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第二部:ハリー

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 あの日、ハリーは主任室の扉を、ともすればつき破りかねない勢いで開けた。
 いつもなら、ノックをして返事を確認してから開けるのだが、そんな余裕は無かったから。

「アレックスが…、義兄が死んだって、本当なんですか?」
「マクミラン、もっとおとなしく扉を開閉しないと壊れるぞ。安普請なんだからな」

 ハリー達の直属の上役であるイーストン主任は、書類から顔を上げずに、静かに答えた。

「主任、アレックスは…」
「アレックス・グレイスである事に間違い無い。現場で私が確認した」
「なぜ、俺に…」
「お前に連絡すれば、奴の妹に筒抜けだろう。お前の奥方は、今が一番大事な時だ。不安や心配事は禁物なんだろう?」

 ようやく顔を上げた主任の顔は、吃驚するほど憔悴している。
 ハリーとアレックス同様、アレックスと主任はポリスアカデミーの先輩後輩にあたる。一番の親友であり、部下であったアレックスを無くした主任の悲しみは、ハリーですら計り知れなかった。

「…主任…」
「リサには、しばらく黙っていた方が良い。お前も当分は辛いだろうが、我慢するんだな」
「…はい」

 自分ばかりが焦って、軽率に主任に食って掛かった事を後悔し、ハリーは深く頭を垂れる。

「ハリー」
「はい?」
「グレイスの潜入していたアパートに行って何か残ってないか見てこい。奴の事だ、何も残ってはいないだろうがな」
「はいっ」

 踵をそろえて敬礼すると、ハリーは主任室を飛び出した。
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