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Epilogue
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「俺…責任を取るよ!」
泣きそうな(もう泣いてるのか?)顔をして、ジャックはそのまま部屋を飛び出していこうとした。
俺は手元に置いてあった杖を掴むと、ジャックの足元に向かって投げつける。
幸いにして、足のリハビリをする為に手すりにつかまって己の体重を支え続けてきた右腕は、さほど過たずに物を投げる事が出来るのだ。
杖に足を取られたジャックは、見事というか無様というか、そこにベチョッと俯せで転んだ。
「オマエなぁ、死んでお詫びを…とか言ったら、ブッコロスぞ?」
俯せのまま俺に振り返ったジャックは、ウルウルの涙目になっている。
「じゃあ、………じゃあ、俺、どうしたらいいんだよぅぅぅぅぅ~~~~!」
本気でワッと泣き伏せたジャックから部屋にいる他の連中に目線を移すと、皆モノスゴク困ったような顔で目と目を見交わして笑っていた。
「どうするつもり…なんだ?」
「どうするも、こうするも…………。なっちゃったコトは仕方ないじゃん」
俺は思いっきり深く、溜息を吐く。
「訊くけどさぁ。ジャックがブレーキに細工したんじゃなくて、俺の引いたサイドブレーキが甘くてポルシェが俺に突っ込んできた…って言うんなら、なんでジャックは俺の財産なんか横領した訳? 金目当てっつーんならさっさとトンズラするだろうに、残ってるってコトはなんか別の理由があるんだろ?」
「……それは、俺がシノさんの面倒を見たかったからだよ。でも俺の貯金じゃシノさんに心配掛けないでずっと一緒にいるのは無理だったし、俺はシノさんの付き人以外にやったコトなかったから、ずっとシノさんの側にいるには他に方法がなかったんだもん」
ジャックは涙目で、犬みたいに俺を見上げてる。
「じゃあオマエ、横領した金、ただ手元に持ってるだけかよ?」
問いに、ジャックは黙って「うん」と頷いて見せる。
「カンベンしてくれよ! オマエはたったそれだけの理由で、俺の家もクルマも家財道具全部売っ払ったのかぁ?!」
再び「うん」だ。
俺はもう一度特大の溜息を吐いたが、最後の最後に息を吐き出した時に一緒に怒気も気概も抜けていくのを感じた。
「もーいーよ………」
「なにが良くなったんだ?」
いかにも面白いと言った意地の悪い顔で、中師サンが俺を見る。
「だって、どうせ今更なにがどうなったって、俺の足が治るワケでもないじゃん」
「だから?」
「だから、まず腹が減ったから、ジャック! メシッ!」
「シ…シノさん………?」
俺の台詞に、ジャックは涙目を驚きでまん丸に見開いた。
「バカ、俺はオマエを赦してやるつもりなんて、全然ないからな。オマエのやったコトへの始末はしてもらうし、今してる中師さん達との契約はソッコーで破棄して、オマエは今日から俺のゲボクだっ!」
「解ったよ、シノさん! もちろん、タダでも何でも構わないよ!」
「おいおい、契約上はちゃんとしておかないと、裁判で訴えられるぞ…」
「そーいう面倒な事は、全部中師サンやっといて」
「お願いですらないのか…、オマエは………」
「なに言ってンだよ。どうせ「知る訳ない」とか言ってるケド、中師サン最初からジャックがなにやってたか知ってたんだろ? そんでもって、他の4人にコソッと情報リークしてたに決まってンだから。それぐらい、やってくれるの当たり前だろ」
呆れたような顔をしながらも、中師サンは笑ってる。
ジャックは俺の食事を作る為に、嬉々としてキッチンに行ってしまった。
「それで? 北沢君は私達との契約を破棄する事に決めたようだが、オマエはどうするんだ?」
「ちゅーか、俺とまだこんな契約続けていく気、あるの?」
「単に金を出すだけ…だったら、最初から友人としてカンパするし」
「なるほど」
俺はふうんと頷いて、ベッドの周りに突っ立っている5人の顔を見回した。
どいつもこいつも、とんでもない食わせ者で一筋縄ではいかない手合いばっかりだから、そう簡単には己の感情をこちらに読ませないけれど。
それでもコイツら一人残らず、「契約更新」が希望らしい。
そうして居心地悪げに目線を逸らしている皆の顔を眺めていたら、俺は意外にも結構楽しいと思ってしまった。
そう考えると、個性溢れるパトロン共にかしずかれて、悠々自適に愛人生活をするのも悪くないかもしれないな…。
*白雪ちゃんと七人の男:おわり*
First update:07.05.19.
泣きそうな(もう泣いてるのか?)顔をして、ジャックはそのまま部屋を飛び出していこうとした。
俺は手元に置いてあった杖を掴むと、ジャックの足元に向かって投げつける。
幸いにして、足のリハビリをする為に手すりにつかまって己の体重を支え続けてきた右腕は、さほど過たずに物を投げる事が出来るのだ。
杖に足を取られたジャックは、見事というか無様というか、そこにベチョッと俯せで転んだ。
「オマエなぁ、死んでお詫びを…とか言ったら、ブッコロスぞ?」
俯せのまま俺に振り返ったジャックは、ウルウルの涙目になっている。
「じゃあ、………じゃあ、俺、どうしたらいいんだよぅぅぅぅぅ~~~~!」
本気でワッと泣き伏せたジャックから部屋にいる他の連中に目線を移すと、皆モノスゴク困ったような顔で目と目を見交わして笑っていた。
「どうするつもり…なんだ?」
「どうするも、こうするも…………。なっちゃったコトは仕方ないじゃん」
俺は思いっきり深く、溜息を吐く。
「訊くけどさぁ。ジャックがブレーキに細工したんじゃなくて、俺の引いたサイドブレーキが甘くてポルシェが俺に突っ込んできた…って言うんなら、なんでジャックは俺の財産なんか横領した訳? 金目当てっつーんならさっさとトンズラするだろうに、残ってるってコトはなんか別の理由があるんだろ?」
「……それは、俺がシノさんの面倒を見たかったからだよ。でも俺の貯金じゃシノさんに心配掛けないでずっと一緒にいるのは無理だったし、俺はシノさんの付き人以外にやったコトなかったから、ずっとシノさんの側にいるには他に方法がなかったんだもん」
ジャックは涙目で、犬みたいに俺を見上げてる。
「じゃあオマエ、横領した金、ただ手元に持ってるだけかよ?」
問いに、ジャックは黙って「うん」と頷いて見せる。
「カンベンしてくれよ! オマエはたったそれだけの理由で、俺の家もクルマも家財道具全部売っ払ったのかぁ?!」
再び「うん」だ。
俺はもう一度特大の溜息を吐いたが、最後の最後に息を吐き出した時に一緒に怒気も気概も抜けていくのを感じた。
「もーいーよ………」
「なにが良くなったんだ?」
いかにも面白いと言った意地の悪い顔で、中師サンが俺を見る。
「だって、どうせ今更なにがどうなったって、俺の足が治るワケでもないじゃん」
「だから?」
「だから、まず腹が減ったから、ジャック! メシッ!」
「シ…シノさん………?」
俺の台詞に、ジャックは涙目を驚きでまん丸に見開いた。
「バカ、俺はオマエを赦してやるつもりなんて、全然ないからな。オマエのやったコトへの始末はしてもらうし、今してる中師さん達との契約はソッコーで破棄して、オマエは今日から俺のゲボクだっ!」
「解ったよ、シノさん! もちろん、タダでも何でも構わないよ!」
「おいおい、契約上はちゃんとしておかないと、裁判で訴えられるぞ…」
「そーいう面倒な事は、全部中師サンやっといて」
「お願いですらないのか…、オマエは………」
「なに言ってンだよ。どうせ「知る訳ない」とか言ってるケド、中師サン最初からジャックがなにやってたか知ってたんだろ? そんでもって、他の4人にコソッと情報リークしてたに決まってンだから。それぐらい、やってくれるの当たり前だろ」
呆れたような顔をしながらも、中師サンは笑ってる。
ジャックは俺の食事を作る為に、嬉々としてキッチンに行ってしまった。
「それで? 北沢君は私達との契約を破棄する事に決めたようだが、オマエはどうするんだ?」
「ちゅーか、俺とまだこんな契約続けていく気、あるの?」
「単に金を出すだけ…だったら、最初から友人としてカンパするし」
「なるほど」
俺はふうんと頷いて、ベッドの周りに突っ立っている5人の顔を見回した。
どいつもこいつも、とんでもない食わせ者で一筋縄ではいかない手合いばっかりだから、そう簡単には己の感情をこちらに読ませないけれど。
それでもコイツら一人残らず、「契約更新」が希望らしい。
そうして居心地悪げに目線を逸らしている皆の顔を眺めていたら、俺は意外にも結構楽しいと思ってしまった。
そう考えると、個性溢れるパトロン共にかしずかれて、悠々自適に愛人生活をするのも悪くないかもしれないな…。
*白雪ちゃんと七人の男:おわり*
First update:07.05.19.
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