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ep.3:迷惑な同行者
5.貪欲【4】
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「おい、マハト」
「なんだ?」
「貴様、太腿の筋肉もなかなか立派ではないか。腰から尻と、尻から腿。全ての稜線が、実にけしからんな」
タクトはニヤニヤ笑っている。
これは褒められているのでもなければ、マトモな話でもなく、ただからかわれているようだ。
マハトが黙っていると、タクトは更に無遠慮に、ジロジロとマハトを眺め回してくる。
「貴様、随分と体毛が薄いな。そういえば、おまえが髭の手入れをしているのを、見た覚えが無い。脛毛も無いようだし、胯間はどうなっておるのだ?」
「そんなことを聞くな!」
「何をそんなに、恥ずかしがっておるのだ? おまえは儂の契金翼と成るのだから、なんでも気軽に語り合おうではないか。もちろん、儂の体が見たいというなら、ご披露するのはやぶさかではないぞ」
「見せるのも、見せられるのも、興味ない!」
修道院育ちのマハトは、欲を罪として日々を祈りに捧げている大人に囲まれていたので、俗世間の軽妙な冗談や軽口のような会話が苦手だった。
だが、叫ぶようにして咄嗟に返した己の態度が、たちの悪い酔っぱらいに絡まれている、酒場の女給のようだとも思い、更に恥ずかしい気分になる。
どうにもいたたまれなくなり、まだ湿り気が残っている衣服を慌てて身につけた。
「なんだ、額縁ショーは終了か?」
こいつ、やっぱりまだ意味不明な不機嫌を続けていて、嫌がらせをしてきているような気がする。
「おい、マハト」
どうしたものかと返しに困っていたら、タクトが再び声を掛けてきた。
「なんだ?」
「なんぞ食べる物を持っておらんか?」
「おまえ、腹なぞ減らんと言っていたじゃないか」
「必要が無いとは言うたが、減らぬとは言っておらん。なにかないか?」
「ショートブレッドと水ならあるが…」
「修道僧の晩餐かっ! もっとガッツリとした、肉を所望する!」
また謎の癇癪かとうんざりするよりも、むしろタクトの顔が変にギラギラ…というか、飢えた獣のような印象を受け、このまま一緒の小屋に居たら手足に噛みつかれそうな危機感を感じた。
さすがにマハトを本当に食べることはないだろう。
だが相手は人間ではない種族だ。
"もしものもしも" という可能性が頭をよぎり、マハトはほとんど逃げるように小屋の外へ飛び出した。
辺りはすっかり暗くなっており、小屋から少し離れただけで周囲になにかの気配を感じた。
どうやら、警告にあった妖魔らしい。
強靭な脚力で飛びかかってきたそれを、マハトは一刀のもとに切った。
うさぎが魔障したのかと思ったが、それにしては尻尾が長い。
だからと言って、その長い尻尾が毛皮に覆われている様子から、ネズミでもないらしい。
マハトはそれを持って、水のせせらぎが聞こえる方へ向かい、水辺で血抜きをして、肉を捌いた。
しかし群れで行動はしていないが、数はいるらしく、作業中に背後から、さらに二匹の妖魔に襲われた。
その時点でようやく、マハトは自分が、月も出ていないのに夜目が効いていることに気付く。
「便利だが、微妙な気分になるな…」
自身の修行で身につけたわけではない能力に戸惑いはあるが、ついてしまったものをないことには出来ない。
マハトは手早く妖魔を解体し、柔らかそうな赤身部分を切り出すと大きめの葉にくるんだ。
うさぎかネズミかわからない、こんな妖魔は見た事がないし、当然食べたこともない。
だが、小屋で待ってるタクトのあの顔を思い出したら、なんでもいいから肉類を持ち帰らなければ自分が食べられそうだ。
思い出すと身震いしそうだが、とりあえずこうして肉が手に入ったのだからと心を落ち着けて、マハトは小屋に戻った。
肉を適当な大きさに切って、枝に刺し塩を振る。
それを焚き火にかざして、炙り焼きにした。
火が通ったところで差し出したら、タクトは引ったくるようにして食べ始める。
形のいい薄紅色の唇の周囲を油脂まみれにしながら、あんまりガツガツ食べているので、マハトはつい、聞いてしまった。
「…それ、美味いのか?」
「うるさい」
「獲ってきたのは、俺だぞ? 味のコメントぐらい聞いても問題ないだろう?」
タクトはマハトの水筒から水をガブガブ飲んでから、ギッと睨みつけつつ、グイと口元を拭った。
「気になるならば、貴様も食え!」
びっくりして戸惑っているマハトに向かって、タクトは自分が食べかけていた串の先端の肉を引き抜くと、突き出してくる。
「食え!」
あまりの剣幕に、考える前に受け取って、口に入れていた。
「…脂のわりに、あっさりしてるな。味は淡白だが、クセがなくて食べやすいとも言える。焦げ目も香ばしくて、なかなか美味いな」
それまでは食べることに専念していたタクトが、食べるのをやめて顔を上げ、マハトの目を真っ直ぐに見てニヤッと笑った。
「お見事、食い意地サウルス」
そしてマハトが何かを言う前に、また肉に噛みつくほうに戻ってしまった。
「なんだ?」
「貴様、太腿の筋肉もなかなか立派ではないか。腰から尻と、尻から腿。全ての稜線が、実にけしからんな」
タクトはニヤニヤ笑っている。
これは褒められているのでもなければ、マトモな話でもなく、ただからかわれているようだ。
マハトが黙っていると、タクトは更に無遠慮に、ジロジロとマハトを眺め回してくる。
「貴様、随分と体毛が薄いな。そういえば、おまえが髭の手入れをしているのを、見た覚えが無い。脛毛も無いようだし、胯間はどうなっておるのだ?」
「そんなことを聞くな!」
「何をそんなに、恥ずかしがっておるのだ? おまえは儂の契金翼と成るのだから、なんでも気軽に語り合おうではないか。もちろん、儂の体が見たいというなら、ご披露するのはやぶさかではないぞ」
「見せるのも、見せられるのも、興味ない!」
修道院育ちのマハトは、欲を罪として日々を祈りに捧げている大人に囲まれていたので、俗世間の軽妙な冗談や軽口のような会話が苦手だった。
だが、叫ぶようにして咄嗟に返した己の態度が、たちの悪い酔っぱらいに絡まれている、酒場の女給のようだとも思い、更に恥ずかしい気分になる。
どうにもいたたまれなくなり、まだ湿り気が残っている衣服を慌てて身につけた。
「なんだ、額縁ショーは終了か?」
こいつ、やっぱりまだ意味不明な不機嫌を続けていて、嫌がらせをしてきているような気がする。
「おい、マハト」
どうしたものかと返しに困っていたら、タクトが再び声を掛けてきた。
「なんだ?」
「なんぞ食べる物を持っておらんか?」
「おまえ、腹なぞ減らんと言っていたじゃないか」
「必要が無いとは言うたが、減らぬとは言っておらん。なにかないか?」
「ショートブレッドと水ならあるが…」
「修道僧の晩餐かっ! もっとガッツリとした、肉を所望する!」
また謎の癇癪かとうんざりするよりも、むしろタクトの顔が変にギラギラ…というか、飢えた獣のような印象を受け、このまま一緒の小屋に居たら手足に噛みつかれそうな危機感を感じた。
さすがにマハトを本当に食べることはないだろう。
だが相手は人間ではない種族だ。
"もしものもしも" という可能性が頭をよぎり、マハトはほとんど逃げるように小屋の外へ飛び出した。
辺りはすっかり暗くなっており、小屋から少し離れただけで周囲になにかの気配を感じた。
どうやら、警告にあった妖魔らしい。
強靭な脚力で飛びかかってきたそれを、マハトは一刀のもとに切った。
うさぎが魔障したのかと思ったが、それにしては尻尾が長い。
だからと言って、その長い尻尾が毛皮に覆われている様子から、ネズミでもないらしい。
マハトはそれを持って、水のせせらぎが聞こえる方へ向かい、水辺で血抜きをして、肉を捌いた。
しかし群れで行動はしていないが、数はいるらしく、作業中に背後から、さらに二匹の妖魔に襲われた。
その時点でようやく、マハトは自分が、月も出ていないのに夜目が効いていることに気付く。
「便利だが、微妙な気分になるな…」
自身の修行で身につけたわけではない能力に戸惑いはあるが、ついてしまったものをないことには出来ない。
マハトは手早く妖魔を解体し、柔らかそうな赤身部分を切り出すと大きめの葉にくるんだ。
うさぎかネズミかわからない、こんな妖魔は見た事がないし、当然食べたこともない。
だが、小屋で待ってるタクトのあの顔を思い出したら、なんでもいいから肉類を持ち帰らなければ自分が食べられそうだ。
思い出すと身震いしそうだが、とりあえずこうして肉が手に入ったのだからと心を落ち着けて、マハトは小屋に戻った。
肉を適当な大きさに切って、枝に刺し塩を振る。
それを焚き火にかざして、炙り焼きにした。
火が通ったところで差し出したら、タクトは引ったくるようにして食べ始める。
形のいい薄紅色の唇の周囲を油脂まみれにしながら、あんまりガツガツ食べているので、マハトはつい、聞いてしまった。
「…それ、美味いのか?」
「うるさい」
「獲ってきたのは、俺だぞ? 味のコメントぐらい聞いても問題ないだろう?」
タクトはマハトの水筒から水をガブガブ飲んでから、ギッと睨みつけつつ、グイと口元を拭った。
「気になるならば、貴様も食え!」
びっくりして戸惑っているマハトに向かって、タクトは自分が食べかけていた串の先端の肉を引き抜くと、突き出してくる。
「食え!」
あまりの剣幕に、考える前に受け取って、口に入れていた。
「…脂のわりに、あっさりしてるな。味は淡白だが、クセがなくて食べやすいとも言える。焦げ目も香ばしくて、なかなか美味いな」
それまでは食べることに専念していたタクトが、食べるのをやめて顔を上げ、マハトの目を真っ直ぐに見てニヤッと笑った。
「お見事、食い意地サウルス」
そしてマハトが何かを言う前に、また肉に噛みつくほうに戻ってしまった。
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