過去のやらかしと野営飯

琉斗六

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幼馴染と暴走と野営飯

 セーフティエリアを出た一行は、静まり返ったダンジョンの中を、出口目指して進み始める。

「異常に静か……であるな」
「ああ、薄気味悪いぐらいにな」
「ランス。この感じ、最悪だったかもしらんぞ」

 状況を話し合うダリウスとランスに向かって、ヴィオが言った。

「どういう意味だ?」
「先遣隊が潰走した〝波〟が来る直前、こんな感じだったんだ」
「ううむ。うまうまとパン粥を食っていたのが、仇になったか?」
「いいえ。あれを食べずに出るのは、あり得ない選択です」
「それは単に、ユーリイの食い意地がはってるだけの話であろうが」
「どっちにしろ、急ごう。できれば波に会いたくないが、来る前提で構えて……な」

 とはいえ、一級のダリウスとユーリイが本気で急いだら、ランスは追いつけなくなる。
 回復魔法で傷を処置し、一日いちにち休みを取ったとはいえ、ヴィオは万全とは言い難い。
 結局、ランスの歩調に合わせる形で、一行は浅層へと向かう道を急いだ。

 だが──。

「クリムゾンバースト!」

 先頭を進んでいたダリウスが、突然魔法を放つ。

「ランス! 来ます!」
「ああ、わかってる」

 通路の向こうからミノタウロスが、まさに〝暴れ牛〟の様相で雪崩れてくるのが見えた。
 第一陣を炎の一撃で怯ませたところで、ダリウスが振り返る。

「フォースブースト」

 開いた手のひらから光の粒が放たれ、ヴィオと盾がキラキラ輝いた。

「うわっ!」
「すごいな、一瞬で強化を盾と人、同時に掛けたのか……?」

 通路はそれほど狭くはない。
 故にダリウスが魔法を放ち、俊足で駆け回るユーリイが次々に敵を斬り伏せる余地もあった。

「とんでもないな、あの二人。先遣隊はたちまち周囲を囲まれてたのに」

 次々にキリなく現れる魔獣の群れを、ユーリイとダリウスは楽々と倒してゆく。
 その様子に、ヴィオは唖然となっていた。

「逆に言えば、あれぐらい〝人外〟レベルの力量がなきゃ、一級にゃなれんってことだ」

──なんでそんな連中と、一緒にパーティーんでんだ、俺……?

 怒涛のごとく押し寄せる魔獣を前に、こうしてヴィオと会話をする余裕すらある状況に、ランスはため息も出ない。

 しかし──。

「ランスッ!」
「うわっ!」

 グワンッ! と大きな音がした……と思った時には、ランスは地面につき転がされていた。
 ハッとなって振り返ると、ミノタウロスの大斧だいふを受けた盾を構えた、ヴィオの背中が見える。

「ヴィオッ!」
「……遊撃隊がいたようだ……」

 受けた一撃を跳ね返し、次の一手をパリィする。

「やっぱり、とんでもないな、あの貴族様の魔法は……」
「大丈夫かっ!」
「ああ……。応急処置と貴族様の魔法のおかげで、盾には傷一つついちゃいない」

 しかし、ミノタウロスの巨体からは想像も出来ないスピードで、大斧だいふが振り下ろされる。
 ヴィオは、巧みな盾捌きでその攻撃をいなしているが、こちらには攻撃の一手が足りない。

──くそ、ミノタウロスとヴィオの動きが早すぎて、俺のなまくらじゃ攻撃が出来ない……。

 防戦一方の状況に、ランスは歯噛みする。

「……ぐっ!」

 盾を押し出し、ミノタウロスを数歩退けたところで、ヴィオは血を吐いた。
 やはり一度はダンジョンの瘴気に色濃く蝕まれた体は、未だその影響を残していたらしい。

「ヴィオ!」
「大丈夫だっ! ……俺は、なにがあっても、今度こそおまえを守る!」
「莫迦、なにを言って……」

 再び、ミノタウロスの大斧だいふが振り下ろされる。
 ヴィオは、ギリと奥歯を噛んでその一撃を受け止めた。
 その足元に、力強さは感じられない。
 だがその背中には、燐のように燃える瞳の奥の、意志の力だけで突き動かされているような、鬼気きき迫るものがあった。

「俺がランスを、パーティーに誘いに戻ったのは……、おまえと一緒に……、ずっと一緒にいたいから……。俺は、おまえを愛……」

 不意に、ミノタウロスの攻撃の手が止まる。
 何が起こったのか、ヴィオにもランスにもわからなかった。

 が──。

 ミノタウロスの体が二つに分かれ、その向こうに巨体を一刀両断したユーリイの姿が見えた。

「あなた、今、何を言おうとしましたか?」
「えっ……?」

 そこで絶命したミノタウロスに構わず、ユーリイは張り付いた笑顔のままで前に進み、ヴィオに向かって顔を寄せる。

「ランスは、僕のラバーです」
「俺は!」

 ヴィオは、口元の血を腕でぐいっと拭うと、ユーリイの気迫に負けない声で叫び返した。

「村を出た時から、ランスを愛してる!」
「は?」

 予想だにしないヴィオの言葉に、ランスは固まった。

「それがなんですか? 僕はランスのラバーです。現在進行系の恋人です。横やりはやめてください」
「いや、ラバーじゃないし、恋人でもないから」
「ランスは子供の頃から、俺と一緒にいたんだ。やむを得ない理由で離れ離れになったが、それを取り戻すべく俺は戻ってきた。そっちこそ横取りだろう」
「だから、意味ワカランことを言うな」

 ユーリイとヴィオが、同時にランスを見る。

「ランスは黙っててください」
「ランスは黙ってろ」

──いや、息ぴったりになんなんだよ、おまえらっ!

 そこで自分のほうがいかにランスを愛し、大事にし、想っているかを言い合っている二人を前に、ランスがため息をいていると……。

「ふははははっ、ランス、モテモテではないか!」
「やめろっ! ってゆーか、魔獣はどうなったんだよ?」
「あんなもの、キングが倒されれば引く。スタンピードの収束の条件であろう」
「キングっ?」

 ダリウスの言葉に、言い争っていた二人も振り返る。

「なんだ、気付いておらんのか? ユーリイが一刀両断したやつがキングだぞ」
「あれが〝スタンピード〟ですか? 想像以上に恐ろしいですね」
「何を言うか。楽々とこなしておったではないか」
「ランスが死んでたかもしれないんですよ! もう、二度とダンジョンの仕事は受けないことにしましょう。そうしましょう」
「待ってくれ。なにを証拠にキングだと……」
「ユーリイが彼奴きゃつを一刀両断したところで、有象無象が引いたからだな。そも、他の個体より二周りも体がでかい。ああ、ランス。そいつのツノはダンジョンに吸収される前に素材として採取しておいてくれ」
「えっ……? あ、うん」

 ダリウスの勢いに飲まれて、ランスは普通に道具を取り出し、いつものように素材回収の作業を始めた。
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