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ep.2:追われる少年
16.喰らいつくす【1】
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干からびた植物とサンドウォームを乗り越えて、クロスは玄関ホールへ飛び込む。
廊下ではほとんど何も聞こえなかったのに、ホールの中は目の前がチカチカするほど、色とりどりのオーラを放つ陣が飛び交っていた。
「なんだこれ…?!」
「ビンちゃん! もっと援護増やして!」
「ルミー! そっちに行くよ!」
空中に撒き散らかされている陣は、ルミギリスの仕業のようだ。
アシスタントに回っているカービンは、時々爆風に蹌踉めきながらも、次々に種子をばら撒いていて、室内はうねうねと動き回る蔦だらけだった。
だが、サンドウォームが倒れ、アンリーはこちら側でクロスと対峙していたのに、一体なにと戦っているのか…?
「ルミー、これってホントにセオロなのっ?」
種子をばら撒きながら、半べそをかいてカービンが叫んだ。
「いやだなカービン。僕はずっと一緒に修行をしていた、セオロだろ」
声のほうに振り返ると、確かにそこにはセオロが立っていた。
だがカービンが言った通り、クロスも見知っていたセオロとは明らかに様子が違う。
ルミギリスは、並以上と見なされている魔導士だ。
セオロがルミギリスと真っ向勝負となったら、よほど綿密な作戦でも無い限り、互角に戦えるはずが無い。
そのセオロが、絶妙なコンビネーションで繰り出される、ルミギリスとカービンからの攻撃を、いともたやすくあしらっている。
ありえない光景だった。
「おや、クロスさん。どこへ行ったかと思ってたら、随分と良い物を持ってきたじゃないですか。せっかくだから、それは僕がもらっておきましょう」
「キミ、アンリーのコトを友人として止めに来たって、言ったよね? それに、神耶族を扱いきれる自信も無いって」
「確かに、僕はそう言っていたし、僕には神耶族を扱えるだけの実力もありません。僕には…ね」
ニイッと笑ったセオロの顔が、その瞬間クロスには口が耳まで裂けて見えた。
「な…んだ…?」
なにかが揺らめき立って、セオロの姿がどんどん見えなくなる。
「セオロ!」
豹変する友人に驚いているアンリーが、クロスの火炎に焼かれた髪と顔のことも忘れたように立ち尽くしている。
「おや、アンリーか。悪いが私は、あんたの誘いなんかお断りだね。世界を回すどころか、あんたは何も解っちゃいない。封印しても厄介な大人の神耶族なんて、実験材料にも使えやしないよ」
広い部屋の対角線上にいるのに、セオロの伸ばした右腕は、クロスの抱えているジェラートに向かってどんどんと伸びてくる。
「うわっ!」
咄嗟にクロスが飛び退いたことで、かろうじてセオロの腕を避けた。
その間に、ルミギリスが割り込んでくる。
「その神耶族はボクのだぞーっ!」
「本当に鬱陶しい小娘だね! オマエもそろそろ消え時だよおぉオオオッ!」
口調が別人のようになり、怒鳴りつけてきたセオロはその言葉の途中から、声までが獣の咆哮に変わる。
セオロの姿は、ドラゴンへと変貌した。
大きさは三メートル程度で、ドラゴンとしてはかなり小型であったが、いやに頭が大きくて、それがワニのように大きく裂けた口をグワリと開く。
「きゃーっ!」
「ルミー、危ない!」
ルミギリスを庇ったカービンが、ドラゴンの口の中へと消えた。
「きゃーっ! ビンちゃーん!」
「喰った…」
「セオロ! おまえ、それはなんだ……っ?!」
驚愕に震えながら、アンリーは独り言のような疑問を口にする。
悠然と室内を見回しているドラゴンの身体が、クロスの目の前で一段と大きく膨らんだ。
廊下ではほとんど何も聞こえなかったのに、ホールの中は目の前がチカチカするほど、色とりどりのオーラを放つ陣が飛び交っていた。
「なんだこれ…?!」
「ビンちゃん! もっと援護増やして!」
「ルミー! そっちに行くよ!」
空中に撒き散らかされている陣は、ルミギリスの仕業のようだ。
アシスタントに回っているカービンは、時々爆風に蹌踉めきながらも、次々に種子をばら撒いていて、室内はうねうねと動き回る蔦だらけだった。
だが、サンドウォームが倒れ、アンリーはこちら側でクロスと対峙していたのに、一体なにと戦っているのか…?
「ルミー、これってホントにセオロなのっ?」
種子をばら撒きながら、半べそをかいてカービンが叫んだ。
「いやだなカービン。僕はずっと一緒に修行をしていた、セオロだろ」
声のほうに振り返ると、確かにそこにはセオロが立っていた。
だがカービンが言った通り、クロスも見知っていたセオロとは明らかに様子が違う。
ルミギリスは、並以上と見なされている魔導士だ。
セオロがルミギリスと真っ向勝負となったら、よほど綿密な作戦でも無い限り、互角に戦えるはずが無い。
そのセオロが、絶妙なコンビネーションで繰り出される、ルミギリスとカービンからの攻撃を、いともたやすくあしらっている。
ありえない光景だった。
「おや、クロスさん。どこへ行ったかと思ってたら、随分と良い物を持ってきたじゃないですか。せっかくだから、それは僕がもらっておきましょう」
「キミ、アンリーのコトを友人として止めに来たって、言ったよね? それに、神耶族を扱いきれる自信も無いって」
「確かに、僕はそう言っていたし、僕には神耶族を扱えるだけの実力もありません。僕には…ね」
ニイッと笑ったセオロの顔が、その瞬間クロスには口が耳まで裂けて見えた。
「な…んだ…?」
なにかが揺らめき立って、セオロの姿がどんどん見えなくなる。
「セオロ!」
豹変する友人に驚いているアンリーが、クロスの火炎に焼かれた髪と顔のことも忘れたように立ち尽くしている。
「おや、アンリーか。悪いが私は、あんたの誘いなんかお断りだね。世界を回すどころか、あんたは何も解っちゃいない。封印しても厄介な大人の神耶族なんて、実験材料にも使えやしないよ」
広い部屋の対角線上にいるのに、セオロの伸ばした右腕は、クロスの抱えているジェラートに向かってどんどんと伸びてくる。
「うわっ!」
咄嗟にクロスが飛び退いたことで、かろうじてセオロの腕を避けた。
その間に、ルミギリスが割り込んでくる。
「その神耶族はボクのだぞーっ!」
「本当に鬱陶しい小娘だね! オマエもそろそろ消え時だよおぉオオオッ!」
口調が別人のようになり、怒鳴りつけてきたセオロはその言葉の途中から、声までが獣の咆哮に変わる。
セオロの姿は、ドラゴンへと変貌した。
大きさは三メートル程度で、ドラゴンとしてはかなり小型であったが、いやに頭が大きくて、それがワニのように大きく裂けた口をグワリと開く。
「きゃーっ!」
「ルミー、危ない!」
ルミギリスを庇ったカービンが、ドラゴンの口の中へと消えた。
「きゃーっ! ビンちゃーん!」
「喰った…」
「セオロ! おまえ、それはなんだ……っ?!」
驚愕に震えながら、アンリーは独り言のような疑問を口にする。
悠然と室内を見回しているドラゴンの身体が、クロスの目の前で一段と大きく膨らんだ。
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