ギョーザとビールとロックンロール

琉斗六

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第18話

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 多聞がシャワーを浴びて戻ってきた時、柊一はベッドの上にあぐらをかいて座っていた。

「どうした、ひと風呂浴びてくるとさっぱりするぞ?」
「誰の所為で、俺はこんなに気分が悪いと思ってるんだよ」
「なんで?」
「てめェも自分の顔にブッかけてみろよっ! どんなに最悪な気分になるか、判るからっ!」
「ザーメンまみれのオマエの顔、メチャクチャ煽ったぜ?」

 多聞の返事に、柊一は黙ってベッドから降りると、なんの躊躇もなく多聞の尻を蹴り飛ばした。

「痛ってェなぁ!」
「痛くしたんだ、莫迦野郎ッ!」

 どかどかと足音も荒く部屋を出ていき、柊一はバスルームの扉を乱暴に閉める。
 多聞はバスローブ姿のままで部屋の隅に置かれた戸棚に歩み寄ると、そこから柊一に渡すつもりの携帯電話を取り出した。
 しばらくするとバスタオルを腰に巻いただけの姿の柊一が戻ってきて、脱ぎ散らかしてあった服を拾い身につけ始める。

「バスローブ、用意して置いてあったろ? なんで服なんか、着てるんだよ?」
「帰るからに決まってるだろ。ああ、金くれ」

 ジーンズに脚を突っ込みながら手を伸ばした柊一に対し、多聞はムッとしただけで動こうとしない。

「なんだよ。だって用事は済んだろ? 俺、これからバイト入ってるんだから、早くしてくれよ」
「いくら出せば、泊まってくの?」
「あぁ?」

 多聞の問いに、柊一は手を引っ込めて困った顔をする。

「オマエの言い値で良いよ。いくらなら、帰らないでココにいるんだ?」
「急に休んだら、店長に叱られちまうよ」

 電話をそこに放り出し俯く柊一に歩み寄ると、多聞は乱暴に柊一の肩を掴んだ。

「オマエの借金、なんなら全額払ってやっても良い。バイトなんか辞めて、俺と一緒にいろよ」
「冗談じゃねェよ。俺はそんな風に縛り付けられるのなんざ、お断りだぜ」

 多聞の申し出を全く取り合わず、柊一はシャツを拾うとさっさと身につけてしまった。

「俺は本気だ。縛られるのがイヤなら、オマエは俺に金を返せばいいだろう」
「それにしたって、今すぐは無理だ」

 答えて、柊一は時計に目をやると、ベッドの縁に腰を降ろした。

「バイトは休めない。世話になってる店長に、不義理な真似したくないからな。その代わり、アンタが車代出してくれるなら、浮いた時間分だけもうしばらくココにいてもいい」

 どうしても、柊一がそれ以上は譲ってくれそうもない事を感じ、多聞は不詳不詳で頷いた。

「解った。それなら、俺が車で送ってやる。それで、いいだろ?」
「まぁ、いいだろう」

 多聞が折れた事に気を良くしたのか、頷いた柊一が、穏やかな笑みをみせた。
 その表情に多聞はハッとし、そのまま釘付けになった。
 なぜなら多聞はその柊一の笑みに、己の天使を上回る「美」を見てしまったからだ。
 夢の天使は、多聞の頭の中で自在に脚色された多聞の「究極の理想像」だ。
 柊一は確かに「オリジナル」かも知れないが、世の全てに置いて自分の創造物を上回る現実など存在しないと、多聞はずっと思い込んでいた。
 なのに今、多聞は心の底から柊一を、己の天使より美しい…と感じている。
 これは、つまり……。

「なんだよ。どうかしたか?」

 柊一の問いかけに、多聞は我に返る。

「いや、別になんでもない…」

 柊一から視線を外したのは、自分の完璧な敗北を認めたくなかったから。
 慌てて言葉尻を繕い、多聞は話題を変えた。

「それよかオマエ、どうだった? 俺のアルバム」
「そう、だな。悪かねェよ。日本人にしちゃ、合格点って所かな」
「なんだよ、それ。どこが悪かった?」
「悪いなんて、言ってねェだろ」
「良いとも、言ってねェじゃんか」

 多聞の問いに、柊一は困ったような顔をする。

「そー言われてもなぁ。…まぁ、俺が今まで抱いてた邦楽のロックの悪いイメージは、アンタのアルバムにはなかったよ。たぶん、国内の音楽シーンでは、アンタのやり方は斬新なものだと思うけど…」
「俺の音が、誰かのパクリとでも言いたいのか?」

 食ってかかる多聞に、柊一はますます困った顔になって、眉を寄せた。

「パクリッて言い方をすれば、音楽なんて全部そうだろう? いい音を聞いて、それを自分のモノにするのもまた、才能っつーか、センスなんだし。そういう意味では、アンタのセンスはなかなか良いと思うぜ。アンタはたくさんいい音を聞いて、それをきちんと自分のモノにしてる。それを普通、パクリとは言わないだろ」

 自分の音楽を貶されたと思い、頭に血が昇りきっていた多聞だが、ひとつひとつに意見を並べる柊一に、徐々に平静が戻ってきたのだった。
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