はしている。
そうして一行は、数時間後にはダンジョンの前にたどり着いていた。
平素ならば冒険者と商人とで賑わっているが、スタンピードの危険が迫っている今、人気は無かった。
騎竜は、ダンジョンに乗り込むには向かないが──。
入口付近にある〝騎竜を預ける店〟は、当然誰もいない。
「放っておけばよい。私のダイアナは頭が良い。主人が数日戻らなければ、王都に勝手に戻る〝知恵〟を持っている」
「じゃあ、他の二頭はダリウスの騎竜に手綱を繋いでおこうか」
魔獣や盗賊に襲われる危険はあるが、竜と名が付く程度に身を守るすべは持っている。
手綱で繋いで騎竜を放ち、一行はダンジョン内へと潜っていった。
§
浅層は、静まり返っていた。
「挟撃を受けたと言っておったが、なるほど迷宮タイプか。すべてのフロアが迷宮タイプか?」
「ああ、深層まで迷宮だ。セーフティエリアには、聖水の泉がある」
「本当にダンジョンが魔獣の仲間であるならば、セーフティエリアの説明がつかぬと思うがな」
「そんなことは、学者の考えることだ。稼ぎが目当ての冒険者は、ダンジョンの正体がなんであろうが、どーでもいい話さ」
だが、接敵もなく先に進めたとしても、物理的な距離が縮まるわけではない。
一日を半日に詰められるわけもなく、一行は〝予定していた場所〟より少し先のセーフティエリアで、その日の歩みを止めた。
「さて、獲物も無し。さすがのランスも、今夜は干し肉か?」
セーフティエリアの聖水で顔を洗ったダリウスが言った。
「いや、このダンジョンの浅層は、どっちにしろ食える魔獣はほとんど出ない」
ランスがバックパックから取り出したのは、片手鍋だった。
「ほほう、準備万端というわけか」
「まぁな。ここには初心者講習で潜ってると言っただろう」
セーフティエリアには炉があり、飲める聖水も湧いている。
ランスは片手鍋に水を汲み、そこに干し肉と野草をパラパラと入れた。
「干し肉を茹でる?」
「ああ。いい出汁になるんでな。最後に保存用の堅パンを細かく切って入れる」
長期のダンジョン攻略時には、日持ちのする堅パンと干し肉が必須だ。
だが、どちらも腐敗を防ぐために限界まで水分を抜き、基本的には〝歯が折れるほど〟堅い。
「ふむ。鍋を持ち込むという発想が、そもそもあまりないわな」
「ランスの干し肉のスープは絶品です。ふやけた堅パンが、クルトンより美味しいんですから」
過去の指導の時に食したスープを思い出すように、ユーリイがうっとりしながら語る。
器に装われたスープを口に含み、ダリウスは目を輝かせた。
「これは、本当にあの干し肉か? ううむ、ふっくらと柔らかくなって、この野草のおかげか独特のニオイが消えておる。スープに溶け込んだ塩味と味わい、それを吸った堅パンの歯ごたえ……、たまらん一品であるな!」
「ホンットにいつも、食事時にうるさいですね!」
騒ぎながら食事をする二人をよそに、ランスは異次元鞄から折りたたまった四角い物を取り出した。
「それはなにか?」
「小ぶりのコンテナだ。セーフティエリアでサウナは無理だが、これに湯を満たして足を入れると、かなり疲労が軽減される」
「貴殿は本当に、細やかな気遣いを知っておるのう」
「俺は……。俺にはこれしか、なかったからな。戦闘じゃ無能の俺が、貢献できるのは……、こんなことぐらいだ」
最後の方は、ほとんどつぶやきに近い言葉だった。
「それは、そうだが……」
思い詰めた表情のランスに、ダリウスはそれ以上、掛ける言葉を見つけられなかった。
ちょっとした買い物のつもりで出ていたために、装備品などを置いてきてしまっていたからだ。
「ユリィ、ダンジョンには何回ぐらい潜った?」
新調されたバックパックとウェストポーチに、荷物を詰めながらランスが言った。
「僕は昇級を急いでましたから。ランスと基礎を学ぶために潜った回数を数えなければ、片手に余る程度です」
「ダリウスは?」
「覚えておらんが、ユーリイよりは経験者であるぞ」
「じゃあ、ユーリイ。ダンジョンのなんたるかは覚えてるな?」
「ええ、みっちり教えてもらいましたから」
にこりと、ユーリイは笑った。
「外に比べて、魔獣が凶暴化していること。死んだものは装備品も含めて、数日で跡形もなく失われること」
「一部の研究者が最近発表した論文では、ダンジョンは巨大な魔獣の一種であり、ダンジョン内で出現する魔獣は、ダンジョンと共生関係にある……などという〝奇説〟もあるな」
ダリウスが付け足した。
「そうなんですか?」
「貴殿は、ニュースペーパーを読まぬのか?」
呆れ顔で、ダリウスは肩を竦める。
「悪い。俺もニュースペーパーは読まん。……と言うか、最近まではそんなものを購読出来るほどの金銭的な余裕はなくてな」
「では、ランスもその説を知らんのか?」
「いや、冒険者たちの間で噂になってたから、話だけは知ってる」
「なるほど。だが、口伝では、少々尾ひれがついておると思った方がよかろうよ」
装備と荷物を整えたところで、一行は宿を出る。
ギルドの前には、ダリウスの騎竜の他に、ランスとユーリイの分の貸し騎竜が用意されていた。
今朝受け取ったばかりの鞍を乗せ、ランスは騎竜に騎乗する。
そうして一行は、ダンジョン目指して出発をした。
§
「此度のダンジョン、ランスは経験あるのか?」
走る騎竜の上から、ダリウスが問うた。
「あるが……、深層まで潜ったのは昔の話だ。初心者講習に、浅層なら頻繁に潜ってるがな」
「では、案内を頼めるのだな」
「一応マップは覚えてる……つもりだ。先遣隊が魔獣と遭遇したのは中層だって話だが……」
「ギルドマスターのお話では、先遣隊が出発したのが五日前……でしたっけ?」
「ああ。だが、先遣隊はそこそこの人数で動いていた。俺たちだけなら、もうちょっと速度が上がるだろう」
──それでも、中層に着くには、ダンジョン内で一泊は必要だろうな……。
気ばかり焦るが、最大の速度で移動はしている。
そうして一行は、数時間後にはダンジョンの前にたどり着いていた。
平素ならば冒険者と商人とで賑わっているが、スタンピードの危険が迫っている今、人気は無かった。
騎竜は、ダンジョンに乗り込むには向かないが──。
入口付近にある〝騎竜を預ける店〟は、当然誰もいない。
「放っておけばよい。私のダイアナは頭が良い。主人が数日戻らなければ、王都に勝手に戻る〝知恵〟を持っている」
「じゃあ、他の二頭はダリウスの騎竜に手綱を繋いでおこうか」
魔獣や盗賊に襲われる危険はあるが、竜と名が付く程度に身を守るすべは持っている。
手綱で繋いで騎竜を放ち、一行はダンジョン内へと潜っていった。
§
浅層は、静まり返っていた。
「挟撃を受けたと言っておったが、なるほど迷宮タイプか。すべてのフロアが迷宮タイプか?」
「ああ、深層まで迷宮だ。セーフティエリアには、聖水の泉がある」
「本当にダンジョンが魔獣の仲間であるならば、セーフティエリアの説明がつかぬと思うがな」
「そんなことは、学者の考えることだ。稼ぎが目当ての冒険者は、ダンジョンの正体がなんであろうが、どーでもいい話さ」
だが、接敵もなく先に進めたとしても、物理的な距離が縮まるわけではない。
一日を半日に詰められるわけもなく、一行は〝予定していた場所〟より少し先のセーフティエリアで、その日の歩みを止めた。
「さて、獲物も無し。さすがのランスも、今夜は干し肉か?」
セーフティエリアの聖水で顔を洗ったダリウスが言った。
「いや、このダンジョンの浅層は、どっちにしろ食える魔獣はほとんど出ない」
ランスがバックパックから取り出したのは、片手鍋だった。
「ほほう、準備万端というわけか」
「まぁな。ここには初心者講習で潜ってると言っただろう」
セーフティエリアには炉があり、飲める聖水も湧いている。
ランスは片手鍋に水を汲み、そこに干し肉と野草をパラパラと入れた。
「干し肉を茹でる?」
「ああ。いい出汁になるんでな。最後に保存用の堅パンを細かく切って入れる」
長期のダンジョン攻略時には、日持ちのする堅パンと干し肉が必須だ。
だが、どちらも腐敗を防ぐために限界まで水分を抜き、基本的には〝歯が折れるほど〟堅い。
「ふむ。鍋を持ち込むという発想が、そもそもあまりないわな」
「ランスの干し肉のスープは絶品です。ふやけた堅パンが、クルトンより美味しいんですから」
過去の指導の時に食したスープを思い出すように、ユーリイがうっとりしながら語る。
器に装われたスープを口に含み、ダリウスは目を輝かせた。
「これは、本当にあの干し肉か? ううむ、ふっくらと柔らかくなって、この野草のおかげか独特のニオイが消えておる。スープに溶け込んだ塩味と味わい、それを吸った堅パンの歯ごたえ……、たまらん一品であるな!」
「ホンットにいつも、食事時にうるさいですね!」
騒ぎながら食事をする二人をよそに、ランスは異次元鞄から折りたたまった四角い物を取り出した。
「それはなにか?」
「小ぶりのコンテナだ。セーフティエリアでサウナは無理だが、これに湯を満たして足を入れると、かなり疲労が軽減される」
「貴殿は本当に、細やかな気遣いを知っておるのう」
「俺は……。俺にはこれしか、なかったからな。戦闘じゃ無能の俺が、貢献できるのは……、こんなことぐらいだ」
最後の方は、ほとんどつぶやきに近い言葉だった。
「それは、そうだが……」
思い詰めた表情のランスに、ダリウスはそれ以上、掛ける言葉を見つけられなかった。
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