イルン幻想譚

琉斗六

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ep.2:追われる少年

5:神にも等しい種族【3】

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「先刻も言ったとおり、人間フォルクってぐらいに人間リオンは数で勝る種族だし、コミュニティを作って発展してる。ただ種族内でのいざこざも多いし、国家間の戦争やら、異種族への嫌悪やら、いろいろあって、他の種族は利用することはあっても、率先して関わり合いたいとは思ってない…みたいな感じなんだよね」
「それって、避けられてるって意味か?」
だれだって、モメゴトに巻き込まれたくはないし、わざわざ詰られたくもないでしょ?」

 マハトが微かに顔をしかめている。
 世界に覆すことが出来ないヒエラルキーが存在し、自分の所属はその三角形の底辺で、しかも他種族から避けられているなどといきなり言われて、良い気持ちはしないだろう。

「でもって、神耶族イルンはその真逆。ヒエラルキーのほぼ頂点に立つ、いわば絶対王者なんだよ。神耶族イルンは、能力値ステータスが高いだけじゃなくて、おとぎ話に語られるような不老不死を、他者に付与出来る特殊技能スキルを持っている…と言われていて…」
『おい、ヘタレ! 貴様なにを言っておるっ!』

 それまでクロスの説明をおとなしく聞いていたタクトが、そこで声を上げた。

「なにって、なにが?」
『なにがじゃとっ! 適当な発言で、このサウルスを惑わして、やはり貴様も禁忌に触れる、ペテン師どもの仲間であったかっ!』
「そうじゃなくて…」
『ええいっ! やはり人間フォルクなぞを信用したのが馬鹿であったわ!』
「だからっ! 神耶族イルン特殊技能スキルを肯定しちゃったら、アンタらの身がより危なくなるって、なんでワカンナイんだよっ!」
『高慢ちきでめちゃめちゃと、言っておったくせに』
「たとえ神耶族イルンが全部そういうヤツだったとしてもっ! アンタらが人間フォルクの私利私欲の犠牲になるのなんてっ! 俺はっ、絶対にっ、どうしてもっ、イヤなんだよっ!」
『莫迦者! 今はこのサウルスに "きちんと" 説明すべき場であろうが! 真実と虚実がないまぜになった伝承ではなく、現在起きている事実を有り体に伝えねば、サウルスが混乱するだけとなぜ解らぬ! 語ると決めたら、腹をくくれい!』

 タクトの厳しい口調に、クロスはなにかを言い返そうと口を開き、一瞬の間を置いて、肩の力が抜けたように消沈して、それからおもむろに顔を上げた。

「ごめん。そうだね。確かに今は、タクトの言ってる事の方が正しい…。あやふやな事ばっか言ってごめん。マハさんには、ちゃんと全部話すよ」

 そこで一度、クロスはため息と深呼吸が入り混じったような大きな息を吐いた。

「つまり、不老不死を付与出来る特殊技能スキルは、実際にある…と?」
「うん、そう。神耶族イルンと契約を交わすと、特殊技能スキルでその能力を分け与えて貰えるんだ」
「しかし神耶族イルンとは、人間リオンよりも遥かにチカラのある存在なのだろう? 契約なんて、単に人間リオンを隷属させるだけのものじゃないのか?」
『ふん。まさ人間フォルクの意見だの』

 マハトが抱いた感想を述べると、タクトが鼻で笑った。

『契約と言うのは、双方の同意があってこそ成り立つもの。そも、神耶族イルンが与える破格の恩恵を欲して、わざわざ我らを取り込みにきておるのは、そちらではないか。最も、中途半端な知識で神耶族イルンの子供を捕らえたとて、真のチカラは手に入れられぬがな』
「なぜだ」
神耶族イルン特殊技能スキルの殆どは、子供では使えぬからよ』
特殊技能スキルと言えば、生まれながらに持っているものだろう? 技術的には拙くとも、普通は子供でも使えるものでは?」
神耶族イルンに限ったことでなく、子供などというものは無法な振る舞いを思慮も浅いままにおこなうものであろうが。神耶族イルンの強大なチカラを、そんな無思慮に振るっては、他種族にどのような影響が及ぶかなど、計り知れん』
「そんなにか?」
「当然じゃ! 神のごとくとうたであろうが。相手の人品骨柄を見抜く経験も足りぬゆえ、ジェラートには人間フォルクと一切口を聞いてはならぬと言ったのじゃ。そんな無垢なるものが、狡猾な毒まんじゅうのようなものに洗脳されてしもうては、まさにそのまま隷属されてしまう』
「一部の封印された歴史書には、ヒトならざる者ヴァリアント…つまり神耶族イルンの能力を利用した独裁者によって、数世代に渡る悲惨な歴史が積み上がった…なんて記載もあるよ」

 クロスがタクトの言葉に、補足の説明をいれる。

「実際にあった、事件なのか?」
『ここでそれを詳しく語ったところで、埒もないであろ。だが神耶族イルンは個体数が極端に少ない種族ゆえ、横の繋がりも薄い。守護者ケルヴィンガーを失った子供が洗脳されたことに気付くのが、人間フォルクの言う "数世代" に及んだとして、不思議はないわな』

 マハトは、神耶族イルン人間リオンを隷属させることを嫌悪したのではなく、自我と知性のあるものの自由意志を奪われる行為そのものに嫌悪感をいだいていた。
 故に、この語られた内容に「これでは神耶族イルン人間リオンに対して良い感情を持っていないのは当然だ」と、タクトの態度の一部に納得したのだった。
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