イルン幻想譚

琉斗六

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ep.2:追われる少年

2:適材適所【1】

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 歩き出したところで、戦士フェディンが言った。

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はマハト。ローメン・ラットに憧れて、剣豪ダインスを目指している。今は修行中の剣客レイフだ」

 ローメン・ラットは、剣豪ダインスの祖と呼ばれる伝説の人物である。
 圧政で民衆を苦しめた王を討ち取った英雄と伝えられており、剣客レイフはラットが名乗った職と言われている。
 とはいえ、どちらも冒険者組合アドベンチャーギルドでは認定されていない、いわゆる "自称" の職だ。
 一般的に、戦士フェディンは粗暴な性質たちものが多いが、剣豪ダインス剣客レイフを名乗るものは、冒険者組合アドベンチャーギルドから追放されたゴロツキである可能性のほうが高い。
 だが先程のマハトの剣技けんぎやこの折り目正しい態度からすると、珍しく "真っ当な" 剣客レイフなのだろう。

「俺はクロス。魔導士セイドラー冒険者アドベンチャーで…」

 そう言ってしまってからクロスはハッとした。
 慌てて胸元に下げている身分証を、相手に見えるようにグッと差し出す。

「コ…コレ、魔導組合セイドラーズギルドの身分証!」

 この身分証を持っていない魔力持ちセイズは、魔導士セイドラーと認めてもらえず、モグリや野良を疑われて、場合によってはとんでもない目に遭わせられる可能性がある。
 魔導士セイドラー特有の、相手に言葉を挟ませない早口になりながら、クロスは喋り続けた。

「あ、あのあの、俺、護衛の仕事を済ませた帰りでねっ。それで、あのあの、ち、近道しようと思って森に入ったら、なんか道に迷っちゃってっ!」
「そうか、それは災難だったな」
「そ…その腕前なら、もう剣豪ダインスを名乗ってもおかしくなさそうだよね」

 とにかく相手を持ち上げて、この場をやり過ごそうと、クロスはやたらと相手を褒めそやした。

「いや、まだまだ修行中だ。ローメン・ラットは、中級幻獣族ファンタズマのクラーケンを一撃で倒したなんて話もあるからなぁ」
「中級なんて、手練れの魔導士セイドラーがいる冒険者アドベンチャーパーティーとか、50人規模の小隊とかが、よっぽどちゃんと下準備して、ようやく退けるのが関の山でしょ? 人間リオンが一人で立ち向かえるかなぁ?」
「伝説は…、まま誇張されている部分があるだろうから、どこまで本当かわからんが…。せめて下級の幻獣族ファンタズマを、一人で撃退出来るぐらいじゃなければ、剣豪ダインスを名乗るのはおこがましいと思ってるんだ」
「下級っつっても幻獣族ファンタズマなんて、魔障ガルドリングを防ぐ魔導士セイドラーがいなきゃ難しいんじゃない?」
「そうだな。だが高性能な魔道具ガルドラルを手に入れられれば、勝機もあるんじゃないか?」

 自分の目標やら、憧れに対する理想を語るマハトは、口調や態度に魔導士セイドラーに対する偏見は感じられず、クロスはホッと胸を撫でおろす。

「ところで、どんどん歩いてるけど、方向こっちであってるの?」
「ああ、俺は地図を持ってる。このもうちょっと先まで行けば街道に出るし、街道沿いに行けば、防護壁のある宿場町しゅくばまちがあるらしい」
「心強いな」
「クロスさんは冒険者アドベンチャーと言っていたが、魔導士セイドラー冒険者アドベンチャーをやっているのに、ソロなのか?」
「どうも、ヒト付き合いが苦手でね…」

 ハハハと笑って、クロスは言葉を濁した。
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