イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

1.付き纏う者【2】

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 ジェラートの事件に関して言えば、マハトは巻き込まれたとは思っていない。
 事情を聞いた上で、むしろ積極的に関わった。
 純粋にマハトの正義感をくすぐったのも事実だが、特殊な戦闘を経験できそうだという期待があったからだ。

 マハトは剣豪ダインスを目指す剣客レイフである。
 目指したところで、必ずしも剣豪ダインスに成れるわけではないが、彼の剣技は既にその域に到達していると評される時もある。
 だがマハトの目指す剣豪ダインスは、祖と呼ばれるローメン・ラットのように、中級の幻獣族ファンタズマを単独で討伐出来るほどのものだ。
 そのいただきに到達するためには、何を置いても経験を積まねばならないと考えていた。
 人間リオンよりも高位の存在が実在していることには驚いたが、彼らに助力することで、大きな経験を積めると思った。
 故にマハトは、神耶族イルンの能力に、全くなんの興味も湧かなかった。

 クロス曰く、神耶族イルン人間リオンを自分たちと同じ高位の存在へと変える能力を備えていて、その言葉通りにクロスはジェラートの契金翼エヴンハールと成って、神耶族イルン以上の魔力ガルドルを持った。
 だがマハトは、己の努力によって剣豪ダインスへと至ることには興味があるが、だれかのチカラでそのいただきに押し上げられることは望まない。
 それ故に、タクトから「契金翼エヴンハールに迎えたい」と申し出られたことは、マハトにとってありがた迷惑以外のなにものでもなかった。

神耶族イルンは個人主義を重んじておる。故に里村コミュニティなぞは作らず、同族と群がることはせぬ。契金翼エヴンハールともにして、あとはにぎやかし・・・・・契銀翼アーニル小微羽スキルニルを連れるのがせいぜいじゃ」

 と、タクトは言う。
 ならばなぜ、同族であるジェラートと二人連れだったのか? と問うと。

「それはジェラートが子供ゆえ…じゃな。個人主義と言うても、右も左も分からぬ幼子を放り出すようなマネはせぬ。そも、おまえも知っておろう? 神耶族イルンの子供は欲深い人間フォルクの格好の獲物となり得る。よって儂らは、守護者ケルヴィンガーに子育てを任せるのじゃ。こたびはちょうど、儂に守護者ケルヴィンガーの白羽の矢が立ったまでのこと。それも彼奴あやつが成人したことで、終わったというわけじゃな」

 と、返された。

「ほうほう、居酒屋だけあって酒の種類は豊富じゃな。うむうむハウスワインもあるではないか。となると、オススメ料理はワインに合わせてあるんじゃろうな」

 冒険者アドベンチャーのような荒くれものも立ち寄るであろう安宿の、その併設となっている酒場であるが。
 街道筋にあるためか、初見の客のためにお体裁・・・のメニューが備え付けられていた。
 タクトはそれを隅々まで眺め回してから、カウンターの向こうにいる給仕を呼びつけ、あれこれと注文をしている。

 どんなにマハトが「神耶族イルンにはなんの興味も無いし、契金翼エヴンハールになどなりたくない。そんな申し出は迷惑だ」と断っても、ストーカーの如く、タクトはずっと付いてくる。
 この数日は、タクトが同じ誘い文句を口にし、それをマハトが断り、街道や町中まちなかでタクトを撒き、逃げた先に再びタクトが現れる…ということを、ずっと繰り返していた。
 流石にパターン化しすぎた状況にうんざりしたマハトは、一計を案じた。
 昨晩、宿でタクトが完全に寝入ったのを見計らってから部屋を抜け出し、街道を使わずに山野を歩き詰めた。
 夜間の、しかも街道から外れた山野など、人間リオンの常識から考えれば命知らずな行動ではあるが、今のマハトには背に腹は代えられなかったのだ。
 そうして、タクトのことを完全に振り切った…と思っていたのだが。
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