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第二部:ハリー

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 辺りはすっかり暗くなり、道端の街灯に明かりが灯り始めた頃、ロイとハリーは港の倉庫街を歩いていた。

「こんな方に来て、ヨットにでも住んでるの?」
「俺はソニィ・クロケットじゃないよ。離婚もしてないし、子供は女の子だ」
「ムキになるね。可愛い奥さんなんだ」
「!! 何を突然…」

 既に新婚とは言えない程の年数を重ねてはいるが、いまだに冷やかされるとまごついてしまう。

「おや、赤くなったね。アハハハハ…」
「キミだって、結婚すればそうなるよ」
「で、どこでつかまえたの? その可愛い奥さん」
「リサは先輩の妹で…、ちょっと待て、こんなコト聞かれる筋合いはないゾ!」
「アハハ、良いじゃないか、別に。減るモンでもないだろう。人生の先輩として、教えて欲しいな」
「大人をからかうんじゃない。親の顔が見てみたいね」

 言葉の綾からつい言ってしまった台詞に、ハリーはハッとしてロイの顔を見た。

「悪いケド、生まれてこのかた、僕も見た事が無い」

 ロイはニッコリと笑って見せる。ゾっとするほど艶やかなそれは、皮肉というよりは憎悪に近い感情を持った笑いだった。

「ロイ…」
「やめよう、そんな話。時間の無駄だよ、そんな事を語り合うのはね」
「ゴメン、俺…」
「先に立ち入った事を訊いたのは僕だよ。まぁ、悪く思わないで」
「でも、ロイ…」
「シィ…、ちょっと黙って…」

 とつぜんロイは話を中断させ、じっと辺りを伺い始めた。

「…どうしたの…?」
「ヤバイッ、逃げろっ!」
「ロイッ! なにが…っ!」

 なにかを問う間も与えられず、ハリーは真っ黒な海に突き落とされた。
 驚きに戸惑う隙もなく、海水がハリーの身に襲いかかる。
 ハリーは、海面を求めてもがき苦しんだ。

「何するんだ!?」

 ようやく海面に浮かび上がり、咳き込みながらもハリーは苦情を述べた。しかしそこにはふざけた顔の少年の顔はなく、どこからともなく響く銃声から身を守るロイの姿があった。

「潜れっ! 泳いで逃げろ!」

 ハリーに振り向き、ロイが叫ぶ。

「ロイッ!?」

 再び聞こえた、銃声。
 次の瞬間ロイの体が不自然に弓なり、カクリと力の抜けた膝から崩れるように倒れる。傾いだ身体が、そのまま海面へと落ちた。

「ロイッ!!」

 闇の所為でまるでスミでも流したかのような海面に、大きな波紋が広がり、その中心にいくつかの泡とともにどす黒い何かか浮かび上がる。

「ロイッー!!」

 バラバラと聞こえてくる、足音。

「おいっ、殺ったか?」
「海だっ、撃てっ!」

 海面に浮かんだ自分めがけて黒い人影から発砲され、ハリーは無我夢中で海に潜った。
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