My Sweet Teddy bear

琉斗六

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 レンが車を止めたのは、ハルカのマンションの前だった。
 俺は、リビングでぼんやり座ってる。
 あまりにも大きく感情を起伏させたものだから、なんだか気が抜けてなにもする気が起きなかったから。
 戻った時、当然の事ながら室内は真っ暗だったし、静まり返っていた。
 そして今、室内にはレンも居ない。
 ココに着いてスグに、レンの携帯にメールが入った。
 それを見た途端に、なにやら慌ただしく出ていったのだ。
 でも、メールは口実かもしれない。
 ショーゴが言うように、俺はとても人迷惑な存在でしかない。
 本当言うと、解っているんだ。
 俺は、ひどいマザコンで。
 子供の頃に失った温もりを求めて、あの頃からちっとも育っていないって事も。
 誰かに抱きしめられて、優しくされるのが『好き』なんじゃなくて、『そうされていないとダメ』なんだ。
 でも、それは他人に求められるようなものでもないって事も、解っているから。
 今夜の事を、レンに謝った方が良いのかもしれない。
 でも、なんの為に?
 だって、俺はちっとも可愛くなんかない。
 レンもハルカも、俺の事を『可愛い』と言って優しくしてくれたけれど、俺はちっとも可愛くなんかない。
 ただ甘えているだけの、他人に迷惑を振りまいている嫌なヤツなんだ。
 今までは、俺の中で欺瞞してレンやハルカに寄り掛かっていたけれど。
 感情も含めて何もかもブチ撒けてしまった今夜、俺にはもう俺自身にさえ欺瞞できないくらいの醜態を晒してしまった。
 今更それを謝罪して、俺は一体どうしたいんだ?
 それでもまだ、甘えさせてくれと縋り付くつもりなんだろうか。
 莫迦か、俺は?
 誰も居ない部屋。
 俺は身体を丸めて、ソファの隅に蹲った。

 静かな部屋とか、人の気配のない場所は、嫌いだ。
 まるで、静けさが俺を浸食して、ゆっくりと殺されていくような気がするから。
 夏だって、人の居ない場所は寂しくて、心の奥の方が冷えてくる。
 恐くて、怖くて、その恐怖感がやっぱり俺をジワジワと死に至らしめているような、そんな感じがするんだ。
 でも、今の俺にはとても似合いの場所だと、思う。
 俺のとんでもないマザコンぶりを目の当たりにして、きっとレンは呆れただろう。
 確かにココに来るまでの間、レンはとても優しく接してくれたけど、でもあれは俺があんな風に喚き散らして放心してたからだ。
 レンは、なにかに夢中になると周りが見えなくなるタイプだけど、決して無神経な訳じゃない。
 だから今夜は、俺に気を使ってくれただけだと思う。
 俺のヴォーカルとしての能力を誰より高く評価してくれているレンは、きっとそうしたビジネス面でのマイナスも考慮して、俺が気落ちしては不味いと思ったのかもしれない。
 そして、ハルカは。
 ハルカはもう、俺の所に戻っては来ないではないだろうか?
 俺は、一度だってハルカの気を引こうとした事なんてない。
 いつだって自分勝手で、ハルカが俺に尽くすのが当然だという態度を変えなかった。
 ハルカが帰ってこないのは、その間に俺が他の誰かの元に行ってしまって、後腐れ無くスッパリと切れる為なのかもしれない。

「…ふ…っ…」

 視界が、歪む。
 俺は、どうしようもない莫迦だ。
 子供みたいに我を張って、なにもかもを欲しがった挙げ句に全部を無くしてしまう、大莫迦野郎だ。
 あんなにハルカの好意に甘えて、ハルカを頼りにしていたのに、俺はハルカに「好意など持っていない」と言い張っていた。
 レンだって、あんなに俺を求めてくれたのに俺はそれも突っぱねた。
 本当は、誰よりも愛情や温もりを、それを与えてくれる誰かを必要としてるクセに。
 もうハルカは、「大丈夫」と言ってくれないだろう。
 レンだって、「俺のモノになれ」なんて事、言わないだろう。
 誰かが俺から離れて行くって事がどれくらい哀しいかを、俺は初めて知った。
 呆れた事に俺は、あれほどのトラブルを起こしてきたにも関わらず、そういう事を今まで全く解っていなかったのだ。
 俺にさよならを告げられて泣いていた女のコ達の気持ちも、俺が他の誰かをテディベアにした時のハルカの気持ちも、俺は考えた事が無かった。
 人の居ない静かな場所が、嫌いだ。
 でも、今の俺には、そこしか居場所が無い。
 俺には、そこしか居る事を許されない。
 そこが一番、お似合いなんだ。
 俺は、ただもう蹲っている事しか出来なかった。
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