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第二部:ハリー

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 いくつかの書類を持って、ハリーが家にたどり着くと、我が家の前にはパトカーが止まり、小さな人垣が出来ていた。

「すいません、ちょっと通して…」

 ハリーは車を降りて、人垣をかき分ける。

「あっ、先輩」
「マクセル、どうしたんだ?」

 人垣の向こうには、ハリーの後輩のマクセル巡査が立っていた。

「銃声がしたって言う通報がありまして、自分とビクターが近くにいたんで回ってきたんですよ。そしたら先輩の家からあやしい人影が飛び出してきて…」
「それで、リサとリズは!?」
「無事でした。あっ先輩! あ~あ」

 マクセルの説明もそこそこに、ハリーは家の中に飛び込んだ。

「リサッ!」
「あなたっ」

 巡査に事情を話していたリサは、駆け込んできたハリーに思わず抱きついてしまう。

「リ、リサ…?」
「ごめんなさい。…私、恐くて…」
「あ、先輩。おかえりなさい。災難でしたね」

 リサに状況を尋ねていたビクター巡査は、リサの行動に戸惑うような表情を浮かべ、ハリーに声をかけた。

「それで、一体どうしたんだ?」
「奥さんのお話しからすると、ただの物取りだったみたいですね。奥さんが護身用の銃を持って、賊の侵入した部屋に入った途端に、賊は吃驚して一発発砲した後に逃げ出した…と、そうですよね? 奥さん」
「はい」

 確かめるように訊ねてきたビクターに向かって、リサは小さく頷いた。

「それで、犯人は?」
「俺達が到着した時、丁度裏手から怪しい人影が出てきたんで追っかけたんですケド。それがえらく身の軽い奴で、アッという間にまかれちまいましてね、見失っちまったんですよ」
「オマエとマクセルでか? それ、本当にただの物取りなのか?」

 ハリーの問いに、巡査は肩を竦めてみせる。

「でも、そうなんす」
「リサは、その犯人を見たの?」

 納得できかねる表情で、ハリーはリサに問いかけた。

「それが…」

 リサは、ハリーから目を逸らすよう顔を俯けてしまう。
 本来なら、あの少年の事をきちんと話さなければならないのだが…。
 リサは、少年の不可解な行動の意味を知りたかった。
 その為には、彼の事を警官に告げては不味いような気がして。
 自分が一番信頼している夫をも欺くのは、少しばかり良心の呵責を感じたけれど…。

「どうしたの?」
「暗くて、よく見えなかったのよ」

 結局リサは嘘をついてしまった。
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