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第13話
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人の動く気配で、覚醒する。
どうやら、彼の寝顔を眺めていたつもりで、眠ってしまっていたらしい。
俺にとっては意味のない眠りだが、習慣というもののチカラも莫迦にはできないものだ。
カーテンの隙間から射し込む明かりの明度から、どうやら夕方らしいと察しを付けた。
隣りに目をやると、落ち着きなく辺りを見回している彼は、ひどく混乱しているようだった。
瞳の色も精神状態も、以前の状態に戻っているらしい。
自分の置かれている状況が飲み込めず、目覚めたものの、どうしていいか分からないって感じだった。
俺は身体を起こすと、黙って彼を抱き寄せた。
「レ、レン!? あ、の。…俺、一体…」
風呂から出た後の俺達は、素っ裸のままだ。
それが余計に、彼を混乱させているのだろう。
目が覚めたら、見た事も無いベッドの上で一糸纏わぬ同性と二人きり、なんて。
驚くなって方が、無理だろうな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…、確か昨日は会社の忘年会で、シラトリ君にかなり強引に二次会に連れて行かれて…」
へえ、シラトリ氏と二次会に行った事は覚えているのか。
「…俺、酔っぱらって動けなくなって…。そしたらシラトリ君が、自分の家に来いって言ってくれたんだよな…」
なんだ、結構覚えているんじゃないか。
それで、それから?
「…介抱してくれてたシラトリ君が、急に俺にのしかかってきて…、俺、すごく驚いて…、逃げようと…したんだよ…」
そこまで言って、彼は急に顔を上げて俺に振り返った。
「…あれ、夢だったのか! 俺、なんだか訳が判ンなくなって、急にシラトリ君の首に噛みつきたくなったんだ! シラトリ君はスゲェ悲鳴を上げて、すごくいっぱい血が…出て…」
どうやら彼には自分が変貌した後の記憶も残っているらしい。
しかしそれを完全に把握しているのかという、そうでもないんだろう。
まるで夢の中の出来事のように、鮮明なのに曖昧で。
感覚も感触も残っているけど、はっきり思い出せない。
そんな感じ。
「俺、どうしてココにいるんだ? どうしてこんな格好してんだ? どうしてレンも裸なんだよ?」
なんだ。
そこまで覚えてるクセに、昨夜のアレは忘れちゃったのかい?
もしかしてそんなオチがつくんじゃないかと予想してはいたが、あまりにつれない彼の様子には、やっぱり酷く不満を覚えた。
昨日の晩はあんなに可愛い顔で俺を誘惑して、俺を欲しがって涙まで見せてくれたのに。
「何を、莫迦なっ!」
昨夜の情事を説明してやった途端に、彼は顔を真っ赤にしてその場から逃げようとした。
でも俺はそれを許してやらずに彼を捕まえて、昨夜と同じように彼に手を伸ばしてやんわりと愛撫してやる。
「レンッ、よせっ!」
それはもう、殆ど悲鳴に近い声だったけど。
でも俺は、その行為を止めなかった。
「あっ、…い…やだっ…」
身体を捩り、俺の手と快感から逃れようと必死になる彼。
俺が本気になれば、彼を押さえ込むのなんて大して苦じゃないんだけどね。
俺の手に翻弄されて、彼の身体は彼の意志に反して感じ始めてる。
羞恥と快楽。
屈辱と快感。
全く逆なのに、どちらも不思議なほど身体を煽るその感情。
頬を染めて、目を閉じて。
震えている事も、感じている事も、俺にひた隠そうと必死になっている。
解ってないなぁ。
その表情が、どのくらい俺を煽るのかってコトが。
そんな顔されたら、このままフルコースで欲しくなってしまうよ?
「あっ!」
俺の腕の中で、白い肢体が魚みたいに跳ねた。
ベッドの上にクッタリと横たわり、荒く息をついている。
なんて、可愛らしくて愛しいんだろう。
腕の中にいるのを、疑いたくなる。
本当は、夢なんじゃないかってね。
彼の閉じている目元にキスをして、それからシーツでその身体を包み込んだ。
そして、さっさと服を着込むと窓を開ける。
説明なんかするより、きっとその場所に行った方が思い出せるだろうって思ったからだ。
でも、窓の外を見てちょっと驚いてしまった。
一面の、銀世界。
昨夜の雨は、そのまま冷え込んだ気温で雪に変わってしまったらしい。
空からは、まだまだ足りないといわんばかりに、雪がばんばん降ってくる。
こんな中を連れ出すのはちょっと不味いかと思ったものの、こんな天気なら空を見上げる人間もいないだろうとも思ったから。
俺はまだ少しぼんやりしている彼を抱えて、またしても屋根伝いにシラトリ氏のマンションに向かった。
どうやら、彼の寝顔を眺めていたつもりで、眠ってしまっていたらしい。
俺にとっては意味のない眠りだが、習慣というもののチカラも莫迦にはできないものだ。
カーテンの隙間から射し込む明かりの明度から、どうやら夕方らしいと察しを付けた。
隣りに目をやると、落ち着きなく辺りを見回している彼は、ひどく混乱しているようだった。
瞳の色も精神状態も、以前の状態に戻っているらしい。
自分の置かれている状況が飲み込めず、目覚めたものの、どうしていいか分からないって感じだった。
俺は身体を起こすと、黙って彼を抱き寄せた。
「レ、レン!? あ、の。…俺、一体…」
風呂から出た後の俺達は、素っ裸のままだ。
それが余計に、彼を混乱させているのだろう。
目が覚めたら、見た事も無いベッドの上で一糸纏わぬ同性と二人きり、なんて。
驚くなって方が、無理だろうな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…、確か昨日は会社の忘年会で、シラトリ君にかなり強引に二次会に連れて行かれて…」
へえ、シラトリ氏と二次会に行った事は覚えているのか。
「…俺、酔っぱらって動けなくなって…。そしたらシラトリ君が、自分の家に来いって言ってくれたんだよな…」
なんだ、結構覚えているんじゃないか。
それで、それから?
「…介抱してくれてたシラトリ君が、急に俺にのしかかってきて…、俺、すごく驚いて…、逃げようと…したんだよ…」
そこまで言って、彼は急に顔を上げて俺に振り返った。
「…あれ、夢だったのか! 俺、なんだか訳が判ンなくなって、急にシラトリ君の首に噛みつきたくなったんだ! シラトリ君はスゲェ悲鳴を上げて、すごくいっぱい血が…出て…」
どうやら彼には自分が変貌した後の記憶も残っているらしい。
しかしそれを完全に把握しているのかという、そうでもないんだろう。
まるで夢の中の出来事のように、鮮明なのに曖昧で。
感覚も感触も残っているけど、はっきり思い出せない。
そんな感じ。
「俺、どうしてココにいるんだ? どうしてこんな格好してんだ? どうしてレンも裸なんだよ?」
なんだ。
そこまで覚えてるクセに、昨夜のアレは忘れちゃったのかい?
もしかしてそんなオチがつくんじゃないかと予想してはいたが、あまりにつれない彼の様子には、やっぱり酷く不満を覚えた。
昨日の晩はあんなに可愛い顔で俺を誘惑して、俺を欲しがって涙まで見せてくれたのに。
「何を、莫迦なっ!」
昨夜の情事を説明してやった途端に、彼は顔を真っ赤にしてその場から逃げようとした。
でも俺はそれを許してやらずに彼を捕まえて、昨夜と同じように彼に手を伸ばしてやんわりと愛撫してやる。
「レンッ、よせっ!」
それはもう、殆ど悲鳴に近い声だったけど。
でも俺は、その行為を止めなかった。
「あっ、…い…やだっ…」
身体を捩り、俺の手と快感から逃れようと必死になる彼。
俺が本気になれば、彼を押さえ込むのなんて大して苦じゃないんだけどね。
俺の手に翻弄されて、彼の身体は彼の意志に反して感じ始めてる。
羞恥と快楽。
屈辱と快感。
全く逆なのに、どちらも不思議なほど身体を煽るその感情。
頬を染めて、目を閉じて。
震えている事も、感じている事も、俺にひた隠そうと必死になっている。
解ってないなぁ。
その表情が、どのくらい俺を煽るのかってコトが。
そんな顔されたら、このままフルコースで欲しくなってしまうよ?
「あっ!」
俺の腕の中で、白い肢体が魚みたいに跳ねた。
ベッドの上にクッタリと横たわり、荒く息をついている。
なんて、可愛らしくて愛しいんだろう。
腕の中にいるのを、疑いたくなる。
本当は、夢なんじゃないかってね。
彼の閉じている目元にキスをして、それからシーツでその身体を包み込んだ。
そして、さっさと服を着込むと窓を開ける。
説明なんかするより、きっとその場所に行った方が思い出せるだろうって思ったからだ。
でも、窓の外を見てちょっと驚いてしまった。
一面の、銀世界。
昨夜の雨は、そのまま冷え込んだ気温で雪に変わってしまったらしい。
空からは、まだまだ足りないといわんばかりに、雪がばんばん降ってくる。
こんな中を連れ出すのはちょっと不味いかと思ったものの、こんな天気なら空を見上げる人間もいないだろうとも思ったから。
俺はまだ少しぼんやりしている彼を抱えて、またしても屋根伝いにシラトリ氏のマンションに向かった。
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