イルン幻想譚

琉斗六

文字の大きさ
66 / 122
ep.2:追われる少年

16.喰らいつくす【1】

しおりを挟む
 干からびた植物とサンドウォームを乗り越えて、クロスは玄関ホールへ飛び込む。
 廊下ではほとんど何も聞こえなかったのに、ホールの中は目の前がチカチカするほど、色とりどりのオーラを放つサークルが飛び交っていた。

「なんだこれ…?!」
「ビンちゃん! もっと援護増やして!」
「ルミー! そっちに行くよ!」

 空中に撒き散らかされているサークルは、ルミギリスの仕業のようだ。
 アシスタントに回っているカービンは、時々爆風に蹌踉めきながらも、次々に種子をばら撒いていて、室内はうねうねと動き回る蔦だらけだった。
 だが、サンドウォームが倒れ、アンリーはこちら側でクロスと対峙していたのに、一体なにと戦っているのか…?

「ルミー、これってホントにセオロなのっ?」

 種子をばら撒きながら、半べそをかいてカービンが叫んだ。

「いやだなカービン。僕はずっと一緒に修行をしていた、セオロだろ」

 声のほうに振り返ると、確かにそこにはセオロが立っていた。
 だがカービンが言った通り、クロスも見知っていたセオロとは明らかに様子が違う。
 ルミギリスは、並以上と見なされている魔導士セイドラーだ。
 セオロがルミギリスと真っ向勝負となったら、よほど綿密な作戦でも無い限り、互角に戦えるはずが無い。
 そのセオロが、絶妙なコンビネーションで繰り出される、ルミギリスとカービンからの攻撃を、いともたやすくあしらっている。
 ありえない光景だった。

「おや、クロスさん。どこへったかと思ってたら、随分と良い物を持ってきたじゃないですか。せっかくだから、それは僕がもらっておきましょう」
「キミ、アンリーのコトを友人としてめに来たって、言ったよね? それに、神耶族イルンを扱いきれる自信も無いって」
「確かに、僕はそう言っていたし、僕には神耶族イルンを扱えるだけの実力もありません。僕には…ね」

 ニイッと笑ったセオロの顔が、その瞬間クロスには口が耳まで裂けて見えた。

「な…んだ…?」

 なにかが揺らめき立って、セオロの姿がどんどん見えなくなる。

「セオロ!」

 豹変する友人に驚いているアンリーが、クロスの火炎ファイアに焼かれた髪と顔のことも忘れたように立ち尽くしている。

「おや、アンリーか。悪いが私は、あんたの誘いなんかお断りだね。世界を回すどころか、あんたは何も解っちゃいない。封印しても厄介な大人の神耶族イルンなんて、実験材料にも使えやしないよ」

 広い部屋の対角線上にいるのに、セオロの伸ばした右腕は、クロスの抱えているジェラートに向かってどんどんと伸びてくる。

「うわっ!」

 咄嗟にクロスが飛び退いたことで、かろうじてセオロの腕を避けた。
 その間に、ルミギリスが割り込んでくる。

「その神耶族イルンはボクのだぞーっ!」
「本当に鬱陶しい小娘だね! オマエもそろそろ消え時だよおぉオオオッ!」

 口調が別人のようになり、怒鳴りつけてきたセオロはその言葉の途中から、声までが獣の咆哮に変わる。
 セオロの姿は、ドラゴンへと変貌した。
 大きさは三メートル程度で、ドラゴンとしてはかなり小型であったが、いやに頭が大きくて、それがワニのように大きく裂けた口をグワリと開く。

「きゃーっ!」
「ルミー、危ない!」

 ルミギリスを庇ったカービンが、ドラゴンの口の中へと消えた。

「きゃーっ! ビンちゃーん!」
「喰った…」
「セオロ! おまえ、それはなんだ……っ?!」

 驚愕に震えながら、アンリーは独り言のような疑問を口にする。
 悠然と室内を見回しているドラゴンの身体が、クロスの目の前で一段と大きく膨らんだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...